今更聞けない?なら今更教えます! 決算書、どこ見りゃいいの?~ディップ決算発表を題材に~

今回の記事は、公認会計士 眞山 徳人氏により寄稿いただきました。
眞山氏は公認会計士として各種コンサルティング業務を行う傍ら、書籍やコラム等を通じ、会計やビジネスの世界を分かりやすく紐解いて解説することを信条とした活動をされています。
眞山氏の著書、「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」では、難解な会計の世界を分かりやすく解説しています。

今までこちらのメディアで、何回にもわたって決算書を分析する記事を書かせていただいています(前回までの掲載記事はこちら)。

これらの記事の中には、お読みになっている方が「あれ?昔勉強したものとちょっと違う・・・」と思ってしまったり、「もう少し丁寧に書いてほしいんですけど・・・」と薄々考えていたりすることがあったのではないか・・・と、少し反省している部分もあります。

というわけで「今更聞けない」と思っている読者の方に、「今更教える」記事を書いてみようと思いました。
ちょうど、ディップの第1四半期の決算発表がありましたので、それを題材に「どこを見れば、何がわかるのか?」を説明してみようと思います。

「決算書」なんてHPのどこにも書いてないんですけど…?

さあ、ディップのウェブサイトを見てみましょう(http://www.dip-net.co.jp/)

決算書を見つけられますか?

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「・・・ないじゃん」そう思ってしまった方もいると思います。トップページの上部にある帯状の部分を見ても「ホーム」「ニュース」「会社情報」「サービス案内」「IR情報」「採用情報」とあるだけで、「決算」という文字は見当たりません。

一生懸命隅々までトップページを見た方は、ページ最下部に「決算公告・電子公告」という文字を見つけて、「あ、これが決算書?」と思ったかもしれませんが・・・実は、厳密には正解ではないのです。

決算書を探したい方は、ずばり「IR情報」を開くのが正解です。IRというのはInvestor Relationsの略で、IR情報とは投資家の方たちに提供する情報、という意味の用語です。上場会社の場合、まず間違いなくHPにはこのようなIR情報、または日本語で「投資家情報」または「株主・投資家の皆様へ」というコンテンツがあります。

さて、「IR情報」を開いてみると、以下の表のような項目が並んでいます。
まずは簡単に一つ一つの列が意味するところを解説しておきます。

「他社にもある?」は上場しているほかの会社に同様の項目があるかどうかを、筆者の感覚値として記載しています。
同様に、使用頻度も筆者個人として使うことが多いものから「高」「中」「低」「-(リンク先に経由するためだけに使う場所はこの記号を使いました)」の4つに分類しています。

私たちが普段「決算書」と呼んでいるのは、表の中で色を付けた項目・・・の中の一部分です(明確な決まりはないので専門家によって意見は異なるかもしれません。が、一旦こういう理解をしてしまってください)。

項目名 意味 他社にもある? 使用頻度
IR情報トップ 文字通りIRのトップページ。
最新情報や重要項目へのリンクが集約されている。
必ずある
株主・投資家の皆様へ 社長からの挨拶。 たまにある
IRニュース 最新のIR情報を集約している。 ほぼある
会社情報 社名や証券コードなどの情報。 たまにある
IRライブラリ IR情報を項目別に整理することで、いろいろな人から見やすくするためのページ。図書館の目録に相当する。 ほぼある
決算短信 決算日後一定期間内に発表される決算の速報。速報とはいえ精度は高い。 必ずある
会社説明会 一般投資家向けの決算説明資料。決算短信などよりも図やグラフが多く、見やすく作られていることが多い。 ほぼある
有価証券報告書 決算日後一定期間内に発表される決算の確定情報。決算短信よりも制度がさらに高く詳細な情報も多い。 必ずある
株主通信 株主向けの詳細な説明資料。有価証券報告書を隅々まで読むのは大変なので要約したものを作成している。 ほぼある
招集通知 株主総会に株主を招集する通知書。
議題のほか、決算の要約も載っている。
ほぼある
業績ハイライト ごく大まかに、過去数年間の業績を振り返るグラフが並んでいる。 たまにある
IRスケジュール いつ頃どのようなIRが発表されるか、スケジュールを記載したもの。 たまにある
株式情報 社名や証券コードなどの情報。 たまにある
決算公告・電子公告 決算短信などと中身はほとんど変わらないが、会社法の規定により公開されている決算書。 ほぼある
株価情報 会社の株価推移が載っている。 たまにある
IRメール配信登録 メールでお知らせを受取りたい人のためのフォーム。 たまにある
注意事項 IR情報を活用する人のための注意。 たまにある

「決算書」の中身をもう少し分解してみる

そもそも私たちが会社の数字にあまり触れる機会がないのは、「会社の数字」そのものが、今ご覧いただいたように決して会社HPの分かりやすい部分に置かれていないから、という考え方も、まぁできます。
が、一度覚えてしまえば、今後会社の数字にアクセスするのはそう難しくないものになるでしょう。

というわけで、ついに本題です。

上記の表の色付きの項目の中に「決算書」が隠れています。一口に決算書と言っても次のようにいくつかの種類があります。

名称 どんなことが書いてあるの?
貸借対照表 現金や商品、建物などの「資産」がどれくらいあるか借入金などの「負債」がどれくらいあるか、など。かっこよく言うと「財政状態」。
損益計算書 売上高はどれくらいか営業利益、経常利益などの「儲け」はどれくらいか、など。かっこよく言うと「経営成績」。
株主資本等変動計算書※ 株式を新たに発行したか、最終的な儲けをどのように株主に還元したか、など。
キャッシュフロー計算書※ 会社がどこからお金を調達・獲得してきたか会社が何にお金を使ってきたか、など。かっこよく言うと「キャッシュフローの状況」。
注記表 上記の4表を補足するための情報。補足といっても、決算分析をする時に大事になることが沢山書いてある。

※印は、7月12日の四半期決算発表では省略されています。

私のような公認会計士や、税理士・中小企業診断士などの資格をお持ちの方は、こういった決算書を読むプロと言っても良い人たちです。
彼らは、これらの決算書にどんな情報が載っているか、しっかりと頭に入れていて、自由自在に財務分析をすることができるわけですが、会計のプロじゃない方にとっても、財務分析がある程度できるようになっていると、いろいろな面で役に立ちます。

目的別「決算書、ここ見とけ!」

とはいえ、いきなり決算書のすべてを頭に入れなさい、といっても無理な話です。
むしろ、自分が知りたいことが、決算書のどこに載っているのか?ということを理解しておいて、ピンポイントで情報を入手して分析できるほうが実践的です(実は私が決算分析の記事を書く時にポイントを絞っているのも、そういったことを読者の皆さんに感じてほしかったから、です)。

というわけで、今回は目的別の「決算書、ここ見とけ!」をやってみたいと思います。

以下に決算書を分析する際にしばしば設定される「目的」をリストアップしてみました。そしてその目的を達成するために「決算書のどこを見て」「どのような計算をすればいいか」の手順と、その分析をした時の「正解」となる数値を書いておきます(特に断りがない限り、直近の第1四半期の決算数値をもとに分析しています)。

ぜひ、ご自身の興味のある目的を一つ選んで、実際に決算書を見つけて、計算をしてみていただけたら、と思います。

収益性:ディップがどれくらい効率よく儲けたかを知りたい

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成長性:ディップが売り上げをどれくらい伸ばしたかを知りたい

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安全性:ディップの借金が多すぎないかを知りたい

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