メンバーにいきいきと働いてもらうために。エンプロイー・エクスペリエンス設計の考え方とは?

近年組織開発において「エンプロイー・エクスペリエンス」という言葉を耳にする機会が増えている。エンプロイー・エクスペリエンスとは、直訳すると「従業員の体験」。健康的な組織づくりによって形成される、従業員が得られる経験すべてを指す指標だ。

今回はそんな「エンプロイー・エクスペリエンス」をテーマにしたイベント「インナーブランディング&社内活性のためのエンプロイー・エクスペリエンスの設計」(バックオフィスコミュニティCBsync主催)の様子をレポートする。

アップサイドとダウンサイド。福利厚生制度に対する考え方とは

上村 一斗氏
株式会社メルカリ CSグループ マネージャー
大学卒業後、カスタマーサポート業界に飛び込み、アウトソーサーとしてコールセンターのマネジメントを経験。2016年1月に株式会社メルカリにジョインし、グループ会社である株式会社ソウゾウの「メルカリ アッテ」CS立ち上げを担当。現在は、CSメンバーの採用・育成や社内研修を担当する部門でマネージャーを務める。趣味はランニングとバスケ。

メルカリ・上村氏:メルカリでは「merci box」という福利厚生制度があり、アップサイドダウンサイドという考えのもと運用しています。

アップサイドとは
給与の使い方は人それぞれであり、人生のアップサイドの部分(趣味や学習、旅行など)を自由に楽しんでほしいため、会社があえて使いみちを指定せず給与自体をベースアップすること。例えば、交通費支給などはせず、その分給与で還元するなど。

ダウンサイドとは
突然の病気や怪我、育児、介護などの、ライフイベントで起こりうる「働けない」というダウンサイドのリスクについては、会社でできるかぎりフォローする体制。

メルカリ・上村氏:この運用方針を聞くと驚かれる方も多いのですが、代表自身がこの制度を積極的に利用していることもあり、アップサイド・ダウンサイドの考え方が文化としてしっかり根づいてきています。

例えば奥さんやお子さんの体調不良などを理由に、緊急で家に帰るメンバーがいるときも、チームのメンバーは快く「いってらっしゃい」と送り出せる環境があります。

制度を作るだけでなく、利用しやすい環境を作ることも、私達の役目と感じています。

必要なのは従業員の「満足度」ではなく「エンゲージメント」

メルカリ・上村氏:満足度とエンゲージメントは似て非なるものだと考えています。

「満足度が高い状態」とは、報酬や環境などが自分にとって心地よく、安心できるという「居心地の良さ」を表します。しかし「居心地の良さ」だけでは、会社への貢献心は薄れてしまいます。なので満足度が高い状態が会社の業績に繋がるかというと、必ずしもそうではありません

それに対して「エンゲージメントが高い状態」とは信頼関係の上に成り立つ帰属意識や貢献心です。メルカリでは、会社のために頑張ろう、みんなで会社を大きくしていこう、会社に貢献しようといった「会社を良くしたい」という意識を持ってもらえるような環境づくりを目指しています。

具体的には、社員が納得感を持てる評価を実現するために評価制度を明確にし、その運用改善に力を入れています。会社が評価のポイントを明確にすることで「自分のどこが評価され、今後どんな風に頑張ればよいか」が可視化されます。そのような評価の透明性が、社員のエンゲージメントを高めることにつながると考えています。

また、三カ月に一度、会社のValueを体現した社員を選び「Value賞」という形で表彰したりするなど、表彰によって会社に対するエンゲージメントを高める取り組みを行っています。

さらに、日常的なコミュニケーションにおいてもエンゲージメントを高めてもらうための工夫をしています。mertipというピアボーナス制度を導入することで、会社や仲間に対する貢献をお互いが日々承認しあう文化を醸成しています。

とはいえ、これらの取り組みは始まったまだばかりです。アップサイド・ダウンサイドという福利厚生に対する考え方や、各施策をおこなっている背景を定期的に社内に発信していくことで、このような考え方を社内に浸透させていくことが一番大切だと考えています。

社員を動かすためには「見える化すること」

薄 良子氏
株式会社オカムラ フューチャーワークスタイル戦略部 戦略企画室 室長
大学卒業後、マイナビにて広告コンサルティング営業を経て、研修プログラム企画・開発のプロジェクトマネジメントおよび新人・若手社員向け研修シリーズの開発を手掛け、その後、株式会社オカムラに入社。現在は、社内働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン推進、社外との共創活動を中心に、組織開発のプロジェクトに従事。『社員がイキイキと楽しく、生産性高く働く組織をつくる』がライフワーク。筑波大学大学院経営学修士(MBA)。CDAキャリアカウンセラー。1女の母

オカムラ・薄氏:オカムラでは、メンバー自身が自らの働き方を見つめ直し、業務改善・意識改革に取り組んでもらうプロジェクト「働き方カエル!プロジェクト」を立ち上げ、現場主導で働き方改革に取り組みました。

このプロジェクトを推進する上で一番の課題だったのは「全国各所に拠点があるため、トップダウンで施策を打ち出しても、現場レベルでの運用がうまく行かない」というものでした。その課題を解決するために、以下の施策を行いました。

①チャレンジ拠点(モデル職場)を作る

「働き方カエル!プロジェクト」内では会議時間の削減施策や残業の削減施策など、多くの施策が動いています。施策の運用を進めるために、各施策について「チャレンジ拠点(モデル職場)」を作り、リーダー・メンバー・フォロー担当をプロジェクトメンバーに立てた上で全社への取り組み普及を推進させるようにしました。

ここでのポイントは、チャレンジ拠点以外の拠点からフォロー担当をつけることです。

特に業務量が多い営業職の社員が中心となっている拠点の場合には、プロジェクトの優先度が下がってしまいがちです。そんな時でも施策が進捗するように、フォロー担当が活動を支援したり、アドバイスをしたりする役割を持ってもらうようにしました。

②定期的にミーティングを開催し進捗確認を行う

またチャレンジ拠点ごとに、プロジェクトメンバーと事務局メンバーが対面で行う進捗確認ミーティングを2ヶ月に一度実施しました。

理由は3つあります。

1.プロジェクトに対して責任感を持ってもらうため
拠点ごとの進捗を2ヶ月ごとに中間発表する場を設けることで「中間発表までに進捗させないといけない」という意識を持ってもらうようにした

2.ナレッジ共有のため
各拠点のプロジェクト進捗を加速させるため、ある拠点で成功した事例を事務局メンバーが他の拠点にも共有し、ナレッジを横展開させた

3.プロジェクトへのモチベーションを維持してもらうため
進捗確認ミーティングの中で各拠点に発表をしてもらい、良い結果を出している拠点には事務局側から表彰を行うことで、モチベーションを高く持ってもらうようにした

大切なのは、全国各地に拠点が散らばっている中で、いかに各拠点のアクションを「見える化」するかということです。例えばオカムラでは、各拠点ごとに開催されるプロジェクトのミーティングの日程やアジェンダをすべてシェアする仕組みを持っています。

日程をシェアし合うことで、プロジェクトの進捗が動いている拠点と動いていない拠点がわかります。また、アジェンダをシェアすることで施策に対しての質問や、良い取り組みなど、情報の吸い上げを行うことで様々なヒントをもらうことができます。

大切なのは「経営者の本気度」

オカムラ・薄氏:働き方改革を推進する上で、何よりも大切なのが「会社の本気度を示すこと」です。

働き方改革を成功させるためには、経営者が「全社で働き方を変えていこう」というメッセージを伝え、鼓舞する力が必要となってきます。会社として、全社をどう巻き込んでいくかが最重要と言えるでしょう。

(HRog編集部)