「キャリアをアップデートする大きな一歩を」経産省リスキリング支援事業 新CM発表会レポート

2024年11月22日、経済産業省は「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」の新CM発表会を行った。キャリア自律が広まるなかで注目を集めつつあるリスキリング領域。今回は、経産省が開催した新CM発表会のレポートをお届けする。(以下、発言は要約)

リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業とは

在職者が自らのキャリアについて民間の専門家に相談できる「キャリア相談対応」、それを踏まえてリスキリング講座を受講できる「リスキリング提供」、それらを踏まえた「転職支援」までを一体的に実施する事業者に対して補助を行う事業のこと。個人がスキルアップに向けて受講するリスキリング講座の受講料について、最大70%の補助を受けることができる。

個人のリスキリングを通じて日本経済を発展させる

初めに俳優の志田未来氏が主演を務める本事業の新CM2本が発表された。エンジニアへの転職を決意した同僚との会話から始まる「同期からの報告」篇と、将来への迷いを抱える志田氏がリスキリングを決断する「大きな一歩」篇の2つがある。

「大きな一歩」篇では、リスキリングのためプログラミングスクールの門を叩いた志田氏の「小さな一歩」を描き、それが実は今後のキャリアを築いていく「大きな一歩」であるというメッセージを伝えた。

新CMを受け、経産省副大臣の古賀氏が本事業に関する政府の想いについて説明した。

古賀氏「政府が本事業を推進しているのは、物価高を上回る賃金アップを図って日本の経済そのものを発展させていくためです。今年の春闘では5.1%の賃上げとなり、5%を上回るのは実に33年ぶりとなります。

この賃上げの流れを今後も継続させていくためには、成長産業・分野に新しい人材が供給されていくことが必要不可欠です。そのため政府はリスキリング支援事業を通じ、皆様の学びなおしや転職の支援を行っていきたいと考えています。

在職者であれば年齢制限なくどなたでも活用できる制度となりますので、ぜひ志田さんと共に『大きな一歩』を踏み出していただければと思います」

続いて志田氏が登壇し、本発表会の司会を務めるタレントの国山ハセン氏とのトークセッションを行った。

国山氏「撮影の際に意識されたことや、皆様へのメッセージはありますか」

志田氏「この事業がハードルの低い、誰にとっても身近なものだと思っていただきたかったので、私自身が硬くならず自然体であるよう意識して撮影に臨みました。

リスキリングという言葉を聞いたことはあっても詳しくは知らなかった方や、初めて聞いたという方もいらっしゃると思います。本CMを通じて、ひとりでも多くの方がリスキリングに挑戦するという大きな一歩を踏み出していただけたらなと思います」

続いて、経済産業省大臣官房審議官の井上氏から挨拶があった。

井上氏「これまでの日本では、会社がキャリアを与えてくれるという考えが常識的でした。しかし変化の激しい現代では、一人ひとりが自らのキャリアを考え選択していく『キャリア志向・キャリア自律』の時代へと変わっていく必要があります。

経産省としては国際競争力を維持するため、今後GX(グリーントランスフォーメーション)やデジタル分野といった成長産業でイノベーションを起こしていきたいと考えています。しかしそのイノベーションを支えるのは他でもない、皆様一人ひとりのお力なのです。

また経産省では一昨年、2050年に事務労働者の需要が42%減り、一方でエンジニアの需要は4割増えると試算しています。個々人がリスキリングを通じて成長分野にチャレンジしていただき、賃金を上げ経済を発展させる好循環を回していきたいと考えています」

キャリアを未来軸で捉え、可能性を広げるための一歩を

写真左から国山氏、田中氏、浦部氏

新CMの発表と経産省による挨拶の後は、国山氏、法政大学教授の田中氏、経産省経済産業政策局産業人材課の浦部氏らによるパネルディスカッションが行われた。

田中氏はプロティアンキャリア研究の第一人者だ。プロティアンは「変幻自在」という意味であり、プロティアンキャリアとは個々人が自らのキャリアを自由自在に変化させ、アップデートすることを後押しする理論だという。

田中氏「欧米ではプロティアンキャリアの考え方、すなわち自分自身でキャリアを選択し、形成することが当たり前になっています。日本ではまだ一般的ではないそのキャリア観を広めるべく、経産省と連携しながら活動を進めています」

以下、パネルディスカッションの様子を一部抜粋してお届けする。

「スキルアップ必須のビジネス環境」について

最初のトークテーマは、現代が「スキルアップ必須のビジネス環境」になりつつあることについて。超少子高齢化していく日本の生産年齢人口は2050年までに、現在の約7000万人から5300万人にまで減少すると予想されている。働き手が減る分、社員一人ひとりに求められるスキルやパフォーマンスが増えていく時代になりつつあるのだ。

浦部氏「このような時代において日本経済を発展させていくためには、新しい成長産業への人材の再配置が必要です。だからこそ個々人のスキルアップ、リスキリングが重要になっていく。

一方2022年に経産省が実施した調査では、社会人の46パーセントがリスキリングや自己啓発を行っていないと明らかになっています。この点をどう乗り越えていくかが課題です」

田中氏「重要なポイントは、キャリアというのは一朝一夕でガラッと変わるものではなく、 変容していく過程であるということ、つまりキャリアチェンジには時間がかかるということです。

明日からいきなり新しい業界に飛び込むとなると、これはなかなか大きなチャレンジになりますよね。ただ本事業を活用してプロのキャリアコンサルタントに相談すれば、これまでのキャリアで培ってきたスキルを整理して、新しい挑戦のために必要なスキルについてアドバイスをもらうことができます。

そのため、いきなり未知の業界へ飛び込むのではなく、しっかり準備期間を積んでから新しいチャレンジをすることが可能なのです」

国山氏「私がキャリアチェンジするときにも、このような支援制度があれば良かったと本当に思います(笑)。誰にも相談できない、そもそも誰に相談したらいいか分からず、何をリスキリングすればいいか分からないという方は多いはずです」

浦部氏「仰る通り、自分自身の可能性や必要なスキルを把握できていない状況では、リスキリングしようにも何を学べばいいのか分からないという状況に陥ってしまいます。本事業ではキャリア相談からリスキリング・転職支援まで一体的に行うので、求められるスキル自体が日々変化する不透明で複雑な時代においても、キャリアをアップデートするためのサポートが可能だと考えています」

国山氏「この事業を活用した成功事例があれば教えてください」

浦部氏「事業を開始してからの1年で、転職された方のおよそ6割が賃金アップに成功しています。未経験の方がリスキリングしてエンジニアに転職されたり、就職氷河期世代の方が金融やIT系の企業に転職されたりと、キャリアチェンジに成功している方も多いです」

「リスキリング時代のキャリア形成」について

続いて、リスキリング時代におけるキャリア形成についてディスカッションが行われた。

田中氏「今使われているキャリアという言葉は、これまでやってきたこと、すなわち過去のこととして捉えられています。しかし、リスキリング時代における『キャリア』は従来とは異なった2つの意味を持っています。1つは過去軸ではなく未来軸であるということ、そして2つ目は、キャリアの範囲が仕事だけでなく人生を丸ごと含んでいるということです。

『私はこの仕事しかやってこなかった、この仕事しかできない』とキャリアを過去軸で捉え、挑戦への一歩を踏み出すことにブレーキを掛けてしまっている人は多いです。しかしキャリア相談でそのブレーキを外し、今後の5年、10年と未来軸で考えていけば、キャリアをアップデートし賃金を上げて新しい生活を送ることも可能になります。

組織にキャリアを預けるのではなく、皆様一人ひとりが自分のキャリアのオーナーとなり、リスキリングを通じてそれをアップデートしていく時代になったのです。これは明るい未来だと私は考えています」

国山氏「まさに、これからの人生そのものを豊かにするためのリスキリングだと言えますね。経産省として、浦部さんはどのようにお考えでしょうか」

浦部氏「年齢や雇用形態に関わらず、誰もが自分自身の能力を最大限に活かし、チャレンジできる社会を実現していきたいと考えています。本事業を活用して皆様がキャリアアップ、キャリアチェンジといった自己実現を図り賃金を上げることで、マクロで見たときに日本経済全体が成長している。経産省としては、この理想的な循環を実現させるべく今後も本事業を推進してまいります」

まとめ

一人ひとりのリスキリングという「小さな一歩」が、その人の人生や日本経済そのものをアップデートさせる「大きな一歩」になっていく。本事業は個々人がその「小さな一歩」を踏み出すのを後押しし、サポートするものだ。

終身雇用制度が終わりを迎え、転職が当たり前になりつつある現代では、今後さらにリスキリングの重要性が増していくと予想される。編集部ではこれからもその動向を追っていきたい。