
エン・ジャパン株式会社の2025年3月期通期決算が発表されました。この記事ではその決算・IRの内容をわかりやすくまとめて分析・解説し、人材業界の最新トレンドに迫ります。ぜひチェックしてください!
2025年3月期第3四半期
2025年3月期通期(当記事)
目次
エン・ジャパンの今期決算について、売上高や純利益の増減率とその要因をグラフィックで一目でわかるようまとめました。

売上高は前期を下回りましたが、営業利益は前期を上回りました。これは主に、特にエン転職への投資抑制により利用企業が減少したことで減収となった一方、前期まで積極的だった広告宣伝費・販売促進費を大きく削減したことが増益に繋がったためです。また純利益は、株式会社タイミー株式の売却益を計上したことで大きく増加しました。
来期は事業再構築と再成長に向けた先行投資を集中して行うため、減収減益での着地を見込んでいます。
エン・ジャパンの今期決算について、主に決算短信をもとにセグメント別の業績について詳しくまとめました。

投資フェーズに位置付けられているHR-Tech engageセグメントは、求職者向けの求人情報提供やマッチングサービスを展開しています。
HR-Tech engageは新コンセプトでのブランド刷新や企業クチコミサイト連携を進め、求職者獲得プロモーションにより会員数や公開求人数が増加しました。
これらの結果、前期比増収となり、売上高は96.5億円(前期比+34.3%)、営業損益は前期比で赤字幅が縮小し、20.1億円の損失(前期は35.1億円の損失)となりました。
同じく投資フェーズに位置付けられている人財プラットフォームは、企業向けに求職者とのマッチング支援を行うサービスを展開しています。
求職者獲得を目的とした広告宣伝費投資を積極的に実施した結果、会員数は増加。今期はミドルの転職を中心にハイキャリア層の採用需要が旺盛で、人材紹介会社や一般企業の利用も増加しました。
これらの結果、売上高は78.0億円(前期比10.1%増)、営業利益は前期の2.5億円の損失から黒字化を達成し、8.6億円となりました。
国内求人サイトセグメントは、「エン転職」や「エン派遣」、新卒学生向けスカウトサービス「iroots」など、国内向けの求人情報サイトを運営しているセグメントです。
エン転職において効率化を目指し意図的に広告宣伝費を減らした結果、想定以上に利用企業が減少し、売上高が減少。エン派遣でも大手派遣企業が出稿を抑える傾向にありました。一方、irootsは新卒採用におけるスカウト型採用の広まりを背景に増収となりました。
これらの結果、売上高は250.0億円(前期比▲15.0%)、営業利益は65.9億円(前期比▲18.4%)となりました。
国内人材紹介セグメントは、「エン エージェント」や「エンワールド・ジャパン」など、人材紹介サービスを提供するセグメントです。
エンエージェントでは期初に新卒を多く増員したものの、既存人員に対する比率が高く生産性向上に苦戦し売上高が減少となりました。一方でエンワールド・ジャパンではハイキャリア層の採用需要の高まりやコンサルタントの生産性向上により売上高が増加しました。第4四半期にはコンサルタントの生産性が改善し黒字化を達成しています。
これらの結果、セグメント全体の売上高は98.9億円(前期比+0.2%)、営業利益は前期の12.4億円の利益から11.8億円減少し、0.6億円となりました。
国内その他セグメントは、適性テストや入社後活躍フォローサービス、新規事業開発など、企業の人材活用を多角的に支援するセグメントです。
人材活躍支援事業やエンSXが順調に伸び、売上高は51.0億円(前期比+52.3%)と大幅に増加しました。営業利益は派遣会社向け採用管理システムを提供するゼクウの貢献もあり、7.7億円(前期比+7.1億円)となりました。

エン・ジャパンは来期を事業再構築の年と位置付け、セグメント区分および名称を変更。投資・既存という区分がなくなり、メディア、エージェント、HR・DXソリューション、グローバルの4セグメントとなりました。

売上高・営業利益ともに前期(2025年3月期)を下回る見通しであり、今後は特にエン転職への開発・プロモーションに再投資を行い、成長基盤を再構築する方針を示しています。
売上高は622億円(前期比▲5.3%)、 営業利益は28.0億円(前期比▲52.5%)、経常利益は29.8億円(前期比▲49.8%)純利益は20.7億円(前期比▲72.9%)での着地を見込んでいます。
今後のより具体的な見通しや戦略については、先行投資の効果を踏まえつつ、2025年11月に発表予定の2026年3月期第2四半期決算以後に公表予定であるとしています(決算短信,p.6)。

2025年2月28日、エン・ジャパンは2025年4月1日付で代表取締役社長を交代すると発表しました。2008年より代表取締役社長を務めてきた鈴木孝二氏が退任し、鈴木氏と交代で代表取締役会長となっていた創業者の越智道勝氏が再び代表取締役社長(会長兼任)を務めます。
この異動について、同社は「変化の激しい事業環境において更なる企業価値向上を目指し、新たな体制による改革が必要であると判断した」としています。

そして2025年4月25日、2025年10月1日より商号を「エン・ジャパン株式会社」から「エン株式会社」に変更すると発表。変更の理由について、同社は「エン・ジャパンという社名はグローバル企業の日本拠点と誤解される事が少なからずあり、それを解消するため」としています。

越智氏の新体制のもと発表された今期決算では、2023年3月期~2025年3月期までの振り返りがなされています。2022年5月に発表した5ヶ年の中期経営計画において、同社は投資事業と位置付けるengageを次の事業の柱とすべく積極投資を行っていく方針を示していました。
当初はエン転職が競争環境の変化により想定以上の苦戦をしているのに対し、engageが好調で中計を上回る成長をしていたため、同社はengageへの投資計画を前倒しで実行。しかし、それによって投資バランスが崩れてエン転職の商品改善が後回しになり、最終的に全社計画の未達に繋がってしまったといいます(決算説明会アーカイブ動画)。

そのため、今後の方針として「主観正義性のある商品・サービスでユーザー・カンパニー両クライアントからのロイヤリティを取り戻す」ことを目指します。同社独自の用語である「主観正義性」について、越智氏は過去のインタビューで「まだ誰もおかしいと言っていないけれども、自分がおかしいと思うことを正していこう」とすることだと述べています。
例えばエン転職で求人企業の社員クチコミを掲載し、企業からの苦情や収益減少のリスクがあったとしても、転職のミスマッチを本気で防ぐサービスを提供し続ける。こうした「主観正義性」を貫きつつ、収益性を同時に追い続ける姿勢を両立してきたからこそ、エン・ジャパンが人材業界で独自の立ち位置を築けたのだといいます。

今後のより具体的な戦略としては、エン転職への投資を再強化しつつ、これまで最大化してきたengageおよびエンゲージへの投資は最適化。エン転職は成功報酬型の強化も含め、マネタイズの多様化を図っていきます。
2025年3月期は、エン・ジャパンにとって戦略と組織を根本から見直す大きな転換期となりました。代表交代・社名変更・セグメント再編という一連の動きからは、今後の成長戦略に即した新体制への移行が本格的に進んだことが分かります。
これまで重点投資を続けてきたengageは一定の成果を上げた一方で、エン転職への対応が後手に回ったという反省が明確にされており、来期以降はエン転職の再強化が戦略の柱として掲げられました。それに合わせて、セグメントも従来の「投資・既存」という成長段階ベースの区分から「メディア」「エージェント」「HR・DXソリューション」「グローバル」という事業領域ベースに再編。より各事業の実態に即した投資や戦略策定が可能となる柔軟な体制へと切り替えています。
また、同社独自の「主観正義性」というキーワードが多く登場したのも注目ポイントです。目まぐるしい変化が続く人材業界において、その考えのもと同社がどのような商品・サービスを展開していくのか。2025年11月に発表予定のより具体的な見通しや戦略に注目が集まることが予想されます。
更なる成長のために大きく舵を切った“エン”。HRog編集部ではその動向に引き続き注目していきます!
2025年3月期第3四半期
2025年3月期通期(当記事)
【参考URL】
エン・ジャパン25年3月期通期 決算短信
エン・ジャパン25年3月期通期 決算説明資料
エン・ジャパン25年3月期通期 決算説明会アーカイブ動画