なぜ増えた?「ハイスペック人材パート雇用」 —— リクルート、KDDIら参入の理由

横断歩道を歩く人たち

人口減少と少子高齢化で、採用難は始まっている。

撮影:今村拓馬

従来「パートタイマー」といえばスーパーのレジ打ちや飲食店のアルバイトといったイメージが強かった。しかし昨今、これまでは正社員が担ってきた仕事でも切り出し、短時間や決まった日だけ働く人に任せる、つまり高度人材によるパートタイムの仕事が増えつつある。

専門性や経験のある人材の短時間就労に特化したり、総合職経験者を業務委託で紹介したりする人材サービスが次々に現れているのだ。フルタイム就労は無理という育児中の女性だけでなく、いろいろな事情を抱えたハイスキルな人材を、働ける時間だけでも組み合わせて業務を回す"プロパートタイマー"の活用は、少子高齢化による大人手不足時代を乗り越えるカギとなりそうだ。

週2日と3日ですぐ決まった

「なぜこの人だけこんな時間に帰るの?という不満を持たれないのがいいです」

3月からリクルートグループで週3日、1日あたり5時間勤務で働く男性(28)はいう。男性は、新卒で入社した会社を2年で退社し、飲食店の経営をしている。本業と両立できる収入源として、時短勤務の仕事を探していた。

リクルート内では、定量データの収集と分析業務を担当する。

「単純作業ではなく、業務設計から仕事を任せてもらっています」

時間限定の勤務でも、責任ある仕事ができることに手応えを感じている。

リクルートは昨年9月、 ZIP WORK(ジップワーク=能力を時間圧縮する働き方)と名付け、専門的な知識やスキルをもった人材が限られた時間で働く枠での採用を開始した。

冒頭の男性もその一人で、グループ内で現在約30人のZIPワーカーが働いている。いずれも週2〜4日、時間もフルタイムでなくていい。雇用形態は現状派遣社員だが、従来の派遣やアルバイトとの大きな違いは、任される仕事内容にある。企画や労務、広報、統計分析など、専門的なスキルを要する業務を担当する。こうした業務であれば従来は週5日フルタイム求人が主流だが、勤務日数や時間も本人の都合に合わせる。時給も2000円前後からと相場より高額だ。

ZIP WORKの立ち上げにあたり、リクルートグループ内で20種の仕事の募集をかけたところ、数百人の応募があったという。応募の理由は、育児が4割、副業などダブルワーカー3割、あとの3割が介護や勉強、起業準備だ。

「当初は育児を理由に希望する女性が多いのかなとみていたのですが、副業や起業準備など、想定以上に男性も多かったのです」

ZIP WORKの責任者であるiction!事務局長の二葉美智子さんはいう。社会保険労務士として独立した元人事部長やフリーランスのデザイナーなど、一定の定期収入のために応募してきたという。年齢は20代半ばから50歳くらいまでと幅広く、多彩な人材が集まった。

能力や経験を活かせる仕事に携わろうとすればフルタイム求人になり、時短や週2〜3日勤務をやろうとすれば補助的な仕事しかないという、多くの職場のジレンマが、ZIP WORKでは解消される。

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リクルートでは週2〜4日勤務で求人をするとハイスキルな人材が集まった(左は二葉さん)

撮影:滝川麻衣子

この結果、「フルタイム募集では決してかかってこない人材が応募してくれます」と二葉さんは指摘する。二葉さんの部署にも6人のZIPワーカーがいるが「フルタイムの1人だけに任せるよりも、複数の多様な人材が仕事に関わることで組織としてのパフォーマンスも上がっている」と実感している。

ZIPWORKにつながる二葉さんの原体験は、かつていた部署での求人案件にある。

フルタイムで企画アシスタントを募集したところ、秘書経験を条件にしたこともあり、とにかく採用が進まなかった。2カ月を経たところで発想を変え、週2日と3日の勤務者を組み合わせることにすると、すぐに要求水準を満たす人材が現れ、2週間で採用が決まったのだ。

「フルタイムというしばりをやめれば、こんなに早く採用できるのか」

当時の驚きを二葉さんは振り返る。

人材難の時代に有効とみて、リクルートは今年2月から、メーカーや金融サービスなど、グループ外の大手企業にもZIPワーカーの派遣を始めている。

増える時間限定ワークサービス

5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.49倍で、1974年2月以来の歴史的な高水準を、前月に引き続き更新した。バブル経済期のピークだった1990年7月(1.46倍)をすでに上回っている。日本の生産年齢人口(15〜64歳)は2040年には15年比で30%近く減少。人手が確保できないという悩みは、現時点では建設業やサービス業が中心だが、新卒の採用が目標数に達しないなど、他業界へも広がりをみせつつある。この先の人手不足は、明白だ。

こうした中、ZIPワークに象徴されるような、高度なスキルをもつ人材が限られた時間だけ働く”プロパートタイマー”を組み合わせて、主要業務を回すマネジメントや人材サービスは広がりをみせている。

年齢別の日本の人口推移グラフ

日本の将来の人口推計。人口減少と少子高齢化で日本の働き手は減り続ける

出典:高齢社会白書(2016年)

人材サービスを手がけるKDDIエボルバは1月に、グループ内に、専門的な知識や経験をもった人向けの短時間就労専門の人材サービス「エボルバジョブシェア」を設立した。子育てや介護などを理由に限られた時間だけ働きたい人は増える一方で、企業側は派遣であってもフルタイム人材を求めるケースが多く、求職者ニーズとのギャップが課題だったという。

同社では週5日の求人に対し、2日働ける人と3日働ける人を組み合わせて派遣や人材紹介をしている。設立半年で、不動産や金融など70社と取引があり、経理や事務の仕事が多い。毎月100人単位で登録者も増えている。

「グループ内で週5日の求人を扱うサービスでは現状、求人に対して候補者が本当に少ないです。企業側の求めるレベルに達せないまま、人柄などでお勧めすることも。それが、ジョブシェアの2日や3日勤務ならば応募が数倍あります。結果的に企業側も、ハイレベルな人材を採用できる状況です

エボルバジョブシェア営業部の営業第1グループ長、遠藤亜美衣さんはいう。

これまで勤務日数や時間を限った仕事は、レジ打ちや軽作業といった、補助的で専門的スキルのいらない仕事が主でした。週5日フルタイム求人でも分割することで、高度なスキルをもった方が働く機会をつくりたいと考えました」(遠藤さん)

「毎日同じ人が来るより、教育も倍になるし引き継ぎも大変では」といった派遣先からの声も当然、ある。そうした懸念に対しては「2人のうち1人をリーダーにして、たとえ3日勤務でも5日分の仕事を把握するようにしています。経験者や専門的知識のある人材なので、未経験者よりも教育コストはかかりません」と、遠藤さんは説明する。

増える男性登録者

総合職経験のある女性を、短時間勤務で中小企業やベンチャー企業に派遣・紹介する、ビースタイル(東京都新宿区)の「時短エグゼ」は、5年前のサービス開始以来、成長を続ける。売上は毎年150%アップを続けている。女性と銘打っているが、男性の登録者数も年々増えており、フリーランスの副業としての利用も多い。

週3日勤務や在宅ワークなど柔軟な働き方を条件に、総合職経験のある女性を業務委託の形で企業とマッチングするのはWaris(東京都港区)だ。2013年の創業初年度で500人弱だった登録者数は、今年4月時点で3600人(前年比約1800人増)と急成長している。同社も、女性向けのサービスとしているにも関わらず男性の登録者も出ており、性別を超えたニーズの高まりを感じているという。

同一労働同一賃金に課題

こうした時間限定の働き方で課題となるのが、雇用形態だ。

リクルートでZIP WORKを統括する二葉さんは「現時点で、企業側にこうした不規則な就労形態に対するフレキシブルな受け皿がない場合がほとんどで、派遣という形が労務管理上は適している」と話す。Warisのような業務委託も、働き手はフリーランスであり、雇用保険には入れず長期的な仕事の保証があるわけではない。統計でみると、非正規雇用の労働者は正規雇用に比べて賃金が低いのは事実だ。

近年、非正規雇用の労働者は増えている。総務省の労働力調査によると、非正規雇用労働者は2016年で2016万人で、10年前と比較すると330万人超の増加だ。バブル崩壊後、企業側が人件費削減のために、労働力の調達を非正規雇用に依存してきた面は否めない。ただ、同調査で非正規雇用に就いた理由は「自分の都合のよい時間に働きたいから」が27.2%でもっとも多く、不本意非正規と呼ばれる「正規の職員・従業員の仕事がないから」は、15.6%にとどまる。

当然、時間あたりの正規と非正規の賃金格差の解消は不可欠だ。その上で"プロパートタイマー”の活用は、複業や育児・介護との両立手段としても、人材難への対策としても、働き手と企業の双方にとって大きな可能性を秘めている。

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