2024年上場の人材企業5社まとめ! 上場時と現在の時価総額や決算情報の変化を比較してみた

2024年、5つの人材企業が新たに上場しました。各企業はどのような戦略に基づいて上場し、現在どのように成長を続けているのでしょうか。各企業の時価総額や決算データを比較し、上場後にどのような変化があったのかを分かりやすくまとめて比較していきます!

そもそも上場とは?

そもそも上場(IPO)とは、企業が株式を証券取引所に公開し、投資家が自由に売買できるようにすること。

日本最大の証券取引所である東京証券取引所(東証)は、企業規模や成長性に応じて以下の3つの市場区分を設けており、国内企業のほとんどは下記のいずれかの市場で株式を公開します。

  • プライム市場(大企業向けで、世界的な投資家との取引を前提とした市場)
  • スタンダード市場(プライムとグロースの中間に位置づけられる市場)
  • グロース市場(比較的規模の小さいベンチャー企業等が参加する市場)

上場するためには厳格な審査を通過する必要があり、財務状況が良好であることや、透明性の高いガバナンス体制が求められます。

上場することは、地元の小さな店舗がECサイト(証券取引所)でオンラインショップを開設することに似ているかもしれませんね!

オンラインショップを開けば、地元の人だけでなく、全国の人たちと接点を作ることが出来るようになります。これと同じように、企業は証券取引所によって多くの投資家にアクセスできるようになるのです。

企業が上場するメリット

上場の最大のメリットは、株式市場を通じて世界中の投資家から資金を得られることです。

未上場企業は銀行からの融資やベンチャーキャピタル(未上場企業を対象とした投資会社)からの出資など、資金調達の選択肢に限りがあります。一方、上場企業は株式市場から資本を調達できるため、より多くの投資家から資金を集めやすくなり、結果として大きな資金を得られる可能性が高まります。

また上場することで会社の知名度やブランド力が向上するため、仕事の取引や人材獲得にも好影響があります。

時価総額とは?

時価総額とは、その企業の市場価値を示す指標であり、上場企業では「株価 × 発行済株式数」で求められます。

また上場直前に売り出された株の金額は「公開価格(公募価格)」、上場初日に最初に取引される価格は「初値」と呼ばれます。初値が公開価格より大きく上昇していれば、市場がその企業の成長に期待していると考えられます。

初値がついた後も株価は日々変動し、企業の時価総額もそれに伴って変化します。時価総額が高い金額で安定している企業は、堅い事業基盤を持ち、投資家からの信頼を得ていると判断されることが多いです。一方、時価総額が低かったり、変動が大きかったりする企業は、成長期待が高い反面、リスクも大きいと見なされます。

このように、時価総額は単なる会社が持つ資産の合計ではなく、市場からの期待を反映したものだと言えるでしょう。

時価総額はスポーツ選手の契約金にも似ていますね。選手の活躍や今後の期待に応じて金額が高くなり、逆に調子が悪ければ下がるように、企業の時価総額も業績や市場からの期待によって変動していきます!

2024年は複数の人材系企業が上場を達成!

2024年は、日本国内で134社が新規上場。人手不足によるニーズ増に伴い、人材業界からも複数の企業が上場を果たしました。ここからは、2024年に上場した人材系企業5社の特徴や時価総額・決算を分析して、人材業界の動向に迫ります!

新たに上場した人材系企業5社の基本情報

ジンジブ

2015年設立の株式会社ジンジブは、高校生に特化した新卒採用支援サービス「ジョブドラフト」や、高卒社会人の教育・研修サービスを展開する会社です。

高校生の就活では、求人票公開から選考開始まで約2ヵ月しかないスケジュールや、最初の応募先を1社に絞る「1人1社制」などの影響で、新卒の中でも特に情報不足や自己理解不足が深刻になっています。そんな高校生にスポットをあて、「高校生が自分の意思で未来を形作れるように」という想いでサービスを運営しています。

2024年3月22日にグロース市場へ上場し、上場時には「『これからを生きる人の夢を増やす』というパーパスのもと、ますます深刻化する若手人材不足という日本社会の社会課題解決に貢献したい」とコメントしています。

ダイブ

株式会社ダイブは2002年創業、観光施設に特化した人材サービス「リゾートバイトのダイブ」を運営するほか、地方創生事業や宿泊施設の集客支援を通じて、日本経済の成長エンジンである観光業の課題へアプローチする会社です。

他社にはない観光人材に特化したデータベースと、自社開発によるITシステムを駆使したソリューションを強みに、観光人材採用において高い参入障壁を築いています。

2024年3月27日のグロース市場上場に際しては「今後も変わらぬ情熱と意欲で“一生モノの『あの日』を創り出す”というミッションのもと、上場企業としての社会的責任を自覚しながら、引き続き皆様のご期待に添うよう努力したい」とコメントしています。

タイミー

株式会社タイミーは2017年設立、自分の働きたい時間に合わせて短時間・単発の仕事をする働き方「スポットワーク」に特化した仕事探しアプリ「タイミー」を運営する会社です。

スポットワークという概念を広めた先駆者として、2018年のサービス開始以来存在感を発揮し続けています。

2024年7月26日にグロース市場への上場を果たし、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくるというミッション達成に向けて引き続き挑戦していきたい」とコメントしています。

ROXX

株式会社ROXXは2013年設立、雇用のミスマッチをテクノロジーで解決するHRテックカンパニーとして、ノンデスクワーカー向け転職プラットフォーム「Zキャリア」と、リファレンス/コンプライアンスチェックサービス「back check」を開発・運営する会社です。

「Zキャリア」ではサービス・卸売・小売・医療・福祉業界などの領域に特化し、非大卒・非正規雇用者である若年層の正社員化を支援しています。

2024年9月25日にグロース市場へ上場し、上場時には「AIテクノロジーや選考データを活用したサービスの開発・提供を通じ、非正規雇用者の正社員化、そして転職を通じた所得向上を目指す」とコメントしています。

ビースタイル

株式会社ビースタイルホールディングスは、「しゅふ(主婦・主夫)」をはじめとする多様な働き方をしたい求職者をターゲットに、派遣・紹介事業、メディア事業、DX事業などを展開するグループ会社です。

主要なサービスとして、開始以来しゅふの雇用をのべ18万人以上創出してきた「しゅふJOB」などがあり、多様な人材の活躍を支援するサービスを展開しています。

2024年12月27日、2024年最後のIPOとしてグロース市場へ上場を果たした同社。上場にあたって企業理念を見直し、「かかわる全ての人がしあわせ」というビジョンと「社会課題をビジネスで解決する」というミッションへと刷新されました。

刷新後の企業理念には「上場企業として経済性を追うと同時に社会性も追求するソーシャルカンパニーでありたい」という想いが込められています。

2024年に新規上場した人材系企業5社の時価総額動向を解説!

新たに上場した人材系企業5社の時価総額と、最新の通期決算を以下の表にまとめました。

5社の中で最も時価総額が大きいのがタイミーです。初値ベースの時価総額は約1760億円と、2024年中の全業種の上場でも最大規模のものとなりました。

続いて規模の大きい順に、ROXX(初値ベースの時価総額は約141億円)・ダイブ(約89億円)・ビースタイル(約48億円)・ジンジブ(約24億円)と続きます。

上場時から、各企業の時価総額はどのように変化しているのでしょうか? ここでは5社の上場後の動きと、時価総額の動向について解説します。

ジンジブ

グラフ出典元:バフェットコード

2024年3月22日に上場を果たしたジンジブは初日に買いが殺到。公募価格ベースでの時価総額が約24億円に対し、初値ベースでは約55億円。5月に発表した24年3月期の通期決算では売上高約20億円(+ 37.3%)と、好調な滑り出しとなりました。

3ヵ年の中期経営計画では、サービスエリア拡大を大きな成長戦略の柱とし、「25年3月期の先行的な費用投下を足がかりに、売上高成長と収益性改善を目指す」と説明しました。

そして24年4月に静岡支店開設、24年10月には長野県の地方銀行「八十二銀行」とのビジネスマッチング契約締結など、エリア開拓を推進すべく支店網拡大や金融機関との提携を進めています。

しかし11月14日、25年3月期の業績予想の下方修正を発表。営業利益予想を従来の2億4000万円から800万円に修正しました。同社は下方修正の理由について、提携済金融機関等の深耕が進まず顧客紹介数が想定を下回ったこと、社員育成体制の整備が遅れたことを挙げています。

業績予想と中期計画の見直しを受け市場は慎重な反応を示し、時価総額も下落傾向となっています。今後の成長戦略とその実行に注目が集まりそうです。

ダイブ

グラフ出典元:バフェットコード

2024年3月27日に上場したダイブ。インバウンドを推進する政府の方針に沿った事業であることから成長期待も高く、同社の初値ベースの時価総額は公開価格ベースを77%上回る約89億円となりました。

24年6月期の通期決算では売上高(123.6億、+ 49.6%)、経常利益(5.4億、+ 296.3%)ともに創業以来過去最高を更新。25年6月期上半期(7-12月)時点で、経常利益が通期計画の8.1億円に対して68.9%の進捗率を達成するなど、事業も堅調に推移しています。

通期決算で発表した中期的な経営計画では、「就業者数を最重要KPIとし、若手人材・シニア人材・外国人人材の獲得に注力する」と説明。CM放映やWebサイトの改修などによる認知拡大を進め、11月には公式LINE友だち数15万⼈を突破しました。

さらに外国人人材獲得のために海外の大学とのパートナーシップの構築に注力しており、観光庁の「宿泊分野特定技能外国人材雇用促進事業」にも採択されています。

タイミー

グラフ出典元:バフェットコード

2024年7月26日に上場したタイミー。初値は1850円で公開価格の1450円を28%上回り、初値ベースの時価総額は約1760億円の大型上場となりました。

一方、2024年9月以降の時価総額は減少傾向となりました。上場後初の決算となる24年10月期3Q決算における成長率が市場の高い期待に対して物足りなかったことや(参考:東洋経済オンライン)、24年10月に無断欠勤者への処罰に関する報道が行われたことなどが影響したと見られます。

2024年11月頃にはタイミーに「闇バイト」と思われる求人が掲載されていることが注目を集め、厚生労働省は2024年11月12日の会見で「闇バイト防止への対策を事業者に求めている」旨をコメントしました。タイミーの時価総額も同時期に減少傾向が見られましたが、同社は12月に不正利用防止に関する新たな取り組みを開始し、ワーカーや企業が安心して利用できるサービス作りを推進しました。

その後の24年10月期通期決算では、売上高約268億円(+66.5%)、営業利益約42億円(+117.0%)と大幅増収・増益を達成しました。同社は業績好調の理由として、アクティブアカウント数(月に1度以上求人を出した事業所数)の増加を挙げています。上場前の2024年2月から2024年12月にかけて、登録クライアント事業所数は22.4万→33.5万拠点、登録ワーカー数は770万→1,000万人に拡大、同社の成長を支えています。

スポットワークをめぐる様々な課題に対応する中でサービスの信頼性が担保され、今後も安定した成長が期待できることから、時価総額は再び上昇傾向にあります。

ROXX

グラフ出典元:バフェットコード

ROXXは2024年9月26日に上場、初値は公開価格の2,110円を8.01%下回る1,941円を付け、初値ベースの時価総額は約141億円の滑り出しに。公開時点では成長への期待感が一定あるものの、赤字である点が厳しく評価されたようです。

ただし、24年9月通期の決算発表では通期売上高約35億円、前年比+67.5%の大幅増収を達成。また4Q(7-9月)単体では営業利益4100万円で黒字化を達成しました。

同社が上場時に発表した事業計画では「マス広告と転職プロセスの前後をサポートするプロダクトを展開し、求職者の認知獲得につなげる」と説明。

実際に10月には失業保険の受給資格有無とその受給額を確認できるアプリ「Zキャリア失業保険」をリリース、翌年1月にはテレビCMの放映を開始するなど、スピーディーに施策を展開してきました。それにより、25年2月現在の求職者登録数は44万4,000人と、前年同期比で55.8%増加しています。

25年9月1Qの決算発表によると、1Q売上高は約10億円(+49.3%)と高成長を維持。マス広告を含めた戦略投資を引き続きおこなうものの、営業赤字幅は縮小傾向にあります。

ビースタイル

グラフ出典元:発行済み株式数および株価推移を元に編集部が作成

2024年12月27日に上場を果たしたビースタイルグループ。初値ベースの時価総額は、公開価格ベースを61%上回り、約48億円となりました。「しゅふ」の集客力に強みがあること、近年議論されている「年収の壁」引き上げに伴い労働参加が進むことへの期待感が市場の評価に反映されたようです。

上場時に発表した事業計画によると、短期〜中期的な成長戦略の柱として既存サービス「しゅふJOB」を現在の首都圏・関西エリアから広げ、全国区のメディアとして成長させることを掲げました。

同社では上場を記念して企業向けに派遣料金2週間無料(20万円相当)・紹介手数料10%OFF(30万円相当)キャンペーンを展開しているほか、主婦・主夫が日常の中で感じる悲喜こもごもを募集する「しゅふ川柳」の審査員にタレントを招くなど、企業・求職者ともにPR施策を実行しています。

最新の通期決算である24年3月期の売上は約108億、純利益は約3億円。しかし最新の25年3Q決算では、「販促・広告費や上場関連費用を売上として回収するのが当期中には難しい」と判断、経常利益を約38%減の2.9億円に下方修正しています。

政策上の追い風もあり注目株ではあるものの、業績下方修正の煽りを受け現状は時価総額が落ち込み傾向にあるようです。

まとめ

2024年には5つの人材企業が新規上場、株式市場に参入しました。各企業の時価総額の推移や決算データを比較することで、各社の成長戦略や市場からの評価が浮き彫りになりました。

タイミーが一時の落ち込みから回復し、高い成長率を維持する一方、上場後に業績予想を下方修正する企業もあるなど、上場後の動きはさまざま。市場からの評価を受けて今後各社がどう戦略を定め、実行していくのか。その動向に引き続き注目が集まります。

(鈴木智華)

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