『退職者』が新たな鍵に?2025年予測から考えるこれからの採用・組織づくり『アルムナイ編』【ウェビナーレポート・12月3日開催】

【左】登壇者:菊池 健生
株式会社ゴーリスト 取締役/HRog編集長
きくち・たけお/2009年大阪府立大学工学部卒業、株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職メディア事業にて法人営業、営業企画、プロダクトマネジャー、編集長を経験し、新卒メディア事業のマーケティングを経て、退職。2017年、ゴーリストへジョイン。人材業界の一歩先を照らすメディア「HRog」の編集長を務める。

【右】登壇者:天野 夏海
株式会社ハッカズーク アルムナビ編集長/広報責任者
あまの・なつみ/2009年に株式会社キャリアデザインセンターへ入社。求人広告の法人営業、派遣事業部にてコーディネーター、WEBマガジン「Woman type」編集長を経験。その後、アルムナイとしてキャリアデザインセンターの媒体に携わるほか、フリーランスで「働く」をテーマにした編集者として活動。2020年株式会社ハッカズークへ入社し、現在「アルムナビ」編集長を務める。

2020年は新型コロナウイルス感染症拡大防止に伴う緊急事態宣言をきっかけに各社で急速にリモート体制が進み、副業マーケットが盛り上がりを見せました。企業の枠を越え、多方面で活躍できる優秀な人材に仕事が集まると見込まれる一方で、企業は優秀な社員の転職リスクを抱えることも考えられます。

2020年12月3日に開催したHRog編集部主催ウェビナー「『退職者』が新たな鍵に?2025年予測から考えるこれからの採用・組織づくり『アルムナイ編』」では、株式会社ハッカズークの天野氏とHRog編集長の菊池が対談。優秀な退職者とのこれからの付き合い方について話を聞きました。

終身雇用が終わった今、企業にとって退職者との繋がりが重要に

菊池:天野さんが働くハッカズークは、アルムナイを主としたサービス展開をしています。まずは『アルムナイ』についてお聞かせください。

天野:アルムナイとは、HR領域では企業の退職者や、OB・OGのことを指します。アルムナイが注目され始めた背景には、転職者の増加によって雇用が流動化し、一つの会社に留まる必要がなくなったことが挙げられます。2019年の転職者数は過去最高になり、今後も右肩上がりで増加することが予想されています。

菊池:労働人口が減少している中で転職者の数が増えるのは、まさに終身雇用の終わりを感じるデータですね。転職して経験値を上げることが当たり前になってきているということでしょうか?

天野:そうですね。最近は新卒の学生も、転職を前提に最初のキャリアを選ぶという発想をしています。個人的には、2019年に経団連の会長やトヨタの社長が『企業も終身雇用を維持できない』と明言したことも、優秀な人材を1社に引き留めることが難しくなってきたことを示す象徴的な出来事だと思っています。一方で労働人口が減少する中、優秀な人材を新たに採用することも困難になってきています。

天野:ですが、アルムナイとの良好な関係性が築ければ、辞めていく人を自社の人的資産としてストックできます。今後、転職者が増えれば当然アルムナイの数も増えるので、ここをきちんと繋ぎ留めることで自社の資産にできる。これが、私がアルムナイ事業の面白さを感じるポイントです。

菊池:なかなか人的資産をストックできている企業は少ないですね。

天野:企業によっては辞めた人は裏切り者だと考えてしまうところもあるようで、そうなると退職後も繋がることは難しいですね。

アルムナイによる「再雇用」と「採用ブランディング効果」

菊池:アルムナイと良好な関係を築くメリットは何ですか?

天野:いくつかありますが、採用という観点でお話しすると、一つは再雇用が挙げられます。ジョブリターン制やカムバック制度など、各社で再雇用制度を整える動きがありますが、元社員であれば会社の風土やカルチャーを既に理解しているので、即戦力として雇用できます。また、採用コストがかからないことも大きな魅力です。

一方で退職者側から見れば、再雇用制度の存在を知らなかったり、社内環境が悪い時に退職した方の場合、現在は改善されて社内制度が整っていることを知らず、再就職先として検討してもらえなかったりといったケースもあり、なかなか再雇用に結びつかない実態があります。実際に再雇用を実現していくのであれば、普段から退職者と接点を持ち、そこでお互いの状況を理解することがポイントになります。

菊池:確かに、もともとその会社に在籍していた方なら採用のミスマッチも防げますね。他にはどのようなメリットがありますか?

天野:採用ブランディングにもつながります。退職者が元の職場に戻るのは、それだけ良い会社である証明になります。また、転職が当たり前のものとなりつつある中、この会社ではどんな経験を積めるのか、そして退職後どのようなキャリアを描けるのかを重視する転職者も増えています。例えばインターネット広告事業を行うセプテーニの新卒採用ページでは、退職者の転職先職種や、退職後の年収の増減など、退職後のキャリアに関わるデータを公開しています。退職後も活躍するアルムナイの存在は、求職者にとっても魅力的なポイントになりますね。

菊池:では、企業はアルムナイとどのように繋がっていけば良いのでしょうか?

天野:気軽にはじめる意味ではSNSのグループを作成したり、チャットツールやメーリングリストを活用したりするケースもありますが、プライベートで使うSNSアカウントをビジネス利用したくない、双方向のコミュニケーションが難しいといったデメリットもあります。

そういう意味では、アルムナイに特化した専用ツールを使うことを手前味噌ながらオススメしたいですね(笑)。ハッカズークが提供する『Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)』は、アルムナイ側にはSNSのようなフィードがあり、ダイレクトメールでのやり取りやコメントの書き込みができるようになっています。また企業側は、CRMのようにアルムナイの名簿を見ることができるほか、それぞれの現況を把握して連絡をとることができます。

菊池:アルムナイを社内風土としてどのように定着させるか、悩んでいる企業が多いように感じますが、定着に向けてどのようなことを行なっていけば良いのでしょうか?

天野:まずは、継続的にアルムナイに対して制度を周知することが大切です。アルムナイネットワークの構築を通じ、継続的に『アルムナイとつながりたい意思』を発信する。そうするうちにお互いのタイミングが合えば、アルムナイとの協業や再雇用につながる可能性が生じるのだと思います。その時期がいつなのか分からないからこそ、継続的にコンタクトを取ることがポイントです。

菊池:一方で一度ネガティブな退職をした方は、再雇用してもまた同じ課題につまずいてしまうのではという点で不安を感じる企業も多いのではないでしょうか。

天野:一度辞めた会社に戻る人は、悪い面も理解した上で戻る選択をしているし、相当な勇気や覚悟を持っていると思います。企業も再雇用とはいえ、通常の採用面接と同じように、面接・選考・オファーという基本的なフローを踏みます。なので、同じ課題を抱えているようなら採用には至らないだろうし、その課題解決をしないまま古巣に戻りたいと思う人もいないと思います。

菊池:覚悟を持って古巣に戻ることを選択する人は、簡単には辞めない人とも言えそうですね。

退職後の良好な関係性構築のカギは、企業の「送り出し方」

菊池:企業は優秀な人材との良好な関係を築いておきたいわけで、退職者全員と繋がっていたいわけではないですよね。

天野:おっしゃる通り、企業によって目的は違いますが、基本的には優秀な人材と繋がりたいという思いがベースにあると思います。逆に退職者個人にとっては、実績も含め、この人と仕事したいと思われる関係性を作ることや、人間性に好感を抱いてもらうなど、辞めた後も企業側から繋がりたいと思ってもらう必要がある。そういう意味では、個人にとって厳しい側面もあります。

私が前職を退職した理由は、会社が嫌だったからではなく、会社の成長と自身のやりたいことにずれが生じたからです。しかし、何年か経って会社や自身が変化したことで再びフィットするケースもあります。

個人がいつ働き方を変えたいと思うか、働く環境や仕事のスタンスが変わるかが分からないからこそ、継続的に繋がりを持ってお互いの状態を理解することが重要です。

菊池:辞める時点でいつでも迎え入れる土壌が企業にあると、転職する側もチャレンジしやすいですね。

天野:そうですね。入社時はオンボーディングや、マニュアルなどが手厚く整備されていますが、一方で企業は従業員が辞めることを前提として人員を設計していないため、送り出し方がノウハウとして蓄積されてないのが現状です。人によって応援して送り出してくれる上司もいれば、ケンカ別れになるケースもあります。退職に関する一連のプロセスを「オフボーディング」と言っているのですが、今後は送り出し方も大事だと企業に伝えていく必要があると思います。

菊池:今後の組織の考え方として、働いている従業員に投資することはもちろん、辞めていく人たちに対するケアも必要になってくる。今後の退職者との関わり方が変わってきますね。

天野:企業から応援して送り出された人は、その企業に恩を感じて辞めていくため、悪い評判は言いにくいでしょうし、転職希望者がいたら、その企業を紹介することもありえます。アルムナイ自身も、元の企業で働きたいと思うタイミングが来るかもしれません。そういう関係性を築いた先に、大きな可能性があると思います。また、退職者を応援してくれる会社は、求職者や社外からみても魅力的です。企業にとっても採用ブランディングにもなりますよね。

菊池:辞めたいと思われない魅力的な会社を作ったうえで、それでも次のステップにチャレンジしたい人と退職後も良好な関係を築いていくことがアルムナイの考え方の本質ですね。

優秀な人材がもし退職してしまったとしても、戻ってこれる糸を繋いでおくための門戸を開けておくことが、今後の組織づくりのヒントになりそうです。