前回の「シンガポールと人材業界」に引き続き、
今回はフィリピンの人材業界について、です。
人件費が安い、英語が公用語、などの理由で人材輸出国、
英語教育などの人材育成の場として注目されているフィリピンですが、
その実態はどうなのでしょうか?
REERACOEN BPO INC.の代表、莇 治彦さんにお話を伺ってきました。
■フィリピンの労働市場の概要
労働人口は4160万人。失業率は7%。(2014年4月)
(参考:Employment Situation in April 2014 (Excludes the province of Leyte) (Final Results) | National Statistics Office)
2040年には総人口が140,000,000人を超えるとの予想もあり、
若者が非常に多いのがフィリピンの特長です。
労働人口が非常に多いため人件費が安い、英語が公用語、海外志向が強い、
ということで人材輸出国として注目されています。
REERACOEN BPO INC.は、RPO(Recruiting Proccess Outsourcing)
と呼ばれる、採用代行をされています。
採用に特化したBPOとして、面接のセッティングや書類選考、日時設定などの
採用プロセスを請け負い、コールセンター業務などを行っているとのこと。
代表の莇 治彦さんに、フィリピンでのサービス運営について
感じることをお聞きしました。
───フィリピンでサービスを運営するにあたって難しい点は何ですか?
行政が言っていることが曖昧なので、そこが難しいですね。
どこの官公庁でも、省庁でも、言っていることが時と場合によって違いますし、
理不尽とも思える理由でいろいろなことが遅れていったりすることもあります。
それを正攻法でロジックを立てて体当りしても何も前に進まないので、
向こうが言っている主張をどうクリアしていくかが大変ですね。
───人材の確保のために注意している点などはありますか?
日本人の募集は非常に多く集まります。
需要と供給のバランスで言うと、募集している企業があまりないのに対して、
働きたいという日本人が多いので、
求人募集一つに、100人くらい応募を頂いたこともあります。
セブ島では英語学校が非常に多くできていて、
日本人の留学生もたくさん来られています。
そのような留学経験者で、英語留学をした後、
セブ島で働きたいと思う方が多いようです。
またリゾートのイメージがプラスに働いているというのもあるみたいです。
そして、フィリピン人の募集もそれ以上に、たくさん集まります。
Mynimoと言うセブの求人メディアに平均的な給料で募集を出したところ、
3日間で200人、応募頂いたこともあります。
集めることに関しては、日本人・フィリピン人、共に非常に集まりますね。
難しいのは、そこから定着してもらい、企業文化を教えて、
辞めない人材にするフェーズだと思います。
───フィリピンの人材業界について教えて下さい
フィリピンでは人材業界の市場がまだないと思います。
ローカルの人材会社や欧米系の人材会社がありますが、数も少なく、
市場に至っていない状態です。
ホワイトカラーの求人がここ3年位増えてきたのですが、
それまでは工場のライン作業員などのブルーカラーの募集が殆どでした。
その手の募集は、募集を出せば多数集まるし、
それを選考する人事担当者の賃金も安かったので、
わざわざ人材会社を使うメリットがありませんでした。
最近になって日系企業を含め海外企業の進出が増えてきているので、
人材サービスがビジネスになりかけている状態です。
しかし、日系の人材会社は殆どありません。
東南アジア主要6カ国の中で、唯一
大手の日系人材会社が入っていない国だと思います。
大手の人材会社が入ってきていない理由としては、
出資規制が難しいこともあります。
人材業界は株が25%までしか持てないので、
よほどしっかりしたローカルパートナーが居る必要があります。
パートナーを見つけて設立をしたとしても、グループ連結に入らないので、
外資が進出するメリットが薄いのかもしれません。
アジア展開を意識している企業にとっては無視できない国だと思いますが、
制限は厳しいです。
───フィリピン人は人件費が安いと言いますが、
人材紹介単価もやはり安くなるのでは?
そもそも年収が1/4、1/5、時には1/8になるので、
日本のように年収の何%と言う形だけでは、中々利益が出にくいですね。
海外の人材紹介では、その国独自の相場があるものですが、フィリピンでは
まだその相場が出来上がっていないので、
その相場がどこに決まるかによって
利益体質になるかどうかが変わってくると思います。
───フィリピンの魅力は何でしょうか?
日本から一番近い、英語圏であること。
ビジネス英語指数(注:BEI – Business English Index)で見ると、
3年連続1位だそうです。
比較的訛りが少なく、フィリピン国外にも通じる英語と言う意味でも、
オフショア拠点、BPO拠点として最適だと思います。
また、日本では今、ビザが緩和方向に向かっているので、
東南アジアの人材を受け入れる時代が来ると思います。
その時にどの国の人が日本で働くチャンスを多く得るかと考えた時に、
フィリピンは筆頭になる確立が高いです。
「給料が安い・日本から近い・親日国である・英語が喋れる。」
他の東南アジアで、これらの条件を満たすような国は、一つもありません。
人材業界からは話が変わりますが、フィリピン人を日本で雇うことは
教育的にも良いと思っています。
日本の英語教育が酷評されることが多いですが、英語に慣れるには、
英語を喋れる人が身近に居ることが一番だと思います。
そう考えた時に、英語が喋れるフィリピン人のお手伝いさん・ヘルパーさんが
家に居るということは、英語に慣れるのにとても有効です。
もちろん、人材業界の視点でも、雇用を生み出すと言うメリットがあります。
一家に一人フィリピン人ヘルパーが働く時代が来れば、英語力も上がりますし、
母親が家事をする時間も減るので、出生率へのいい影響が考えられます。
社会復帰にも繋がります。
外国人を雇うことのデメリットの一つとして、
日本人の雇用を奪うことが懸念されますが、
今までになかったヘルパー職、今までになかった英語人材としてならば、
日本人の雇用を奪うことにはならないと思います。
───今後の情勢として気になる点は?
心配なのは、フィリピンの外国人就業規制・現地人の雇用等の規制が
締め付けの方に向かっている点です。
他の東南アジア主要6カ国は規制が緩和方向に向かっているのですが、
フィリピンでは、規制を緩和するのか厳しくするのか
明確な方針がついていないようです。
方針が決まらないうちに、他の東南アジアの国に
置いて行かれてしまわないか心配ですね。
フィリピンは、ここ2年間、中国をのぞいて
アジアで一番の成長率・経済発展をしています。
非常に良い流れが来ている中で、うまく噛みあうような
法改正になるといいと思います。
そうなれば、フィリピンで働く人も増え、フィリピン人が外国で働く場面も増えて
真の人材輸入・輸出国になれると思うので、それを期待しています。
───今後のビジョンをお聞かせ下さい。
グローバル展開をする上で、英語を喋れるフィリピンの利点が
うまく活かせると思います。
例えば、シンガポールでビジネスをする上でも、
バックオフィスをフィリピンにすることも考えられます。
ネオキャリアでは、東南アジアを中心に子会社を作っていますが、
それら他国の子会社のハブになれるような拠点を目指していきたいと思います。
まだ市場が形成されておらず、法規制も厳しいなど難しい点も多いようですが、
今後のフィリピンの人材業界がより注目されるお話でした。
日本の外国人労働者への法規制、フィリピンの就業・雇用に関する規制、
フィリピン人材業界の相場等、
HRogでもフィリピンの人材業界の動向に注目したいと思います。