【2024年問題特集】4年後、28万人のドライバー不足…運輸業界の採用をどう支える?

株式会社ドライバーテクノロジーズ
代表取締役社長 CEO
川島 康平 氏
かわしま・こうへい/2000年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。Infinity Venturesで2年間の勤務を経て2021年にインターネット大手のLINEヤフーグループなどの出資で株式会社ドライバーテクノロジーズを創業、2年間で日本最大級のドライバープラットフォームへと成長。2023年11月にはファンドや事業会社などを引受先とする第三者割当増資による1億円超の資金調達を実施。IVS 2023 Winter 優勝。

時間外労働に上限規制を設ける「2024年問題」を前に、運送業における人手不足が深刻化している。今回はドライバーマッチングプラットフォーム「ドライバーダイレクト」を展開する株式会社ドライバーテクノロジーズ代表の川島氏に、運輸・物流業界の対応状況や、人材獲得に向けた支援策を伺った。

「2024年問題」で加速する人材不足。運送会社の現状は?

働き方改革関連法施行により、2024年4月からドライバーの時間外労働が年960時間に制限される。同業界は以前から慢性的な人材不足に悩まされており、ドライバーの労働時間が短くなれば非常に大きな影響を受けると予想されている。

「近年はEC市場の拡大に伴い、輸送する荷物量が増加しています。一方で、少子高齢化による人材不足が深刻化しており、ドライバーの需給ギャップが生じているのが現状です。現在、50代以上のドライバーが業界全体の4割ほどを占めていますが、今後7年間で5万人ほどが引退すると予測されており、さらなるドライバー不足が懸念されます」

ここに「2024年問題」が重なることで、慢性的な人材不足にさらなる拍車がかかると川島氏は続ける。

「例えば大阪から東北までを1人で配送する場合、日帰りでの配達は難しく、車中泊しながらの時間外労働となります。2024年4月以降は時間外労働時間の制限が厳しくなるため、こうした長距離輸送が難しくなるのです。遠方まで荷物を届けるために、今後は複数のドライバーを確保する必要が出てきます」

公益社団法人鉄道貨物協会「令和4(2022)年度本部委員会報告書」の需給予測によると、2028年度におけるドライバー人材の需要量は約117万人。一方で予測供給量は約90万人となっており、28万人近くのドライバーが不足すると試算されている。

2024年問題の解消に向け「中継輸送」「荷待ち時間の短縮」に取り組む企業も

2024年問題を解消するため、すでに官民がさまざまな施策に取り組んでいる。具体的な取り組みの1つが「中継輸送」だ。

「中継輸送とは、複数人で輸送を分担する方法です。配送区間の途中に中継拠点をつくり、ドライバーがトラックを乗り換えたり、ヘッドを交換したりして、他のドライバーと乗務を交代して目的地まで荷物を運びます。1人のドライバーで長距離輸送ができなくなっても、効率的に荷物を輸送できる仕組みです」

また、輸送距離を延ばすための施策として、「荷待ち時間の短縮」に取り組む運送会社もある。「荷待ち時間」とは、荷物の積み降ろしなどを行うためにドライバーが待機している時間のことだ。国土交通省の調査によると、1運行あたりの荷待ち時間は平均で1時34分。特定の時間帯に稼働が集中し拠点が混雑してしまうと、4時間以上待たされる場合もあるという。

「加えて、トラックは積み地から降ろし地までドアツードアで荷物をお届けできる点が魅力になっています。荷主にとっては出発時刻や到着時刻に融通が利くのが利点なので、発着時間や積み下ろしの時間がそこまで厳重に管理されていません。そのため、余計にトラックの行列が発生しやすいんです」

荷待ち時間が延びればその分ドライバーの拘束時間が長くなり、結果として輸送できる距離が短くなってしまう。この荷待ち問題を解消するために、計画的にトラックの輸送スケジュールを組んで運用する企業が増えていると川島氏は話す。

「荷待ち時間を短縮するための施策として、トラックが一定の間隔で出発できるよう1日のダイヤを綿密に組んで運行する企業が増えています。これまでは積めていない荷物があると拠点を出発できませんでしたが、ダイヤを確立すれば、荷物が予定の便に間に合わなかったとしても次の便に乗せることができます。ダイヤを30分間隔などで設計し、それを充足させられる人数のドライバーをしっかり採用する、という戦略をとっている企業は多いですね」

一方で、こうした対応に着手できていない中小企業も多数存在するのが現状だ。また、比較的対策の進んでいる大手運送会社についても、下請け企業との関係について手探りな部分がある。

「人材不足により大手企業が下請け企業に依頼するケースが増加しているため、下請け企業のドライバーに対してどこまで責任を持って管理すべきなのかが議論されています。こうした点を含め、2024年問題対策はまだ模索の途中です。2024年4月を境目に全てが変わるというよりも、期限までに対応できなかった企業が摘発を受けるなどする中で徐々に変化していくのではないでしょうか」

企業が対策に苦心する中、「やはり課題の本丸は人手不足にある」と川島氏は指摘する。2024年現在で全国に100万人以上いると言われているドライバー人口は年々減少しており、ドライバーの退職に歯止めをかけるためには、ドライバーのニーズに合わせたマッチングが重要であると述べた。

「ドライバーの退職理由には、『運転は好きだけれど、荷物の積み降ろしが大変』『荷待ち時間が長い』など、運転以外の要因が多くあります。でも実は、積み荷の種類や輸送距離が違うだけでも仕事内容は全く異なってくるんです。ドライバーの流出を防ぐためには、ドライバーのニーズに合った運送会社と適切にマッチングする必要性があると考えます」

2つのマッチングサービスを運営し、運送会社とドライバーそれぞれの支援を実現

上記の問題を解決するため、ドライバーテクノロジーズはマッチングプラットフォーム「ドライバーダイレクト」と「配車クラウド」を運営している。

「『ドライバーダイレクト』では、運送会社と求職者であるトラックドライバーとのマッチングを支援しています。国内数千の事業所にご利用いただいているため、ドライバーに多くの事業所をご紹介できるのが魅力です。

また『配車クラウド』は、荷主と運送会社のマッチングプラットフォームです。全国にある非稼働のトラックを可視化し、AIを使って案件とマッチングさせることで、運送会社の車両稼働率向上と荷主の配送コスト削減をサポートしています。

これらのサービスの特徴は、相互補完的に運送会社の稼働率向上を支援している点にあります。稼働していないトラックがあるのは案件がないからなのか、ドライバーがいないからなのか。その両方の課題に対応できるよう、サポートを行っています」

同社は、「Yahoo! JAPAN」を運営するLINEヤフー株式会社が主要株主である強みを活かし、検索情報をもとにしたピンポイントなマッチングを実現している。ドライバー人口が多い地域だけでなく、地方などの人材が少ない地域でもマッチング可能だ。

また導入企業においては、ただ採用計画に合わせてマッチングを行うだけでなく、トラックの稼働率を上げるための仕組みづくりからサポートしているという。

「例えば、日勤専業と呼ばれる昼間だけトラックを稼働させている運送会社様に対し、夜勤案件の獲得からサポートした事例があります。同時にドライバー数を2倍にして、夜間もトラックが稼働できる仕組みを作り上げた結果、トラックの稼働率を100%に向上できました。

他にも、従来1人のドライバーで輸送していた長距離ルートを分割し、短距離ドライバー2人で運ぶダイヤを作成してマッチングするなどの提案も行っています。5~6時間の短時間勤務なら働きたいというドライバーさんも、けっこういらっしゃるんですよね。短時間勤務に対応したり、荷積みを機械化して体にかかる負担を軽減したりすれば、もっと転職潜在層の裾野を広げられるんじゃないかと考えています。だからこそ、運送会社の求人票から変えていくつもりで注力していますね」

ドライバー×テクノロジーの力で業界トップランナーを目指す

「もともとはドライバーになりたかった」という川島氏。現在はドライバーテクノロジーズの事業を通じて、IT企業と運送会社の架け橋になりたいという野望を持っている。

「当社は、『ドライバー×テクノロジー』で第一想起を取っていきたいと考えています。EC市場は拡大していますが、一方で運送会社がいないと成り立たないビジネスモデルでもあります。運送会社の生の声を拾い、株主を含むさまざまなステークホルダーのみなさんに伝えていくことで、当社がIT企業と運送会社の架け橋となり、業界をよりよくできると信じています」

最後に川島氏は、今後AIやDXにより注力し、ドライバーの生活向上に向けた支援を行っていきたいと語ってくれた。

「AIやDXを活用することで、より効率的で細やかなマッチングを安価に提供できると考えています。例えば、ディープラーニングから得られた解析結果をもとに、より個々のドライバーに合った運送会社を自動提案するようなイメージですね。業界を変えるようなインパクトを起こすには、業界のトップランナーとして走っていくことが重要です。スタートアップとして大胆な投資をしながら、ドライバーがより楽しく働ける社会を目指していきたいです」