
エンSX株式会社
エンSXセールスアナリティクス サービス責任者
加納 誉也 氏
かのう・たかなり/2008年、エン株式会社(旧エン・ジャパン株式会社)に新卒入社。一貫して企業の中途採用支援に携わり、営業マネージャー、営業部長、名古屋拠点長などを歴任。200名以上の営業メンバーの育成やマネジメントに携わる。2022年より「エンSX」事業へ異動し、多くの成長企業のセールス・マーケティングを支援。また、エングループ 初のセールスイネーブルメントツール「エンSXセールスアナリティクス」のサービス責任者として開発、事業推進を手掛けている。
エンSX株式会社
エンSXセールスアナリティクス 講師・トレーナー
福島 奈穂 氏
ふくしま・なお/2007年、エン株式会社(旧エン・ジャパン株式会社)に新卒入社。新規顧客の開拓営業からスタートし、既存顧客の深耕営業まで、業界や規模問わず広く経験。建築業界大手の新規開拓に成功するなどの実績から売上高第1位となり、社長賞を3度受賞。管理職経験、新規サービスの立ち上げ経験等を経て、2022年からセールスの早期戦力化、標準化をミッションに据え、育成企画職へ異動。セールスイネーブルメントの実現に向け、営業の型作りやナレッジマネジメント、営業トレーニングなどを実施。“育成する側を育成する仕組みづくり”にも取り組みつつ、延べ100名超えの営業トレーニングに携わる。
採用難易度や求職者獲得の難しさが増す中、人材業界では「決定率向上」が大きな課題となっている。
こうした背景を受け、エンSXは2023年よりセールスイネーブルメントツール「エンSX セールスアナリティクス」を基盤に、キャリアアドバイザー育成や人事職向けの面接スキルアップに特化した「セールスアナリティクス for リクルーター(以下:for リクルーター)」の展開を始めた。
今回は「for リクルーター」の狙いや成果、そしてAI時代における「人の介在価値」について、サービス担当者の加納氏と福島氏に話を伺った。
面接官の印象が決定率を左右する、「選ばれる側」への意識転換

まず加納氏は、採用現場の「面接官の質のばらつき」が企業の成果に直結している現状を指摘する。
加納氏「採用難が続くなか、媒体に集客コストをかけるだけではもう人は集まりません。だからこそ、集めた人をいかに自社で採用まで導けるかが重要なんです。ところが、実際に面接の現場を見てみると、面接官によって決定率に大きな差がある。決定率が高い方とそうでない方では、面接の進め方に明確な違いがありました」
加納氏によると、多くの企業では面接のやり方が属人的で、ブラックボックス化してしまっているという。
加納氏「面接のノウハウについて、誰かから正式に教わる機会はほとんどないんですよね。面接をするような役職やポジションになったら『じゃあ面接お願いします』と予定が入るだけ。ノウハウが共有されていないから、自己流のまま続けてしまう。結果として、『選ぶ側』という意識のまま面接をしてしまうケースも多いように感じます」

また、転職成功者の平均応募社数は11社というデータがある。
その中で面接を受けて入社したくないと思った理由の1位は『面接官の態度や言動』。逆に入社したいと思った理由の1位も『面接官の人柄・印象』だという。
加納氏「面接官の印象が重要だという現実があるにも関わらず、やり方は標準化されてないし、『選ぶ側だぞ俺たちは、取ってやるぞ』みたいな感じの人がものすごく多いです。
以前のような買い手市場なら“選ぶ側”でも通用しましたが、今は完全に売り手市場。求職者に選ばれる立場だという意識を持たないと、決定率は上がらないと思います」
営業の型をスキル転用し面接の再現性を高める
こうした課題に対して、エンSXが打ち出したのが「営業スキルを面接に転用する」という新しいアプローチだった。
もともと「エンSXセールスアナリティクス」は、営業人材の早期育成を目的に開発された。営業研修から実践解析、プロによるフィードバックまでを一貫して行い、“成果が出るまで伴走する”のが特徴だ。

for リクルーターでも基本的なトレーニングは変わらず、営業スキルを体系化し、面接に活かせる形で学べるようにしている。独自のAI技術を活用して面接を解析するとともに、面接管理職以上の経験及び講習技能検定に合格した面接のプロが講師となり、具体的なフィードバックを実施する。
では、面接官にも転用できる営業スキルとは何だろうか?

加納氏「営業の構造は『オープニング』『ヒアリング』『プレゼン』『クロージング』の4段階で成り立っています。面接って、実は案件を受注する商談と構造がほとんど変わらない。最初に目的を共有して場を和ませ、相手のニーズを深く掘り下げ、自社の魅力をプレゼンし、最後に意向を確認する。この流れをきちんと踏めば、決定率は確実に上がります」
加納氏も、営業責任者として面接に関わっていた時期があり、その時に「営業スキルを使えば面接もうまくいく」と感じていたという。面接官の立場でも、相手の心を動かす提案を意識することで、決定率が目に見えて変わっていく。
加納氏 「Yes/Noで答えられる質問ばかりだと、求職者は“自分の話を聞いてもらえていない”と感じます。だからオープンクエスチョンで自由に話してもらうようにする。さらに、面接後に『今日はヒアリングが浅かった』『クロージングが弱かった』と自分で振り返れるようになる。トレーニングを通して型ができると、自分の成長を客観的に確認できるようになるんです」
これは単にフィードバックを受けるだけでなく、日々の個人での振り返りにおいても解像度が上がることを意味している。体系化されたフレームワークがあることで、自己成長のサイクルが生まれるのだ。
面接官・コーディネーターに起きた意識の変化
この取り組みを導入した企業の中でも、特に大手飲食チェーンでは、わずか数か月で効果が現れたという。
加納氏「面接官5名のご支援をしていました。トレーニングを行った結果、内定承諾率が全体で8.7ポイント、多い人では20ポイント向上しました。1人あたりが毎月何十人も面接しているため、単純に集客コストから試算すると年間で1000万円規模のコスト削減につながっています」
この成果の背景には、人事責任者の理解と、面接への意識の変化があった。

加納氏「人事責任者の方が元々営業出身で、『面接って営業だよね』という考えをお持ちだったんです。ただ、自分のやり方を部下に伝えられず悩まれていた。そこに私たちが入り、営業の構造をベースにした型化を一緒に進めたことで、再現性が生まれました」
福島氏「最初に見た面接の中には、オープニングがなく、いきなり質問が始まる面接や、ヒアリング中心で自社への魅力付けがない面接もありました。それが4構造を導入してからは、目的共有から始まり、ヒアリング、プレゼン、クロージングと、流れがスムーズになっていきました」
さらに、加納氏は「求職者のニーズを聞く」というシンプルだが本質的なポイントが重要だと強調する。
加納氏「面接官の役割は、単なる会社説明ではなく、相手の本質的なニーズを理解し、それに合わせて自社の魅力を提案することなんです。『成長環境を求めている方』に“残業が少ないです”と伝えても響かない。『挑戦できる環境がありますよ』と言えるかどうかで、印象はまったく違います」
このアプローチは、派遣会社や紹介会社などで求職者の面談を担当するコーディネーター職やアドバイザー職にも有効だという。
加納氏「ある派遣会社でコーディネーター職の面談スキルアップの研修をご支援したときのこと。研修開始前は、条件を聞いてマッチする求人を紹介するだけの『流れ作業』が多かったんです。でも、相手の優先順位や価値観を深く聞くことで、提案の幅が広がる。『少し遠いけれど、〇〇さんが言っていた“やりがい”がある職場ですよ』と新たな選択肢を提案することで、決まるケースが増えた話を聞きました」
「条件に合うかどうか」ではなく、「どうすればその人が一歩踏み出せるか」。この意識の変化が、面接官やコーディネーターのやりがいを生み、現場全体に好循環をもたらしているのだ。
AIにはできない、人が寄り添う採用の形
AIの発展が進む今、人間の介在価値はどこにあるのか。この問いに対し、加納氏は「AIと人間では担う役割が違う」と明言する。
加納氏「AIが得意なのは、意思が明確な人の支援です。『こういう仕事をしたい』と決まっている人は、AIが出した求人の中から最適なものを選べる。でも、多くの人は“何がしたいか分からない”“誰かに背中を押してほしい”と悩んでいる。そういう人に寄り添い、迷いを整理し、決断を支えること。それがAIにはできない、人の役割だと思っています」
福島氏も、面接や面談の中で感じる「人ならではの瞬間」がAIとの違いだという。

福島氏「AIのマッチングは条件面では正確ですが、感情までは扱えません。言葉の裏にある本音や、表情の変化、間合いの取り方、そうした『微妙なサイン』を感じ取って、一歩踏み込めるのは人だからこそ。そこに信頼関係が生まれ、求職者も安心して決断できるんだと思います」
加納氏「面接官にとっては日々の業務のひとつでも、求職者にとっては人生を左右する面接。ここに温度差があると、絶対に伝わってしまうんです。だからこそ、相手の目線に立って会話することが大切です。そうした一つひとつの積み重ねが、最終的に決定率を高めることにつながります」
「人に向き合う力」で、人材業界の信頼を取り戻す
加納氏と福島氏は、これからの人材業界に求められるのは「求職者一人ひとりに真摯に向き合う姿勢」だと語る。
加納氏「転職や派遣の就業は、求職者にとって人生の一大イベントです。しかし面接官やコーディネーターにとっては日常業務の一つになりがちです。
このギャップが埋められる面接官ほど決定率が上がるのではないかと思っています。また、流れ作業のようになればAIと変わらない。表情や言葉の裏にある本質的なニーズを捉え、そこに向き合うことが大切です」
福島氏は「仕事を楽しいと思える人材業界にしたい」と話す。
福島氏「我々がすごく大事にしているのが、その仕事を楽しいと思えるようになるということです。面接官の人も、キャリアアドバイザー、コーディネーターの方も、自分の仕事が楽しいと思えるようになって活躍できるようになる。この状態を目指しています。
しかし現状では、平準化・標準化・スクリプト化が進んでいます。スクリプトに従えば大きく失敗することはないけれども、求職者への魅力付けができない平均的な面接・面談になってしまいがちです。そうではなく、面接官やコーディネーターの方が求職者に本気で向き合い、決定率が上がる。その成功体験が自信となり、仕事を楽しいと感じられるようになるようなサイクルを生み出したいです」
加納氏「人材業界は『人の人生に新たな選択肢を提供できる素晴らしい仕事』です。
求職者と向き合った支援をしていけば決定率が上がる。それによって面接官もやりがいを感じて働くことが楽しくなる。そして採用の決定率が上がれば企業にも利益が生まれます。この三方よしの状態を作るためにも、面接官の質の向上に投資をしていくべきだと考えています」
まとめ
エンSXの取り組みは、単なるスキルアップ支援にとどまらず、人材業界全体の価値向上と、働く人々の仕事への誇りを取り戻す挑戦でもある。「面接は営業だ」というシンプルな気づきから始まった革新が、業界全体の未来を変える可能性を秘めている。
