10月下旬、Indeedが日本でもTVCM展開をはじめました。
「はじめまして」なのに、すでに「世界No.1求人サイト」だと名乗る違和感そのものが、Indeedのすさまじいスピードを物語っています。
「今回はTVCM制作スタッフも、Indeedで世界中から募集したんですよ」と語るのは、CEOの出木場久征(いでこば・ひさゆき)氏。 買収当時のリクルート最年少執行役員にして、あっという間に世界の求人市場を席巻したIndeedを率いる40歳。
ちなみにこのTVCMは世界でも展開していて、「はじめまして。世界No.1求人サイトです」というフレーズは日本に限ったメッセージではなく、全世界にとっても衝撃的なデビューなのです。今回は、リクナビNEXTの編集長などを歴任してきたHRog編集顧問の黒田真行氏とともに、Indeedが目指す世界について、CEOの出木場氏にお話しを伺ってきました。
出木場久征
Indeed CEO&President
早大商学部卒、リクルート入社。旅行予約サイト「じゃらんnet」をはじめ、数々のメディアをnet化。2009年に旅行・飲食・美容・学びなどを管轄するCAP推進室室長兼R&D担当に就任。11年に全社WEB戦略室室長、12年4月に執行役員を経て、現在はリクルートが買収した求人サイト、米国IndeedのCEO&Presidentに就任。
インタビューアー:黒田真行(HRog編集顧問)
ルーセントドアーズ株式会社代表取締役 1988年リクルート入社以降、約30年、転職支援サービスにかかわる。 リクナビNEXT編集長、リクルートエージェントのサービス企画責任者を歴任、 2014年12月、35歳以上向けの転職支援サービス「CareerRelease40」をリリース。
一人当たり閲覧数はアメリカの2倍。圧倒的に研究熱心な日本
-日本でもCMが始まりましたね。日本での戦略について教えてください。
あのCM、制作スタッフも演者も、すべてのメンバーを「Indeed」を使って採用して制作したんです。プロデューサーも美術もガードマンも。Indeedに求人情報を投稿(掲載)して世界中からメンバーを集めたので、撮影場所までの旅費が一番高くつきました。(笑)
日本のユーザー数は950万人程度で、世界でも大きい方の規模です。スマホアプリについても、カテゴリ別のダウンロード数で1位になっています。さらに、1人あたりのページ閲覧数は、実は日本が世界で1位なんです。アメリカの2倍程度と圧倒的です。
それに比べて、求人メディアや人材紹介・派遣会社とのパートナー関係がまだまだ強化できていません。また、
セルフジョブポスト(求人情報を自社で作成し、作成した求人を掲載すること)が一般化している欧米に比べて代理店文化が根付いている日本では、サポート体制の充実も必要だと思っています。
新しいサービスで、新しいマーケットをつくっていく
−日本の人材業界では、黒船襲来のように語られることもあるが。
インタビューアー:黒田真行(HRog編集顧問)
新しいサービスは新しい市場を作っていくと思っているので、既存のマーケットのシェアを取っていくというような考え方はまったくありません。
求人情報にトラフィックを集めたいというニーズは、転職サイトも、人材紹介・派遣も、企業にも共通する普遍的なものです。
そのニーズに対して、トラフィックを提供することがIndeedの役割なので、競合関係ではなく、パートナーとしての関係をさらに強化していきたい。
また、「トラフィックを集める」という意味で競合にあたるサービスもいくつもありますが、 Indeedが使われている理由は、マーケティングの成果ではなく、サービスの質が高いからだと思っています。求職者に選ばれ続けるよう、最適な求人結果を表示するアルゴリズムを日々徹底的に進化させています。
最後にめざすのは「検索しなくても、その人にとってベストな結果が表示される世界」
−日本を始め、各国ともに特殊性があると思うが、どう対応しているのか?
どこの国でも「うちの国は特殊だから」と言われますが、実際にそんなに大きな違いはありません(笑)。もちろん、文化や規制の有無によって多少の違いはあります。
たとえば日本とドイツは個人情報にナーバスな傾向が強く、メールアドレスの登録割合が極端に少ない。ドイツ、フランス、日本は知名度を重視するが、アメリカは気にしないなど、データから見えてくる国や地域ごとの特徴はありますが、ユーザーの利用のしやすさなどはむしろ共通性のほうが高い。アルゴリズムをローカライズする必要はまったく感じていません。
例えば「柏駅」というワードで検索した人が、「我孫子駅」や「三郷駅」というワードでも検索する傾向にある場合には、「柏駅」の検索結果に、我孫子駅や三郷駅近辺の求人も表示します。
それは、ローカルごとに用意されたマップや路線図があるわけではなく、あくまでデータ解析の結果によります。各国ごとの路線図や地図は持っているわけではありませんが、検索結果の分析から最寄りの別の求人を表示することができるわけです。
データ分析を徹底することで、これまでのエリアや職種、雇用形態といったような、編集やコード設計(あらかじめカテゴリーを用意してそこに求人をプロットしていくという方法)では出会えなかった求人に出会える可能性が高まると考えていますし、実際に出会えているからこそIndeedが選ばれているのだと思います。
またアルゴリズムを始め、いくつもの機能開発を最速で行っていけるよう、小さな(6〜8名程度)チーム単位で開発を行える体制を整えています。チームごとに、プロダクトマネージャーがいて、エンジニアがいて、QA(品質保証)がいて、すべてのチームがリリースの権限を持っています。もちろん、各チームでのリリースが可能なように、徹底的にユニットを疎結合にしていますし、開発全体を統合マネジメントする土台もつくっています。
これまでにない出会いをつくり、雇用の総数を増やす
−今後の目標について教えてください
総雇用数を伸ばしていくことが、Indeedの理念になります。
そのためには、いつ、どの職を、誰に見せるのか、というマッチング精度の向上が大きなテーマになります。これまでのカテゴライズや検索結果では出会えなかった「求人」への出会いを増やすことができれば、必ず雇用総数の増加に繋がると思っています。
一方で、企業の採用意識の醸成も必要だと思っています。これまでの実績を見てみても、当たり前と言えば当たり前ですが、「料金を支払っている企業」の採用決定率の方が大きくなっています。有料顧客ということは、それだけ採用への意識が高い企業であるということも言えます。
売上に直結するからという理由ではなく、「総雇用数」をあげるという理念のためにも、各企業の有料化への啓蒙とサポートも今後の課題になります。
その実現のためには、エンジニアもサポートもまだまだ人員が不足しています。現在でも、1日1人採用しているスピードですが、2年以内には、社員数もサポートオフィス数も現時点から倍増の、4,000人、20カ国体制を目指しています。
1分間で転職ができる世界
−最後になりますが、出木場さん個人としての夢を教えてください。
1分で転職できる世界をつくりたい、ということです。求人を探して、応募して、選考してという、場合によっては3か月もかかる転職のコストはまったくの無駄だと思っています。
1分間で、より自分にあった職に転職することができれば、国境を超えてGDPは大幅に上がっていくと思います。働き方の多様化が進んでいく世界で、1分で最適な職・仕事が見つけられる世界を作りたいですね。
▲Indeedオフィスにて。