赤字幅拡大の背景は?リブセンス決算分析(2015年12月期第3四半期)

株式会社リブセンスは2015年11月13日に、2015年12月期第3四半期決算の発表をしました。

株式会社リブセンスは東証一部上場企業ですが、創業者であり代表取締役社長の「村上太一」さんは、なんと現在29歳(2015年11月時点)。25歳の時に東証マザーズ上場し、史上最年少で株式公開に成功した創業者として話題になりました。

リブセンスのメインとなるビジネスモデルは「成功報酬型web求人広告」です。リブセンスが運営する求人サイト「ジョブセンス」は基本掲載料金が無料。広告で人が採用できた場合に限って料金が発生するという成功報酬型の求人広告になっています。

このビジネスモデルが顧客の支持を受け、創業してからわずか6年で東証一部上場を成し遂げました。その後も順調に売上を拡大してきたリブセンスですが、この本年度は、3四半期連続で営業利益・経常利益が赤字となり、その赤字幅も拡大しつつあります。どのような理由からなのでしょうか?

背景を探り、リブセンスの今後の戦略・業績について考えみたいと思います。

営業利益はマイナス6,800万円。増加する経費

単位:百万円

2014年3Q 2015年3Q 増減額 増減率
売上高 1,101 1,325 224 120%
売上原価 74 129 55 173%
売上総利益 1,027 1,196 169 116%
販売費及び一般管理費 820 1,264 444 154%
営業利益 207 -68 -275

売上は、約2億2千万の増加で前年同四半期比120%の成長です。

しかし、営業利益は、

2014年第3四半期:207百万円
2015年第3四半期:-68百万

前期第3四半期には約2億円あった利益が-6800万円の赤字になっています。

次に、売上に対して経費となる売上原価と販売費及び一般管理費(以下販管費)を足してみましょう。

経費(売上原価+販管費) → 499百万増加

まとめると、売上が2億円増えたものの経費が5億円増加してしまい、結果として営業利益が2億7千万減少した、ということがわかります。

経費の増加理由は、14P、15Pのグラフから読み取れます。 まずは売上原価を見てみましょう。

単位:百万円

2014年3Q 2015年3Q 増減
祝い金など 42 49 7
アソシエイト報酬 2 7 5
システム維持費 9 12 3
人件費等 10 9 -1
減価償却費 5 5 0
その他 3 45 41
合計 74 129 55

「その他」が売上原価増加の主要因となっていることがわかります。

その他の内訳は「waja関連(仕入、輸入諸掛など)」と記載されています。

続いて、販管費です。

単位:百万円

2014年3Q 2015年3Q 増減
人件費等 317 503 186
広告宣伝費等 287 397 110
減価償却費 9 16 7
のれん償却費 0 10 10
その他 204 335 131
合計 820 1,264 444

人件費で約2億円、広告宣伝費で約1億円、その他で約1億円の増加が見られます。

これらの費用がどの事業領域によるものか、直接は書かれていませんが、事業別売上から営業利益を引けば推測が可能です。

単位:百万円

2014年3Q 2015年3Q
売上 営業利益 経費 売上 営業利益 経費 経費増減


(2015年-2014年)

求人情報メディア事業 1,032 427 605 1,148 284 864 259
不動産情報メディア事業 64 17 47 47 -9 56 9
イーコマース事業 115 -16 131 131
その他事業 4 -20 24 14 -50 64 40
全社費用 -217 217 -277 277 60
合計 1,100 207 893 1,325 -68 1,392 499

こうしてみると、増加した経費がどの事業領域に使用されたかが見えてきます。

求人情報メディア事業:(+259百万)
イーコマース事業:(+131百万)

この2つの事業の経費が大幅に増加しています。

(イーコマース事業は、前期は連結決算対象外のためデータが無く、ゼロになっています。事業単体で見た時には前期より経費が減少している可能性もあります。)

経費増加の原因とは?

求人情報メディア事業

求人情報メディア事業で経費が増加している理由を分析していきましょう。

リブセンスのビジネスモデルのウィークポイントが見えてきます。リブセンスのこれまでの決算は、非常に高い営業利益率を保持していました。

2014年第3四半期の決算でも営業利益率は18.8%と高水準です。

高利益率の要因の一つとして、リブセンスの求人情報メディア事業が「インターネットで完結するビジネスモデル」であることがあげられます。

リブセンスの運営する求人サイト「ジョブセンス」は、申し込みから求人原稿作成までweb上で完結するシステムです。顧客は、営業マンと接することなく求人広告を出稿することが可能です。

また、「ジョブセンス」には「成功報酬型広告」という強みと、集客の根幹であった強力なSEO対策によって、売上が担保されていました。

この強力なSEO対策というのは、外部サイトから多数のリンク(被リンク)を貼ることで、Googleから良質なサイトと判定してもらい、自社サイトの検索順位を上げる手法などです。

しかし2014年、「ジョブセンス」の検索順位は大幅に下落することになりました。

これは、Googleによって検索エンジンアルゴリズムの大規模な方針変更、改修が行われたことにより、 「ジョブセンス」の不自然なリンクがブラックSEOと認識され、ペナルティを受けることになったと推測されています。
その結果、主にネットユーザーに広く支持されていた「ジョブセンス」は大きく集客力を失うこととなりました。

リブセンスは営業組織を持たない上に、強みであったSEOに頼るのが難しくなったため、 Web広告や、TVCMなどの広告費を追加せざるを得なくなりました。 これらの結果として、販管費が大幅に膨らんでしまうという大きな壁にぶつかったと考えられます。

イーコマース事業

求人情報メディア事業と同じように、経費増加の原因となっているのは、イーコマース事業です。

イーコマース事業とは、この四半期から連結決算となった「waja」のことを指します。 「waja」はアパレル系のインターネット通販サイトです。

Amazonや楽天のように、出品者がサイト上に自分の売り場を作って衣類を販売しているのですが、商品の保管や発送をWajaが行っているのが特徴です。

衣類を購入すると、出品者から直接送られてくるのではなく、Wajaが出品者から預かって保管している在庫から発送される仕組みです。「品質や物流をWajaが保証してくれるので、個人の出品者からでも安心して購入することができる」という点が他のサイトとの差別化になるとされています。

この点は競争力といえるものの、リブセンスにとってはコスト負担の大きさがリスク要因です。 まず、通常のECサイトに比べて倉庫費用・物流費用・関連する人件費などがより多く発生します。
現時点で売上115百万に対して131百万の経費が発生しており、高コスト体質です。

現時点で売上115百万に対して131百万の経費が発生しており、高コスト体質です。

さらに、経営層にとって、費用だけではなく、今までなかった新たな部門を管理するという負担が発生します。

仕入れ量管理、納期管理、人員採用、トラブル(誤配や不良品など)対応など、新たな領域について学び、管理し、収益改善をするのはなかなかに大変なことだと想像できます。 22Pには「経営管理体制の強化」が「waja」の課題とされているところからも、こういった背景が読み取れます。

明るい兆しが見える「転職会議」と今後のリブセンス

一方で、良い要素としては、「転職会議」の売上増加があります。 転職会議は、口コミ転職情報サイトです。

実際にその企業で働いていた会員達の体験談を読むことでその企業の実情を知ることができます。企業の採用HPには書かれない情報を得ることができるというところで着実に登録者数を増やしてきました。

口コミ情報を集めるだけでは売上にはつながりませんが、登録者に求人情報を紹介するなどのマネタイズチャネルが拡充されてきた、と記載されています。

このビジネスモデルは、インターネットで完結するモデルで、独自性もあり、リブセンスの持つセンスやノウハウを活かすことができる領域だと考えられます。

利益面では苦しい時期にはなっていますが、売上高は上昇しており、今後、メインの事業である求人媒体事業のみならず、新規事業分野からのさらなる売上拡大を狙うリブセンスの経営戦略には、引き続き注目です。