(写真左)株式会社モニタス
代表取締役社長 林 秀紀 氏
はやし・ひでのり/1980年2月、山口県岩国市生まれ。2000年に旅行会社に入社、その後広告代理店、マーケティングリサーチ会社を経て、2008年に株式会社リゲインを創業。その後2011年株式会社ゲイン(現モニタス)に参画し、2015年同社代表取締役社長に就任。2016年株式会社モニタスへ社名変更。事業構造の転換を行い、第二創業期と位置付け、経営・事業基盤の拡大を推進中。
(写真右)株式会社前人未到
代表取締役 牛島 悟 氏
うしじま・さとる/1991年福岡県出身、高校中退をし、特にやりたいこともないまま無気力に 10~20代前半を過ごす。しかし、ある転機をきっかけに、大検取得を決意。猛勉強をし、法政大学に入学。鹿児島の製造業や都内の広告代理店に従事し、「中卒がバカにされない世の中を作りたい」と思い、株式会社前人未到を創業。現在は代表自らもキャリアアドバイザーとして求職者や OB ・ OG の面談を実施している。
少子高齢化に伴う労働人口減少を背景として、女性・シニア・外国人などの人材を活用する動きが高まっている。その中で今回HRog編集部は「非大卒人材」に注目した。非大卒人材の活用を検討する企業はまだまだ少数派なものの、活躍のポテンシャルを秘めている人材層として注目を集めつつある。今回は非大卒人材の採用に取り組んでいる株式会社モニタスの林氏と非大卒人材に特化したエージェント業を展開する株式会社前人未到の牛島氏に話を聞いた。
「非大卒人材採用」に立ちはだかる学歴と慣習の壁
非大卒人材を受け入れる企業は増えつつあるものの、まだまだ応募条件を「大卒以上」に絞っている企業も多い。そもそもなぜ企業が非大卒人材の受け入れに消極的な理由は2つあると、牛島氏は語る。
「1つ目は、リスクヘッジとしての足切りです。『学歴フィルター』という言葉は新卒採用において学生の学歴や所属する大学を基準にして選考のふるいにかけることを揶揄した言葉ですが、新卒採用のみならず中途採用の領域においても、大卒と非大卒の間にはまだまだ『学歴フィルター』が存在しています。
いわゆる、有名大学の学生を採用すれば大きなデメリットはないと考え、あらゆるリスクを排除しようとしたときに学歴という表面的な要素で判断せざるを得ないと考えている企業は多いです。そのため非大卒人材の流動化がなかなか進まないという現状があります」
2つ目は、『1人1社制』という高校生の独特な就活慣習だ。
「高校生は学校からの推薦を受けてはじめて企業に応募できるのですが、その応募できる社数は基本的に1人1社に制限されています。また企業が高校生を新卒枠で採用するためにはハローワークへ求人掲載をする必要があり、その手続きも非常に煩雑です。
この慣習のため、採用担当者は『高卒採用をはじめても、手続きが面倒な割に応募が集まらないのではないか』と考え、非大卒人材に興味がある企業でも気軽に踏み切ることができない事情があります」
さらに、高卒採用においては基本的に『採用前提で面接をしなければならない』という慣習がある。
「そのため実力主義のベンチャー企業などは手を出しづらいです。本当は面接で合否を決めたいのですが、不採用通知を出してしまうと来年から学校側が推薦してくれなくなるため、不採用を出しづらいというジレンマを抱えています」
そのような慣習が非大卒採用のハードルとなり、結果、非大卒人材と企業の接点は少なくなりがちになっているのが現状だ。
「大多数の企業が非大卒人材の採用実績がないため、非大卒人材が活躍しているイメージが湧きづらく、ますます非大卒人材と企業が接点を持つきっかけも少なくなるという負のループに陥っています。実際に、今のところ非大卒人材と積極的に接点を持とうとする企業の業種はSESや人材派遣業など非常に限定的です」
このような非大卒人材の職業選択の非対称性を解決するために、牛島氏が前人未到社で運営するサムライキャリアでは非大卒人材を『キャリア新卒』と呼び、このマーケットの認知度を広げていくための活動を行っているのである。
非大卒人材の最大の強みは「素直さ」
まだまだ少数派ともいえる非大卒人材の採用。そんな非大卒採用に既に取り組み、メンバーとして活躍する組織を作っているのが、マーケティング・リサーチ事業などを運営している株式会社モニタス(以下、モニタス)だ。非大卒人材の登用について「元々構想の中に当たり前のものとしてあった」とモニタス代表取締役の林氏は語る。
「私自身も高卒です。モニタスがやりたいこと、モニタスのありたい姿を実現するためにはどんな仲間を集める必要があるのかを考えると、必ずしも新卒や高学歴である必要はありませんでした。なのでモニタスの採用条件には特に制約を設けていません。モニタスに合った人材を採用するために、可能性を最も広げられるように採用戦略を作っています」
その中でも林氏が非大卒人材に注目したのは「自社で活躍する可能性が高いから」だった。モニタスでバリューを発揮している社員の共通項は『素直にフィードバックを受け止め、改善し続けることができる人材』という点だ。
「非大卒の方の年齢層や経験を考えた時に自社にマッチする可能性があると思いました。モニタスに合う人材であれば、非大卒でも、時短社員でも、正社員でなくても、迎え入れていますし、今後も迎え入れたいと思っています」
実際にモニタスにはサムライキャリア経由で入社した非大卒社員が1名いるという。
「もともと大学を中退しフリーターとして働いていた方でしたが、現在は営業職として活躍しています。任せたことを必ず遂行する行動力と謙虚さがあり、昨年は弊社のビジョン・ミッションを刷新するプロジェクトにも参画してもらいました。その社員が活躍しているのは『非大卒』という自分の過去の経歴を引きずるわけではなく、受け入れてしっかりと前を向いているからだと思います」
非大卒人材活躍のポイントは?
林氏は「自社に合う人を適切に採用し・活躍できる環境がきちんと整えれば、学歴に関係なく活躍できる」と語る。それでは非大卒人材に活躍してもらうために、企業は具体的にどのようなことに気を付ければよいのだろうか?
「非大卒人材が活躍する組織を作るためには、長期的な視点を持ち会社全体で教育していく体制づくりが必要です」
「中途採用市場において非大卒人材の採用を考える企業の中には、即戦力になる人材を求めている企業も多くいます。しかし非大卒人材の方は、過去に正社員の経験がなかったり、自身のキャリアについて向き合ったことがなかったりする方が多いです。そしてそうなってしまった原因は本人の努力不足ではなく、学歴フィルターと高卒採用の慣習などといった環境にあると言えます」
「なので入社後すぐに活躍することを求めるのではなく、新卒と同じように長期的視点で教育していくことが非常に重要になります。現に弊社の取引先で非大卒人材の活用がうまくいっている企業は、この『長期的視点』が会社全体の共通認識として徹底されています」
一方で非大卒採用に取り組むことで「将来的に大きなリターンを期待できる」という。
「終身雇用が終わりを迎え『自分でキャリアを切り開く』という意識が一般的になったり、口コミサイトが普及し簡単に企業の比較が出来るようになったりする中で、『転職してよりよい環境を目指すのが当たり前』という考えは徐々に一般的なものになりつつあります」
「その中で非大卒人材の方は素直で謙虚な方が多いので、組織に忠誠心を持ちやすく、重要なポジションを担う幹部候補として将来的に大きなリターンを期待できると考えています」
そのためにも、まずは自分で考えて仕事を作り上げることを求めるポジションではなく、既存業務で成果を出してもらうことが肝要だという。数年のスパンで様々な研修や経験を提供しながら「人材を育てていく」という視点が必要なのである。
「サムライキャリアの運営をおこなう上でも、今後は人材の紹介だけでなく、入社後の研修などアフターフォローに力を入れていきたいと考えています」
(HRog編集部)