株式会社スタディスト
ビジネスイネーブルメント部 部長
坂野 亜希子 氏
ばんの・あきこ/慶應義塾大学卒。国内大手金融機関にて法人営業に従事後、人材開発部門にて全国の法人営業担当教育、新入社員教育に従事。その後、コンサルティング会社にて研修企画のコンサルティングや各種講師業務を担う。2016年4月に株式会社スタディストに参画。営業担当、カスタマーサクセス担当を経て2019年より現職。
ビジュアルSOP(※)マネジメントプラットフォーム「Teachme Biz」を開発・販売する株式会社スタディストでは、新型コロナウイルスの感染拡大をうけ、テレワークへの完全移行を決定したわずか2日後には全社員がテレワークによる業務を開始した。毎月数名の新入社員の受け入れを行っている同社において、テレワーク環境でどのように研修を実施し、オンボーディングを成功させたのか。そのポイントや方法について、坂野氏に話を伺った。
Standard Operating Proceduresの略で、日本語では「標準作業手順書」。業務や作業を進めるための手順について詳細に記された指示書のこと。
オンライン研修の不安は「品質と効率」
新型コロナウイルス感染症の影響により企業のテレワーク導入が進む中、多くの企業が研修の中止を余儀なくされ、新人教育や配属に遅れが生じた。これまで新人研修といえば集合型研修が一般的だったが、テレワークへのシフトによって企業研修のあり方を変えざるを得ない企業は多いのではないだろうか。
同社でも2020年2月中旬にテレワークへの移行が決定したため、3月からの新入社員研修は集合型研修からオンライン研修に切り替えた。オンライン研修への切り替えが決定した当時のことを坂野氏は次のように振り返る。
「わずか数日で研修の内容や方法をすべて見直さなければならず、教育担当は不安を抱えていました。集合型研修からオンライン研修への切り替えにあたり最も気がかりだったのは、従来の研修品質と育成効率を保つことができるかどうかという点です。それには教育担当者との対話や参加メンバーとの意見交換、ワークを円滑に行うための環境の整備など、非対面式でも理解度や習熟度を測りながら研修をおこなう方法を考える必要がありました」
そこで、これまでの研修プログラムや研修方法、資料などを全て見直し、直前まで最適な形を模索し続けたという。
「反転学習」によりインプットとアウトプットの質を向上
同社では「反転学習」という学習方法を用いてオンライン研修をおこなったという。
まず自学で知識を習得し、その後講義で詳しい解説や発展問題を扱う学習方法。従来の「講義の後に自学」という順番を反転させた学習方法で、従来の学習方法と比較して学習効率が高いという研究結果もある。
「参加メンバーに対してこれから受講する研修プログラムをあらかじめ配信して、自学してもらっていました。そうすることで事前に学習した上で研修に参加してもらえるため、学習効率が飛躍的に高まりました」
事前学習を徹底したことにより、集合型研修のときには2時間かかっていた講義時間が30分にまで短縮された講義もあったという。またインプットを効率化した分、残りの研修時間は知識を定着するためのアウトプットの時間として活用できるようになり、習熟度も上がったらしい。
また反転学習において重要になってくるのが、被研修者が自分でインプットを行える仕組みづくりだ。坂野氏によると、オンライン研修でのインプットには同社が開発・販売する「Teachme Biz」を利用したという。
Teachme Bizは、画像や動画を使用した手順書を簡単に作成・共有・管理できるプラットフォーム。ステップごとに画像や動画を用いるため作業の方法や順番がすぐに理解でき、業務遂行にあたって再現性が高いことが魅力だ。
誰にでも伝わる研修教材はオンライン研修において必要不可欠だ。集合型研修であれば教材の内容がわかりづらくても、講師が丁寧に解説することで理解を助けることができる。しかしテレワーク環境下では手取り足取り教えることはなかなか難しい。
「スタディストでは入社前・入社後の手続きに始まり、業務で使用するツールの使い方、営業メンバーの商談の進め方に至るまで、あらゆるものをTeachme Bizで手順書化していました。動画や画像を使い『見ればわかる』教材を用意できたことで、被研修者の自学の大きな助けになりました。またTeachme Bizはクラウドサービスのため、研修内容に大きな見直しが入っても直前まで教材を修正できました」
またテレワーク環境下では学習の進捗状況を把握し、それぞれの進捗に応じてこまめにコミュニケーションをとることが重要だ。
「Teachme Bizには参加メンバーの学習状況を可視化できる機能があります。それらの機能も有効活用しタイムリーにフォローを行うことで、メンバー全員をオンボーディングまでしっかりと見守ることができました」
オンライン研修成功の鍵は「コミュニケーションの円滑化とサポート体制の構築」
テレワーク環境下でも集合型研修と変わらないスピードで研修をこなし、新人を即戦力化するために、同社が意識したことは何だったのだろうか。
「会社で業務をしていれば周りが気づいて指摘してくれることも、テレワーク環境では自分で気づくしかありません。そのため研修の中では自分で自分の学びを振り返ってもらうために、プレゼンやロープレなど被研修者がアウトプットする機会を意識的に設け、その様子を動画に撮影し自ら振り返りを行った上で講師からフィードバックをおこなっていました」
また自分自身で振り返りを行い見解をアウトプットしてもらうことで、講師側も本人の理解度や習熟度を把握することができるメリットがあるという。
「また新メンバーをきめ細かくサポートするために、常に育成担当者が入っているオンラインmtgルームを用意しました。その部屋に入ればいつでも育成担当者との雑談や相談ができるようになったので、教育担当とメンバーとの信頼関係の構築につながったと感じています。また毎日オンラインで終礼を行い、一日の振り返りや疑問点の解消などこまめにケアを行いました。それにより、集合型研修に勝るとも劣らないコミュニケーション量を確保できました」
またオンライン研修は講師や研修の教材だけでなく、研修に使用するツールによっても習熟度が変わってくるため、上記の二つを達成するためのツール選びの検討は慎重におこなったようだ。
「スタディストでは研修のツールとしてウェブ会議システム『Zoom』を使用しています。参加メンバー全員の表情を見ながら研修を進められることや、資料の共有がスムーズであること、研修の様子を動画で保存できることが決め手となりました」
坂野氏はオンライン研修の成果について「集合型研修からオンライン研修に切り替えたことで、研修の在り方を見直すことができた」と語る。
「オンライン研修で反転学習を取り入れたことにより、結果として集合型研修以上の効率化を図ることに成功しました。『テレワーク』という新たな働き方の浸透によって、私たち教育担当はこれまでの研修を見直す分岐点に立っています。この機会に、より効率的で効果的な研修の在り方を見出すことで、変化に強い組織基盤づくりに取り組んでいきたいです」
採用市場が縮小する中で、応募・採用課題だけではなくその先の教育・活躍の課題の解決まで情報提供できる営業の市場価値が高くなっている。社員研修のやり方を模索している企業が多い今だからこそ、オンライン研修のノウハウは今後も注目していきたい。
(HRog編集部)
[…] ■HRog:withコロナ時代の企業研修の在り方 テレワーク環境で研修の質と効率を大幅に改善した方法とは https://hrog.net/interview/jinji/86628/ […]