アクシス株式会社
マーケター
成神 佳彰 氏
なるかみ・よしあき/アクシス株式会社でマーケターとして従事。転職者向けにキャリアと転職に関する情報を発信するYouTubeチャンネル「すべらない転職」の運営責任者。開発からおよそ1年半でチャンネル登録者数の急伸に貢献。
近年、YouTubeは販売戦略の新たなツールとして注目され、企業が公式のYouTubeチャンネルを開設するケースも増加している。しかし、「集客効果が出ない」「現在の運用方法で求職者獲得につながるのか知りたい」といった悩みを抱える企業も多いのではないだろうか。
今回は、アクシス株式会社が運営するYouTubeチャンネル「末永 雄大 / すべらない転職エージェント」で運営責任者を務める成神氏にインタビューを行い、企業YouTubeチャンネルを運営する上で必要な考え方や具体的なノウハウについて話を聞いた。
試行錯誤の繰り返しだったYouTube立ち上げ期
2019年5月にYouTubeを立ち上げ、現在はチャンネル登録者数約2.8万人(※2021年4月現在)を誇るチャンネルに成長した『すべらない転職』。立ち上げ当初は企業向けYouTubeに関してノウハウが確立されておらず、試行錯誤の連続だったという。
「YouTubeの立ち上げは私にとっても初めての試みだったので、最初はマイクやカメラを買うことから始まりました。方向性についても『転職者に向けてキャリアと転職に関する情報を発信しよう』という大きな枠組みのみ決めた状態で動画配信をスタートしたんです。
立ち上げ当初は代表の末永が実写で登場する動画を作成していました。分からないながらに仮設を立てて実験的に配信してみる、PDCAを回しながら試行錯誤する実験期間でしたね。そんな中、2020年に入り末永が経営に注力することになり、動画をアニメーションに転換します。この頃、ようやくテーマ選定やアニメーションのテイストなど、動画を作成する上で意識するポイントが分かってきました。日々運営していく中でノウハウが整理され、クオリティも少しずつ上がってきたと感じます」
2020年の後半には、転職面接の動画などを中心に、再生回数が伸び始める動画が現れる。平均再生回数が上がるにつれて、チャンネル登録者数も急増したという。
YouTube運用の鍵は市場ニーズの把握と運用体制の構築
魅力的な動画を配信する上で、市場の動向やニーズを把握することは欠かせないポイントだと成神氏は語る。どのように市場のニーズを分析し、ノウハウを集約していったのだろうか。
「1つの動画配信をきっかけに、市場ニーズの有無を見極めることが大事だと感じました。例えば、『転職』というキーワードをYouTubeで検索すると、関連度の高い動画が上から並びますよね。関連度の高さに視聴者のニーズが集約されていると考え、検索結果を分類するようになりました。そうしていくと、おすすめの仕事紹介や業界・職種紹介にニーズが多いことに気づいたんです。
そこで、自分たちの強みでもある転職のプロやエージェントの解説を入れ込んだ動画作成を始めます。自分でも手応えを感じた『転職エージェントの僕がおすすめしない仕事5選』は再生回数が飛躍的に伸び、大きな反響を得ました」
再生回数を伸ばす要素として、タイトル付けやサムネイルも重要だと成神氏は続ける。
「関連度を軸にしたキーワードを使いながら、魅力的なタイトルやサムネイルを作成することを意識しています。SEOライティングのタイトル付けのやり方と同様に、YouTubeでも関連度の高い特定のワードを使用しています。例えば、『転職』関連のキーワードで検索したときに、自分たちの動画が1位に表示されるためにはどのようなワードが効果的かを考え、日々運用を行っています」
中でも、サムネイルは動画のクリック率のほか、YouTube上に表示された回数を示すインプレッション数にも大きく影響することから、特に力を入れているという。
自分の動画のサムネイルがYouTubeに表示された回数を表すもの。検索結果、おすすめ動画、再生リストなど、YouTubeのどこかに動画のサムネイルが1秒以上表示された際にカウントされる。
「サムネイルでは、この動画で何を伝えるかという『テキスト』と、全体的な『デザイン』の2つを意識します。特にテキストは、単純に視聴者に興味を持ってもらえるかという観点以外にも、先程話した特定のワードを使用するかどうかも重要です。実際に、特定のワードを入れたものと入れていないもので効果検証をするとインプレッション数が変化しました。YouTubeではサムネイル中の文字を読み取って、この動画がどのような動画なのかを認識しているようです。
今でも、一つの動画を配信する際には、デザインやテキストに変化を持たせたサムネイルを10個弱作り、毎週差し替えるなど、クリック率やインプレッション数の検証を都度行っています。サムネイルの差し替えによって、クリック率や動画の検索順位にも変動があります」
「また、外部パートナーに頼りつつ、持続可能な運営体制の構築することにも取り組んでいます。正直、2019年は、代表の末永も話すことが得意ではなかったこともあり、ストレスを抱えながら運営を行っていた苦悩の時期でした。2020年に動画をアニメーション化したことをきっかけに、イラストやサムネイルなどのクリエイター業務を外部のパートナーに依頼しています。
今では、代表の末永氏がコンテンツ制作に携わりながら、編集を外部のパートナーに依頼するなど、動画作成に必要な多くのパートを外部のパートナーに担ってもらっています」
動画配信により集客に貢献。試行錯誤の継続が成功への近道
そして、昨年は登録者数400人ほどだったチャンネルが、現在は約2.8万人という人気のチャンネルへと急成長した。YouTube配信を継続したことにより、業務にはどのような影響があったのだろうか。
「現在では、YouTube経由で転職者やキャリア相談サービスへ問い合わせを100件ほどいただくなど、事業にも貢献できるようになりました。求職者の獲得を他社メディアに頼る企業も多い中、自社運営のYouTubeで集客の成果を出せたことは大きいと思っています。
他にも、LINEと連携してYouTubeコンテンツを発信し、CRMのような役割も担えればと考えています。実際に毎日10人くらいの新規登録があるので、月間300人ほど増えていますね。他の競合のチャンネルを見ると登録者数7万人いうチャンネルもあるので、まだまだ伸びしろがある領域だと考えています」
最後に、これからの展望について成神氏は次のように語る。
「立ち上げ当初は、動画の再生回数が伸びず、正解が分からないまま暗闇の中を歩き続けているような辛い時期が続きました。現在もコンテンツの価値やサムネイルなど、動画配信に関して課題を感じている部分は多くあります。
運用しながら、少しずつノウハウを溜め、今後も試行錯誤しながら視聴者のニーズに沿った動画を配信してきたいですね。YouTubeの運用に正解はなく、模索しながらも継続することが成功する秘訣だと思います」