しゅふの力が企業を支える これからの人材戦略

株式会社ビースタイル メディア
代表取締役社長
石橋 聖文 氏
いしばし・きよふみ/立教大学を卒業後、2005年に株式会社ビースタイル(当時)に新卒入社。派遣事業部にて営業、営業企画を経験した後に、ハイキャリア向けの時短エージェント事業や、全社横断型のWebマーケティング部門を立ち上げ、2015年に『しゅふJOB』に参画。サイトのフルリニューアルに携わった後、主に事業企画、運用設計を担当。2020年4月に株式会社ビースタイル メディア 取締役に就任し、2022年7月より現職。

しゅふJOB総研
研究顧問
川上 敬太郎 氏
かわかみ・けいたろう/大手人材サービス企業、業界誌を経て、2010年に株式会社ビースタイル(当時)に入社。翌年、しゅふJOB総研を立ち上げ、所長就任。仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”のべ40000人以上の声を調査・分析し、200本以上のレポートを配信。2021年に独立し、現職につく。ビースタイル以外にも“ワークスタイル”をメインテーマにした研究・執筆・講演、企業の事業支援などを行う。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。

労働人口の減少に伴う人手不足の解消には、労働移動が不可欠と言われている。しゅふ(主婦・主夫)層の雇用もその手段の一つだ。しかし、しゅふ層はライフイベントを機に退職する可能性があるとして、採用を避ける会社もある。また育児・介護とフルタイム勤務の両立が難しく、なかなか希望の働き方ができない人も多い。今回は株式会社ビースタイル メディア 代表取締役社長の石橋氏としゅふJOB総研 研究顧問の川上氏に、これからのしゅふ雇用の可能性と企業に必要な考え方について話を伺った。

しゅふ雇用の変遷 結婚後もスキルを活かして働ける社会に

しゅふ層の社会進出の変遷は、法律や税制・社会問題と切り離せない。パートタイムという働き方は共働き世帯の増加とともに増え、しゅふ雇用の大きな受け皿を担っていると川上氏は語る。

「かつての日本社会では、女性の生き方は『新卒で入社した会社で結婚相手を見つけ、寿退社をし、専業主婦として家庭に入る』という流れが一般的で、企業側も『女性に責任ある仕事を任せない』時代がありました。1985年に男女雇用機会均等法が制定された後も、今とは違って産休・育休制度が未整備の会社は多く、結婚をきっかけに退社してキャリアが途絶えてしまう女性が後を絶ちませんでした。

しかし女性の就労志向の高まりや生産年齢人口の減少など、様々な要因によって結婚・出産後も就業する女性が増加。共働き世帯が増えるにつれて、パートタイムという働き方を選択するしゅふ層も増えていきました」

ビースタイルグループが創業されたのは、共働き世帯の数が専業主婦世帯の数を越え、急速に増え始めた2002年ごろ。結婚・出産を経た女性の中にも高いスキルをもった人たちがいるにも関わらず、当時のパートタイム労働者の働き口はごく一部に限定されていた。創業者の三原氏は、非常に優秀でありながら出産後、高校時代のアルバイト先に再就職したという知人の話に驚き、「しゅふ×事務職のパートタイム派遣」という新たな市場を開拓した。

石橋氏いわく、サービス発足当時は「事務職の人はフルタイムで働いてもらわないと現場が回らないのでは」という声もあったが、コスト意識の高い経営者や女性活用を推進したい企業を中心にじわじわと導入企業が増えていったという。

「2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災による経済停滞など、非常に苦しい時期もありました。そこをなんとか持ち堪えて、2013年ごろから徐々に企業の採用意欲が戻り始めると、人材不足の中小企業を中心に『短時間勤務でも、経験豊富な方がいれば採用したい』というニーズが増え始めたのです。

そこで主婦層の集客基盤となる『しゅふJOB』や、短時間勤務とキャリアを両立できる『スマートキャリア』をリリース。自分のキャリアを活かして働きたいハイスキルなしゅふ層の方と企業のマッチングが加速し、活躍の場が広がりました」

女性活躍の障壁 根底に残る性別役割分業の意識が課題

その後コロナ禍を経て、現在の採用市場はどのように変化しているのだろうか。

「家事代行・介護・飲食・小売などの、人手が必要な業界・職種は依然として強い人材ニーズがあります。ライターやエンジニアなど、在宅勤務かつ専門性を活かして働ける求人も増えている印象です。

一方で、求職者が求人を見る目は非常に厳しくなっています。コロナによって企業側の制度が急速に整ったため、Wワークや掛け持ち・複業ができるなど時間と場所の融通が利くことはもはや前提条件で、その上でより高時給の求人に応募したいという方が増えています」

女性が活躍できる場は広がっているものの、仕事と家庭をいかに両立させるかという問題は依然として残っている。現在しゅふ層の労働参加の障壁になっているのは何なのだろうか。

「しゅふJOB総研で行った調査によると、家庭と両立させることのできる仕事について『不足している』『とても不足している』と答えた人の割合は合計76.8%でした。また『仕事と家庭を両立させる上で必要だと思うことは?』という質問に対して、84.1%の人が『時間や日数など条件に合う仕事』と回答しています。自由な働き方が広がっているといえども、仕事の柔軟性がネックで希望の仕事に就けない人がまだまだたくさんいます」

しかし「ただ単純に自由度の高い働き方を増やせばいいという考え方は、女性活躍における課題を本質的に捉えられていない」と川上氏は続ける。

「実はしゅふJOB総研の調査で就労志向の主婦層に働き方の希望を尋ねると7割以上の人が『短時間勤務』を希望したのですが、『家庭の制約が一切なく、100%仕事のために時間を使えるならどんな働き方をしたいか』と聞き直してみたところ、56.6%の人が『フルタイム正社員希望』と回答しました。さらに女性に管理職について尋ねると希望する人は26.5%でしたが、同じく『100%仕事のために時間を使えるなら』と聞き直してみると希望する人が64.4%に跳ね上がりました。家庭の制約が女性の働き方の希望に大きな影響を及ぼしていることが伺えます。そして、本当の希望に気づかないまま蓋をしてしまっている可能性があるのです」

一方で、男性は「自分の時間を100%仕事に使える」のが当たり前と考え、仕事選びにおいて時間的制約を考慮したり、管理職を希望することをためらったりする必要がないことが多い。女性の社会進出を阻害している要因の根底には、「男性は働き、女性は家庭に入る」という性別役割分業の意識が払拭しきれていないことも見逃してはいけないだろう。

「一億総しゅふ化」へ向けて しゅふJOBの取り組み

川上氏はこれからの労働市場について、男性・女性ともにワークライフバランスのとれた働き方を望む人が増加し「1億総しゅふ化」が進むと見ている。

「ここでいう『しゅふ』とは既婚・未婚に関わらず、仕事とプライベートを両立したい人たちを指します。今後は家事・育児・介護などとの両立はもちろん、趣味や副業を充実させたいという希望も含めて、プライベートとバランスをとりながら働くことが当たり前になると思います」

そんな社会が訪れれば、今までしゅふ層が抱えてきた悩みが、家庭を持つ女性特有のものではなくなっていくだろう。実際にビースタイルグループのサービス上では、子育てや介護の事情で短時間勤務を希望する男性や、定年退職後にパートタイムで働くシニア男性も増えているという。

今後少なくとも数十年は労働人口が減少し、採用難度が急速に高まることが予想される中で、今後企業が取り組むべきは「柔軟な働き方でも成果を出せる仕組みを構築する『業務デザイン力』の向上」だと川上氏は言う。

「今後はしゅふ層に限らず、シニアや障がいを持つ方など、今まで戦力化できていない方たちの採用が推進されていくでしょう。しかし単にフルタイムで働く人の業務サポートという位置付けで働いてもらうのではなく、仮に週3日勤務だったとしてもしっかりと業務成果を出してもらえるよう、企業側は土壌を作らなければいけません。

そこで重要なのが、会社の業務を全て棚卸して一部を切り出したり、パートタイムの人にも活躍してもらう前提で業務フローを再構築したりする『業務デザイン力』です。例えば元人事部長のしゅふパートさんに就業規則の変更をお願いするとか。時短勤務だから、パートタイムだからきっとこの仕事は無理だろうという先入観を取払い、采配の最適化ができる企業は生産性を高める上で有利になるはずです」

また、一言で「ワークライフバランスを取れる働き方」といっても、その人の希望やスキルは千差万別だ。ビースタイルグループでは、その人のニーズに合った働き方に出会えるよう、時短正社員求人をそろえた「スマートキャリア 時短正社員」やすきま時間で働ける「ご近所ワーク」など、多様なサービスを展開している。

石橋氏は力を込めて、次のように語った。

「ビースタイルグループは『「はたらく」をもっと、しあわせに。』というミッションを掲げています。これを実現するためには、先ほどお話ししたようなワークライフバランスが取れる仕事、自分の経験やスキルを活かしたキャリアを目指せる仕事など、その人にとっての自己実現につながる求人をたくさん揃えるのが重要です。

実際に『時短勤務で月給30万円』といった求人や『週に1度ランチタイムだけ働いてくれればOK』といった求人など、多様な価値観にフィットした、好条件で融通の効きやすい仕事が少しずつ増えています。まずはしゅふJOBをはじめとするサービスをもっと多くの人たちに知ってもらい、しゅふ層の方たちに『自分にピッタリの仕事が見つかった!』と言ってもらえるような場所にしたいですね」

(鈴木智華)