海外ITエンジニアは何しに日本へ これからの海外人材活用を考える

ヒューマンリソシア株式会社
GIT(Globlal IT Talent:海外ITエンジニア派遣サービス)事業部長
今関 彰範 氏
いませき・あきのり/2000年4月ヒューマンリソシア入社。人材派遣事業部門での営業を経験後、さいたま支社長、東日本エリア、中日本エリアの営業本部長などを経て、2021年4月、GIT事業本部長に就任。20年を超える人材ビジネスにおける知見、メーカー系企業をはじめとした大手企業の人材活用を支援してきた経験をもとに、ITを中心とした海外エンジニア派遣事業を通じて、クライアント企業のダイバーシティ・グローバル化の支援に注力している。

ITエンジニアの需要が過熱している今、海外人材の活用に注目が集まっている。しかしIT人材の需要は世界規模で高まっており、採用するには世界各国との採用競争に勝たなければならない。今回は海外ITエンジニア派遣サービスを行うヒューマンリソシア株式会社に、海外IT人材獲得の現状と課題、日本企業が選ばれるためのポイントについて話を伺った。

日本における海外ITエンジニアの現状と課題

少子化による日本の人口減少は、深刻化の一途を辿っている。中でも需要が高いITエンジニアの人材獲得競争はますます激しくなるばかりだ。そこで注目を集めるのが、海外人材の活用である。まず、海外ITエンジニア市場の現状について今関氏に伺った。

「国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月に公表した推計によると、2056年には人口が1億人を下回ると予測されています。2017年時点の推計と比較すると減少ペースは緩やかになっていますが、これは毎年16万人の外国人が入国超過すると見込んでいるからです。つまり、日本人口の減少を外国人が下支えする構造になっています。

同様に、日本における海外ITエンジニアの割合もこれから増えていくだろうと我々は見ています。新型コロナウイルスの感染拡大により海外からの入国が規制される前までは、情報通信業における海外出身の就業者数は右肩上がりでしたし、入国規制が緩和された今、市場はますます拡大していくと考えられます」

事実として情報通信業における外国人労働者は、2008年時点で約1.8万人だったのが2018年には5.7万人と10年間で約3倍に増えた。また、情報通信業の全従事者に占める外国人材の割合は0.9%から2.4%に上昇している。

引用元:ヒューマンリソシア株式会社

海外IT人材にこれから先も日本が選んでもらえる保証はない

では、今実際に日本企業で働く海外IT人材はなぜ数ある選択肢の中から日本を選んだのだろうか。来日した方に『日本を選んだ理由』について聞くと、大きく分けて4つの回答が多数を占めるという。

「1つ目の理由は、アニメやマンガなどのジャパニーズコンテンツがきっかけとなり、日本に憧れや興味を持っていたというものです。2つ目は武道に興味があったから。空手や柔道を習っている人や、そこに流れる心・技・体の精神などに関心を持つ方も多いですね。

3つ目には、日本製品への興味があげられます。『クオリティの高い日本製品の製作に携わりたい』『製作工程を知りたい』などの理由で日本に興味をもったケースです。4つ目の理由は、『安心・安全』。これは本人だけでなく送り出すご両親としても気になるポイントであり、『日本なら治安がいいから行ってもいいよ』と背中を押してもらえたという方もいました」

1つ目、2つ目の理由に挙げられたような、「日本のファンだから日本を選ぶ層」は今後も大きく減る可能性は低いと考えられる。しかし、他にも選択肢を持っている海外エンジニアに関しては、今後も日本を選んでもらえる保証はないと今関氏は続ける。

「弊社が実施した調査にてITエンジニア職の年収を国別のランキングにしたところ、1位はスイスで2位がアメリカ、3位にイスラエルという結果でした。それに対して日本は20位と、世界と比較すると決して高くありません。物価や税制なども違うので一概には比較できませんが、ジョブ型雇用の思考が強い海外では『いかに自分を高く売るか』が重要で、職を選ぶ際に給与を優先する傾向にあります。そうなると、他国と比べた際に日本を選ぶ人は減ってしまいます。エンジニア業界特有の『多重下請け構造』などもあり、日本のエンジニア年収の改善は一朝一夕では難しいでしょう。しかし、グローバル化が進む世界で日本企業が生き残るには、スキルに見合った給与水準を整備することが必要ではないでしょうか」

また、コロナの影響により世界的にボーダレス化が進んだことも大きいという。

「日本企業の多くは、外国人材の採用要件として高い日本語レベルを求めています。しかしコロナ禍を経て世界中の企業でリモートワークが導入され、ITエンジニアは母国を出ずに海外の仕事をできるようになりました。わざわざ日本に移住する必要はありませんし、海外エンジニアの多くは英語を話せるため、難しい日本語を習得せずとも、自国にいながらリモートで英語圏の仕事を選べばよいわけです。このような時代的な要因も加わり、日本は選ばれにくくなるのではと懸念されています」

海外ITエンジニアの活用推進に必要なこととは

ITエンジニアに限らず、外国人材の雇用には往々にして「ことばの壁」が立ちはだかる。しかし実際は、それほど日本語レベルが高くなくても業務上支障がないことに気づく企業も多いという。

「必要な日本語レベルの程度は、企業がその人材に『なにを求めるのか』によって変わってきます。例えば海外ITエンジニアを『日本語が話せる人材』としてではなく、『英語が扱える人材』として採用するのであれば、日本語レベルは大きな問題にはならないのです。

ビジネスレベルの日本語といえば日本語検定2級(N2)以上が目安であり、これまではN2を外国人採用の必須条件にしている企業がほとんどでした。しかし最近では、『日本語検定4級(N4)程度の能力があれば十分』『日本語は必須条件ではない』という考えの企業も増えてきています」

同社の海外エンジニアのうち、約9割は英語がネイティブレベルで堪能だと今関氏は語る。出身地が英語圏以外の人が大半だが、バイリンガル・トリリンガルが当たり前の世界だ。これからの日本企業は、海外人材に日本語の習得を求めるだけではなく、むしろ自分たちが英語でのコミュニケーションに適応していく姿勢が重要になるだろう。

またことばの壁以外にも、外国人材の雇用を妨げている課題が存在する。

「外国人材の雇用が進まない背景として、入国や雇用の手続きが複雑なことが挙げられます。在留資格の申請・取得・更新や住民登録、銀行口座の開設などは外国人の方にとって非常に高いハードルとなっています。企業側も受け入れに慣れていないと、どう対応すればいいか分からないですよね」

こうした日本語や手続きの壁を踏まえて、ヒューマンリソシアは海外ITエンジニア派遣サービス「GIT(Globlal IT Talent)」を展開している。

「グループ企業が日本語学校を運営しているため、弊社では日本語教育が内製化できています。そのため入国前から入国後まで継続した学習サポートが可能ですし、しっかりとしたノウハウを持っている点が強みです。エンジニアの方がご家族を日本に呼ぶ際には、ご家族も日本語教育を受けられるようにしています。

また、海外ITエンジニアの方が日本で働く上で必要な手続きは、全て弊社がサポートしています。在留資格関連の手続きはもちろん、空港に到着したあとの送迎から住居の手配、ハンコを作成するところまで細やかに支援しているので、初めて日本に来る方にも安心です。

企業様はGITを利用することで、特別な手続きや自社での日本語教育を行う必要なく、派遣社員として海外ITエンジニアを活用できます」

世界中でエンジニア不足の状況が広がる中、日本を選んでくれたエンジニアに対して入国のハードルを下げる支援、そして企業側の採用ハードルを下げる支援は大きな介在価値となるだろう。

これからの海外ITエンジニア活用の展望について

ヒューマンリソシアはさらなるサービス強化のため、コロナ禍の影響で中断していたリクルーティングの再開や新たな国での母集団形成に取り組んでいるほか、日本の魅力を海外のエンジニアに伝える取り組みも行っているという。

「海外ITエンジニアに日本を選んでもらうためには、日本に対するさまざまな不安を払拭して、『日本に行きたい』というモチベーションを高めることがポイントだと考えています。そこで弊社では『日本をどう選んでもらうか』という視点から、SNSを通して日本の魅力や日本文化についての発信を行っています。『私たちがサポートするので安心して日本を選んでください』と伝えていきたいですね。

外国で一人で生きていくことは大変ですし、覚悟が必要です。一念発起して日本を選んでくれたITエンジニアの方々が、日本で安心して暮らせて自身の望むキャリアを形成できるよう、架け橋になるのが私たちのミッションだと思って取り組んでいます」

同時に、より多くの日本企業が海外エンジニアを活用できるような支援・働きかけも考えている。

「日本企業の皆さまには『人材が不足しているから海外人材を活用する』という考え方に留まらず、外国人材を採用することで得られるメリットについて考えてみていただきたいと思っています。実際にGITを受け入れて下さった企業の方より、自社のダイバーシティやグローバル化に繋がったとの声を頂くことが多くあります。また、IT分野の場合は英語の方がより多くの技術文献や調査報告にアクセスできるため、そうした面でGITエンジニアの価値を実感していただくケースも増えています。代替労働力としてではなく、事業を加速させたり変革したりする人材として迎え入れ、うまく活用していってほしいですね。

労働力人口が減少する中、日本の企業と社会を発展させていくためには、IT技術を活用した生産性向上と海外人材の活用を併行して推進していく必要があると私たちは考えています。こうした将来に向けて、GITサービスを多くの企業に活用いただくことで、企業、そして日本経済の発展に寄与していきたいです。

弊社としては、企業が海外IT人材のメリットを最大限活用し、顧客企業や日本に関心を持つエンジニアの方々、ひいては日本全体をよりよくしていくための手助けができるよう、これからも支援してまいります」