株式会社ニット コミュニティマネージャー
YADOKARI株式会社 チーフコミュニティビルダー
西出 裕貴氏
にしで・ゆうき/大学卒業後、音楽フェス「高架下音楽祭」を大阪で立ち上げ主催。この経験を機に、SHAKE HANDSをはじめとする様々なイベント・フェス・コミュニティのコンサルやプロデュースに携わる。現在は多拠点生活をしながら、パラレルワーカーとして活動中。株式会社ニットではコミュニティマネージャーとして、約400人のリモートワーカーをつなぐコミュニティ運営に取り組むほか、コミュニティを活用したカスタマーサクセスや組織活性、生産性向上の研修設計・実施を担う。
新型コロナウイルス感染拡大により、リモートワークを導入する企業が急激に増えている。そんな中でよく聞くのは、「リモートワークではチームの一体感を得にくい」「コミュニケーションをとりにくい」という声だ。
そこでリモートワークの環境のなかで組織のコミュニケーションを活性化する方法について、約400人のリモートワーカーをつなぐコミュニティ運営に取り組む、株式会社ニットのコミュニティマネージャー西出氏に話を聞いた。
特定のコミュニティに対して、コミュニティ内外の人や物、アイデア、お金の流れを調整し、場と心を維持管理し、メンバーの行動をデザインしながら、その場から生まれる価値を最大化する人。
(引用元:What is Community Manager?)
西出氏は現在ニットでコミュニティマネージャーの業務をおこなうとともに、別企業にてイベント・フェス・コミュニティのコンセプト設計から立ち上げ期の支援、コミュニティづくりをおこなう人材育成にも従事している。
※写真は株式会社ニット提供。
リモートワークのコミュニケーションに潜む2つの問題
西出氏によると、リモートワークの環境下でチームの一体感が得られにくかったり、コミュニケーションがうまくいかなかったりする原因は大きく2つに分かれるという。
リモートワークでは、チャットツールやビデオ会議ツールを使って、コミュニケーションをとることになる。しかし、そのようなツール上でのコミュニケーションは、仕事を進めるうえで必要なもののみになりがちだ。
「オフラインでは何気ない場面で雑談をする間柄でも、わざわざチャットで雑談をするのはハードルが高いと感じる方は多いです。また、ビデオ会議の場面でも、会議はわざわざ参加者全員の日時を調整してセッティングしていることもあり、アジェンダから逸れた話をしにくいもの。こうした事情から多くの人は、雑談することを遠慮してしまうのではないでしょうか」
「アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが、話し手が話した内容と身ぶりや手ぶり、表情が矛盾した場合にどちらが優先され、どのように受け止められるか、という研究をおこなったところ、次のような結果になりました」
「これを見ると、コミュニケーションにおいてテキスト(言葉)が果たす役割は全体のほんの一部だということが分かります。チャット上でのやりとりで、ボタンの掛け違いが起こってしまうのも当然です」
しかし多くの企業は「リモートワークはチャットでやりとりするもの」という先入観があるため、チャットでのやりとりに頼りきってしまっているケースが多いという。
「ですが本来、ディスカッションというものは、相手のリアクションを見て理解度を図りながらおこなうもの。そのためディスカッションはテキストでのコミュニケーションではするべきではないと考えています。各場面に応じて、電話や対面、もしくはテレビ会議やチャットなど、適切なコミュニケーション方法を選択することが重要です」
オンライン上で組織を活性化させるには、まず雑談をしやすい環境を整えること、そして適切なコミュニケーション方法を選択することの2つが前提条件になりそうだ。
キーワードは「心理的安全性」「スモールスタート」「成功体験」
西出氏が所属するニットでは、様々なスキルをもったオンラインアシスタントがチームを編成し、企業のバックオフィス業務やマーケティング業務、メディア運用などをサポートするオンラインアシスタントサービス「HELP YOU(ヘルプユー)」を提供している。
現在HELP YOUには国内外在住の約400名のリモートワーカーがメンバーとして所属する。西出氏はニットのコミュニティマネージャーとして、メンバー一人ひとりがいきいきと働ける状態をつくるためにどのようなことに取り組んでいるのだろうか。
「ニットにおいて組織が活性化している状態とは、下記の3つが社内で実現できている状態だと定義しています」
①一人ひとりが個性や強みを発揮できている
②お互いの個性や強みが相互作用している
③相互作用を通じて、組織に新しい物事や価値が生みだされていく
「これらを実現していくにはどうしたらよいかというと、オフィスにいてもリモートワークの環境にあっても、思っていることややってみたいことを発言しやすい、心理的安全性の保たれた環境をつくることです。そしてどれだけ小さくてもいいので成功体験を経験し、メンバーが自発的に組織内のコミュニケーション活性化に取り組む流れをつくることがポイントだと考えました」
一人ひとりの個性を発信できる場を設ける
組織の活性化のために西出氏がはじめに着手したのは、雑談することを前提としたチャットルームの作成だった。
「ニットではチャットツールとしてChatworkを導入していますが、業務上でのやり取りがメインでした。なので心理的安全性が確保され、かつ一人ひとりの個性が見える場をつくるため、同じ時期にHELP YOUにジョインしたメンバー同士で構成された『同期会』というチャットグループを16期に分けて作成しました。雑談するためのチャットのメンバーを『同期』という共通項でくくった理由は、同期は同じ時期に共通の体験や課題意識をもつことが多いため、自然なつながりが生まれやすいと考えたからです」
とはいえ、単にグループを設けただけでコミュニケーションが活発になるとは限らない。特にグループ開設初期において、積極的にコミュニケーションがとれる人は一部の人に偏りがちだ。またオフラインでの交流がなく、普段業務上での関わりもないメンバーが多いグループになると、会話のハードルはさらに高くなる。
「そのため同期会のグループチャットでは、最初に自己紹介を書くというルールを設けました。ルール=話す理由を作ることで、最初の発信のハードルを下げるためです。そして、住んでいる所や最近ハマっていること、趣味・特技などを書いてもらうことで、人となりが見え、会話のきっかけが生まれるようにしました」
その結果、動画配信サービスで同じ番組を観ていることがわかって会話につながったり、「子育て」という共通項から育児に関する悩みを打ち明けたりなど、プライベートの会話が生まれた。
「またおもしろいことに、仕事以外の話をするためにつくったこのチャットルームで仕事の依頼をするケースも見られます。自分の担当チーム内のメンバーではフォローできない案件があったときに、仕事内容とともに『こういう仕事ができる人はいますか?』と同期会チャットで発信すると、その仕事をやりたいというメンバーが見つかるイメージです」
本来このような困りごとは運営側に相談するのが通常の流れだ。しかし、身近なメンバーに相談してメンバー間で解決する流れができることで、徐々に同期会が組織課題を解決するコミュニティの一面を持ちつつあるという。
「やりたい!」を歓迎し、スモールスタートで成功体験をつくる
西出氏が次に取り組んだことは、メンバーの中でどれだけ小さくてもいいので「組織内での成功体験」を生みだすことだった。
「メンバーからの自発的な働きかけを増やすためには、『やりたいと考えたことが提案・実現できる』『メンバー主体で社内を盛り上げることが歓迎されている』という空気を作ることが大切だと考えていました。そしてちょうどそのころ、複数人のメンバーがなにかおもしろいことをしたいと話していると聞いたので、サポートすることにしました」
そこから「遊ぶように働く」をコンセプトにした「PLAY WORKER(プレイワーカー)」というグループが生まれ、ニットやHELP YOUのPRになるYouTube動画を製作するようになった。
「PLAY WORKERは全国の様々なところに住むメンバーで構成されていますが、動画制作で僕がやったことは、弊社代表のスケジュール調整や動画の撮影など、リモートワークのメンバーが物理的にできないところだけです。要となる動画の企画や構成、編集・告知までの作業は、すべてPLAY WORKERのメンバーが主体となって進めてくれました」
チャットツールやビデオ会議ツールを利用すれば、オンラインでもこのような取り組みができる。「リモートワークだからできないだろう」という思い込みを捨て、メンバーのやりたいことを実現するためにどんなサポートができるか考えることが重要だ。
また、動画の完成後に他のメンバーに動画を共有したところ、様々なコメントやリアクションが寄せられ、メンバー間で会話が生まれるきっかけになったという。
「現在はPLAY WORKER主体で2本目の動画制作の計画が進んでいます。PLAY WORKERに刺激されたほかのメンバーたちも、やりたいことを自主的に進めていく流れになることを期待しています」
コミュニティマネージャーの役割は「メンバー全員が自走する状態を作ること」
コミュニティマネージャーの役割について、西出氏は「メンバーがそれぞれの存在を尊重し合い、チームとして一丸となって同じ方向を見てもらうこと。そして同じ方向へ向かうために自走できる状態をつくること」と話す。
「コミュニティマネージャーは、組織の潤滑油となる存在です。どんなにスキルが高いメンバーが集まっても、どんなに立派なミッションやビジョンをもっていても、なかにいるメンバーを団結させることができなければ、組織では機能しません。チームとしてみんなが同じ方向を見据え、そこへ向かって自走できる環境を整えることがコミュニティマネージャーの役割です」
そしてコミュニティマネージャーの役割を果たすために西出氏自身は、次のことを大切にしているという。
「忙しくて時間がなくても、相談されることに対して極力『ノー』と言わないようにしています。何かあったらあの人に相談してみようと思ってもらうことで、リモートワークの環境下でもメンバーのやりたいことが集まってきます」
「誰かがやりたいことに対して、それをサポートするようにしています。スモールスタートでいいのでまずは行動してもらい、成功体験を積めるようにサポートします。それに加えて、やってみようとする姿勢と結果をきちんと評価して、称賛することも大切です。それが心理的安全性を高め、『次はこんなことをしてみよう!』と思うきっかけになります」
「自分が主体となって取り組んだことが評価・称賛されることで、自分は社会に貢献できているのだと実感できるようになります。そしてそれがメンバー一人ひとりの働く喜びにつながると思います。オンラインでもメンバーが働く喜びを感じられる場づくりを、今後も模索していきたいと思います」
組織作りで大切なことはオフラインでもオンラインでも変わらない。EX(従業員体験)が企業の採用力に直結する現代だからこそ、リモートワークの環境下でもいきいきと働ける組織づくりを各社考える必要がありそうだ。
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