株式会社ログシー
講師・キャリアコンサルタント
鈴木 さくら 氏
すずき・さくら/早稲田大学卒、法政大学大学院政策科学研究科修士課程修了。JALグループにて国際線旅客サービスに従事し、社内アワードを受賞。その後ホスピタリティの専門学校に転職、非常勤講師からエアライン科学科長まで昇進し、マネジメント業務や就職支援まで幅広く携わったのち、2019年から株式会社ログシー(ROGC Inc.)に参画。これまでキャリアコンサルタント、そして講師として、高校生から管理職まで2000名以上のキャリア支援に携わる。
学生から社会人への切り替えという大きなターニングポイントでカギを握る「新入社員研修」を効果的に行うために、最適な研修スタイルや研修プログラムは何なのか? 本特集では「新入社員研修」をテーマに、人材教育講師やキャリアコンサルタントを務める株式会社ログシーの鈴木さくら氏による、全3回シリーズのインタビューをお届けする。
オンライン研修のデメリットは「動機づけ」がうまくいかないこと
2020年は新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が採用や人材育成のオンライン化を余儀なくされた。鈴木氏は2020年の教育研修における環境の変化について、「多くの企業が研修のオンライン化に踏み切らざるを得ず、効果的なオンライン研修のあり方をきちんとインプットできていない状態で試行錯誤したところも多かった」と語る。
「オンライン研修にはメリットも多くありますが、同時にデメリットもあります。オンライン研修におけるデメリットは大きく二つです。
一つ目は、画面に映る動作以外は確認できないため、研修を受けながら別の作業を並行して行う、いわば『ながら受講』をやろうと思えばいくらでもできてしまう環境であること。二つ目は、一方通行的に聞いて学ぶだけの研修になってしまうと、テレビを流し見しているような受け身の学び体験になりやすく、学ぶ意欲や学んだことを活かす意欲が下がってしまうことです」
鈴木氏によると、研修のオンライン化に伴い、周囲の環境が他の受講者もいる会議室から、家の自室へ変わったことで、受講者の集中力や参加意欲は下がってしまいがちになっているという。ただ単にオフラインで行っていた研修をオンライン化するだけでは、受講者への動機づけがうまくいかないというデメリットが生じやすいらしい。
研修内製化が適さないコンテンツとは?
また鈴木氏は研修のトレンドについて「コロナをきっかけに、研修の内製化に取り組む企業も増えた」と語る。
「今までは外部の研修会社に研修をお願いし、講師を派遣してもらっていた企業も、コロナをきっかけに内製化を進めた印象があります。特に2020年の緊急事態宣言当時は、オンライン研修に十分対応している研修会社はごくわずか。外部講師をオフィスに招き研修を行うことも、オンラインで研修を委託することもできない状況の中、急遽社員が講師となって研修をおこない、そのまま内製による研修を続けているケースもあると聞きます」
しかし、研修コンテンツには内製が適しているものと適していないものがあるという。自社内での内製に適しているコンテンツは、「テクニカルスキルを身に着けるためのコンテンツ」だ。
「具体的な例としては、社内で活用している様々な機器・システムの使い方や、エンジニア・デザイナーなど特定の職種における技術の向上を目指した研修などがそれにあたります。社内で実際に活用する独自のテクニカルスキルの習得を目的とした研修コンテンツでは、その分野に長けている社内講師がコンテンツを作ることでより実践的でリッチな研修内容にすることができます」
一方で自社を離れても活用できる、ビジネスマナーやコミュニケーション・リーダーシップ・マネジメントなどのポータブルスキルを身に着けるための研修コンテンツは、内製をあまりおすすめしていないそうだ。
「社会人の基礎スキルともいえるポータブルスキルを社内講師が教えるとなると、『他社でも使える汎用的なスキルというよりも、この会社においてのルールやマナー』というメッセージとして受講者に伝わりやすくなってしまいます。
特に新入社員研修では、社会人経験のない受講者の方がまっさらな状態でビジネスマナーや仕事に取組む姿勢などを学ぶことになります。そのため外部講師もうまく活用していただきながら、『この会社特有のものではなく、一般社会の通念としてこうあるべきですよ』というメッセージングをすることをおすすめしています。
またポータブルスキルに関する研修は、ビジネスパーソンの基礎をつくるための研修です。しかし、だからこそ基本的な事柄や抽象的な話が増えてしまい、退屈で学びも浅いコンテンツになりがちです。外部講師はそのような中でも受講者をうまく動機づけさせるためのテクニックを持っているため、その点でも外部講師の活用はおすすめです」
そしてその動機づけが最も必要となる研修が、新入社員を対象とした研修だという。
「入社直後に期待と不安が入り混じっている彼らをしっかりとグリップしながら、研修中に随所で動機づけをしていくことで、学生から社会人へのマインドの切り替えがしやすくなります。このような観点から誤解を恐れず言うのであれば、『内製化×オンラインによる新入社員研修』は、最も新入社員を動機づけさせづらく、また学んだことも活かされにくいという、残念な結果を生み出しやすい研修だと言えるでしょう」
「内製化×オンライン」による新入社員研修を成功させるには?
とはいえ、教育コストの削減などさまざまな事情によって、2021年度の新入社員研修を「内製化×オンライン」のスタイルで実施する企業また多くなるだろう。そこで、今からの準備でも十分間に合う「内製化×オンライン」による新入社員研修を成功させるためのポイントを聞いてみた。
「内製化×オンラインの新入社員研修を成功させるためには、『研修当日だけを研修にしないこと』が大きなポイントになります。研修そのものを見るだけ・聞くだけではなく、受講生が自分事として捉えられるように、研修について考えるタイミングや、講師と受講者のタッチポイントを増やすことです」
具体的には下記のような取り組みを行うことで、従来のe-ラーニングや動画研修のような「見るだけ、聞くだけ」の研修から、受講者をうまく動機づけできる研修になるという。
①事前課題に各自取組む
②当日オンライン研修を受講する
③事後課題に各自取組む
④発表会ライブで再度オンライン上に集まる
「講師と受講者のタッチポイントをオンライン研修当日だけにしないことで、関係構築がぐんとしやすくなり、当事者意識の醸成が進みます」
「事前課題は、研修で扱うコンテンツについて、受講者にリサーチしてもらったり、その時点での考えを述べてもらったり、研修内容に紐づく事前課題が望ましいです。事前課題を提出してもらうと、講師側は『この受講者はこういう人なんだな』という特性が把握でき、研修当日も一歩踏み込んだやり取りができます。受講者側も事前課題に取り組むことで、当事者意識を持って研修に参加できますね」
「事後課題は、研修で学んだことについての気づきや1年目の目標など、各自レポートにしてもらったり、学んだことを実践している先輩社員にインタビューをしてみるのもよいでしょう」
「発表会ライブは、事後課題を各自発表してもらい、講師がフィードバックと成長を後押しするアドバイスを伝え、現場への橋渡しをしていくと、しっかりと動機づけができるはずです」
「また、このような4つのステップで設計することで、結果的に研修期間が約1ヶ月ほど続くという点も、実は重要なポイントです。私たちは新しいことを学んで意識変化を起こし、行動変容につなげるまでにはそれ相応の時間がかかります。実は行動変容を促す際、『知らない→知っている→わかる→やってみる』という学びの段階があり、タッチポイントの少ない1日だけのオンライン研修ではこの段階を進めていくのには、どうしても限界があります。1ヶ月ほど時間をかけて、『知らない→知っている→わかる→やってみる』という段階を経て、学びを定着させ、行動変容を促していくことがベストです」
このような仕掛けを随所で入れることによって、「内製化×オンライン」での新入社員研修でも成功させることができる。内製化×オンラインでの研修を検討している企業は参考にしてみてはいかがだろうか。
(HRog編集部)