テンプホールディングス決算(2016年3月期第2四半期)

テンプホールディングスの2016年3月期第2四半期の決算が11月10日に発表されました。
テンプホールディングスは、1973年に篠原欣子氏によって創業されたテンプスタッフと名古屋地盤のピープルスタッフが経営統合した会社で、派遣会社の中では、最古参のうちの1社です。今回の決算では、昨年にM&Aを行った2社の業績が反映されています。

M&Aにより、さらに増収

社名 パナソニックエクセルスタッフ P&Pホールディングス Capita Pte.Ltd
売上高 639.8億円 254.6億円 (SGD) 47,482千
営業利益 10.4億円 1.4億円 (SGD) 3,968千
取得額 168.2億円 54.9億円

*Capitaは、まだ業績反映されていません。

M&Aが業績にどのように影響しているのか?
今後はどのような戦略を取るのか?決算資料を見ながら分析を行いましょう。

▼テンプホールディングス 売上

2015年3月期
2Q合計
2015年3月期
2Q合計
増減
売上高 1,922億円 2,461億円 539億円
(128%)

売上は昨年同四半期に比べて539億円増加しており、128%となりますので大幅に伸びているといえます。次は、売上増加分の内訳です。

▼売上増加分 539億円の内訳

売上高 比率
オーガニック成長 119億円

22%
M&A効果 423億円 78%
連結調整等 -5億円
合計 539億円 100%

539億円のうち、M&A効果が423億円です。
M&A効果というのは、M&Aによって買収した会社の売上を指します。
423億円の売上がある会社を買収したので、売上が423億円増加したというわけです。
これに対して、M&A前の会社だけでの売上増加分が119億円です。
M&Aによって売上が水増しされたのではなく、本体の売上も伸びていることがわかります。

規模拡大のための買収戦略

テンプホールディングスの中長期戦略は以下の通りです。(中長期戦略 5つの戦略概要 より)

戦略1:グループ経営、セグメント体制の最適化
戦略2:派遣領域への投資と生産性向上による雇用者の拡大
戦略3:リクルーティングセグメントの利用者拡大
戦略4:アウトソーシングにおけるソリューション力の強化
戦略5:グループシナジーの創出

この中長期戦略を頭において、分析を行います。
まずはM&Aの背景を考えます。

人材派遣業界では、ここ数年で多くのM&Aが行われました。大きなところでは、リクルートスタッフィングとスタッフサービスの合併。ついで、テンプホールディングスとインテリジェンスの合併です。他にも様々な人材派遣会社が合併・統合を行っています。
この背景には、人材派遣市場の飽和があるといわれています。

労働者派遣法が施行されたのが1986年。そこから人材派遣市場は順調に増加してきました。正社員と違って費用が安く、業務の繁忙に応じて増減が可能な労働力は、企業のニーズにマッチしていたのです。人材派遣会社も年々増加しました。

しかしリーマン・ショックによって市場は急激に縮小し、その後、景気の上昇とともに回復してきましたが、今後は景気に連動して上下するだけで、大幅に増加することは無い(正社員と派遣社員の比率がこれ以上変わらない)といわれています。逆に派遣法の改正などによって縮小する可能性もあります。

また、人材派遣ビジネスは差別化が難しいことも特徴です。労働者は複数の派遣会社に登録を行い、顧客となる企業も複数の派遣会社に依頼をかけます。

派遣会社が派遣社員の給与を低くおさえて暴利をとっているような報道がされることもありますが、実情としては派遣労働者に選択権があり、少しでも時給の良い派遣会社を選ぶことができます。
なので、各派遣会社は出来る限り利益を削って時給を上げて人材確保を行っています。各派遣会社は、時給以外の差別化を試みてはいますが、時給の差を覆すようなメリットを打ち出せている派遣会社は今のところほとんどありません。

極端なケースでは、就業している派遣社員に対して、他の派遣会社が高い時給を提示して引抜きをするような事例もなくはないようです。派遣社員に高い時給を払ったからといって顧客に料金を転嫁することはできません。競合派遣会社との価格競争に負けてしまいます。
このような流れから、労働者派遣市場は、派遣料金は変わらないまま、原価となる派遣社員給与だけが上がっていくような状況も見受けられます。

以上のように、差別化が難しくコモディティ化した市場では、規模が大きな力となります。大きな売上と資本を持ち、大量の広告宣伝を行って派遣スタッフの募集を行い、大量の営業マンが営業活動を行うことが競争力となります。

グループ内に広告媒体を持ち、業界ナンバーワンの売上を持つリクルートスタッフィングに対抗するため、テンプホールディングスは、同じく求人媒体を持つインテリジェンス(doda)を買収し、さらに売上規模を増すためM&Aを行いました。

テンプホールディングスのM&A事例(一部)

2008年 ピープルスタッフ
2009年 日本ドレーク・ビーム・モリン
2009年 富士ゼロックスキャリアネット
2009年 日本テクシード
2013年 インテリジェンスホールディングス
2015年 パナソニックエクセルスタッフ、P&Pホールディングス

M&Aのメリットは、売上の拡大だけではなく、登録派遣スタッフ、現取引先への営業権があります。特に、パナソニックエクセルスタッフは、元の母体となるパナソニックグループとの取引窓口の開拓、パナソニックでの就業実績のあるエンジニアの獲得など、売上拡大以外の効果も大きかったと予想されます。

では、M&Aにはデメリットは無いのでしょうか?

これが、テンプホールディングスの中長期戦略と、次ページの取り組み施策から読み取れます。

取り組み施策(一部抜粋)

・顧客管理システム“RIBBON”範囲拡大
・IT・会計システム統一プロジェクト継続中
・グループバックオフィス機能の集約

M&Aのデメリットとしては、経営統合の難しさがあげられます。同じ業界とはいえ、企業文化から仕事のやり方、社内システムなど、違いはたくさんあります。ただ合併したからといって簡単に合併効果が発生するわけではありません。

組織の統廃合やそれに伴う余剰設備・人員の整理などを行って、初めて成果がでるのです。
今回のケースで言うと、M&Aをした直後は同じエリアに両方の会社の営業所がある状態です。このまま2つの営業所から同じ顧客に営業をかけて競合しても仕方がありませんので、どちらかの営業所を無くすか、何らかの住み分けをする必要があります。

人員が余剰しているからといって簡単に解雇できるわけでもなく、他の営業所に異動をさせるにしても様々な問題が発生します。
間接部門も同様です。経理部なども、それぞれの会社にあるものを合併して一つにしなければいけません。取り組み施策に書かれているように、ITシステムの統一も問題ですし、仕事の進め方やノウハウも共有していかなければなりません。

このような、合併に伴う諸問題をクリアして、シナジーを発揮するのは難しいことだといわれます。実際にM&Aをしたものの、うまくいかなかった失敗事例も多く存在します。

M&Aにともなう様々な問題を解決し、一刻も早くシナジーを発揮できるようにするのがテンプホールディングスの課題です。少し意地悪な言い方をすれば、これが課題に上がってくるということは、まだ上手くいっていないということです。

また、決算説明会資料6P EBITDA分析のM&A貢献分という箇所に、以下のコメントがあります。
「既存事業に比べ、売上総利益率が低いことによる利益減少」
合併した企業は、既存のテンプホールディングスより利益率が低いのです。
ここで、テンプホールディングスの売上以下の利益率を見てみましょう。

2015年3月期
2Q

構成比
2016年3月期
2Q

構成比
売上高 192,273 100 246,106 100
売上総利益 46,042 23.9 58,206 23.7
EBITDA 13,281 6.9 17,237 7.0
営業利益 10,234 5.3 13,298 5.4
当期純利益 5,730 3.0 8,104 3.3

売上総利益以下の構成比を見ると、高いとはいえません。営業利益率5.4% 当期純利益率3.3%しか残らないとすると、少し業績が悪くなると赤字転落の可能性もあります。
業務効率を高めて利益率を上げていかなければなりません。

テンプホールディングスの今後

以上の分析から、現在テンプホールディングスが取っている戦略(課題でもあります)は

・M&Aによって売上を拡大すること
・売上を拡大しつつも、業務の効率化によって利益率を向上する

この2点だといえます。

そして、この次にテンプホールディングスが狙いたいところとしては
売上のメインを占める「派遣・BPOセグメント」での取引から領域を広げ、利益率の高い「リクルーティング」「ITO」「エンジニアリング」のセグメントの売上を拡大していくことではないでしょうか。これが、戦略の中にある「グループシナジー」「セグメント体制」という言葉の意味するところだと考えられます。

おそらく、テンプホールディングスは、次のM&Aやグループシナジーによる売上・利益拡大の構想も持っていると思われます。そのためにも、一刻も早く今の課題をクリアして体制を確立し、次のステージに進まなければなりません。
問題解決の進捗は、今後の決算発表資料でテンプホールディングスの課題や戦略がどのように変化していくかによって読み取れるでしょう。引き続き、今後の決算発表にも注目です。