今回の記事は、公認会計士 網野 誉氏より寄稿いただきました。
網野氏は、大手監査法人勤務ののち、東京の表参道に網野誉税務会計事務所を開業。
税務会計顧問業務を行う傍ら、管理会計コンサルティング・上場支援業務等に従事してきました。また最近は、企業で働く「ヒト」に着目し、経営者のみならず全ての従業員が熱く楽しく働ける組織づくり・コミュニケーション開発にも取り組んでいます。一般社団法人日本CCO協会代表理事としてもご活躍中です。
目次
1 はじめに
平成28年8月9日に、株式会社リクルートホールディングスの平成29年3月期第1四半期(平成28年4月1日~平成28年6月30日)の決算が発表されました。
第1四半期の業績は会社の想定を超えたかなりの好業績であったようです(下図参照)。
以下、決算発表情報を基に、好業績の要因分析及び、今後の課題等について私見をお話したいと思います。
2 好業績の主な要因
主な成功要因として、以下の3つの要因があげられると思います。
マーケティング活動の成功
リクルートグループは今回、主要セグメント(販促メディア、人材メディア、人材派遣)の全てにおいて売上増を達成しています(下図参照)。
それぞれのセグメントともに一般的には成熟産業といえる中で、新たな成長分野が育ってきており、その結果高い成長率を維持しています。
これはターゲットマーケティングが成功し、セグメントごとの戦略的ターゲットを上手に選定できているからといえます。
特に人材メディア事業及び人材派遣事業において積極的に海外展開を行っていることは、今回の決算においても大きなプラス要因になっています。
繰り返されるイノベーション
平成28年3月期の有価証券報告書にとても興味深いデータが記載されているのでご紹介したいと思います。
有価証券報告書の中に親会社の従業員1人あたり平均年間給与が記載されており、人材業界の競合他社と比較してもかなり高い金額となっています(下図参照)。
しかしながら、これほど人件費が高いのに、リクルートグループは競合他社と比較しても売上高営業利益率に大きな相違はありません。なぜでしょうか?
もちろん種々の理由はありますが、従業員一人一人が稼ぐ売上高が他社と比較してかなり高いことも挙げられると思います。
リクルートグループの事業スタイルとして有名なのが、徹底した現場主義です。
これはお客様に喜んでもらうことを現場サイドが必死に考えるということで、その結果主要セグメントの現場のいたるところで業務革新(=イノベーション)が行われ、競合他社よりも高い収益獲得能力を維持しているのだと推測できます。
良質なコミュニケーション
リクルートグループは、「新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す」という企業理念のもと、この企業理念を各従業員の行動目標にまで落とし込み、徹底した現場主義のもと事業活動が行われています。
この事業体制を可能とするためには、上司と部下、及び現場全体における意思の統一、及び関係部署のサポート体制が確立していることが必要であり、この状況を生み出す主な要因の一つが良質なコミュニケーションの実現であると考えます。
おそらくリクルートグループ内部において、上意下達ではない双方向のコミュニケーションが行われており(質の問題)、かつグループ全体でより多くのコミュニケーションをとる体制が確立している(量の問題)のではないでしょうか。決算数値の狭間からこのような好要因が見えてくるような気がします。
3 好業績に内在する課題
以上、今までお話した限りでは、順風満帆に見えるリクルートグループの決算ですが、その反面、いくつのかの課題も内在していると思います。代表的な課題と考えられるものは以下の通りです。
景気動向に関するリスク
リクルートグループの業績は、日本国内及び米国を中心とする海外の経済情勢に影響されるため、景気が停滞する場合、企業が広告宣伝費を削減したり、求人需要が減少したりする他、ユーザーの消費が停滞する傾向があります。
資金調達リスク
リクルートグループの事業資金の一部は、金融機関からの借入により調達しています。そのため積極的投資に起因する財務状況の悪化を原因として、残存する借入金の一括返済を求められる可能性や、金利及び手数料率の引上げ、新たな担保権の設定を求められる可能性があります。
為替変動リスク
リクルートグループの海外事業の取引は主に米ドルやユーロ等の外貨建てで行われており、為替レートの急激な変動は、リクルートグループ全体の業績に悪影響を与える可能性があります。
4 おわりに
以上の通り、過去最高決算を記録しているリクルートグループにも、いくつかの経営リスクは存在しています。しかし、上記3つの成功要因、そしてそれを支える現場主義及び圧倒的な当事者意識といったリクルートグループの企業文化が機能することにより、外部環境の変化にもスピーディーに対応し続けることが可能になります。
従ってリクルートグループの今回の好業績は、もうしばらく続くのではないかと私は考えます。