ディップ株式会社
執行役員 サービスオフィサー(はたらこ・バイトルPRO) HR事業本部長
北里 友宏 氏
きたざと・ともひろ/2005年ディップ入社。入社以来、派遣会社・人材サービス会社を主な顧客とするHR領域での営業を担当。2016年にHR事業部長、2018年より同社執行役員に就任。2021年5月に開始した専門職の総合求人サイト「バイトルPRO」ではプロジェクトリーダーとして、1年間で50万件を超える求人件数の獲得を先導。現在はサービスオフィサーとして「はたらこねっと」「バイトルPRO」「ナースではたらこ」のサービス責任者を務める。
少子高齢化による労働人口の減少から、特に医療・介護・保育といった専門職では慢性的な人手不足が課題となっている。ディップ株式会社は2022年5月19日、専門職の総合求人サイト「バイトルPRO」のリリースから1周年を迎えた。そこで今回は「バイトルPRO」のサービス責任者として従事する北里氏に、専門職マーケットの現状や今後について話を伺った。
バイトルPRO構想の背景から見る専門職マーケットの課題
バイトルPROの構想は2019年から考えていたという北里氏。まずはその背景を伺った。
「専門職には医療や介護など有効求人倍率の高い職種があります。少子高齢化社会でそれらの職種の需要が高まっているにも関わらず、依然として労働環境や低賃金などの課題が改善されていないところに着目したんです。サイトリリースを準備している中、コロナ禍でエッセンシャルワーカーに注目がより集まり、求人需要はさらに増加しました」
需要の高まりの一方で、専門職では慢性的な人手不足が課題となっている。
「専門職業界の本質的な課題は労働環境にあります。長時間の残業が当たり前だったり、業務量に見合う給与が支払われていなかったりすることで、離職率も高いんですね。
またライフイベントなどで一度現場を離れたのち、労働環境などを理由に復職を諦める潜在資格者が多くいらっしゃいます。大変そうだと認識されているため、異業種からの転職も少ないです。離職率の高さと新しくこの業界に挑戦したい人が少ないことが、人手不足を加速させています」
加えて、専門職市場のデジタル化が不十分であることや、これまで専門職を幅広く網羅した総合サイトがなかったことにも着目した。
「ディップはビジョンとして『Labor force solution company』を掲げています。専門職市場ではまだデジタル化できていない部分も多いため、我々がデジタルサービスを提供することで人にしかできない仕事に集中してもらいたいという思いがありました。
また、以前からそれぞれの専門職に特化した求人サイトは多くありますが、ひとつひとつの求人市場はあまり大きくないため、マーケティングコストをかけた集客が難しかったんだと思います。そこでバイトルPROは、当社の今までのノウハウも活かした『専門職の総合求人サイト』としてプロモーションを強化することで、幅広い専門職人材を集客できるようにしました。
ディップには全国に1,600名の営業がいます。サービスの開始直後は営業力の強みを活かしながら、より多くの求人を掲載することを目指しました。サイトに訪れた求職者の方が自分に合う仕事を選べる状況をつくるためには、新しいサービスだからこそ掲載する求人件数の量が大事なんです」
専門職の課題解決に向けて歩んだ1年間
ディップでは「ディップ インセンティブ プロジェクト」を立ち上げ、働き手の待遇向上に取り組んでいる。またバイトルPROとしても、専門職の待遇向上のためにさまざまなことへ取り組んだという。
営業担当者が求職者に代わり、給与アップなど従業員定着や採用力強化の施策を提案し「働く人の待遇向上」の実現を目指すプロジェクト。
「介護職員1人当たり月額約9,000円の賃上げを実現できるよう、国が補助金を支給する介護職員処遇改善支援補助金の制度が2022年から実施されています。当社では2021年12月より、賃金を上げてもらえるよう施設に働きかけを行っています。
このプロジェクトでは営業が直接交渉をするのですが、ただ『介護職員さんの給与を上げてください』とお願いしているわけではありません。事業者は給与を上げることで集客を強化できますよね。実際に給与を上げて、応募数が0件から3件に上がったなど、待遇向上により採用が成功した事例がたくさんあります。そのような事例をお客様に共有することで、賃上げは単なるコスト増ではなく、メリットもあることをお伝えしました。
またせっかく国が支給する補助金があるのに、手続きが難しそうで申請していないといった事業者もいらっしゃることが分かりました。そのため、社労士の方に申請方法を解説していただく事業者向けウェビナーを実施しています」
上記のように、働き手の待遇向上に取り組んでいる同社。北里氏は続けて、人手不足の根本を解決するためには、現在働いてる方たちに長く働いてもらうことも重要だと語る。
「せっかく採用してもすぐに離職してしまっては、また募集費をかけて求職者を集めなければならない悪循環となります。現在働いている方たちの給与も上げることで募集費も下げられ、人材にも定着してもらうことで良い介護サービスを提供できる。給与を上げることが安定した施設運営につながるんです。
バイトルPROを開始して1年が経過し、採用決定人数は大幅な増加を続けています。その採用の内訳をみると10年の経験を持つ看護師資格保有者や経験年数6年の保育士免許保有者など、資格のある方や経験のある方が採用者の7割を占めています。他にも准看護師の資格保有者が病院勤務から介護施設へ、調理師・管理栄養士の資格保有者が病院勤務から保育園勤務へ転職するなど、資格を活かして新たな活躍の場を得ている方も多くいらっしゃいます」
労働力不足を根本から改善するために
サービス開始から1年間で掲載求人件数は50万件を突破し、特に「医療・介護・保育・美容」の4業種においてその数を増やしてきたバイトルPRO。しかし北里氏は、その歩みの中で課題を見つけたという。
「専門職領域での売上拡大を目指している中、上記の4業種では求人が集まりつつあるのですが、エリア別に見るとまだまだ求人ニーズを拾い上げられていない地域があります。現在は都道府県別に就業人口や施設数などを調査し、どのエリアに人手が足りていないのか分析して求人を増やせるように動いています。
また医療や介護職だけではなく、調理師免許やフォークリフトの運転免許など、資格や経験を活かせる専門職種は世の中にたくさんあります。今後はそういった領域の求人も増やしていくつもりです。
さらにこれからは求人件数を増やすだけでなく、求人内容の質も高めたいと考えています。例えば経験者の方は業務内容を元から知っているので、施設や店舗の特徴や実際の仕事の流れなどのより詳しい情報を求めているんです。そういった専門職ならではの情報ニーズにも応えられるように掲載情報を拡充していきたいと考えています」
求人件数を増やすだけでは、専門職の根本的な課題解決にはならないと語る北里氏に、今後の展望を伺った。
「少子高齢化による労働力不足は、日本が抱える一番大きな課題だと考えています。しかし慢性的な人手不足にも関わらず、年齢や性別、国籍などの本人にはどうしようもない理由によって不採用になってしまうケースなども未だにあります。
人材サービス全体で、単なるマッチング機会の創出だけではなく、現場で起こっている人事・組織課題の根本的解決を目指す必要があると思うんです。今後も待遇向上を推進するとともに、年齢・性別・国籍を問わない採用など、誰もが働く喜びと幸せを感じられる社会を実現していきたいです」
コロナ禍で、より人手不足が浮き彫りとなった専門職。課題の解決に向け、人材サービスの在り方も変わる必要がある。