
ディップ株式会社
第一ソリューション営業本部 ロジスティクス統括部 統括部長
西脇 一将氏
にしわき・かずまさ/2007年にディップ株式会社に新卒入社後、現・名古屋オフィスで、東海エリアの派遣会社・人材サービス会社を主な顧客とするHR領域の営業活動に従事。2008年に東京に異動後、2018年に部長に着任し、1都3県広域のHR領域を担当。2025年6月に実施された大規模組織改革以降、現職としてロジスティクス業界に特化した支援策を提案している。
物流業界は、慢性的な人手不足に陥っている。繁閑の波が激しく、レギュラー人材だけでなくスポット人材への需要も高まる中、「応募が来ない」「採用しても定着しない」という課題に、多くの企業が直面しているのが現状だ。
こうした状況に対し、ディップ株式会社はスポットのバイトサービス「スポットバイトル」の活用を提案。短期人材獲得にとどまらず、正社員の採用力強化と定着率向上に取り組んでいる。
同社が展開する新しい採用の形とは何か。第一ソリューション営業本部 ロジスティクス統括部 統括部長の西脇一将氏に話を伺った。
物流業界が抱える「採用」と「定着」の二重の課題

「物流業界では、深刻な人手不足が慢性的に起きている現場が非常に多いです。その理由のひとつが、荷物の量の増減があるため、繁忙期と閑散期の波が非常に大きいという物流業界の特性です」と、西脇氏は現状を説明する。
こうした繁閑の波の激しさによる人手不足を補うべく、正社員だけでなく、デイリーで働くスポットワーカーや派遣スタッフなど、多様な人材が同じ現場で働いている。人の出入りが激しいことから定着についての課題も生まれており、代表的な課題のひとつが、ここ4~5年の労災件数の大幅な増加だ。
「レギュラー層が多い現場は経験則が蓄積され、仕事の生産性や効率、コミュニケーションの密度などが高まり、安全性を確保しやすい状況です」
しかし、人の入れ替わりが激しい現場ではそうした蓄積が困難になる。
「一般的に倉庫内では、リフトの走行ラインと歩行者の作業スペースが分かれています。しかし、人の出入りが激しい現場ではルールの周知が徹底されず、次第に境界線が曖昧になり接触事故が起きるリスクが高まります」
西脇氏は、「必要な人員を確保するには採用することも重要ですが、求職者やワーカーの方々が安心して継続的に働ける環境を整えることも欠かせません。入口である採用の課題、つまり人数が足りないという問題にだけ向き合い続けていても、根本的な解決は難しいのではないでしょうか」と、採用と定着の両方に取り組む必要性を強調する。
応募する求職者側にも障壁が存在している。ディップが自社のサイト訪問者に対する応募者の割合を確認したところ、約7〜8割が「求人情報を見たものの、躊躇してしまって応募しなかった経験がある」ことがわかった。
「仕事内容や時給など求人情報からはリアルな現場の状況は分かりません。『仕事を丁寧に教えてもらえるのだろうか』といった、職場環境への不安が応募へのためらいにつながっているのではないでしょうか」
特に物流業界では荷物の状況により、働く前日にならないと配属されるポジションが分からないケースもある。ポジションによって働き方やフォロー体制が異なる場合も多く、そういった情報を求人上でカバーするのは困難だ。
そうした不透明さから、求職者は求人情報以外の情報収集に動く。「企業のホームページやSNS、口コミなどで、求人情報に載っていない職場の状況を知ろうとする方が非常に多いですね。それでも実際に働いてみないと分からない部分は少なくありません」と西脇氏は説明する。
企業の採用力と定着率を高め、求職者側の不安を解消する。この2つの課題に同時にアプローチするのが、同社の「スポットバイトル」を活用した取り組みだ。
レギュラー志向の求職者を「1日体験」で後押しする独自のアプローチ

ディップ株式会社の強みは、レギュラーワークの求人サイト「バイトル」と、スポットワークの求人サイト「スポットバイトル」を運営していることにある。
「求職者は普段、レギュラーの仕事をしたいときは一般の求人サイトを。副業やスキマ時間で働きたいときは、スポットワークのサイトを見るといったように使い分けています」
しかし同社では、「バイトル」でレギュラーの仕事を閲覧しているユーザーに対し、「スポットバイトル」に掲載している同一企業のスポットワークの募集を表示することで「まずは気軽に、1日体験してみませんか」といった提案ができる。これが他社のスポットワークサービスとの大きな違いだ。
西脇氏は「応募を躊躇している方たちに、現場体験を通じて職場理解を深めていただき、長期で働くきっかけをつくれると考えています」と同時募集のもたらす効果を語る。
企業側にとって同時募集は、採用力の向上というメリットがある。長期の募集と短期の募集を並行して行うことで、求職者に『選択肢が多い』『職場の受け入れ体制が柔軟そう』といったイメージをアピールできるのだ。
1日体験の活用は、企業側の受け入れ体制の整備にもつながる。「体験人材がスムーズに業務に取り組むには、教え方やマニュアルの充実など教育・フォロー体制の整備が欠かせません」と西脇氏は指摘する。
そして受け入れ体制を整える取り組みは、1日体験以外の短期労働者の受け入れにも好影響をもたらす。新しい人材を迎えるたびに、教え方や業務フローを見直す機会が生まれ、声かけの習慣化など働きやすさへの配慮も進んでいく。教育体制を整えることで、スポットワーカーや派遣スタッフの即戦力化を後押しできる仕組みだ。
「1日体験の受け入れ体制を整えることで、既存スタッフにとっても働きやすい環境になります。その結果、正社員やアルバイトの定着率向上にもつながるのではないでしょうか」
バイトルの営業担当者は顧客企業の現場に実際に足を運び、時には業務を体験しながら、職場環境の課題把握に努めている。西脇氏自身も現場を回る中で、同じ倉庫内でもフロアやポジションによって、ベテランが多い場合と、派遣スタッフやスポットワーカーの比率が高い場合があることに気づいたという。
「課題になるのは、困ったときにすぐ質問できるベテランがいる現場と、そうでない現場との間に生まれる働きやすさの差です。手順書があっても廊下や掲示板に貼られていて、作業中に確認できないケースも多く、特に初めて働く方にとっては不安が大きいと感じました」
こうした現場の課題に対し、同社では情報共有の仕組みづくりに取り組んでいる。そのひとつが、コミュニケーションアプリ「バイトルトーク」の活用だ。
現在、多くの物流会社では、現場責任者がLINEや電話、メールなど複数の手段を使い分けながらスタッフと連絡を取っている。だが何十人、何百人単位で人が動く物流現場では、連絡手段が分散することで情報の行き違いや確認漏れが起きやすい。西脇氏は、こうした状況が現場の負担を増やしていると指摘する。
「全メンバーと一斉にコミュニケーションが取れ、既読・未読の管理もしやすいのがバイトルトークの特徴です。誰に情報が届いているのかが可視化されることで、コミュニケーション効率が大きく変わります」
さらに掲示板機能を活用すれば、従来は現場に行かなければ見ることができなかったルールや手順の流れを、画像や動画を交えてデジタル上で共有することが可能だ。
「これまで仕事の手順は、現場の廊下などに張り出された紙の手順書で確認するしかなく、作業中に手元で確認できない不便さがありました。バイトルトークに投稿することで、休憩中や職場までの移動中などに自分のスマホから手順を予習・確認でき、初めての現場でもスムーズに動けるようになります」
掲示板機能の活用により、ベテラン社員がいない現場であっても、安心して働ける環境づくりができるのだという。
企業側への普及はまだ途上。スポットワークを新しい採用の形に

現場での取り組みを通じて、企業側にも意識の変化が生まれつつある。
採用難に直面する中でも、年齢や実務経験などであらかじめターゲットを絞って採用を進める企業は少なくない。一方で、実際に1日体験で多様な人材が現場に入ることで、その前提が揺らぐ場面も増えているという。
「免許は持っているが実務経験が少ない20〜30代の若手人材と実際に会うことで、『次も一緒に働きたいと思えるようフォローを工夫しよう』『資格取得支援をして育てよう』と、経営者の意識が変わるきっかけになっています」
こうした変化は募集要件の見直しにもつながる。1日体験という手法が、通常の求人募集にも好影響を与える循環が生まれているのだ。
一方で、企業におけるスポットワーク活用はまだ普及途上だ。西脇氏は「スポットワークは、働く人の間では、ここ数年で急速に浸透しました。しかし企業側に目を向けると、採用や定着を促進する施策としては、まだ定着に至っていません」と現状を語る。
その理由として、受け入れるための業務内容の整理や職場の労務環境づくりがセットで必要な点を挙げる。
「体験者を受け入れられる、つまり求職者にとっての選択肢になりうる企業を目指す会社は、まだ多くはありません」
同社では、企業側に新しい採用の窓口としてスポットワークを選んでもらうため、顧客の労務環境や現場の実態を深く理解することに注力している。
「スポットワーカーを受け入れる環境づくりを支援するために、会社や事業、現場を知る取り組みを、これまで以上に大切にしたいです。現場への深い理解があるからこそ、スポットワークの効果的な活用方法を見出せるからです」
物流業界に限らず、介護や保育などの業界も「キツい」「忙しそう」といったネガティブな印象が先行しがちだ。そうした他の業界でも、同様のアプローチが効果的とのことだ。
「大変なイメージが先行している職場も、1日体験であれば気軽にチャレンジできます。実際に働いてみると『自分に合っている』『思ったよりも働きやすい』とポジティブな印象に変わる場合も多いんです。体験を通して、長期雇用のきっかけをつくれればと考えています」
西脇氏は、スポットワークの可能性を、若手や未経験者にとっての「インターン」のような出会いの場として捉えている。
「新卒の就職活動では、インターンが広く導入されています。実際の現場を体験できる機会は、入社後の納得感や企業への理解を深めるうえで非常に有効です。中途採用においても、体験は求職者と企業を結ぶ重要な機会だと考えています」
実際に職場で働き、環境や人を知る体験そのものが、「ここで長期的なキャリアを築きたい」という意識の芽生えにつながる。短期的な採用にとどまらず、長く働いてもらうための動機づけという点でも、高い親和性がある取り組みだ。
今後は、スポットワークを新たな採用手法としてより広く選んでもらうため、企業との対話を一層深めていく考えだ。「お客様とのやり取りの中から生まれる着想やアイデアを、共に形にしていきたい」と語る西脇氏の言葉からは、現場の声に耳を傾けながら、採用のあり方そのものをアップデートしていく姿勢がうかがえた。
物流業界の採用課題に向けた取り組みは、まだ始まったばかりだ。ただ、「1日体験」という新たなアプローチは、応募を躊躇う求職者の背中を押すと同時に、企業の採用力・定着率向上にも貢献する可能性を秘めている。こうした挑戦は、物流業界に限らず、さまざまな業界にとって採用課題解決のヒントとなりそうだ。

(執筆:川瀬ゆう)
