
株式会社リソースクリエイション
代表取締役
髙田 桂太郎
たかだ・けいたろう/1985年東京生まれ。2015年4月1日に株式会社リソースクリエイションを設立し代表取締役に就任。1,000社以上の採用コンサルティングを担当。長年築き上げた採用に関するノウハウを生かして、SNS採用マーケティング「エアリク」を展開。自社のSNS総フォロワー数は150万人超え、総再生回数は10億回を突破。
近年、採用市場では初任給の引き上げが相次いでいる。大手企業を中心に初任給30万円台を提示する企業も増え、学生の初任給に対する期待水準も大きく変化している。
一方で、中小企業が同じ水準まで賃金を引き上げることは容易ではない。大幅な賃上げは既存社員とのバランスや人件費の増加といった課題も伴うためだ。
では、初任給を大きく引き上げることが難しい企業は、採用において不利になってしまうのだろうか。SNS採用マーケティングサービス「エアリク」を展開する株式会社リソースクリエイション代表の髙田氏は、「これからの採用では給与だけでなく、企業の価値をどのように設計し、求職者に届けるかが重要になる」と指摘する。
賃金競争が激化するなかで、中小企業はどのように採用競争を勝ち抜けばよいのか。本記事では、初任給30万円時代において企業が取るべき採用戦略について、髙田氏に話を聞いた。
初任給30万円時代の採用市場の実態

マイナビキャリアリサーチLABの調査によると、2026年新卒採用に向けて「初任給を引き上げた」と回答した企業は全体の88.8%にのぼり、約9割の企業が賃上げに踏み切っている。
大手企業の動きも活発だ。不動産事業などを展開するオープンハウスグループは、2027年新卒の初任給を40万円へ引き上げ、さらに入社支度金30万円を支給する方針を発表し、大きな話題となった。こうした動きは学生の給与水準に対する期待を押し上げ、採用市場全体にも影響を与えている。
一方で、企業側の負担も小さくない。同調査では「引き上げコストにより企業収益を圧迫している」と回答した企業が21.6%、「これ以上の引き上げが難しい段階にある」とする企業も15.0%存在している。この状況は、中小企業にとって特に大きな課題となっている。
髙田氏「大手企業と同じ水準で賃上げを行うことは、中小企業にとって簡単ではありません。無理に追随すれば人件費の増加だけでなく、既存社員との賃金バランスといった問題も生じます。賃上げ競争は企業の体力に左右される側面が大きいのです」
採用市場が売り手市場となるなかで賃上げ競争は企業の体力勝負となりつつある。
髙田氏「中小企業が同じ土俵で戦い続けることは、長期的に見れば持続可能な戦略とは言えません。だからこそ給与だけではない企業の魅力をどのように設計し、求職者に伝えていくかが重要になってきます」
賃上げは必要条件にすぎない
給与の引き上げについて、髙田氏は「採用において重要ではあるが、それだけで学生の意思決定が左右されるわけではない」と指摘する。
髙田氏「初任給が30万円以上であれば、学生が企業を比較する際の選択肢には入るでしょう。しかし、それだけで企業を選ぶ決め手になるとは限りません。大手企業が賃上げを進める中で、中小企業が同じように給与を引き上げたとしても、それだけで競争に勝てるわけではないのです」
そこで近年は、給与の直接的な引き上げとは異なる形で従業員の生活を支える取り組みとして「第3の賃上げ」に注目が集まっている。住宅手当や食事補助、福利厚生の拡充などによって、実質的な手取りや生活の質を高める施策だ。
髙田氏「実際に弊社でも『ホムカミ制度』をはじめ、独自の福利厚生を多く導入しています。ホムカミ制度は、帰省時の交通費の片道分を会社が負担する制度で、社員が家族と過ごす時間を確保しやすくすることが目的です。こうした制度は社員の満足度向上やエンゲージメントの強化、内定辞退の防止といった点では一定の効果があります。ただ、福利厚生だけを理由に企業を選ぶ学生は決して多くありません」
では、賃上げや第3の賃上げ以外に企業はどこで差別化すればよいのだろうか。
リソースクリエイションが2026年新卒の就活生747名を対象に実施した調査では、選考に進む際に最も重視するポイントとして「会社の雰囲気」が過半数を占める結果となった。

この結果から、学生が企業選びで重視しているのは給与や休日数といった条件面だけではないことが分かる。
髙田氏「学生が見ているのは、会社の雰囲気や働いている人の人柄、人間関係といった部分です。つまり企業ごとに異なる“定性的な価値”が企業選びにおいて重要になっているのです」
価値をどう設計するか
学生が重視する「会社の雰囲気」といった定性的価値は、どのように設計すればよいのだろうか。
髙田氏「まず重要なのは、自社の社風や文化を言語化することです。多くの企業では『雰囲気が良い会社です』『風通しの良い会社です』といった表現を採用ページで見かけますが、それだけでは学生には具体的なイメージが伝わりません。企業ごとに本来存在している文化や価値観を整理し、言葉として明確にすることが必要です」
企業の価値は、制度や待遇だけでなく、働く人や組織文化によって形づくられる。しかし、それらは企業内では当たり前になっているため、言語化されないまま採用活動が行われているケースも少なくない。
髙田氏「例えば『若手が活躍できる会社』という言葉も、企業によって意味が異なります。入社1年目から営業を任されるのか、プロジェクトを任されるのか、意思決定に関わるのか。具体的なエピソードや実際の働き方と結び付けて説明しなければ、他社との差は見えてきません」
そのためには、自社の強みを改めて見つめ直すことも重要だという。
髙田氏「採用におけるブランディングは、特別なものを新しく作ることではありません。すでに会社の中にある魅力を見つけ出し、それを求職者に伝わる形に整理することです。企業ごとの強みや文化を再定義し、『なぜこの会社で働くのか』という理由を明確にすることが価値設計の第一歩になります。
例えば弊社では、社員同士の距離が近い文化があります。若手社員が多く活躍している背景には、部署や役職に関係なくコミュニケーションが取りやすい環境があり、経営層とも日常的に会話が生まれる距離感にあるため、若手でも意見を発信しやすい文化が根付いています。
実際に、仕事終わりに社員同士で食事に行ったり、休日に遊びに行くことも珍しくありません。こうした日常的な関係性があるからこそ、チームで仕事を進めやすく、若手でもプロジェクトの発案や新しい挑戦をしやすい環境につながっていると感じています」

髙田氏「賃上げ競争だけに頼る採用は、企業規模の大きい会社ほど有利になります。一方で、社風や働き方、社員同士の関係性といった部分は企業ごとに異なります。そうした独自の価値を整理し、求職者に伝えていくことが中小企業にとって重要な採用戦略になるのです」
価値を届ける設計
企業の価値を整理したとしても、それを求職者に伝えることは簡単ではない。どのように届ければよいか、髙田氏は次のように語る。
髙田氏「価値は持っているだけでは意味がありません。採用においてはそれを求職者に伝わる形で発信していくことが重要です。社風や文化を整えることはもちろん大切ですが、それを外部に届ける設計まで考える必要があります」
従来の採用活動では、求人媒体や採用サイトを中心に情報発信が行われてきた。しかし、そうした媒体だけでは企業の雰囲気や働く人の人柄といった定性的な価値を十分に伝えることが難しい場合もあるという。
髙田氏「求人票はどうしても文字情報が中心になります。そのため、企業の雰囲気や人間関係といった部分は伝わりにくいのが実情です」
こうした背景から、近年では企業SNSや口コミサイトなど求職者が企業のリアルを知ることができる情報源の重要性が高まっていると話す。
髙田氏「特に若年層の就活生は、企業SNSを通じて会社の雰囲気を確認しています。採用ページだけでなく、SNSで働く社員の様子や日常の雰囲気を見て『この会社で働くイメージが持てるか』を判断しているケースも少なくありません」
実際に、リソースクリエイションが実施した就活生調査では就活生の85.8%がSNSで企業名を検索していることが分かった。

では、企業はSNSでどのようなコンテンツを発信すればよいのだろうか。会社のリアルな雰囲気を発信するために何を意識すべきか、髙田氏に尋ねた。
髙田氏「リアルな発信をするためには良くも悪くも着飾らず、ありのままを見せることが重要です。企業側が過度に良く見せようとした発信ばかりをしてしまうと、それを見て入社を決めた学生が入社後にギャップを感じ、結果的にミスマッチにつながる可能性があります」
世間の企業のSNS投稿を見てみると、社員の1日に密着する動画やインタビューといったコンテンツから、社員同士の掛け合いやダンスなどユニークな発信まで様々だ。どんな発信をすれば求職者に響くのか迷ってしまうが、髙田氏は「これをすれば必ず成果が出るというコンテンツはない」という。
髙田氏「重要なのは、自社が採用したいターゲットに対してどのような情報が好まれるかを考えることです。多くの人に見られる動画であっても、自社が求める人材に届き、採用につながらなければ意味がありません。
そのため弊社では、コンテンツを考える前に『ペルソナ設計』を徹底しています。つまりターゲットを明確にするのです。例えば『女性』といった大枠ではなく、年齢やライフスタイル、価値観まで具体的に設定することでどのような発信が適切かが見えてきます」
さらに、学生が求めている情報についても言及する。
髙田氏「学生が知りたいのは、企業の良い面だけではなく、実際に働くイメージが持てるかどうかです。例えば、社員同士の会話の雰囲気や仕事中の様子、1日の流れなど、その会社で働くリアルが分かるコンテンツは非常に関心が高い傾向にあります」
企業のSNS発信において重要なのは、見栄えの良さではなく自社の価値や文化が伝わるかどうかだ。SNSは単なる情報発信にとどまらず、企業と求職者の認識をすり合わせる手段として機能している。
髙田氏「コンテンツの形式に正解はありません。重要なのは、自社のターゲットにとって意味のある情報を届けられているかどうかです。企業のリアルな姿を伝えることで、共感した学生からの応募につながっていくと考えています。
ある地方の運送業界の企業では、SNSで会社の雰囲気や働き方を見た学生が応募し、そのまま内定につながったケースがあります。これまでは新卒採用では大手企業に人材が集まりやすい状況がありましたが、SNSで会社のリアルな雰囲気を発信することで中小企業でも学生の選択肢に入るようになった事例です」
賃上げ競争が激化する中で、給与だけで採用競争に勝つことは容易ではない。だからこそ、企業の価値を整理し、それを求職者に伝える仕組みをつくることが重要になる。
髙田氏「給与や待遇はもちろん大切です。しかし、それだけでは企業の魅力を十分に伝えることはできません。社風や働く人、企業文化といった価値を設計し、それを適切な形で届けていくことがこれからの採用活動において重要になっていきます」
学生が企業を選ぶ基準は給与だけではない。社風や働く人、企業文化といった価値をどのように設計し、求職者に届けるか。採用戦略の在り方がいま改めて問われている。
(寄稿:株式会社リソースクリエイション)
