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採用を開き、その先へ。「採用ウルトラキャンプ2025」に行ってみた!

2025年10月16日、京都市勧業館みやこめっせ。株式会社ワンキャリアが主催する大規模な採用イベント「採用ウルトラキャンプ2025」の会場は、独特の熱気に包まれていました。約1,300名の採用担当者や経営者・CHROが集い、中央に設置された焚火のモニュメントを囲む。その光景はまさに「キャンプ」そのものであり、採用に携わる人々の一体感を感じさせていました。

今回は、そんな「採用ウルトラキャンプ2025」の様子をHRog編集部目線でレポート。一部セッションの紹介とともにお届けします!

採用ウルトラキャンプとは

本イベントのコンセプトは「『採用』を開こう、そして超えよう。」

少子高齢化と生産年齢人口の減少という、日本が直面する待ったなしの課題。リクルートワークス研究所の予測では、働き手不足は2040年には約1,100万人に達するといいます。この厳しい現実を前に、採用活動を人事だけの領域に留めていては未来はありません。他領域・他企業の知見を掛け合わせることで、新たな突破口を見出す――。そんな強い意志が、このイベントの根底には流れています。

会場の作りも、その気合いを感じるユニークさと完成度となっていました。会場内には「セッションエリア」「コミュニティエリア」「ブースエリア」などが設けられ、来場者に様々な学びと交流をもたらす空間づくりがされています。

コミュニティエリアでは、焚火を模したオブジェを囲みながら、フードトラックで買ったお弁当や企業ブースで振る舞われたドリンクを片手に語り合う人々も。他にもコワーキングスペースには本物のテントが張られるなど、「キャンプ感」満載で、従来の採用イベントのイメージを覆すおしゃれな空間が存在していました。

今開かれる「採用 × ○○」のハナシ

4つあるステージでは、1日で合計35のセッションが開催されました。見切れないほど豊富なセッションの中から、編集部が視聴した一部のセッションの内容を簡単にまとめてお伝えします。

採用×老舗:【伝統と革新】歴史のある企業だからできる仲間集めとは

登壇者
株式会社アナテック・ヤナコ 桺本 頌大氏
株式会社島田電機製作所 島田 正孝氏
株式会社島田電機製作所 小倉 心愛氏
フリーアナウンサー 實石 あづさ氏

伝統と革新の狭間で、いかにして仲間を集めるのか。最初のセッションでは、長い歴史を持つ「老舗企業」ならではの採用のリアルが語られました。

まず投げかけられたのは、企業の「歴史」は採用において武器になるのか、それとも足枷になるのかという問いです。安定感や企業「らしさ」というメリットがある一方、硬直化や変化への抵抗感といったデメリットも存在します。議論の中では、多くの企業が「実際には不利に感じており、歴史をポジティブな力に変えられていない」という本音も垣間見えました。

その中で、島田電機製作所の「全員広報」な姿勢が注目を集めました。

島田氏「当社は『全員広報』を掲げています。工場見学をあえて広報担当ではなく現場のメンバーがアテンドすることで、メンバーが語る側になり、会社のことが自分事になってくるんです」

島田氏は「知ってもらうことは社員にとって、自分の仕事を見てもらえているということ。それがモチベーションになっていくと思います」と、採用活動が組織内部にもたらす好循環を強調しました。

一方、アナテック・ヤナコの桺本氏は、SNS活用の意外な効果について触れました。

桺本氏「SNSは個人でやっていて、会社のことは全然発信していません。でも、これが採用にけっこう活きるんですよ。今の求職者は会社を調べる時に、経営者のSNSも必ず見に来るんです。会社の情報も重要ですが、それ以上に『どういう経営者なのか』を学生は見ていますよ。

例えば、AIをちゃんと使えていない経営者の会社に学生は入りたいと思うでしょうか?今の若い方は、あらゆるツールを駆使して取れる情報は全て取りにくる傾向にあると感じています」

両社に共通していたのは、採用戦略の根幹にある「インナーブランディングが先、アウターブランディングは後」という考え方です。登壇者からは

「インナーブランディングとは、何かを新しく作るのではなく、もともと組織にある『らしさ』を丁寧に言語化していく作業」
「ここでいいじゃなくて、ここがいいと思わせる仕掛けが、採用活動やブランディングにおいて大切になってくる」

といった言葉が聞かれ、採用成功の鍵が組織内部の充実にこそあることを強く印象付けました。

採用×未来:採用新常識!ユートーーク!

登壇者
江崎グリコ株式会社 萬代 達也氏
コニカミノルタ株式会社 菅原 伸貴氏
株式会社サイバーエージェント 髙橋 健太氏
株式会社マルイユナイト 髙橋 未和氏
株式会社マネーフォワード 川口 恵司氏
エムスリーキャリア株式会社 古川 達也氏
株式会社セガ エックスディー 加藤 優佳氏
株式会社YOUTRUST 金子 彰洋氏

続いてのセッション「採用新常識!ユートーーク!」では、業界もカルチャーも異なる7名の採用担当者が集結し、いくつかのトークテーマに沿って現場のリアルな本音をぶつけ合いました。

会場が特に沸いたのは「採用大失敗談」のコーナーです。

セガ エックスディーの加藤氏は、「親を真似ては見たけれど…」というエピソードを披露。早く人材を確保したい一心で、親会社の手法を真似て求人広告を出したものの、ターゲットや戦略設計が甘かったために「2ヶ月出稿して有効応募が0件だった」という苦い経験を共有しました。

また江崎グリコの萬代氏は「こなしすぎた面接」を挙げ、過去の反省を語りました。

萬代氏「中途採用と新卒採用を兼任で担当させていただいていたんですが、一日の業務がほぼ面接で埋まってしまっていました。仕事をしている気になって満足してしまい、本当にやるべき本質的な採用業務ができていなかったことに、上司の指摘で気づきました」

この経験から得た「面接はあくまで手段。本当に効果的に候補者を見極める方法を考え抜く必要がある」という気づきは、多くの採用担当者にとって耳の痛い、しかし重要な指摘となりました。

セッション終盤の「未来に向けたキーワード」というトークテーマでは、各企業の姿勢が表れた言葉が次々と出てきました。

エムスリーキャリアの古川氏が挙げた言葉は「ポジションメイク」。特に専門職の中途採用においては、決まった枠に応募してもらうのではなく、その候補者のためにポジションを用意し、プレゼンすることが重要だと語りました。

マネーフォワードの川口氏は、AI時代だからこそ際立つ「人間力」に言及。「候補者が自分でほしい情報を集められるようになっていく今、最終的には『このリクルーターに相談したい』と思ってもらえるかどうか。候補者との信頼関係がより大事になってくるんじゃないかと思います」という発言があり、テクノロジー時代における「人」の価値が改めて確認されました。

採用×論理思考力:「思考のAI外注時代」に、思考力をどう確認するか?

登壇者
株式会社グロービス
池田 阿佐子氏

AIの波は就職活動にも及び、学生は自己PR作成に、企業は書類選考や面接にと、双方でAIツールの導入が加速しています。「AI vs. AI」とも言えるような「思考のAI外注時代」において、企業が候補者の本質的な思考力を見極めることが新たな課題となっています。

このような問題提起から始まったグロービスのセッションでは、AI時代にこそ「クリティカルシンキング」が重要になると強調されました。

「クリティカル・シンキングとは、論理思考に加えて批判的に考える姿勢を持つこと」と池田氏は説明します。AIが生成したアウトプットを鵜呑みにせず、「本当にそうなのか?」「他の切り口から考えられないか?」「それで関係者の納得は得られるか?」と批判的に検証することで、アウトプットの精度が高まり、結果としてAI自体の育成にもつながる―――これがAI時代における人間の重要な役割だと池田氏はいいます。

しかし、採用現場でこの思考力を見極めるのは容易ではありません。そこでグロービスは2つのアプローチを提唱します。一つは同社が提供する「GMAP」のようなアセスメントテストによる客観的評価。もう一つは、面接での「思考プロセス」の可視化です。

池田氏「多くの面接では『頑張ったことは?』『強みは?』といった質問に対し、候補者が準備してきたエピソードを語り、面接官は『わかりやすいか』『具体性はあるか』『一貫性はあるか』を評価します。しかしこれだけでは、それこそAIによって事前に準備された可能性もある『アウトプット』を評価しているにすぎません」

そのため「なぜそう考えたのか」と根拠を問うことに加え、「もし前提条件が変わったら結論はどうなるか」「別の視点から見るとどう評価できるか」といった質問を投げかけることが重要です。それにより、準備された回答の奥にある、候補者の柔軟で批判的な思考力を探ることが可能になります。

池田氏は「前向きに疑い、考え抜く姿勢を持つ人が、これからのAI時代に活躍していくのだと思います」とセッションを締めくくりました。

AIが当たり前に使われる時代において、AIとの対話を通じてより良いアウトプットを生み出せる人材やAIの限界を理解しながら人間ならではの判断ができる人材が求められています。採用担当者こそ「クリティカルシンキング」を用い、候補者を正確に見極めることが、企業の未来を左右する重要な分岐点となっていくことでしょう。

採用×未来:2030年、労働市場で勝ち抜く会社は、残り5年で何をするのか

登壇者
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 古屋 星斗氏
株式会社Momentor 坂井 風太氏
一般社団法人スタートアップエコシステム協会 藤本 あゆみ氏
株式会社ワンキャリア 北野 唯我氏

最終セッションでは、よりマクロな視点から2030年の労働市場を見据え、企業が今から5年で何をすべきかが議論されました。

古屋氏「すでに地域間を超えて、業種間、企業間で熾烈な人材獲得競争が起きています。重要なのは、これがまだピークではないということです」

古屋氏は「今年の採用が一番楽だった」が今後の人材獲得における格言になると予言し、開始早々会場に緊張感をもたらしました。この状況を打開する鍵として、話の焦点はAIとの向き合い方へ。Momentorの坂井氏は、これからの採用のあり方を大きく変える視点を提示します。

坂井氏「そもそも、そんなに人を雇う必要があるのかと考えています。『とりあえず採用』はもうできないという大前提があるので、これからは採用の前にまずAIで代替できないか考える流れになるんじゃないかと思います」

さらに、「AIに仕事を奪われるというゼロサムゲームの考え方ではなく、AIによって人がよりクリエイティブになるエンパワーゲームの方向にシフトすべき」と提言。DeNAの事例を紹介し、「AIで代替できる業務の人員を半分にしたとして、その人たちをクビにするのではなく新規事業に寄せるのであれば、安心感をもってAIの導入推進ができるんじゃないか」と述べました。

議論はその後、タイトルにもある「2030年」の予測へと進みます。

坂井氏は今後起きうる変化として、「採用担当者よりも自社のことを調べ尽くして来る候補者が現れる」と予測します。今や生成AIに会社名を入力すれば、不都合な真実も隠れた魅力も一瞬で暴かれる時代。「化けの皮は剥がされる。だからこそ、本質的な組織づくりが何よりも大事になる」という結論に、会場は静かに頷いていました。

組織づくりの話から派生して、古屋氏が「日本の大手企業で働く20代~30代の若手に聞いた、辞めない理由のトップってなんだと思いますか?」と質問。『特に辞める理由はないから』だと明かすと、会場からはどよめく声が上がりました。

坂井氏は同意しつつ、「特に働く理由もなく働いている人が採用面接官になったとき、魂のない情報を喋ってしまうのはマズい事態です。求職者は面接の場で、『この人は本当に楽しく働いてるのか』を鋭く見極めています」と語りました。

そうした「働く理由も辞める理由もない日本人」の功罪について問われると、古屋氏はそもそも「幸せの方程式が変わっている」と指摘。

坂井氏「『自分の時間を提供するから、終身雇用で安定をください』というかつての心理的契約が壊れてしまったんですよね。だからこそ、『企業は何をしてくれるんだ』という部分を明示しないといけない」

古屋氏「僕はそれを『キャリア安全性』と呼んでいて、要するに『この会社にいれば育ててくれる、経験をゲットできる』という予感を提供できるかどうかですね」

と、キャリア自律時代にとるべき企業の姿勢が示されました。

変革の時代を生き抜く採用戦略への転換

採用ウルトラキャンプの熱気あふれる議論を通じて浮き彫りになったのは、もはや従来の採用活動の枠組みでは対応できないほどの時代の変化でした。老舗企業も、最先端のテック企業も、その根幹で求められているものは同じ。「本質的な組織づくり」と、それに基づいた「嘘のないコミュニケーション」です。

焚火を囲む非日常的なシチュエーションの中で交わされた言葉の数々。それは単なる採用のノウハウ共有に留まらず、部署や企業、業界といった垣根を超えて「採用を変えよう」という熱を伝播させていたと感じました。

採用ウルトラキャンプは、2026年10月に京都、12月に福岡という2会場での開催が決定しています。来年はどんな形で採用が「開かれる」のか、早くも楽しみです。