
パーソルイノベーション株式会社
エージェント事業統括 エージェント事業部長
星野 里季氏
ほしの・りき/大手ホテル企業、ITメガベンチャーでの法人営業、HR系メガベンチャーでの転職サービス責任者、スタートアップでの新規事業立ち上げを経て、2024年にパーソルイノベーション株式会社へ入社。若年層向け転職支援サービス「ピタテン」の事業責任者として、物流・介護・製造などフロントラインワーカー領域の転職支援を推進している。
ドライバーは、長らく「人材不足」「低賃金・長時間労働」というイメージが先行してきた職種だ。しかし近年は法規制の整備や配車アプリの普及などを背景に、はたらき方や収入、環境が変わり、求職者からの見方にも変化が生まれつつある。
その変化を現場で見続けてきたのが、パーソルイノベーション株式会社 エージェント事業統括 エージェント事業部長の星野氏だ。若年層向け転職支援サービス「ピタテン」の事業責任者として、フロントラインワーカー(物流、介護、製造といった生活に欠かせない仕事)領域の転職をサポート。2026年2月に開始したドライバー職特化エージェント事業も担当している。
同社ではホワイトカラー出身者からの相談も多く、他職種を希望して相談に来た求職者が、対話を通じてドライバー職へ興味を持ち転職を決めるケースもあるという。ドライバーは、なぜ今「選ばれる仕事」になりつつあるのか。星野氏に、その背景と今後の展望を聞いた。
長時間労働からの脱却と「1人で黙々とはたらきたい」というニーズ

星野氏は「ここ数年で、ドライバー職を取り巻く環境が大きく変わった」と話す。
星野氏「主に、2点が変わりました。1つ目は、労働時間の短縮です。昔のドライバーは長時間労働が当たり前でしたが、はたらき方改革関連法の施行に伴い、改善が進みました。以前と比べて労働時間が短くなり、休みもしっかり取れるようになったんです。さらに、『夜勤のみ』『日勤のみ』など、勤務時間帯を選べる求人も多くあります。
2つ目は、はたらく人の価値観の変化です。ドライバーは、接客業や営業職のように常に人と向き合うはたらき方ではなく、一人で業務に集中できる時間も長い職種です。そのため、一人で黙々と仕事に取り組むはたらき方を希望する方にとって、自分らしくはたらける選択肢のひとつになっています。実際に、ホワイトカラーをはじめとする他職種からのキャリアチェンジも増えています」
こうしたはたらき方の変化は、求人内容にも表れている。編集部が求人データ分析ツール「HRogチャート」で調査したところ*1、2026年6月のタクシー求人では、仕事内容に「自由」を含む求人が全体の6.07%(前年4.40%)、「柔軟」を含む求人が2.65%(同2.42%)となっており、はたらき方の自由度を打ち出す求人が増えている。
また、ドライバー職を取り巻く変化は、はたらき方だけではない。給与水準にも変化が表れている。一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会が発表した『「令和7年賃金構造基本統計調査」によるタクシー運転者の現況』によると、2025年のタクシー運転者の賃金の年間推計額は前年比8.7%増となり、全職種平均の伸び率3.5%を上回る結果となった。
こうしたタクシーの給与水準の向上について、星野氏は「配車アプリの普及も大きな要因のひとつです」と話す。
星野氏「以前は街中を走って乗客を探す『流し営業』をしても、なかなか乗客を見つけられないケースも少なくありませんでした。配車アプリが普及してからは、流し営業に頼らなくても安定して乗客を確保しやすくなっています。以前より収入が安定し、頑張り次第でさらに高収入を目指せる職種になりつつあるんです」
HRogチャートのデータでも、タクシー求人は運輸系全体と比べて給与の幅が広いことがわかった。下限給与の中央値は運輸系全体を下回る一方で、下限月給が30万円以上の求人は22.35%(運輸系全体15.37%)に達している。また上限給与については全体との差が大きく、月給40万円以上の求人が35.92%(運輸系全体21.47%)、50万円以上が18.28%(同8.81%)にのぼっており、成果次第で高収入を目指しやすい職種であることがうかがえる。

さらに、ドライバー職は収入面だけでなく、将来性の面でも注目されている。
星野氏「配送ドライバーであれば大型免許、タクシードライバーであれば介護職員初任者研修が必須の介護タクシーのように、専門的な資格や免許が必要なキャリアを選ぶのも方法のひとつです。担い手が限られる分、専門性を生かして長くはたらきやすいという安定性があると思います。
もう一つの利点は、AIに代替されにくい仕事だということです。自動運転技術が進歩しても、人や物を安全に運び、お客様に対応する役割は残り続けると考えています。そうした将来性もあり、近年はホワイトカラーからドライバーへ転職される方も増えてきています」
また、女性ドライバーの増加を受け、カスタマーハラスメント対策が強化されるなど、安心してはたらける環境の整備も進んでいる。ドライブレコーダーの設置や事例共有など、従業員を守る取り組みも広がっているという。
はたらきやすさと年収アップ。ホワイトカラーからの転身が増える理由
実際にホワイトカラーからドライバーへ転身する人には、どのような傾向があるのだろうか。
星野氏「20代・30代の比較的若い層が中心で、前職は営業職など人と接するホワイトカラーの職種や製造業の現場スタッフが多いですね。転職理由は、『自分のペースではたらける』『給料を上げたい』が半々くらいです。あとは、車の運転が好きな方からも人気です」
「ドライバーへの転職により、年収がアップしたケースは多い」と星野氏は話す。
星野氏「転職前の年収が300万〜400万円だった方が、1〜2年ドライバーの経験を積むことで500万〜600万円に到達するケースは珍しくありません。AIの台頭によりホワイトカラー職でも業務変化への対応が求められるなか、長期的なキャリア形成や収入の安定性という観点からドライバー職を選ぶ方も増えています。
また、未経験でも挑戦しやすい環境であることも、ホワイトカラーからの転職が増えている理由のひとつだ。HRogチャートのデータでは、応募条件に「未経験」を含むタクシー求人は全体の26.68%(前年17.64%)、仕事内容に「免許取得支援」を明記した求人は63.50%(同16.65%)に達しており、未経験者を積極的に受け入れる企業が増えていることがわかる。
星野氏「実際に転職を支援していても、運送業界全体で免許取得支援制度を設けている会社は多い印象です。普通免許しか持っていない方でも、会社のサポートを受けながら必要な資格を取得できます。特に大手企業ではさまざまな車種・業務を扱っているため、街中の配送から大型車へのステップアップなど、希望や適性に応じてキャリアを広げられる環境もあります」
さらにホワイトカラー時代の経験は、ドライバーとしてはたらくうえでも武器になるという。
星野氏「ドライバーは1人で仕事をする時間が長いものの、お客様や社内のメンバーとのコミュニケーションが求められる場面もあります。そのため、営業職などで培った顧客対応力や、他部署と連携して仕事を進めた経験は強みになりやすいです。
また、目標を設定し、その達成に向けて業務を計画的に進める力が高いのも、ホワイトカラー出身者の特徴です。効率的な配送ルートや時間配分を考える際に、これまで培ってきた考え方や仕事の進め方を生かせます。
入社前に仕事内容やはたらき方について丁寧に確認したうえで転職される方が多いため、ミスマッチは比較的少なく、スムーズに活躍されている印象ですね」
「入社後すぐ辞めてしまう」を防ぐ、事実ベースの丁寧な支援

魅力がたくさんある一方で、ドライバー領域では入社後1カ月以内の離職率が20〜25%程度にのぼるケースもある。
星野氏「早期離職の防止は、転職サポートをするうえで、最も力を入れている部分です。早期離職という結果になるのは、はたらく人にとっても企業にとってももったいないと思うんです」
一般的にドライバー職は、求人サイトや企業への直接応募で転職するケースも多い。一方で近年は、未経験からの転職や他業界からのキャリアチェンジが増加しており、自分に合った職場選びをサポートするエージェントサービスを利用する求職者も増えているという。
エージェントを利用するケースも増えるなか、その役割は企業とのマッチングだけでなく、入社後を見据えた情報提供にも広がっている。
そうしたなか、星野氏は「企業と求職者の間に立つエージェントによる情報提供が、早期離職の防止につながる」と話す。
星野氏「ドライバー職は高収入を目指せる仕事ですが、入社1年で年収1000万円といった成功事例が紹介される一方で、その過程まで十分に伝わっていないケースもあります。実際には、そこに至るまでには経験を積む期間が必要なケースも少なくありません。
だからこそ、『最初はこうした下積みがあります』『こういうステップで収入が上がっていきます』といった現実的な情報をお伝えしながら、支援することを心がけています」
その徹底ぶりは、内定承諾後のフォローにも表れている。
星野氏「内定承諾から入社までの期間は、不安を感じる方がすごく多いんです。転職活動中は気持ちが高揚していますが、入社が近づくにつれて現実味が増し、不安が一気に押し寄せてくるんです。
そこで当社ではこまめに連絡を取り、じっくりお話を聞く機会を設けています。安心して入社できるよう、営業担当が実際に訪問して把握した会社の雰囲気など、求人票だけでは伝わらない情報も共有しています。
入社後も定期的に連絡を取り続け、企業には言いにくい悩みなどを拾い上げる取り組みも重要です。そうすることで、今はたらいている人のフォローはもちろん、入社後のはたらき方などの情報が蓄積され、次の求職者への提案にも生かされていきます」
こうした丁寧な支援の積み重ねにより、同社経由で転職した求職者の雇用継続率は8割を超えている(※取材時時点)。
求職者一人ひとりが転職で本当に実現したいことを深掘りし、条件を丁寧にすり合わせる姿勢も特徴的だ。
星野氏「求職者の希望はもちろん大切ですが、全ての希望を満たす求人はなかなかありません。だからこそ、丁寧なヒアリングと提案が大切だと感じています。
例えば、『家の近くではたらきたい』と話す方に理由を聞いたところ、『通勤時間が短い方が、趣味に時間を使える』とのことでした。そこで『少し距離が遠くても収入が高ければ、趣味により多くお金を使えますよ』と伝えたところ、自宅から少々遠いものの高年収の職場を選んだというケースもあります。
求職者の本当の望みを深掘りして、それにつながるキャリアを提案することで、自分に合ったはたらき方やライフスタイルを実現できると考えています」
ドライバーという選択肢をどう広げるか。人材会社に求められる役割
「ドライバー職の需要は、今後さらに高まっていくでしょう」と星野氏は語る。
星野氏「AIやドローン技術が進化しても、人や物を安全に運ぶ仕事は人が担い続ける領域として残ると思います。加えて、労働人口の減少も進んでいるため、ドライバーのニーズは今後ますます高まっていくと考えています」
一方で、ドライバーという仕事の特性や将来性が十分に伝わっておらず、転職先の候補に入れていない求職者も少なくないという。
星野氏「実際に、他職種を希望して相談に来られた方でも、お話しする中でドライバーというはたらき方に興味を持ち、そのまま転職を決めるケースは少なくありません。求職者の方は、転職後にどんなキャリアを歩めるのかをイメージできていないことが多いんです。
だからこそ、人材会社や企業には、求人票や採用ページで『入社後にどんな選択肢があるのか』『どんなキャリアパスを描けるのか』まで伝えることをおすすめします。
『資格がないから自分には無理』と諦めてしまう方もいますが、実際には資格取得支援制度を設けている会社は多くあります。そうした制度を伝えるだけでも、一歩踏み出せる方は増えるはずです」
こうしたマッチングをさらに強化するため、同社ではAI活用も進めている。
星野氏「AIで代替できる模擬面接などは効率化し、その分、キャリア相談や入社後フォローなど、人にしかできない支援に時間を充てたいと考えています」
最後に、星野氏は今後の展望を次のように語った。
星野氏「ドライバーという仕事が、もっと多くの人にとって当たり前の選択肢になり、人材マーケット全体が広がっていけばと思っています。人材不足が深刻な領域だからこそ、一人でも多くの方のキャリアチェンジを支援していきたいですね。
まだ立ち上げ期の事業ではありますが、パーソルグループが培ってきた人材領域の知見と、現場に寄り添う伴走型の支援を強みに、事業を成長させていきたいと考えています」

*1.調査概要
<集計対象媒体>doda/type/エン転職/マイナビ転職/ドラEVER
<集計対象期間>2026/06/08
<集計対象雇用形態>正社員/その他
<職種について>複数の求人媒体の情報をまたいで集計するため、媒体記載の職種カテゴリーを使用せず、独自のキーワードマッピング処理に基づいた職種カテゴリーを使用して求人情報を分類・集計した。今回は職種大分類が「運輸/物流/配送/警備/作業/調査」の求人を「運輸系求人全体」とし、そのうち職種フリーワードに「タクシー」が含まれる求人を「ドライバー求人」としている。
(執筆:川瀬ゆう)
