採用は『掛け捨て型』から『積立型』へ タレント・アクイジションSaaS『MyTalent』がつくる候補者との繋がり

株式会社MyRefer(2023/2/1より株式会社TalentXへ商号変更)

代表取締役社長CEO
鈴木貴史氏
すずき・たかふみ/株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア)出身。2014年、当時グループ歴代最年少で1億円規模の新規事業を採択、コーポレートベンチャーとして2015年に「MyRefer」を創業。2018年、MBOにより独立し株式会社MyRefer代表取締役社長CEOに就任。

労働人口の減少やIT人材需要の急増などを背景に、ますます激化が予想される採用市場。自社にマッチした人材の採用や優秀な人材獲得に苦戦し、自社の採用手法に悩む企業も多く、HR Techも注目される機会が多くなっている。今回は、「掛け捨て型」採用から脱却することが必要だと話す株式会社MyReferの鈴木貴史氏に、企業の採用課題や、人材を獲得していくために必要な戦略的な採用のポイントについて話を聞いた。

※株式会社MyReferは、2023年2月に株式会社TalentXに商号変更しました。この記事の情報は取材当時のものです。

日本の「掛け捨て型」採用からの脱却は、概念をシフトすることが重要

2020年、新型コロナの影響から人と組織の在り方が大きく変化し、人材獲得競争は激化した。そんな中、アルムナイや転職潜在層へのアプローチが重要性を増している。まず、鈴木氏に日本の採用状況について聞いた。

「企業の雇用慣習も、これまでの終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へと緩やかに変わり、日本全体を見ても雇用の流動化はますます激しくなっています。今後も、労働人口は減少していきますし、有効求人倍率も厳しい状況が続くことが予想され、ますます企業のタレント獲得は苦戦していく可能性が高いです。こうした流れを受けて、日本においても『リファラル採用』や『アルムナイ』が着目され始めました。しかしあくまでこれらは採用チャネルの変化に留まっており、本質的な採用の概念は変化していません。

一方、海外では2013年頃から『リクルーティングよりもタレントアクイジション』という考え方が主流となっています。つまり、100人の普通の人材を採用するのではなく、1人のタレントを戦略的に獲得するといった考えにシフトしつつあるのです。リクルーティングは短期的な募集活動で、欠員補充が出たら募集をかけるもの。これに対し、タレントアクイジションは、いかに企業や事業を伸ばすかという中長期的な目線で、どういった人材が必要かを定義し、獲得していくものです。人材紹介や求人広告を利用した顕在層へのチャネルだけでなく、潜在層のデータベースを蓄積し、そこからマーケティングしていくのがタレントアクイジションの概念です。日本社会でもその概念をより浸透させていく必要があると思っています」

企業においては、集めた応募データを資産としてプールし、自社のタレントデータベースを作り、その潜在層の中でアプローチをかけ人材を獲得していくという戦略的な動きがより重要になっていくという。

「タレントプールとして活用できる人材は、大きく分けて4種類あります。まず1つが新卒・中途問わず過去に応募があった人の中で再度お会いしたい人。現行の採用活動は常に『初めまして』を繰り返していますが、実は過去に選考が進んだ人は会社への意向が高いので、マッチング率が高くアプローチしやすいです。

2つ目がリファラルで社内メンバーから推薦された人で、その業界で活躍が期待できる人材です。3つ目がアルムナイ、つまり退職した社員です。退職後もデータをきちんと管理しておけば、確実にナーチャリングしていけるのが特徴です。4つ目は自らタレントプールへ登録しに来てくれた人で、ホームページ上に登録フォームを設置してもいいですし、SNSなどで繋がりを作るのもよいでしょう。

初めて出会う応募者にアプローチするより、繋がりがある人材にアプローチした方が効率的ですし、他社と競合せずに潜在層を獲得できるという大きなメリットがあります。自社と繋がりのあったさまざまな人材のデータを蓄積した上で、それをしっかりと管理し、優秀な人材に狙いを定めて採用していくという思考が必要です」

しかし、現在の日本企業はこれまでの候補者との繋がりを生かせておらず、「掛け捨て型」の採用を行っていると鈴木氏は指摘する。

「日本の採用現場では、現在の状況や社会に合わせた変化ができていないと感じます。高度経済成長期から続いている『労働力となる数を確保すればよい』という考えをいまだに持っている人事部の方も多いです。極力工数をかけずに応募者を集めるという考え方が基本となっているため、人材紹介や求人広告を使い続けている。そうすることで結果的にミスマッチングが起き、人が辞めて、結果的に採用コストが膨らむという悪循環に陥ってしまいます。

つまり、応募者などのデータを溜められていないために、採用コストを『掛け捨て』する状態が続いているのです。タレントは多様化してきてるものの、リクルーティングの概念自体は前時代的で、依然としてこの『掛け捨て型』から脱却できてないのが、日本の現状であり、大きな課題だと思っています」

積立型採用を実現するタレント・アクイジションSaaS「MyTalent(マイタレント)」とは

「掛け捨て型」採用から「積立型」採用へ。これからの日本にはその転換が必要だと語る鈴木氏は、MyReferが先導役を担っていきたいと考えている。同社は2022年2月に、タレント・アクイジションSaaS「MyTalent(マイタレント)」を発表した。

MyTalentは、過去の応募者やリファラル、アルムナイとなどあらゆる潜在候補者をプール・管理して企業のタレントアクイジションを支援するクラウド型サービスだ。いわば採用版マーケティングオートメーションを実現するSaaSで、行動履歴などもデータとしてプールしていけるのが特徴となっている。

候補者のナーチャリングから決定までを一貫してサポート

「例えば、新卒採用時にとても好感触だった応募者が他社にとられてしまったり、中途採用の面接後にオファーを出したが辞退されてしまったりと、企業と候補者のタイミングが合わないことはよくあると思います。MyTalentはそのようなデータをすべて蓄積し、採用候補者としてナーチャリングを行えるのが大きな特徴です。その候補者が何らかのきっかけで自社サイトに訪れた場合には行動履歴を検知できるため、相手が再度自社に興味を持ってくれているタイミングでアプローチすることが可能です。

短期的に見ると、タレント・アクイジションの利点は、自社が欲しい優秀な人材を、他社とバッティングせずにピンポイントで採用できることにあります。人材紹介では他社との併願となり、最後に条件面で他社に負けてしまうことも多いですが、タレント・アクイジションの考え方では、自社だけが持っているデータベースをもとに潜在層から掘り起こすことができるため、自社単願で受けてもらえます。

そして中長期的な利点としては、タレントのデータベースを蓄積し続けていくことで、『オウンド転職サイト』ともいえる膨大なタレントプールを構築できることが挙げられます。新規事業立ち上げ時や欠員が出たときに、まず社内のデータベースから人材を探すことができるため、採用の工数やコストを抑えられます。そのデータベースづくりを簡単にするのがMyTalentの役目です」

MyReferの構想する戦略的採用マーケティング支援

 MyReferは、日本の採用市場にタレント・アクイジションをもたらす取り組みとして『HRX』という構想を掲げており、MyTalentはHRXの第一弾にあたる。目指すのは一過性ではない持続可能な採用活動を企業が自ら行える世界をつくることだ。

ただ、その道のりは容易ではない。普及しているリクルーティングの概念とは異なるタレント・アクイジションの概念を市場に浸透させるためには、営業には高い提案力が必要になり、カスタマーサクセスには高い伴走力が必要となる。

「今後は、採用市場を変革をするための各種モジュールを公開していき、それらすべてを『Myブランド』としてひとつのプラットフォームに統合していきたいと考えています。その先駆けがリファラル採用の『MyRefer』、タレントプールの『MyTalent』であるというイメージです。

我々は、『100人の普通より1人のタレント』というタレント・アクイジションの概念を日本にもっと啓蒙しなければならないという使命を持っています。日本の大企業がリクルーティングから脱却することで、この国の産業構造自体がアップデートされていくでしょう。MyTalentをはじめとするMyブランドを通じて、タレント・アクイジションという概念を日本に普及させ、本質的なマッチングを支援するサービスを展開していきます」