【地方×HR#02】エリアを越えた組織作りに必要な地方企業DX、そのハードルとは?

(左)株式会社musuhi
代表取締役
越ヶ谷 泰行 氏
えちがたに・やすゆき/ 大学卒業後、広告代理店に入社。Chatwork株式会社のマーケティングを担当経て、株式会社musuhiを創業。地方企業を中心にマーケティング支援を行う。

(右)法人営業デジタル化協会
代表理事
五十嵐 政貴 氏
いがらし・まさき/ベンチャー企業にて人事全般を経験後、HRtech新規事業の企画・運営に携わる。現在は、人工知能関連人材のソリューション企業エッジテクノロジー株式会社にて、 自社サービスの営業支援AIツール「GeAIne」の販売、エヴァンジェリストを担当。 2019年法人営業デジタル化協会(通称=HED)を立ち上げ、代表理事を務める。

ウィズコロナ時代を見据えて 地方×HRの最前線

新型コロナウイルスは「はたらく」のあり方を大きく変えました。リモートワークが一般的な働き方として社会に受け入れられるようになり、一部の企業では本社機能を首都圏から地方へ移転するなど、ビジネスにおける距離の壁はどんどんなくなってきています。そして地方の中にはこの状況を地域経済成長のチャンスととらえ、人材系企業とともに戦略的な経済・雇用支援に取り組んでいるところもあります。本特集では地方と人材系企業の協業プロジェクトや地方における求人動向のトレンドを取り上げながら、地方×HRの最前線を紐解きます。

前回の記事では、地方企業が首都圏在住の求職者やフリーランス、副業社員といった多様な働き方を受け入れるには、コミュニケーションのあり方や教育体制の見直し、人事評価や給与体系の変更など、組織面の大きな整備が必要なことが分かった。

では今、地方企業における組織面でのDX(デジタルトランスフォーメーション)はどの程度進んでいるのだろうか? また、地方企業が今後DXをおこなうために越えるべき人材面でのハードルとは何なのだろうか?

今回は2021年11月8日から開催される、福岡県企業のDXをテーマにしたVR展示会とオンラインセミナーなどの総合イベント「FUKUOKA DX WORLD」を運営する越ヶ谷氏・五十嵐氏の両名に話を聞いた。

地方企業のDXは「営業・マーケティング」から始まる

まずは越ヶ谷氏に、地方企業におけるDXの状況について話を聞いた。

「人事部門におけるデジタル化、例えばチャットツールやテレワークの導入は、実はまだそれほど進んでいません。一方でビジネスサイド、営業部門やマーケティング部門では、新型コロナウイルスの影響に危機感を感じている企業を中心に、ビジネスモデルや業務プロセスの変えていこうというDXの機運が高まっています」

人事部門では潜在的な課題に気づいている企業は多いものの、実際に変革に踏み込む企業は多くないという。

「ビジネスサイドと比較すると組織面の課題は顕在化していないこともあり、『対応しなくてもなんとかなるだろう』と考えていらっしゃる企業は多く見えます。リモートワークや副業容認など、働き方の自由度を促進する動きは限定的です」

しかしビジネスサイドのDXをきっかけに、人事部門でも変革が進むパターンがあるらしい。

「たとえば今まで飛び込み営業をさせていた人にインサイドセールスをお任せする場合、出社せずとも業務や営業情報の管理ができるようになります。むしろ出社すると営業効率が下がってしまうかもしれません。その段階で全社的にリモートワークが導入され、働き方そのものが変わっていくようなイメージです」

経営資源が限られている地方・中小企業だからこそ、DXは売上を担う営業・マーケティング部門から始まる。そしてそこから人事部門にも変革を普及できるかどうかが、地方企業DXの一つの分かれ目のようだ。

現状を正しく知り、意識を変えることが地方企業DXの第一歩

また地方企業DXの特徴として特筆すべきなのが、「ツールを入れただけで業務や組織に定着しなかった」というパターンが多いことだ。

「業務のデジタル化を促進するSaaSツールが地方企業にも普及し始めましたが、それらを使いこなせないまま解約して元の状態に戻ってしまったという話をよく聞きます。だからこそ闇雲にツールを導入するのではなく、まずは『自社の業務や組織をどのようにしていきたいか』を定義することが非常に重要になります」

しかし、事例がないままに自社のあるべき姿を定義するのは簡単ではない。越ヶ谷氏によると、地方企業がDXに取り組む際には適切なステップを踏む必要があるという。

地方企業DXのステップ①:今、顧客が抱える悩みを聞く

「コロナ禍の中、お客様の状況や課題はどうなっているかをきちんと把握されている地方企業の方は意外と少ないです。そのような企業に対しては、まず顧客へのヒアリングをお勧めしています。コロナで課題や行動の仕方が変わっている場合、訴求の仕方や接点の持ち方は変わってくるためです。また人事部門であれば『従業員はどんな気持ちで働いているか』『組織やコミュニケーションにおける課題は何か』の調査から始めてもよいでしょう」

地方企業DXのステップ②:自社が提供する価値を考える

「顧客や従業員の状況や悩みを整理していくうちに、結果的に『顧客に提供するべき価値』『顧客への接点の作り方』『目指すべき組織の姿』が見えてきます。そしてそれらは、今までのものとは少し違う形になっているはずです。

自社の意識のアップデートは、ツールベンダーや外部人材からの声がけではなく、このような内側の気づきから始まるのではないでしょうか」

地方企業DXのステップ③:価値提供を実現するためにデジタルを使う

「上記のステップを経て、ツールやシステムで何を実現したいかを明確にすることで、デジタル化の成功率はかなり高まります。また目的が明確な会社では、ツール導入後も制度設計をきっちりするところが多いため、組織文化として浸透するスピードも速いです。自社が進むべき方向は、顧客や従業員が教えてくれるものなのです」

地方企業の実態に根ざしていない外部人材の流入

次に、五十嵐氏に地方企業における人材活用の状況について話を聞いた。

「上記でもお話したように、おもにビジネスサイドを中心に変革を求める動きが大きくなっています。その流れを受け、業務変革や戦略構築を担える『プロ人材』『顧問人材』と呼ばれる外部人材のニーズが高まっています」

上記のニーズを背景に、地方銀行や民間企業の後押しを受けて、外部人材が地方企業に派遣されているようだ。そしてそのような人材は首都圏で働いていることも多い。エリアの垣根を越えた人材活用は、ハイレイヤーな外部人材を中心に始まっていると言えるだろう。

しかし五十嵐氏によると、そのような人材活用には負の側面もあるらしい。

「というのも、実際に派遣された外部人材は決して地方企業の現場に明るいわけではありません。そのためどうしても現場の実態に即していない戦略を描いてしまいがちなのです。

その結果戦略は実行されず、先ほどお話したツール導入の話と同様、『プロ人材を活用した。けれど結局組織に定着しなかった』というパターンが増えてきています」

業務や組織の変革のために人材に投資したにも関わらず失敗に終わってしまった結果、挫折してしまう企業も少なくないという。地方企業は外部人材活用のあり方を改めて考える必要がありそうだ。

自社の「一歩先」を進んでいる企業の知見を取り入れる

続いて地方企業のDXにまつわる課題を解決するポイントはどこにあるか、五十嵐氏に話を聞いた。

「一番コアな課題は、企業内部の意識改革が伴っていないままに、外部のツールや人材に頼るところから始めてしまっていることです。自社の改革にも関わらず、戦略を描かないままに『とりあえずツールを入れよう』『とりあえずプロ人材を頼ろう』と見切り発車で進めてしまっている。ある意味外部のツールベンダーやプロ人材のノウハウに頼りきりになっているのです。

しかし、ベンダーやプロ人材もすべての企業にフィットする業務設計や制度設計のあり方を知っているわけではありません。自分たちに合った戦略を自分たちで模索しないと、やはりうまくいかないでしょう」

五十嵐氏によると、地方企業における意識改革が進みづらい理由は以下だという。

意識改革が進みづらい理由①:コロナによる急激な変化に追いついていない

「新型コロナウイルスの影響で、本来は10年スパンで行われるはずだったデジタル化への対応をここ1~2年で強制的にやらざるを得ない状況となりました。

しかし、形式的なデジタル化への対応はできても、意識の改革、『もうアナログな業務は一切切り捨てなければ』という危機感と覚悟を持てる経営者の方はそこまで多くはありません。今までの方法をすべて手放すことの難しさが、そのまま意識改革の難しさに繋がっています」

意識改革が進みづらい理由②:身近な変革の事例がない

「また、危機感や覚悟を持っていても、『何から始めたらよいのかわからない』という企業もいらっしゃいます。インターネットでデジタル化やDXのニュースを調べてみても、大企業やテックに明るいベンチャー企業の事例が多く、自社の参考になるような情報が手に入れられないことも多いです。そのこともまた、変革を阻害する一つの要因になっているのではないでしょうか」

そんな地方企業のDXに関する事例不足を解消するために開催されるのが、福岡発のオンライン・オフライン融合イベント「FUKUOKA DX WORLD」だ。同イベントでは地方企業の

「これからの働き方」や「企業の業務改革」に役立つ基調講演、コワーキングスペースを活用した研修など、福岡エリアの企業を中心とした変革を発信する。

最後に、越ヶ谷氏に同イベントへの思いについて話を聞いた。

「このイベントを通して、地方企業が内部から『こんな風に変わっていきたい』と思えるような仕掛けをたくさん作っています。自社と似たような規模や文化の会社の事例を知っていただくことで、地方企業の背中を押すきっかけになればと思います。

そしてこのイベントをきっかけに、デジタル化やDXに対する不安を払拭し、ポジティブな気持ちで変革に取り組む企業が少しでも増えれば嬉しいです」

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