株式会社MS-Japan
執行役員 メディア事業部 マーケティング Division長
清水 悠太 氏
しみず・ゆうた/2005年3月法政大学卒業後、株式会社MS-Japanに入社。ベンチャー・IPO準備企業を中心とした法人営業を経験した後、キャリアアドバイザーとしてCFO、管理部長、会計士、税理士、弁護士を中心に延べ5000名のキャリア支援を経験。現在は執行役員としてマーケティングを担当。
労働人口減少の加速とともに、人材業界内で求職者獲得競争が苛烈なものとなっていることを実感する企業も多いのではないだろうか。多くの企業が大手人材企業のスカウトサービスなどに集客を頼る中で、管理部門・士業職に特化した転職エージェントである株式会社MS-Japanは自社集客率99%と、高い集客力を誇っており、現在は企業や他の転職エージェントに人材スカウトデータベースの提供も開始している。今回は同社の執行役員でマーケティングDivision長の清水氏に、求職者集客の秘訣を伺った。
日常的なテーマを扱うメディアを運営し、日々の継続的な接触を図る
MS-Japanの求職者集客において大きな役割を果たしているのが、管理部門・士業向けの情報サイト「Manegy(マネジー)」の存在だ。「国内最大級の管理部門と士業の専門サイト」として、業務効率化や組織作り・法律改正に関連する対応など、普段の業務で役立つ情報を提供している。
「Manegyというメディアに掲載されているコンテンツの大半は、管理部門・士業の方が日々の仕事を進める上でヒントになる情報です。転職を意識していない層と日常的に接触を図ることを意識しています。転職を検討していないうちからManegyの運営会社としてMS-Japanを知ってもらい、転職を考えるタイミングになったら『そういえばMS-Japanって転職サービスもやっていたな』と転職サービスの利用をしてもらえるようにしています」
今では求職者集客のほとんどを自社で行っているMS-Japanだが、Manegy立ち上げ前までは他社の求職者データベースを利用して集客を行っていたという。その後どんな試行錯誤を経て、Manegyの立ち上げに至ったのだろうか。
「かつては大手人材会社の求職者データベースと、転職顕在層向けのWeb広告が求職者集客の主な柱でした。しかし5~6年前から求職者データベースの多くが成果報酬型の料金体系になり、コスト面での負担が増していることから自社集客を強化する方針に切り替えたいという思いがありました。
そこで、まずはWebマーケティングの強化を図りました。Web広告に加えてコンテンツマーケティングの強化を行い、オーガニック検索からの流入を増やす施策です。幸いこの取り組みで、転職健在層の獲得についてはある程度の手ごたえを得ることができました。ただ、更に登録者を増やし続けていくためには、認知拡大が必要不可欠でした。
大手人材会社が行うようなTVCMや交通広告などのマス広告も試しましたが、職種特化型の弊社に取っては非効率でした。費用的にもマス広告の拡大は難しく、ターゲットを管理部門・士業に絞っている専門的な媒体を探して、広告出稿を積極的に行いました。ただ、そうした媒体も数が限られていましたし、広告出稿だけでは成果は不十分でした。より日常的に管理部門・士業の方と接触する方法を考え試行錯誤する中で、Manegyの立上げに至っています。
日常的にコミュニケーションが取れる場として立ち上げたManegyは、転職サービスとは全く切り離したメディアとして運用しています。2017年に開設し、現在は安定的に月間約200万PV閲覧されるメディアにまで成長しています。
結果的に他社データベースを使わない自社集客を実現することができました。更に現在では、企業様及び他の転職エージェント様に弊社の人材データベースを解放しております」
メディアの継続には「価値提供」の意識が必要
転職を検討していない層向けにメディアを立ち上げたものの、予算や人を十分に割けなかったため挫折したという人材会社も少なくないだろう。Manegyが求職者集客の成果を上げられるまで継続できた理由として、清水氏はメディア単体でマネタイズをしていることを挙げている。
「Manegyは管理部門の業務に関する話題を扱っているので、非効率な業務や法律への対応に悩みを抱える人も多く流入します。そこで、それらの業務効率化を図れるクラウドシステムやシステム構築をお任せできるベンダーさんを紹介する広告事業も行っています。他にもセミナー情報やホワイトペーパーなどのお役立ちコンテンツを設置するなど利用者の目線に立って役立つ情報を取り扱ってきました。結果的にそれらが、Manegy単体としてのマネタイズポイントになっています。メディア単体でマネタイズができていることは、メディアを継続できる大きな原動力になっています」
「求職者集客」という目的だけではなく「読者への価値提供」を意識して運営していること、その結果マネタイズにつながりメディアが自立できていることが、Manegyの運営を安定して継続できている秘訣と言えそうだ。
顧客への価値提供と真剣に向き合おう
今後も人材系企業内での求職者獲得競争の激化が確実視される中、清水氏は「求職者の方たちに使われ続けるサービスになるためには信頼が大切だ」と強調する。
「苦労して獲得したユーザーの方たちも、転職活動が終了すれば普通はサービスを離れてしまいます。しかし、利用期間中にどれだけ満足感を得てもらい、信頼関係を構築できるかによって、その後友人を紹介してくれたり、再び転職を検討する際にリピートしてくれたりする可能性があります。自社のファンを増やし、ユーザーさんと繋がり続けるための姿勢と仕組みが必要です。自社で集客するにせよ、他社の求職者データベースを利用するにせよ、これは変わらないでしょう」
そこで大切なのは、「転職者をモノ扱いしないことだ」と続ける。
「法人担当や求職者担当として働いている人材系のコンサルタントの中には、求職者の方のことを『決まりそう/決まらなさそう』という目線だけで見たり、品定めの結果や進捗状況によって露骨に態度を変えていたりする人もいます。しかしそのような態度は、求職者の方に見破られています。相手は人ですし、多くの場合、複数の転職サービスを利用して転職活動を行うので、見定められ、選んでもらっているのは我々の方です。
商材を扱うように求職者の方に接するのではなく、『どう可能性を広げるのか』『どう価値提供するか』を考え抜くことは、サービスの質向上につながる第一歩です」
最後に、Manegy運営の中で培ったノウハウや集客力を活かし、今後どのような取り組みをしたいかを聞いた。
「Manegyの運営を通じて、管理部門・士業の業務にはまだまだ効率性や生産性を高められる余地があるとわかりました。MS-Japanは人材サービスを提供する会社ではありますが、今後は転職という切り口だけではなく、もっと広い意味でのキャリアや業務効率化の観点からも管理部門・士業の方たちをサポートする情報を提供したいと思っています。
また、現在は独自集客で多くの転職希望者にご登録いただいております。一方で、私たちだけでは、十分なマッチング機会を創出できないケースもあります。私たちと一緒に管理部門・士業の方の転職支援にご協力いただける提携エージェント様も募集しております」
Manegyの運営を通じてユーザーへの価値提供と真剣に向き合うMS-Japanの取り組みは、人材業界で働く人にとって大いに参考になりそうだ。
「これからのエージェントサービスは、どのポイントで顧客に貢献するのかを磨き込むことが肝要です。MS-Japanは自社集客に舵を切りましたが、集客を他社のデータベースに頼り、徹底的に企業の方に向き合うのも一つの手でしょう。
どんな選択をするにしても自分たちの強みを発揮して貢献し、業界全体をよりよくできるといいですよね。Manegyでも登録者のデータベースを開放しているので、管理部門・士業系の求職者を集客したい企業の方はぜひお役立ていただければ嬉しいです」
(鈴木智華)