アデコ株式会社
(右)取締役 Adecco Cheif Operating Officer
平野 健二 氏
ひらの・けんじ/2004年にアデコ株式会社へ入社。人材派遣事業の営業職として大型案件の獲得やトップセールスの記録といった実績を残し、早い段階からマネジメント業務に従事。支社長、エリア長、事業本部長を経て、2018年に執行役員ジェネラル・スタッフィング COOに就任。2022年10月より現職。人材派遣事業およびアウトソーシング事業のブランドであるAdeccoの日本における責任者として、事務派遣就労者のリスキリングの推進、製造や介護領域における人材派遣事業への進出やアウトソーシング事業の拡大等に取り組んでいる。
(左)Head of Adecco Japan Global Career Program
木村 文幸 氏
きむら・ふみゆき/2005年、アデコ株式会社に新卒入社。営業職に従事しトップセールスを記録。その後、当時最年少(26歳)で支社長となり早い段階からマネジメント業務に従事。大手企業を中心とするキーアカウント営業部長を経て、2022年に新規事業プロデューサーとなる。ジュニアIT事業、外国人雇用事業の立上げを行い、2023年より現職。Adecco Japanにおける外国人雇用事業の責任者として主に特定技能領域のビジネス拡大、多国籍・多文化の共生社会の実現に取り組んでいる。
少子高齢化により労働人口が減少し、様々な業界において人手不足が大きな課題となる近年。その中で、人手不足解消の策として「外国籍人材」の活用が注目されている。Adeccoは2022年10月、「特定技能外国籍人材紹介サービス」で外国籍人材の活用支援を開始した。今回は、「特定技能外国人」の概要や同社が支援している内容、目指す社会の形について伺った。
人手不足解消の一手を担う「特定技能」、「技能実習」との違いは?
採用市場において「外国人労働者」の存在感が少しずつ強まる近年。注目が高まる一方で、「実際には日本における外国籍の働き手の数はまだまだ少ない」と平野氏は話す。
平野氏「市場規模でいうと、日本に在留している外国人労働者は2022年時点で約182万人と、日本人を含めた日本全体の労働者数に対して2.7%ほどしかいません。外国人労働者が全体の20%を占める国もあり、世界的に見ても日本は外国籍人材の活用が進んでいるとは言えないのが現状です」
外国人労働者の内訳を在留資格別に見ると、「身分に基づく在留資格」「専門的・技術的分野の在留資格」「技能実習」「資格外活動」の順に多い。日本政府は2019年に「専門的・技術的分野の在留資格」の人口増加を目的として「特定技能」を新設するなど、人手不足解消を目指している。
その中でAdeccoは「特定技能」に着目し、外国籍人材の雇用を支援・促進するために「特定技能外国籍人材紹介サービス」に取り組んでいる。同じく在留資格である「技能実習」と混同されやすいが、「特定技能」は人手不足が深刻な12分野の産業において一定の専門性・技能を有した即戦力となる外国人を受け入れるための在留資格制度だ。現在は、介護、建設、外食など、現場での作業をともなう仕事を対象としている。「技能実習」は国際貢献の目的で作られた研修制度であるのに対し、「特定技能」は労働力不足の解消を目的としているのが大きな違いだ。
木村氏「特定技能は2019年に新設された新しい在留資格で、取得者はまだ13万人ほどですが徐々に増えてきています。人手不足解消の切り札的存在として作られ、介護や製造、自動車整備、宿泊、農業漁業、外食など12分野においてフルタイムで働けることが特徴です。最長5年で帰国しなければならない『技能実習』と違い、より熟練したスキルを身につけ、『特定技能1号』から『2号』に切り替えることで、更新許可申請が許可されれば在留資格を無期限に延長できるのが『特定技能』ですね」
無期限での定住も可能な2号は、現時点で「建設業」「造船・舶用工業」の2分野にしか認められておらず、その取得人数も10名以下となっている。しかし、2023年6月以降に対象分野を拡大する方向で政府は議論している。
また「特定技能」は、「技能実習」と比べて資格取得に要するスキルレベルが高く設定されているという。
木村氏「特定技能のスキルレベルは、技能実習4年目くらいに設定されています。技能実習を3年以上経験し、かつ一定程度以上の日本語スキルを持った人材が特定技能に切り替えて期間を延長する、という『技能実習の出口』として機能しているんですね。技能実習でスキルを習得した優秀な人材をそのまま帰国させてしまうのではなく、特定技能という枠を使って日本で活躍できる労働者として増やすことを目的としています」
就労前から採用後の定着まで支援する「特定技能外国籍人材紹介サービス」
Adeccoは「特定技能」を活用した外国籍人材活用を支援するため、現時点でベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、フィリピン、タイ、中国の7カ国における海外在住者のための送り出し機関のうち厳選な審査をクリアしたエージェントのみをアライアンスパートナーとして提携している。就業前の段階から支援を行うことにより、外国籍人材雇用の促進を行っているという。
木村氏「候補者の在留カードや住民票などの各種証明書を確認してトラブル回避を徹底しています。コンプライアンス上の課題から外国籍人材の採用に踏み切れない企業もあるため、トラブルを未然に防ぐための体制を構築しています。我々が内定を出した候補者がスムーズに審査を通り、トラブルが起こらないのが当たり前な状況を作ることが、外国籍人材の活用を進める上で大切だと思っています」
このほか候補者を増やす取り組みとして、国内の日本語学校との連携に加えてSNSを使用して認知度の低い「特定技能」の周知を図っている。
また、外国籍人材が特定技能の在留資格を取得するためには、「日本語能力試験」とそれぞれの分野の「技能試験」の2つの試験に合格する必要があり、簡単に取得できるわけではない。そこでAdeccoは、特定技能の資格取得を希望する外国籍人材に向けた「技能試験」合格のためのプログラムを提供するなど、外国籍人材のサポートにも注力している。
木村氏「12分野ある試験の内、7分野において独自開発した技能試験合格プログラムを無料で開放しています。技能試験の試験内容は業種ごとに異なり、合格率も業種によってまちまちです。教材等も少なく個人での試験対策が難しいため、我々がサポートしています」
採用よりも手前の部分から支援する同サービス。その後の採用から就業後においては、どのような支援を行っているのだろうか。
木村氏「候補者への支援としては、履歴書の添削やPR動画の作り方、面接の練習などがあります。写真の撮り方や表現の仕方などのアピール方法から指導し、面接前には簡単な日本語でわかりやすく話す練習をするなど、面接の通過率を上げるための支援も行っています。また、最近では大手企業の求人も増えているので、求職者にとって魅力的な高待遇の求人紹介もメリットに感じていただけているのではないでしょうか。
採用企業向けの支援としては、外国籍人材の受け入れ体制を整えるための勉強会や職場環境整備のサポートを行っています。具体的には、国籍別のコミュニケーションに関するアドバイスやマニュアル作成、現地語への翻訳など多岐にわたります。企業側はどうしても日本語レベルの高い人材を要求したくなってしまうのですが、そのような人材はそもそも母数が少ないのが現状です。そのため、日本語レベルにこだわらず、受け入れ側の環境を整えることで活かせる人材がいることを勉強会などで説明しています。まずは、外国籍人材を理解して受け入れてもらうことが大切なので、入り口の支援を徹底しています」
勉強会では、国籍により慣習や価値観が違うため、企業に対して外国籍人材への接し方などについて国籍ごとに開催している。日本語でのコミュニケーションの仕方や言い回しのコツなど、企業は信頼関係を築くための手厚いサポートが受けられる。また、外国籍人材に対しても言語や宗教、価値観の違いにより様々なハードルが存在するため、就業後もそれぞれの人材の母国語が話せるAdeccoのパーソナルコーチが伴走して支援する。
木村氏「人材派遣事業で導入しているキャリアコーチ制度のノウハウを生かし、母国語が分かるパーソナルコーチが就業後の定期的な面談やキャリアコーチングだけでなく、生活における相談対応も実施しています。また、外国籍人材の日本語レベルを『日本語能力試験』のN2まで教育して、ビジネスレベルに引き上げることにもコミットしています。就業後の育成も企業任せにはせず、定着や長期滞在が可能なビザへの切り替えまでしっかりとサポートするのがこのサービスの特長でもあります。
もう一つの支援として、外国籍人材を対象にしたイベントを独自に開催しています。日本文化を知り、会社や地域の方々とのつながりを持てるようにサポートすることで、日本を好きになるきっかけを作れたらいいと思っています。交流を持つことで日本語のアウトプットもできますし、日本にいるためには日本語の勉強を頑張ろうという原動力にもなりますよね。仕事でのモチベーションが維持できるような、価値のあるイベントをこれからも開催していきたいです」
”外国人雇用があたりまえの世の中”をつくるために
Adeccoが特定技能外国人の紹介サービスを開始した背景には、「強い使命感があった」と平野氏は話す。
平野氏「我々がグローバル企業であることが、サービスを開始した大きな理由です。Adecco Groupはグローバルで”Making the future work for everyone.”というパーパスを掲げており、国籍問わずすべての人に就業の機会を提供し、サポートしていくのが使命だと感じています。また、このサービスを通して、日本社会が抱える労働力不足の解決に貢献できると信じて取り組んでいます」
グローバル企業としての想いを持って取り組む同サービスでは、2024年末までに政府が目指す特定技能外国人の受け入れ人数の約1%にあたる3,500人の特定技能外国人の就労を実現することを目標としている。
さらに「外国人雇用があたりまえの世の中をつくる。」をプロジェクトビジョンに掲げ、1.0から3.0のフェーズに分けて同サービスの推進に取り組んでいる。サービスを通してAdeccoが目指す社会とはどのようなものか。最後に、今後の展望について伺った。
木村氏「我々は今、外国人雇用1.0『労働環境のあたりまえ化』のフェーズにいます。日本では3年前から『同一労働同一賃金』などが適用されていますが、日本に住む外国人は対象外だったり、条件が異なったりすることが現状としてあります。そのため、我々は出身国や人種に関わらず、労働条件や待遇において差別が起こらない社会の実現を目指しています。また、日本語が苦手な方の6割が孤独を感じているという政府の統計データがあることから、孤独感をやわらげるためのケアにも取り組んでいます。前述したイベントや日本語レベルの引き上げ支援などがこれにあたります。
次に2.0『外国籍人材の躍動化』のフェーズでは、特定技能の外国籍人材が家族の帯同・在留も可能な『2号』や、『技術・人文知識・国際業務ビザ(技人国)』という高度外国籍人材のためのビザの取得を目指した支援に注力し、ノウハウを提供していきたいと思っています。
最終的には、このサービスを通した『社会課題の解決』を3.0のフェーズとしています。例えば、空き家問題や後継者不足問題などの労働人口の減少による社会問題です。その解決の道筋は何も日本国籍の人材に限定する必要はなく、これから増えるであろう定住外国籍人材にも大きな可能性があります。そのような人材の輩出機関になることを目指してこれからもサービス提供に努めていきたいです」
平野氏「人材サービス業界全体として外国籍人材の採用や育成を支援し、日本で働く外国籍の方が生き生きと働ける環境を共に作っていくことが重要ですね。そうすることで、我々が目指す『外国人雇用があたりまえの世の中』に近づくことができると考えています」