アデコ株式会社
取締役 兼 Adecco Cheif Operating Officer
平野 健二 氏
ひらの・けんじ/2004年にアデコ株式会社へ入社。人材派遣事業の営業職として大型案件の獲得やトップセールスの記録といった実績を残し、早い段階からマネジメント業務に従事。支社長、エリア長、事業本部長を経て、2018年に執行役員ジェネラル・スタッフィング COOに就任。2022年10月より現職。人材派遣事業およびアウトソーシング事業のブランドであるAdeccoの日本における責任者として、事務派遣就労者のリスキリングの推進、製造や介護領域における人材派遣事業への進出やアウトソーシング事業の拡大等に取り組んでいる。
2023年11月6日、「HRog」は10周年を迎えます。「人材業界の一歩先を照らすメディア」として、anのサービス終了やIndeedの登場、コロナショックなど10年間人材業界の動向を追い続けてきたHRog。これからの10年はいったいどんな時代になるのでしょうか?今回はメディア・紹介・派遣・HRTechなど各領域の注目企業様にインタビューし、この10年間が自社にとってどんな10年だったか、そしてこれからの10年間で何を成し遂げたいか伺います。
今回はアデコ株式会社の取締役で、同社の人材派遣とアウトソーシング事業のブランドであるAdeccoのCOO(最高執行責任者)を務める平野氏に、過去10年間の沿革とこれから成し遂げたいことについて話を伺いました。
人材一人ひとりのキャリア構築にフォーカスしてきた10年
2014年、アデコの代表取締役社長に川崎氏が就任しました。その後、2016年には2020年までの中期経営計画を策定。「『キャリア開発があたりまえの世の中をつくる』というビジョンを掲げ、派遣社員のキャリアに向き合ってきた」と平野氏は語ります。
「当時は業界特有の『短期間でつぎつぎ人が入れ替わる』状況を打破すべく、派遣社員一人ひとりのキャリア構築に注力してきました。具体的には派遣社員専任担当者であるキャリアコーチの配置やキャリア構築の指針となるキャリアマップの導入、eラーニングシステムの導入などを行いましたね。派遣社員それぞれのキャリアや持っているスキルを把握した上で、キャリア形成やスキルアップの支援を図ることに努めたんです。
2018年以降は日本全体で働き方改革が進む中、同一労働同一賃金が導入された背景もあり、雇用の安定化に取り組みました。ここで注力したのが『無期雇用』を自社の強みとして打ち出すことです。派遣社員を有期雇用から無期雇用に積極的に転換する取り組みや、高スキルの事務職を中心とした無期雇用派遣サービス『キャリアシード』や『キャリアシード・エル』というサービスを開始したのがこの頃でした」
2020年には新型コロナウイルス感染症が流行。社会にさまざまな影響をもたらす中で、Adeccoは大きな影響を受けずに済んだといいます。その理由として、平野氏は「コロナ禍以前より社内で柔軟な働き方を推進していたから」だと答えました。
「海外で日本との働き方の違いを目の当たりにしたんです。その経験から、2017年より在宅も含めてオフィス以外で働けるよう環境を整備したほか、デジタル化などさまざまな社内の仕組みを変えました。
そのおかげでコロナ禍でも動揺することなく、スムーズにリモートワークへ移行できたんです。また、派遣社員のリモートワークもクライアントと調整を行いながら進めました。自前でリモートワークの環境を構築することが難しいクライアントに対しては、人材を派遣するだけでなくテレワーク用の機器も合わせて提供するテレワーク派遣というサービスの提供も始めています」
その後2021年には「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」という新たなビジョンを策定。働く人が「ビジョン」という原動力を持ち、「やりがい」と「働きやすさ」を感じながらいきいきと働くことを「人材が躍動している状態」と定義しました。さらに、価値観やビジョンに基づいて求職者と企業を結びつける「ビジョンマッチング」の推進に取り組んできたといいます。
「派遣社員がやりがいをもって長く働くためには、企業風土との相性やカルチャーフィットまでを含めたマッチングが必要です。給与や働く場所などの条件面も当然大事ですが、それに加えて『派遣社員が目指すキャリアを達成できる仕事・職場なのか』というところまで目を向けることが大切だと考えます。人材が定着することはもちろん、全ての派遣社員がよりいきいきと楽しく働けるような環境作りに、現在進行系で取り組んでいるところです。
またクライアント企業に対しては、企業が抱えるコスト削減や生産性向上といった課題の解決を、人材派遣だけでなくアウトソーシングというサービス形態を駆使して支援してきました。結果的に、我々のアウトソーシングサービスはこの10年で売上が約2.5倍ほどに成長しています」
「人財躍動化」で誰もがハッピーになれる社会を目指したい
そしてこれからの10年間では、「“適財”の輩出と“適所”の創出に取り組んでいきたい」と平野氏は話します。
「まずは現在取り組んでいるカルチャーフィットによるマッチングを継続しつつ、顧客課題に対するコンサルティングを通じて、誰もが組織のビジョンに向かって躍動化できる環境(適所)を創出したいですね。また、キャリアビジョンが明確で、多様なスキル・能力の向上を実現する人材(適財)の輩出に取り組むことで、誰もが幸せになれる社会の実現を目指していきたいです」
「適財・適所」の創出に取り組んでいく一方で、「人手不足という日本全体の課題解決にも力を入れていく」と平野氏は続けます。
「労働力不足を補うべく、外国籍人材の就労支援や採用支援にも注力しています。外国籍の人材が日本で末永く活躍できるように、職場や社会に溶け込めるようなサポートも行っていますね。クライアントに対しても、最適なコミュニケーションがとれるようアドバイスしています。
また、人手不足の中でも特に顕著になっていくのが、デジタル人材の不足です。Adeccoでは、事務職の経験者を無期雇用で採用し、リスキリングによってデジタル人材へと育成する『デジタルキャリアシード』というサービスを2022年に開始しました。デジタル人材の育成と派遣は、現在もっとも注力しているサービスのひとつです」
最後に、人材業界で働く人たちに伝えたいメッセージを伺うと「誰もが躍動できる環境作りに業界全体で取り組んでいきたい」という答えが返ってきました。
「今後も人手不足は加速していき、一人ひとりの生産性の向上がこれまで以上に必要になります。AIをはじめとする技術も当然重要ですが、いきいきと働くことができているかどうか、つまり『躍動』できているかどうかがより重要です。全ての働く人々が躍動できる環境を提供すべく、人材業界全体で協力してよりよい社会を目指していきたいと考えています」
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