【HRog10周年特集】テクノロジーと人の両輪でつくり上げる、これからの派遣

ランスタッド株式会社
マーケティング&ブランドコミュニケーション本部 DX部 ディレクター
中村 雄一 氏
なかむら・ゆういち/1977年神奈川県生まれ。大学卒業後新卒で国産自動車販売店でのB to C営業を経て、2004年に現ランスタッド株式会社にB to B営業として入社。支店長、エリアマネージャー等管理職を経て2016年営業企画部長。2020年1月より現職のDX部ディレクターとしてランスタッド全体のDX推進をリードする。

HRog10周年特集

2023年11月6日、「HRog」は10周年を迎えます。「人材業界の一歩先を照らすメディア」として、anのサービス終了やIndeedの登場、コロナショックなど10年間人材業界の動向を追い続けてきたHRog。これからの10年はいったいどんな時代になるのでしょうか?今回はメディア・紹介・派遣・HRTechなど各領域の注目企業様にインタビューし、この10年間が自社にとってどんな10年だったか、そしてこれからの10年間で何を成し遂げたいか伺います。

今回は、世界最大級の人材サービス企業ランスタッド株式会社の中村氏に、人材業界の直近10年とこれからの10年についてお話いただきました。

派遣業界の成長期を経て、停滞期に突入した10年

中村氏は、直近10年間を「人材派遣業界が成熟期を迎える中で、社会的変化への対応を迫られた10年だった」といいます。

「2000年代の初めは、売り上げも利益も好調な成長期でした。リーマンショックを経て、伸び盛りだった人材業界は急に停滞し始めたと感じています。派遣市場が成熟し、どの企業も同じようなサービスを提供している現在は、他社とどう差別化するかが各社の重要な課題になっています。新しい取り組みを始めたり仕事のやり方を見直したりと、時代に合わせて変化できる企業でなければ、今以上には成長していけないのではないでしょうか」

人材派遣業界全体に停滞感が漂う中で、2020年に新型コロナウイルス感染症が流行。日本全体が否応なしに変化を迫られ、ランスタッドも大きな影響を受けることとなりました。

「感染症対策として社員全体がリモートワークに切り替えました。派遣スタッフの働き方としても、在宅勤務可能な案件が増えてきたのを覚えています。当社は元からフレックス制度やリモートワーク制度を整備していたため、比較的スムーズに対応できました。ただ現場で働くメンバーにとっては、苦労も多かったようです。顧客によって対応が異なりますし、『出社はできないけど客先には訪問する』なんてこともありました」

未曾有の事態への対応は大変だったものの、自由な働き方ができる制度の充実や、社員の健康を第一に考えた経営陣の迅速な判断など、自社の良さを改めて実感する機会にもなったと中村氏は語ります。

AIの活用とセールスイネーブルメントを軸に、営業力の強化を

社会の変化に対して柔軟な対応が求められる中で、中村氏は「これからの人材派遣業界はAIの積極的な活用が重要だ」といいます。ただし、何をAIに任せて何を人間がやるかを判断する必要があると言及しました。

「最近ではChat GPTを始めとするAI技術の進化が目覚ましく、当社でもどう取り入れていくか検討しているところです。一方で、AI技術ではまだ十分な対応ができない分野もあるでしょう。例えばAIは求人広告のキャッチコピーを大量に作るのが得意ですが、生成された文章に不適切な表現が含まれている可能性があり、現状では人による確認が必要です。そのため全てをAI任せにするのではなく、まずはAIを使っていいこと、いけないことの明文化から取り組んでいます」

今後AIの得意分野はAIに任せていき、そのぶん人間は「人間だからこそできること」に取り組みたいという中村氏。ランスタッドではその一環として、2022年から「ランスタッド thank you イベント」を実施しています。レクリエーションや表彰式などの催しを通じて派遣スタッフに感謝を伝え、ランスタッドの一員として一緒に働いている実感を持ってもらおうと、中村氏を中心に推進してきた取り組みです。

「『ランスタッド thank you イベント』は派遣スタッフに喜んでもらうことが主な目的ですが、自分たちも仕事の原点に立ち返ることができています。社員もたくさんの派遣スタッフが働いてくれていることに目を向けて、感謝の気持ちを伝えるよい機会になっています」

また中村氏は、「人間だからこそできること」として企業の課題解決や、求職者の可能性を引き出すことも挙げています。こうした介在価値を醸成するために、ランスタッドでは今年から、セールスイネーブルメントを開始しました。

「日本全体が人手不足に陥る中で、言ってしまえば営業が努力しなくても受注できてしまう状況になると懸念されます。しかし、これは求人企業や求職者にとって良い状態ではありません。こんな時代だからこそ、自分たちから能動的に仕事を獲得することにこだわり続けなければと考えています。

そのためには、これから伸びてくる業界はどこか、どんなニーズが生まれそうかなどの情報を仕入れる調査スキルや、データを使いこなすスキルなどを磨いていく必要があります。また、AI利用も含めデジタルの活用を推進するためには、それを使いこなせる人材の育成も欠かせません。これらの考えからセールスイネーブルメントに取り組んでいます」

人材育成を進める中、中村氏は「本社の社員」と「現場の営業担当者」で、データ活用に対する理解度が異なることを課題として捉えています。

「せっかくツールを導入しても、現場の営業担当者の中にはその重要性やツールを導入した背景が伝わっていないケースもあります。成功事例を共有して他の社員も使ってみようと前向きに挑戦できるような企業文化を作る必要があると考えます」

こうした背景から、中村氏は人材業界に対して「お互いが持つ良い事例を共有していきたい」とメッセージを贈りました。

「他業種では、同業間でアライアンスや情報交換を行う企業も増えてきています。人材業界でもこうしたネットワークをもっと広げていき、成功事例を共有するなどして業界全体をより活性化したいと考えています。人材業界の皆さんや人事関係者の皆さん、ぜひお声がけください!」

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