人材営業も注目すべき!採用の知識が深まる「採用力検定」とは

一般社団法人日本採用力検定協会
代表理事
伊達 洋駆 氏
だて・ようく/株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『採用力検定 公式テキスト』(日本能率協会マネジメントセンター)等。

日本全体で採用の難易度が高まる中、人材営業は自社の商品をただ売るだけではなく、「どうすれば採用成功に導けるのか」までを提案できる採用のトータル知識が必要となる。一般社団法人日本採用力検定協会は「採用力検定」を運営しており、企業の人事や採用に携わる人に向けて、採用の基礎的な知識や社会全体の発展につながる力を身に着けてもらおうと活動を行っている。今回は、同法人代表理事の伊達氏に、同検定を発足した背景や、採用担当者だけでなく人材営業が受検することの重要性について伺う。

人材営業の発信力が社会全体の採用力を引き上げる

2017年の7月に設立された一般社団法人日本採用力検定協会は、企業の人事・採用に関わる人が採用力をより向上することを目的に「採用力検定」を実施している。

同協会で理事を務める伊達氏によれば、採用力とは「組織および社会に有益な採用活動を設計・実行する力」を指すという。同協会では、採用力の要素指標を以下の5つに分解し、定義している。

パースペクティブ(視座)

「採用力の中で最も重要なのは、企業最適と社会最適を表す『パースペクティブ(視座)』だと考えます。これからの時代の採用では、各企業が自社に合う人材(適材)を効率的に採用していく企業最適と、社会全体における人材の最適配置(社会最適)、両方の視座を持ちながら採用を進めていく必要があります」

アクション(行動)

「アクション(行動)」は、採用担当者が判断して進めること。その中に、「決断する」「運営する」の2つが含まれていると伊達氏は続ける。

「採用活動においては、新しい採用手法を実行する場面も出てきます。決めるべきことをしっかりと決めることが重要だという考えから『決断する』という要素を挙げています。

また、採用は面接やインターンシップ、説明会など、さまざまな要素から成り立っています。プロセスをスケジュール通り安定的に遂行する『運営する』力も重要です」

スキル(技能)

「スキル(技能)」は、さらに「見極める」「惹きつける」「調整する」の3つの要素に分類される。

「『見極める』は、自社にとっての適材を雇うために、求職者が持つ能力や性格が自社に合っているかどうかを評価することです。自社にマッチする人材に対し、自社の魅力を伝えて心をつかみ、志望度を高めるための『惹きつける』スキルも必要と言えます。

また、企業の採用には社内外のさまざまな人の協力が必要不可欠です。資源を動員するためにコミュニケーションをとり、『調整する』ことも大切なスキルです」

ナレッジ(知識)

「ナレッジ」には、「経営の知識」「採用の語彙」「他社の動向」「労働市場の現状」の4つの要素が含まれている。

「『経営の知識』とは、経営層と対話するための基本的な知識のことです。採用が経営に資するためにも、重要な要素と考えます。

『採用の語彙』とは、その名の通り、ボキャブラリーのこと。例えば、採用手法における、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用、AI面接など、さまざまな手法について理解していけば、よりよい採用の構築につながります。

『他社の動向』とは、自社以外の会社の採用について把握することです。採用には競争の側面もあるので、他社の動向をきちんと押さえておくことも必要です。

最後に、『労働市場の現状』とは、求職者の傾向をきちんと把握することです。採用力において、求職者の現状の心理や行動をしっかりと理解することは有効です」

マインド(姿勢)

採用に向き合う姿勢を意味する「マインド」は、「キャリア自律」「組織への愛着」「理想を描く」「自己成長心」「説明を試みる」「共有主義」の6つの要素から構成されている。採用力の中では心理の側面であり、マインドセットを意味しているという。

「『キャリア自律』は、自分の職業人生に対して当事者意識を持ったり、キャリア上の目標や展望をきちんと描いたりすること。『組織への愛着』は、自社に対する愛着や一体感を持つことを指しています。また、一人ひとりが採用はこうあるべきだという理想の採用を描くことが大事だという考えから『理想を描く』も含まれます。

4つ目の『自己成長心』は、自分の能力開発に対して関心を持ち、学習志向性を高めることを指しています。他にも、採用上の施策に対し、なぜそれをするのか明確に言葉で説明することを意味する『説明を試みる』や、秘密主義にならず企業間で採用に関する情報交換を行う『共有主義』などがあります」

このように、「採用に向き合う姿勢(マインド)のもと、採用をよりよくする知見(ナレッジ)と技能(スキル)を身に着け、採用に対する広い視座(パースペクティブ)を持って、目の前の採用業務を進めていく(アクション)」力が採用力だと言える。

また伊達氏は、「人事担当者だけでなく、採用支援企業や人材営業も採用力を身に着けることが重要」だと続ける。

「採用は、社内外のさまざまな人との共同作業です。人材会社を含めた営業や採用を外部から支援している会社、つまり人材業界の企業は、採用の重要な関係者になります。人材業界は多くの企業に採用上のアドバイスやアウトソーシングなどの支援をしているため、採用プロセスにおける影響力が大きく、人事担当者にとって大きな情報源の1つになっています。

また、人材営業は知識を普及させる役割も持っています。人材営業が採用力を身に着けることで、自社サービスの質を高められるのはもちろん、適切な情報を人事(クライアント)に発信することで、社会全体の採用力も引き上がるのではないでしょうか」

採用に関する適切な知識を持ち、アップデートしていくことが重要

採用活動を成功させるためには、採用に関する適切な知識を持ち、アップデートしていくことが重要だ。さらに伊達氏は、近年の社会的背景から採用について学習する必要性がより高まっていると話す。

「日本は少子高齢社会を迎えて労働力人口が減少しています。これからの採用市場はさらに求職者が有利な売り手市場の傾向が強まり、採用の難易度は今よりも上がるでしょう。

また近年、HRテクノロジーの進展は目覚ましく、AIをはじめとする高度情報技術を伴うプロダクトがリリースされています。さらには、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、採用のオンライン化が一気に進みました。採用のトレンドがどんどん変化していく中、知識をアップデートしていくことが求められます。

加えて、採用自体が社会問題化することもあります。例えば、内定者から他の選択肢を奪うような働きかけをしてしまうオワハラ(就活終われハラスメント)が話題になったり、求職者のデータの取り扱いを巡る報道もあったりしました。このように採用は社会的な影響力も強いため、やはり正しい知識を持って業務を行うことが重要です」

採用力を身に着ける必要性が高まる一方で、実際には学習機会が少ないのが現状だ。その中で、「採用力検定」は学習機会を提供する役割を担っているという。日本採用力検定協会を発足した背景には、「検定」という手段が学習意欲の向上に適しているのではないかという考えがあった。

「採用力検定を受けた人に対して、最後に『採用力検定を受けるにあたり事前学習を行いましたか?』といったことを尋ねています。その結果、検定を受ける人の約半数は事前学習をしていることがわかりました。実際に、検定には学習を促す効果があったというわけです。これは事前学習に限らず、検定後に自分の足りていない知識を重点的に勉強しようというモチベーションにもつながるのではないでしょうか。

他にも、労働法のように抑えておくべき知識やこれを知っていなければ採用活動にリスクが伴うような『知識』がきちんとあることが前提です。自身の知識レベルを測定し、備えるべき知識を把握できるのが検定の持つ意義だと考えます」

採用力検定では、合否ではなく正答率を結果で示している。そのため、自身の苦手領域を把握でき、点数が上がっていくことで成長を実感し学習のモチベーションになっているという。

「採用力検定は、『採用力検定試験(基礎)』と『リクルーター・面接官向け検定試験』の2種類に分かれています。基礎試験は、人材マネジメントや採用に関する法制度、コンプライアンスに関する問題など、採用業務の構成から運用まで幅広く出題されます。一方、リクルーターと面接官向けの試験は、採用の基本知識やリクルーター・面接官の役割など、より採用実務に近い問題が中心となっているのが特徴です。また、基礎試験と同様にコンプライアンスや採用・人事に関わる法制度についても扱います」

さらに、採用力検定は受検後の解説が充実しており、活用することで学習を深められる仕組みになっている。現在の採用力検定の試験は、およそ1年に1度のペースで新しい内容に更新されるため、継続的な学習機会としても有効だという。

「受検者へのアンケートでは難易度についても聞いており、『少し難しい』と回答している人が多い印象です。正答率は70%〜90%ほどの人が多いので、点数に比べて難易度が高いと感じているようです。回答は選択式ですが、選択肢自体に一定の文字数があるので、考えながら解いていく必要があります。受検者からは『自社の採用について振り返る機会になった』『試験の前後で学習するようになった』『面接官同士で採用についてのコミュニケーションが効率化した』などの感想をいただいています」

元人材営業のフロッグ従業員が受検してみた

実際に人材営業が「採用力検定」を受検すると、どのような気づきがあるのだろうか。今回は、人材営業の経験があるフロッグの従業員が実際に受検してもらい、その感想を聞いた。

「これまで求人媒体やATSなどさまざまな分野で人材業界に携わってきましたが、実際に検定を受けてみて初めて知った知識もありました。『人材営業』としての知識には自信がありましたが、『人事』としての知見は少なく、特に時事問題や選考に関する分野が難しく感じましたね。

また、受験後にいただいた解説を読んで、自身が間違って認識していた知識などの気付きもありました。検定から得た人事目線での知識は、今後さまざまな場面で活用できるのではないでしょうか」

社会における人材の最適配置の実現を目指して

採用力検定では今後、検定を中心とした学習機会の提供を継続しつつ、新たな学習機会の創出も併せて行っていきたいと話す。

「検定を中心としながらも、学習機会をより多角的に提供していきたいと考えています。現在も、『採用力検定 公式テキスト』を日本能率協会マネジメントセンターから上梓していますが、テキストを活用してより学習を深めていただけたらうれしいです。また、新たな学習機会として、採用力に関するセミナーや講座も実施してみたいと考えています。

さらに、採用力検定を広めるためにも、より多くの採用支援企業に賛助会員になっていただきたいところです。将来的には、賛助会員同士が学び合ったり、情報交換できるような機会をつくったりして、採用業界全体の採用力を高めていきたいですね」

最後に、人材業界へのメッセージを伺うと、「採用の業界に携わる人に、より多角的な知識を得てほしい」と語ってくれた。

「採用難が叫ばれる中、より多角的な知識を身に着けることで採用力を高め、人材獲得につなげてほしいと考えています。採用に携わる方が知識を深める機会として、ぜひ採用力検定を活用していただきたいですね」