ここ数年ですっかりなじみの言葉となりつつあるHR Tech。「言葉は知っているけれど、その本質は今いち、よく分かっていない…」「日々登場し続けるさまざまなサービスを把握するのは一苦労…」 この記事ではそんな人に向けて、今話題のHR Techサービスを掘り下げてご紹介します!
(左)株式会社リフカム
代表取締役
清水 巧氏
しみず・たくみ/石川県出身。明治大学経営学部卒業。2013年Sansan株式会社に新卒入社し、カスタマーサクセス部の立ち上げに従事。2014年1月、株式会社Combinatorを創業し、代表取締役に就任。スタートアップ企業の仲間集めを解決するサービス「Combinator」を開発・運営する。現在は、「採用を仲間集めに」をミッションに、リファラル採用を活性化するクラウドサービス「Refcome」を提供している。2017年11月、株式会社リフカムに社名変更。
(右)株式会社サイバーエージェント
採用育成本部 キャリア採用担当
桑田 友紀氏
くわた・とものり/2009年に新卒で株式会社サイバーエージェントに入社し、CyberZ・CAテクノロジー・インターネット広告事業本部を経て、株式会社テレビ朝日に出向、その後新規事業のビジネス事業部の企画部門にてイベント設計や企画・運営をし、現在の採用育成本部にてキャリア採用を担当。
社員に人材を紹介・推薦してもらう「リファラル採用」。耳にするようになったのはここ2〜3年の話だが、株式会社サイバーエージェントではリファラル採用という言葉に馴染みがなかったころからこの採用手法に取り組んでいる。同社の採用育成本部キャリア採用担当・桑田友紀氏にその理由を訪ねた。
リファラル採用によって既存社員の「全社視点」が養えた
サイバーエージェントグループ全体の社員数は正社員だけで約4500人。有期雇用の社員を含めると9000人にも 上る。同社グループ全体の事業部や子会社に採用候補者を送る“自社内エージェント”のような役割を担っているのが桑田氏だ。候補者と面談を行い、自社の理解を深めてもらった上で、候補者に自社内の求人を紹介している。
桑田氏が「リファラル採用」という言葉を知ったのは、中途採用イベントでのこと。リファラル採用を活性化させるためのサービス『Refcome』運営会社の代表取締役・清水巧氏が、同サービスリリース以前に行っていたイベントだ。
「その時に清水さんからリファラル採用で新規事業をやるという話を聞きました。言葉は知らなかったけど、社員紹介は過去にもいろいろやっていて、定着率がいい感覚値があったんです。採用を強化する中で『人材の定着率が大事だ』という話も出ていたので、Refcome正式公開前のベータ版から導入を決定しました」
その後の約2年間、現在までRefcomeを利用している。Refcome経由で社員の友人に送られたスカウト数は500通を超え、そこから紹介につながった数は300人以上。導入の効果は数字だけではない。
「各部署が採用をしていて、それぞれの採用のカルチャーが以前はあった。それが自分たちの事業だけではなく、会社全体を大きくしていくっていう全社視点の意識づけができました。求人は『経営がどこに注力しているか』を反映していると思うんですよ。そういう意味で求人情報を全社員に送ることができるのは大きい。元々会社として一人一人が経営目線を養うことを重視しているので、それを補えたのは数字以上によかったですね」
各事業部で採用を行なっているゆえの「社員紹介の候補者共有ができない」という課題も解消された。
「候補者を共有できるようになったことで、横軸で見られるようになりました。A部署では合わなかったけど、B部署ではニーズに合致することもある。マッチングの可能性が高い社員紹介の候補者を拾えるのは大きいです」
「友達の友達は近い価値観を持っている」だから媒体や人材紹介より精度が高い
一方でリファラル採用を実施する上での課題も見えてきたという。
「リファラル採用は長期的に文化を根付かして、半永久的に紹介してもらうのがベストな形だと思っていますが、当初、短期的にバッと採ろうとしてしまっていたことがありました。社員に対して圧力をかけてしまうのは、長期的に見るとダメ。今後改善しなきゃいけないところですね。『社員紹介はめんどくさい』じゃなくて、『興味あるって言っていたから紹介しよう!』みたいな、モチベーションを維持させるような働きかけをしないと、この施策は終わってしまいます」
「最初からいい人がたくさん集まってくるわけではない」と桑田氏は続ける。
「まずは社員紹介への認知度を高めることが大事。だから最初は毎週のようにメールを送っていました。ニーズとは全く違う人の紹介がくることもありましたが、求めている人の具体例や、どんな場面でどんな人を紹介すればいいのかがイメージしやすいように事例を共有していくことで社員がイメージしている人材要件をブラッシュアップしています。『お願いします』だけではモチベーションになりませんから、紹介で入社した人の記事などを社内報で掲載するといった取り組みも今後は考えていきたいですね」
Refcomeで実際に採用したのは約40名と、年間約500名の中途採用のうちの1割近くに及ぶ。他の手法で採用した人との違いは何か。
「僕らはカルチャーマッチングを重視しています。友達の友達は似ているように、リファラル採用は同じような志向を持っていて、同じような経験をしていて、同じようなフィールドで仕事をしている人を集められる。だから他の採用手法よりも採用の確率も定着率も高いんです。そして採用単価は低いどころの話じゃない。そこがリファラル採用の魅力だと思いますね。カルチャーマッチの精度は人材紹介や媒体と比べて高いです」
社員から300人の紹介があったということは、「会社の思想に近い人が多い、質の良いデータベース」ができたということ。今すぐの転職予定がない人に対しても定期的に連絡を取って関係性を繋ぐなど、タレントプールの役割も果たしている。
「若い世代の技術職が一番採用したいターゲットなので、今は若い世代の社員にしかアプローチができていません。でも今後は、世代が上でも社員のお子さんの友達とか、そういう可能性も出てきます。長期的に考えると全社員に導入して、いつでも誰もが応募できるような体制を整えていかないといけない。労働人口が減少してきて、僕らの業界は絶対に採用が激化する。そう考えるともっと幅を広げて取り組んでいかなきゃいけないなと思います」
サイバーエージェントが「何がしたいのか」を採用基準にする理由
「いい人を採用するためには“いい会社”でなければいけない」と、株式会社リフカムの代表取締役・清水氏は別の取材で話していた。リファラル採用が上手くいっているサイバーエージェントの人事である桑田氏は、“いい会社”をどのように考えているのか。
「その人が僕らの会社で思い切り働けるフィールドがあるか。これがいい組織を作る一つの肝だと思っています。それさえあれば勝手にいい会社は作られていくと思うんです」
だからこそ「何がしたいのか」が同社の採用基準でもある。
「僕たちのフィールドやカルチャー、プロダクトでその人の夢を応援できるか。これを面接で重視しています。その人が半永久的にモチベーション高く働けることにつながるので、大前提として大事にしていますね。時には僕たちがそのための環境を用意してあげるような、“その人ありきの文化を作る”という考え方も必要だと思っています」
モチベーションの維持に重きを置きつつも、「挑戦し続けると疲弊する」をサポートするための福利厚生などの安心も担保。その理由は明快だ。
「その人が僕らの所で働くことで『将来が明るいな』と思ってくれないと。何千、何万人の組織になっても、そう思ってもらえる状態を維持しないとダメになってしまうと思っています」
Refcomeサービス概要はコチラ https://refcome.com/
(文・撮影/天野夏海)