【スシロー×ディップ対談】多様性の秘訣は「徹底分業」!DE&Iのために人材業界ができることとは

株式会社FOOD & LIFE COMPANIES
人財部 部長
森脇 真人 氏
もりわき・まさと/大学在学中、低価格でうまいすしを提供するお店、スシローに出会う。就職活動で運営会社のあきんどスシローから内定を得た際に、企業の成長性を確信し入社を決定。入社後は、店舗マネジメントに従事し、店長職を経験。その後、本社に異動し、教育研修、採用、人事企画、人財開発、障がい者雇用、D&I推進などの様々な人事領域を経験し、2023年4月より現任。

ディップ株式会社
メディア事業本部ビジネスソリューション事業部 事業部長
貫井 恵祐 氏
ぬくい・けいすけ/2006年にディップへ入社し、採用コンサルタント、管理職として従事。2021年に全国規模で店舗を運営するナショナルクライアントを主な顧客とするビジネスソリューション事業部の事業部長に就任。現在150名を超える採用コンサルタントのマネジメントを担う。

労働人口の減少により人材不足が加速する中、従業員それぞれの多様性を活かすことでより高い価値創出を目指す「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」が注目されている。大手回転すしチェーン店「スシロー」を展開する株式会社FOOD & LIFE COMPANIESは、行動指針に「個性あっての多様性。」を掲げ、多様な人財が活躍する企業だ。同社はDE&Iの推進のためにどのような取り組みを行っているのだろうか。また、人材業界においては、採用の面からどのように企業のDE&Iを支えていくべきなのだろうか。

今回は、株式会社FOOD & LIFE COMPANIESの森脇氏と、アルバイト求人情報サイト「バイトル」を運営するディップ株式会社の貫井氏が対談。DE&I推進の取り組みについて語ってもらった。

分業化と積極的なコミュニケーションで多様な人財の活躍を実現

スシローを運営する株式会社FOOD & LIFE COMPANIESでは、年齢や国籍などを問わず多様な人財が活躍している。

森脇氏「現在当社には、社員とアルバイト・パート含め5万名以上の従業員が在籍しています。年齢別に見ると、高校生や大学生など20代以下の方が58.7%と最も多く、店舗営業の主力になっています。その一方で、60代以上のシニア層も約5,400名在籍し、全体の約20%を占めるなど幅広い年代の方が活躍していますね。国籍もさまざまで、約60の国と地域から約4,500名の外国籍の方が働いています」

このように多様な人財が集まっている背景には、回転すしチェーンという業態の特性が関係している。

森脇氏「店舗の営業を成り立たせ、お客様に満足していただけるサービスを提供するには、どうしても多くの従業員が必要になります。現在、スシローには1店舗あたり平均で80名程度の従業員が在籍している状況です。お客様からはホールで働く方々しか見えませんが、実はキッチンの中では10~20名ほど、土日のピークタイムには30名ほどの従業員が働いているんです。

お昼の営業時間帯にはしゅふやフリーターの方に、授業が終わる夕方から夜の時間帯には、学生の方に働いていただいています。そのほかシニアの方には、生活リズムに応じて朝の勤務や夜の閉店作業などをお願いしています。店舗と従業員の状況に合わせて柔軟にシフトを組むことで、さまざまな方が働ける状態を作り、人手を確保しています」

貫井氏「そんなに大勢の方が在籍されているんですね。大人数で業務を円滑に進めるのは統率が大変ではないかと思うのですが、やはり分業化が進んでいるのでしょうか?」

森脇氏「そうですね、分業はかなり進めています。例えば『握り、軍艦のおすしを作る人』『お持ち帰り商品を作る人』『ご飯を炊く人』などに細かく分かれています。仕事をなるべく細かくシンプルにすることで、マルチタスクの苦手な方にもお任せできる仕事が生まれるんです。また、同じ作業を何回も繰り返すことになるので、仕事を覚えやすい点もメリットです。こうした分業化を昔から進めてきた結果として、シニアの方、留学生の方、また障がいのある方にも働いていただけているのだと考えています」

貫井氏「分業化には、黙々と個々の作業に集中できるというメリットもあると思います。一方で、店舗の円滑な運営にはチームや店全体の連携も必要になるのではないでしょうか。業務を行う上で、コミュニケーションの取り方など工夫されていることはありますか?」

森脇氏「おっしゃる通り、黙々と個人作業だけを行っていると仕事としての楽しさが半減し、離職率が上がってしまう傾向があります。定着率を上げるために『全員に1日1回は声をかける』などのコミュニケーションの工夫を社員が行っています。ただし、従業員が多いため社員だけではなかなか手が回りません。そのため、社員だけではなく長年働いていただいているベテランスタッフの方にも協力してもらいながら、働きやすい人間関係をつくっていくことがポイントになります」

多様な人財の特性や個性に合わせた分業化と、積極的なコミュニケーションで働きやすい環境を整えているスシロー。実際に、従業員からは「普段の生活ではあまり関わらない年代の方と働けて刺激になる」との声が上がっているという。

森脇氏「シニア世代の方からは、『若い人たちと働くことができて、自分自身も元気をもらえる』といった声をいただいています。ありがたいことに最高齢87歳の方や、創業当初から勤続30年以上という方にも活躍して頂いているのですが、みなさん若い世代との交流を通してイキイキと働いている印象です。

逆に若い世代の方からは、『学校で知り合えないような人との出会いがある』『コミュニケーションを取りながら一致団結して働くことで、お客様に喜んでもらえる達成感がある』と言ってもらうことが多いです。スシローにはさまざまな方と協力しながら一つの店舗を作り上げていく、文化祭のような面白さがあるのではないでしょうか」

一方、企業側においても、DE&Iの取り組みは採用競争力を高めていく上で重要だと貫井氏は語る。

貫井氏「現在、有期雇用の方は労働人口の約4割を占めており、日本の労働力を支えています。学生やしゅふの方のみならず、シニアの方の就業者数も増加するなど様々な方が働いている状況です。それにともない、企業様には働き方の多様化を進めることが採用競争力を高める一つのポイントだとお伝えしています」

そこでディップ株式会社が運営する求人サイト「バイトル」では、多様な就業機会を創出する取り組みとして、2023年2月に「年齢任意化機能」を実装した。求人企業が応募時の年齢入力について、「任意」または「必須」を選択できる機能だ。この取り組みからは、DE&Iへの姿勢が企業の印象に与える影響も見えてくる。

貫井氏「2023年4月に求職者1,000名を対象として『年齢と求職行動の関係性』についての意識調査を実施しました。その中で『年齢にこだわらない採用を推進している企業への応募意欲は高まるか?』と尋ねたところ、『応募意欲が高まる』と回答した人が63.5%でした」

貫井氏「また、『年齢にこだわらないお仕事を集めた求人サービスへの印象は?』という質問に対しては、全体の69%の人が『好感が持てる』と回答しています。回答の内訳を見てみると10代・20代の若年層からの好感度も70%以上と高い結果となったんです。年齢にこだわらない考え方が、現代の価値観にマッチしているのではないでしょうか」

現場の受け入れ体制構築が採用面での課題に

企業や従業員にとってメリットのあるDE&Iの取り組みだが、多様な人財を採用する上で解決すべき課題もある。

森脇氏「やはり、現場の受け入れ体制をしっかり整えることが一番の課題だと感じています。例えば店長の中には、シニアや外国籍の方の採用に難色を示す方もいるのが現状です。そうした場合の解決策として、育成マニュアルの提供や、さまざまな人財が定着して働けるための支援を、採用とセットで行っていくことが必要だと思っています」

貫井氏「おっしゃる通りで、多様な人財の採用には現場の『受容』が必要だと考えます。ただ、本部から見えている景色と現場から見えている景色は異なっていて、現場には現場の悩みや考えがあります。だからこそ私たちは求人の作り手として、現場に足を運び、実態や課題を知って『受容』に対する支援を進めたいと思っています」

森脇氏「そうですね。実際に当社では、社内での分析結果を元に『学生を獲得する難しさ』や『長く勤めてくれる層』について伝えながら、多様な人財の採用を進めています。こうした情報発信と同時に、店舗で働く方達の意見に耳を傾ける双方向のコミュニケーションをしていくこと。そしてさまざまな人たちが働きやすい状況を作っていくことが、本部の役割だと考えています」

現場の受け入れ体制づくりの他にも課題はある。多様な属性の人財にそれぞれどう求人を訴求していくかも難問だ。

森脇氏「属性別・店舗別の求人を作れたら理想ですが、特に我々のような規模の組織では、店舗の状況に合わせて求人を出すことが難しく、きめ細やかな求人内容の告知がなかなかできていないのが現状です」

貫井氏「人材サービス側から見ても、現状では年齢を理由に応募を諦めてしまう方が非常に多く課題になっています。当社が行ったユーザーインタビューでも、シニアの方からは『自分が応募しても面接してもらえないのではないか』などの不安を抱えて、応募を躊躇する声を聞きました。より良い採用のために、世の中の求人が求職者から見て『自分向けではない』と思わせるものになっていないか、考えることが重要だと思っています。

ディップは求人サイトを運営する企業として、どのポジションにどのような属性の方が必要なのか企業様と認識を合わせて、ターゲットに合った情報発信をしていきたいと考えています。先述の『年齢任意』の施策なども通じて、属性を問わずさまざまな方に就労機会を提供したいですね」

個々の人財に合った働き方を実現するために

さまざまな課題に向き合いながら、多様な人財がよりいきいきと働ける環境を目指しているFOOD & LIFE COMPANIES。同社は2023年1月に子会社である株式会社F&LCサポートの特例子会社認定を取得し、現在は障がい者雇用の促進に向けて取り組んでいる。

森脇氏「F&LCサポートでは、障がい者の方を雇用してスシローや杉玉などの店舗の開店前の清掃をお願いしています。スシローの店舗での業務は、分業が進んでいるとはいえ、営業時間中の勤務は忙しかったり臨機応変な対応が求められたりすることが多く、自分のペースで働くのが難しいと感じる方もいます。そうした方も、F&LCサポートでの清掃のお仕事であれば落ち着いて仕事ができます。店舗スタッフからも『丁寧な掃除のお陰で、お店がとてもきれいになっている!』と好評です。

また、F&LCサポートでは障害のある方のトレーナーとして50~70代の方に活躍いただいています。清掃の指導やチェック、メンバーとのコミュニケーションをお任せしています」

貫井氏「なるほど。雇用の機会を横に広げていくだけでなく、新たに作り出すこともできるわけですね」

森脇氏「そうなんです。先ほどお話したスシローでの分業に加え、F&LCサポートの取り組みを新たに行うことで、全体として当社のダイバーシティ(多様性)への取り組みは比較的進んでると考えています。一方で、エクイティ(公平性)やインクルージョン(包括性)についてはまだまだ改善の余地があると感じています。例えば、外国籍スタッフ向けの作業マニュアル等についてはすべてを多言語化しきれておらず、指導に関しては各店舗の店長に任せきりになっているのが現状です。より多くの方々に長く勤めていただくためにも、様々な面で多様な人財が安心感や納得感を持って働ける環境づくりが必要になると考えています」

「お互いに尊重し合い、一体感を持って働ける職場にしていきたい」と語る森脇氏。一方で貫井氏は、人材サービスの視点から「求職者一人ひとりに合った多様な働き方を推進していきたい」と語る。

貫井氏「我々は、求職者に寄り添う『ユーザーファースト』の考え方を大切にしています。DE&Iの観点も含めて、求職者一人ひとりが自分に合った仕事を選び、多様な働き方ができる状態を目指していきたいですね。取り組みの一環として、当社では2023年4月から『AI エージェント事業』の開発を始めました。テクノロジーの力で求職者自身が気付いていない新しい働き方を提供し、雇用創出の可能性を大きく広げたいと考えています。

企業様に対しても同様に、自身が気付いていない魅力や強みを引き出すサポートを行いたいですね。採用には『人でなければできないこと』と『テクノロジーを駆使した方が効率的なこと』があります。現場に足を運んで企業様の魅力を知り、それを求職者の方に伝えることは『人でなければできないこと』なので、今後も継続していきたいと考えています。これからの採用は、人の力とテクノロジーの力をどう組み合わせて、いかに効果を最大化するかが重要になっていきますね」

森脇氏「おっしゃる通りだと思います。飲食業界でも省力化やDXは進みつつありますが、やはり我々のビジネスは従業員がいないと成り立ちません。だからこそ、これまで飲食業を職場として選択肢に入れていなかった求職者の方が、人材サービスを通して飲食業と出会ってくれたら嬉しいですね。

『飲食業はしんどい』というイメージを持たれている方もいるでしょう。確かにしんどいこともありますが、それ以上のやりがいをダイレクトに感じられる素晴らしい仕事でもあります。自分たちが手がけた商品をお客様に召し上がっていただいて、おいしいと喜んでもらえる嬉しさは何にも代えがたいものです。ぜひディップさんと一緒に、こうした魅力の発信に取り組んでいければと思っています。

当社の企業理念に『はみ出すくらいの挑戦。』という言葉があります。採用の観点でもはみ出すくらいの挑戦をしていくことで、会社の成長や業界の活性化、そして雇用創出による世の中への還元が叶うのではないでしょうか。御社からも、我々の挑戦に繋がるような新しい視点での提案をお待ちしています!」

貫井氏「ぜひ一緒に取り組めればと思います。よろしくお願いいたします!」