EDGE株式会社
代表取締役 チーフエヴァンジェリスト
佐原 資寛 氏
さはら・もとひろ/各業界のリーディングカンパニーをはじめ、HRテクノロジーとコンサルティングを組み合わせた人事課題解決の支援実績は200社を超える。5,500社以上の導入実績を誇る内定者フォローサービス「エアリーフレッシャーズクラウド」の開発および販売、サポート、コンサルティングを統括。採用、人事、マネジメントに関する講演、取材実績多数。2022年7月「成長する組織をつくる1on1マネジメント」(ビジネス社)を上梓。
少子高齢化による労働人口の減少を背景に、新卒採用においても人材獲得競争が激化している。売り手市場が進み複数の企業から内定をもらう学生が増える中、必然的に内定者辞退の発生も増加傾向にある。今回は、内定者フォローサービス「エアリーフレッシャーズクラウド」を運営するEDGE株式会社の佐原氏に、採用競争が激化する中で採用を成功させるための内定者フォローのポイントを伺う。
少子化・人手不足により「選考・内定出し」の早期化が加速
佐原氏によると、近年の新卒採用市場は「選考・内定出しの早期化」に拍車がかかっているという。その背景には売り手市場の加速と、25卒から解禁された選考直結型インターンシップの影響がある。
「2010年代後半に推進された働き方改革の影響で、企業は従業員1人あたりの業務負担を減らすために多くの人員を確保せざるを得なくなりました。ただし2020年からコロナが流行、サービス業を中心に採用控えが起こったので、働き方改革による人手不足感は最小限に抑えられていました。しかし2023年にコロナが5類に移行して以降は、全業界で採用意欲が高まっており、採用競争がさらに激化しています」
少子化の影響で知名度の高い大手上場企業の中でも、内定式が行われる10月以降も採用を継続するところが出始めている。新卒採用の難度が今までにないほど高まる中「なるべく学生を早く囲い込み、人員を確保したい」という焦りから、大学3年〜4年の春という早い時期から内定出しを行う企業が増えている。
「また、25卒から採用直結型インターンシップが解禁されたのも重要なポイントです。解禁以前も、経団連に加盟していない外資系企業やベンチャーでは、採用選考にインターンを組み込むことが当たり前に行われていました。しかし、今後はその競争に経団連加盟企業も加わることになり、選考・内定出しの早期化が一層加速する要因となっています」
実際に、同社のクライアントには3年生の夏休みに内定出しを行う企業もいるという。そこで問題になってくるのが、内定者フォローの長期化だ。通年募集を行う企業が増える中、学生はいつでも就職活動が再開できるため、早めに内定を出したとしても内定辞退が発生するリスクが高まる。このような状況下で、新卒採用における内定者フォローの重要性が高まっているという。
「一方、多くの採用担当者は『内定出しまで』に多くのリソースを割いており、内定者フォローまで手が回っていないのが現状です。選考・採用自体もどんどん早期化し、面白いインターンシップや選考プログラムの企画を練らないと他社と差別化ができなくなっています。新卒向けの採用サービスや支援会社も乱立し、人事のマルチタスク化がどんどん進む中、『内定者フォローなんてとてもじゃないけど無理』というのが担当者の方の本音なのではないでしょうか」
しかし「内定出しまでは親身だったのに、内定出し〜承諾した途端に連絡やフォローがなくなる」という体験は、多くの学生にとって不信感や不安を覚えるきっかけとなる。
「せっかく苦労をして内定を出したのに、内定者フォローを疎かにしたせいで学生との信頼関係が崩れ、内定辞退が発生し、結果採用活動を継続せざるを得なくなる。こういった負のループにはまっている企業が非常に多いんです」
内定辞退を発生させない、内定者フォロー3つのポイント
佐原氏によると、学生が内定者フォローに求めるものは「抱えている不安を解消する情報を、適切な頻度で提供するバランス感覚」だと語る。
「入社後のイメージを明確にしたい、配属などの不安点を解消したいという思いはある一方で、頻繁な連絡やイベントの必須参加など、強制力や距離感が近すぎるとかえって身構えてしまいます。学生さんが抱えている不安に過不足なく対応してあげるのが理想的ですが、このバランスは非常に難しく、頭を悩ませる企業も多いです」
その上で、企業が内定者フォローを実施する際のポイントは以下の3点だという。
「TikTokやYouTube ショートをよく見るZ世代は、何かを購入する際にオフィシャルページではなく、ショート動画などでユーザーの生の声を聞き、参考にすると言われています。採用についても同様で、綺麗で完璧に整理された公式情報よりも、いい意味で編集された感じがない、リアルな雰囲気のショート動画の方が信ぴょう性を感じやすいです。
弊社のクライアントでも、30秒程度のあまり作り込まれていないショート動画を用意し、学生自身が選択して閲覧できる環境を作ったところ、内定承諾率が上がったという企業様がいます。承諾を迷っている学生に対して動画を用いることで、自分と共感できる社員のリアルな姿を見ることができ、『この会社を選んでいいんだ』と背中を押す効果があるようです」
「今の時代は、過去に閲覧したページを元に情報がレコメンドされるのが当たり前の世代。だからこそ、会社のブランドや制度といった画一的なアピールでは興味を引くことができません。それよりも『きちんと個人に向き合ってくれるか』『自分に合ったキャリアや働き方を模索できるか』の方が重要なため、人事担当者は1人ひとりの状況を見ながらフォローをする必要があります。
一方、先ほども言った通り、採用担当者のリソースは限られているため、いかに効率よく個別フォローを実施するかが鍵になります」
「最終面接で『御社が第一志望です』と話してくれていたとしても、内定出しをした時点での入社意欲や、その学生が不安を持っているか否か、内定辞退を考えてるかどうなのかなどといった本音は分からないもの。なので、まずは学生の本音を把握していくことが必須です。
先ほども言った通り、ある程度入社意欲が高い学生に対して頻繁にコミュニケーションを取ってしまうと、かえって敬遠されて入社意欲が下がってしまいます。一方で内定辞退を考えている学生には積極的なフォローが必要です。このように、学生の心境をいかに正確に把握するかも内定者フォローの重要なポイントです」
自前主義を一度取り払い、プロを頼ってみてほしい
EDGE株式会社が運営する「エアリーフレッシャーズクラウド」は、内定者フォローの重要性が現在ほど注目されていなかった2000年代半ばにリリースした内定者フォローサービスだ。学生はSNS感覚で採用担当者や先輩社員、内定者同士と交流が取れるほか、人事にとって煩雑な連絡業務・個別フォローを効率化できる機能を取り揃えている。
佐原氏によると、内定者フォローのやり方は時期によって3段階に分かれる。「エアリーフレッシャーズクラウド」では、学生が閲覧できるコンテンツを段階ごとに出し分けることで、効率的かつ効果的に入社意欲を引き上げることが可能だ。
「まだ『内定承諾する』という意思決定がされていないため、本人が納得感を持って承諾できる情報を提供することが重要です。また、Z世代の特徴はタイムパフォーマンス(タイパ)重視で、コミュニケーションの面でも効率を求めること。そのため企業側も『対面で話を聞きながら』『じっくり吟味して選んでもらおう』と腰を据えるのではなく、内定承諾期間内までに自社の魅力をアピールし切る必要があります。
『エアリーフレッシャーズクラウド』では、承諾前の学生を含むその会社の内定者に向けて、動画や写真をアップロードできます。見た目もSNSに近いタイムライン形式で、内定承諾の背中を押すコンテンツに学生が気軽にアクセスできるようになっています。また学生のアクセスデータを元にAIが学生の心境を分析し、入社意欲が下がっている学生を採用担当者にアラートを出すことも可能です」
「この段階は、承諾をしてくれているのである程度入社意欲は高いものの、今より良い条件の会社を見つけると心変わりしてしまう時期です。この時期は、先輩社員や内定者同士の交流の場を作るようにすることをおすすめしています。学生にとっても、同期メンバーにどんな人がいるかはとても興味・関心の高い情報です。早めに同期とつながっていれば、同期にどんな人がいるかという情報ニーズを満たすとともに、内定者や先輩社員との結束を強めておくことができ、思わぬ離脱を防げます。
もちろん『エアリーフレッシャーズクラウド』でも、内定者同士がプロフィールを閲覧できる機能や、自己紹介や写真・動画を上げられるコミュニティ機能があります。こういった機能で内定者同士のコミュニケーション状況を見ることで、採用担当者も内定者のパーソナリティーに対して理解を深めることができます」
「内定式を行う10月以降から入社直前は、入社する意志がほぼ固まっている時期。ここで重要なのは学生を『お客様扱い』しないことです。入社直前ギリギリまでお客様扱いしてしまうと、入社後のギャップが大きくなりすぎてしまい、最悪の場合早期離職につながります。10月から入社直前にかけては『社会人になる準備期間』と捉え、内定式以前とはスタンスを大きく変えて、内定者教育や連絡を行うようにしましょう。
『エアリーフレッシャーズクラウド』でも内定者向けのe-ラーニングコンテンツを用意しており、ビジネスマナーやビジネスマインドなどの社会人として必要な心構えを学んでもらうことができます」
同サービスの最大の強みは、累計5,500社以上で内定者フォローのサポートを行ってきた実績だ。40万人以上の内定者の内定出し〜内定承諾/辞退〜入社のビッグデータがあるからこそ、内定者の入社意欲を正確に判断できるという。また、現在は内定者フォローの3段階目である「社会人の準備期間向けコンテンツ」のニーズが増えており、サービス拡充をさせる予定と佐原氏は語った。
「内定者フォローは、深い学生理解とコミュニケーション戦略が求められる施策です。社内の採用担当の方が自前で設計・企画・運営をやり抜くのは、工数面でもスキル面でももはや難しい状況です。採用支援の会社が乱立している状況ではありますが、きちんと伴走してくれるプロの力を借りていかないと、採用がうまくいかない時代になってきていると思います。入社後の定着・活躍を見据えて、ぜひ我々のような経験豊富な会社に頼っていただきたいですね」
(鈴木智華)