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2025年HR業界の上場情報まとめ!上場・廃止企業の時価総額や決算情報の変化を比較してみた

2025年、HR業界では2つの人材企業が新たに上場し、3つの企業が上場廃止を決定しました。各企業はどのような戦略に基づいて上場・廃止し、どんな未来の戦略を描いているのでしょうか。各企業の時価総額や決算データを比較し、直近どのような変化があったのかを分かりやすくまとめて比較していきます!

そもそも上場とは?

そもそも上場(IPO)とは、企業が株式を証券取引所に公開し、投資家が自由に売買できるようにすること。

日本最大の証券取引所である東京証券取引所(東証)は、企業規模や成長性に応じて以下の3つの市場区分を設けており、国内企業のほとんどは下記のいずれかの市場で株式を公開します。

  • プライム市場(大企業向けで、世界的な投資家との取引を前提とした市場)
  • スタンダード市場(プライムとグロースの中間に位置づけられる市場)
  • グロース市場(比較的規模の小さいベンチャー企業等が参加する市場)

上場するためには厳格な審査を通過する必要があり、財務状況が良好であることや、透明性の高いガバナンス体制が求められます。

上場することは、地元の小さな店舗がECサイト(証券取引所)でオンラインショップを開設することに似ているかもしれませんね!

オンラインショップを開けば、地元の人だけでなく、全国の人たちと接点を作ることが出来るようになります。これと同じように、企業は証券取引所によって多くの投資家にアクセスできるようになるのです。

企業が上場するメリット

上場の最大のメリットは、株式市場を通じて世界中の投資家から資金を得られることです。

未上場企業は銀行からの融資やベンチャーキャピタル(未上場企業を対象とした投資会社)からの出資など、資金調達の選択肢に限りがあります。一方、上場企業は株式市場から資本を調達できるため、より多くの投資家から資金を集めやすくなり、結果として大きな資金を得られる可能性が高まります。

また上場することで会社の知名度やブランド力が向上するため、仕事の取引や人材獲得にも好影響があります。

時価総額とは?

時価総額とは、その企業の市場価値を示す指標であり、上場企業では「株価 × 発行済株式数」で求められます。

また上場直前に売り出された株の金額は「公開価格(公募価格)」、上場初日に最初に取引される価格は「初値」と呼ばれます。初値が公開価格より大きく上昇していれば、市場がその企業の成長に期待していると考えられます。

初値がついた後も株価は日々変動し、企業の時価総額もそれに伴って変化します。時価総額が高い金額で安定している企業は、堅い事業基盤を持ち、投資家からの信頼を得ていると判断されることが多いです。一方、時価総額が低かったり、変動が大きかったりする企業は、成長期待が高い反面、リスクも大きいと見なされます。

このように、時価総額は単なる会社が持つ資産の合計ではなく、市場からの期待を反映したものだと言えるでしょう。

時価総額はスポーツ選手の契約金にも似ていますね。選手の活躍や今後の期待に応じて金額が高くなり、逆に調子が悪ければ下がるように、企業の時価総額も業績や市場からの期待によって変動していきます!

2025年は人材業界から2社上場する一方、3社が上場廃止に

2025年の株式市場は買収が活発化し、100社以上が上場廃止となりました。人材業界でも資金調達戦略を見直し、上場廃止する企業が複数現れています。ここでは2025年に上場した人材系企業2社と、上場廃止した3社の特徴と時価総額・決算を分析して、人材業界の最新動向に迫ります!

新たに上場した人材系企業2社の基本情報

TalentX

株式会社TalentXは2018年設立、企業が採用マーケティングを内製するための採用DXプラットフォーム「Myシリーズ」を提供する企業です。

AI・自動化技術を活用し、転職潜在層へのアプローチを効率化、従来の人材紹介や求人広告に依存しない人材獲得をサポートしています。

2025年3月18日に東証グロース市場へ上場を果たし、同社は「営業の世界がCRMによって変革されたように、採用競争力を強化する採用CRMを日本に創出し、HRの歴史を塗り替えたい」と意気込みを語っています。

ムービン・ストラテジック・キャリア

2000年設立の株式会社ムービン・ストラテジック・キャリアは、日本初となるコンサルティング業界特化型の人材紹介会社です。

「コンサル志望者向け」「金融志望者向け」などハイエンド職種に特化したサイトを複数運営しており、自社で求職者を集客できる強みがあります。

2025年10月6日の東証グロース市場上場時、同社は「プロフェッショナル人材がキャリアのあらゆる局面で頼れる『生涯キャリアハブ』へと進化途上」だとコメントしています。

2025年新規上場した人材系企業2社の時価総額動向を解説!

新たに上場した人材系企業2社の時価総額と、最新の通期決算を以下の表にまとめました。

上場時の時価総額規模で見ると、ムービン・ストラテジック・キャリアが初値ベースで約203億円、TalentXが約57億円の値をつけました。

上場時から、各企業の時価総額はどのように変化しているのでしょうか? ここでは2社の上場後の動きと、時価総額の動向について解説します。

TalentX

2025年3月18日に上場したTalentX。初値は1,026円と公開価格750円を36.8%上回り、初値ベースの時価総額は約57億円となりました。25年3月期の通期決算では売上高14.3億円(YoY+34.9%)、純利益は3.6億円(YoY+1260.2%)と増収・増益を達成し、時価総額を大きく伸ばしました。

上場した背景について、「採用マーケティング領域でブランドポジションを確立し、採用の優位性と営業上の信頼感の向上を狙いたい」と説明している同社。7月28日には「タレントアクイジションカンファレンス」を主催するほか、積極的なメディア露出を行い、同社の思想とフレームワークを広めるマーケティング施策を展開しました。

さらに、フリーランスのプロ人事による採用支援サービス「すごい人事シリーズ」を提供するCrepe社を含め2件のM&Aと1件の事業提携を実施。既存事業をさらに加速させるべく、アライアンス・M&Aを強化する動きも見られます。

上記のような投資を行いながらも、26年3月2Qの累計営業利益は1.6億円(YoY+17.3%)、通期業績予想に対して53%と堅調な進捗率となっており、今後も安定的な成長が期待されます。

ムービン・ストラテジック・キャリア

2025年10月6日に上場したムービン・ストラテジック・キャリア。初値ベースの時価総額は約254億円で、公開価格ベースを20.3%上回りました。求職者集客を外部のスカウトサービスに頼らず自社で完結させ、高い利益率を実現している点が投資家から評価された形です。

11月に発表された25年12月3Qの決算発表によると、累計売上高28.3億円(YoY+68.8%)、営業利益14.3億円(YoY+155.6%)と大きく伸長、それを受けて株価はさらに上昇しました。キャリアアドバイザーの新規採用・早期戦力化に取り組んだ結果、採用支援数が順調に増加したことが、今回の売上増加に寄与しているようです。

同社は今後の戦略について「自社プラットフォームの強化やM&Aにより、求職者データベースの拡大を図る」としています。

2025年に上場廃止した人材系企業3社の基本情報

トライト

株式会社トライトは医療福祉と建設分野を中心に、紹介・派遣などの人材サービスやICTソリューションを提供するグループ会社です。

2023年7月24日にグロース市場に上場しましたが、2025年にアメリカの投資ファンドであるカーライル・グループによる公開買付け(TOB)(※)が成立し、同年9月24日に上場廃止となりました。

公開買付け(TOB)とは:特定の企業の株式を、株式市場ではなく市場外で、あらかじめ提示した価格と条件で一括して買い集める手法のこと。

サーキュレーション

株式会社サーキュレーションは2014年設立、ビジネス上の課題解決の専門家である「プロ人材」のシェアリング事業を行う会社で、2021年7月27日にグロース市場に上場しました。

2025年にAIソリューションを提供する株式会社PKSHA Technologyが、同社の株式等を公開買付け(TOB)により取得し、完全子会社化。9月19日に上場廃止となりました。

カオナビ

株式会社カオナビは、タレントマネジメントシステム「カオナビ」の開発・販売を行う会社です。上場年は2019年。2025年6月11日、アメリカの投資ファンドであるカーライル・グループによる資本参加を受け、上場を廃止しています。

代表取締役社長CEOの佐藤 寛之氏は、今回の上場廃止の背景について「成長には短期的収益に縛られず、中長期視点で投資判断や戦略転換ができる体制が重要」とコメントしています。

2025年に上場廃止した人材系企業3社の時価総額動向を解説!

上場廃止直前の決算を見ると、3社とも増収を達成するも、トライトとカオナビは大きく減益する結果となりました。

上場時から株式非公開化にかけて、各企業の時価総額はどう変化しているのでしょうか? ここでは3社の上場廃止までの動きと、時価総額の動向について解説します。

トライト

2023年7月24日に上場したトライト。初値ベースの時価総額は、公開価格を5.6%下回る1133億円を付けました。

同社は23-25年度の中期経営計画「TRYT 2025」にて、紹介・派遣などの既存事業を中核に、ダイレクトリクルーティング(DR)・ICTソリューションといった新規事業を立ち上げる多角化戦略を掲げています。

その初年度となる23年決算では、既存・新規事業ともに好調で、売上高約528億円(YoY+19%)、純利益約4.9億円(YoY+22%)と二桁成長を達成。株価も右肩上がりに推移しました。しかし翌24年決算では、求職者獲得がボトルネックとなった結果、既存事業が伸び悩むことに。売上高約571億円(YoY+8%)、純利益約2.9億円(YoY-40%)と、前年比減益となりました。

そして2025年6月、カーライルによるTOBを実施。上場廃止後は、カーライル・グループの投資先企業と連携してマーケティングを強化し、中長期的な成長につなげるとしています。

サーキュレーション

2021年7月27日、サーキュレーションはグロース市場(旧マザーズ市場)に上場し、初値ベースの時価総額は約261億円と公開価格を77%上回りました。市場の期待は高く、一時は時価総額が400億円を超える場面もありました。

上場後に公表された2021年7月期決算では、純損失こそ約1,400万円を計上したものの、売上高は約55億円(YoY+37.8%)、純利益は約4.5億円と堅調に成長していました。

2022年に黒字転換を果たしましたが、世界的な金利上昇の影響や代表取締役の異動に伴う経営体制の変更、コンサルタント採用・育成の停滞が重なり、株価は低迷気味に。2024年7月期の決算は減収・減益に転じましたが、上場廃止前後と重なる翌期には売上高約88億円(YoY年比+14.9%)、純利益約2億円(YoY+43.6%)と業績を回復させました。

こうした中で、サーキュレーションはPKSHA Technologyと2024年6月に業務資本提携を締結し、プロ人材のデータとAI技術の統合によって企業価値を高める施策を進めています。PKSHA TechnologyのTOB実施によるサーキュレーション子会社化は、こうした両社の連携を強化するための判断と言えるでしょう。

カオナビ

2019年3月15日にグロース市場(旧マザーズ市場)に上場したカオナビは、公開価格のおよそ2倍となる初値をつけました。同年4月には働き方改革関連法の一部が施行され、HRTechサービスに追い風が吹く中での上場でした。

上場後初となる19年3月期決算では、売上高が約16.9億円(YoY+77.5%)と大幅に伸びた一方、積極投資をした影響で純損失は約9,600万円に。21年まで赤字の状況が続いたものの、市場は引き続き同社の成長に期待を寄せており、時価総額は堅調に推移していました。

そして2022年3月期には売上約45億円(YoY+32.2%)、営業利益約1.7億円と黒字転換を達成。その後も年間売上高20%以上の高成長を維持しています。しかし、競合の登場やSaaS銘柄への期待が落ち着いた影響で、株価は下降傾向にありました。

上場廃止直前の25年3月期決算では、売上は約95.1億円(YoY+24.8%)と引き続き伸長しました。一方、再び積極投資路線へと舵を切ったことで、純利益は約3億円と前年比で57.7%減少しています。上場廃止について代表の佐藤氏は「5年後の再上場を見据えた意思決定」とコメントしており、今後の同社の動きが注目されます。

まとめ

2025年は2つの人材企業が新規上場する一方、3つの人材企業が上場を廃止しました。人材市場そのものは成長を続けているものの、各企業の市場評価の違いが一層鮮明になりました。

市場からの評価を受けて今後各社がどう戦略を定め、実行していくのか。その動向に引き続き注目が集まります。

(鈴木智華)

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