株式会社ブレイン・ラボ
代表取締役社長
中江 典博 氏
なかえ・のりひろ/2014年に株式会社じげんに入社、2015年よりブレイン・ラボのPMIに参画し、中堅~大手の顧客に対するシステムの導入を通じて、事業コンサルティングからIT戦略の立案まで幅広い支援を対応。2017年より取締役に就任、2020年7月より代表取締役に就任。人材業界の発展と同社ビジョンの「blooming ~「はたらく」から、人生を豊かに ~」をテクノロジーの活用で実現していくことをミッションとしている。
コロナ禍をきっかけに、DXという言葉を目にする機会が増えた。しかしDXには関心があっても、具体的なDXの進め方はよくわからず困っている企業も多いのではないだろうか。今回は人材派遣・紹介向け基幹システムを提供する株式会社ブレイン・ラボの代表取締役である中江氏に、人材派遣会社がDXを実現する方法論を伺った。
派遣会社は「現場DX」を目指すべき
まず、デジタルトランスフォーメーション(DX)とはどういったものなのだろうか。
「DXという言葉は半ばバズワード化していますが、大きく2つの文脈で使われていると思います」
「人材業界でDXに最も成功した企業といえばリクルートでしょうか。求人メディアとしてタウンワークなどが社内にある中で、2012年に求人検索エンジンであるIndeedを買収し成功を収めています。既存事業との社内競合が予想される中で、買収を行い次世代の収益の柱に育てた経営手腕は大変なものだと思います。
またタレント管理SaaSのカオナビへの出資やリクナビHRTech採用管理の提供は、人事データを起点としたビジネスモデルへの転換を模索しているものと考えられます。典型的なDXの取り組み事例です」
「この文脈で使われるDXという言葉は、デジタル化と言い換えても差支えありません。具体例としては案件・求職者をシステム上で管理できるようにする、契約書の提示・回収をオンライン上で実施できるようにするなどが挙げられます。
デジタル化を実現することで、案件・求職者管理の工数や帳票の作成・管理コストを大幅に削減できます。また、マッチングや進捗管理もシステムのサポートが得られるため、成約率の改善という形での売上貢献もできます」
中江氏によるとこれら二つのDXは密接な関係にあるという。
「というのも『既存業務のデジタル化』が実現できて、はじめて『ビジネスモデル・組織の変革』としてのDXに挑戦できるからです。弊社では①を『経営DX』と呼び、②を『現場DX』呼んでいます。そしていきなり経営DXに取り組むのではなく、まずは現場DXから始めるべきなのです」
ではなぜ、いま多くの派遣会社が「現場DX」に取り組むべきなのだろうか? 中江氏によると、コロナ禍を契機に派遣業界のデジタル化が急速に進みつつあることも大きな理由の一つだという。
「中堅・大手派遣会社を中心にテレワークやオンライン上での面談が浸透しつつあります。また、これは序章に過ぎません。今後派遣業界においては業務プロセスがデジタル化し、蓄積された案件・求職者データを活用して事業運営をおこなうことは当たり前となるでしょう」
求職者もより利便性を追求し、「自宅でWEB登録・応募できる」「希望に沿った案件をWEB上で紹介してもらえる」派遣会社を選ぶようになる。これまでデジタル化とは無縁だった中小規模の派遣会社も、対応を求められるようになるだろう。
「またコロナ禍での生き残りのためにもDXは必要不可欠です。サービス業を中心に雇用が失われており、派遣会社の中でも売上が6割ほどになってしまったというところもあります。
そのような中でも売上を回復するためには『企業の雇用ニーズをリアルタイムで取得し、集計・分析できる仕組み作り』や『定型業務を削減し、営業活動に時間をあてる効率化』に取り組む必要があります。そしてこれらの取り組みは、現場DXの得意分野です」
「現場DX」の実現が難しい3つの理由
多くの派遣会社がDXに取り組む必要性に気づいているものの、実際にDXのファーストステップである現場DXをおこなっている企業は少数だ。現場DXが進まない理由とは何なのだろうか。
「人材派遣は人材紹介に比べて納期が短い要求も多く、丁寧かつ迅速な対応をしないと信頼を勝ち取ることができません。多くの企業が対応速度を優先してしまった結果、現場DXに必要なデータ入力がどうしても後回しになりがちです」
「技術者派遣など例外を除き、多くの派遣会社が紹介できる求職者や案件の中身で短期間に差をつけることは難しいです。賃金やマージン率も同様です。結果として無理な要求への対応力・スピード力勝負になってしまうことも、現場DXを阻害する要因となっています」
「顧客企業、スタッフ、社内メンバーなど多くの関係者はアナログ対応が当たり前です。システムや人材投資まで手を回す余裕がないまま、既存の対応を続けてしまっているのも現場DXが進まない理由の一つです」
実際に派遣会社の経営者の中には、成果を出す上で大切なのは①スピード ②量 ③質の順だと話す人もいるという。スピードを重視せざるを得ないビジネス構造がDXへの取り組みのハードルを上げているようだ。
「『データ入力と蓄積』は人材派遣の営業・コーディネーター部門における現場DXの基本です。しかしそれらのデータ整備と『売上』の両立が、ビジネスの特性上難しいのです」
「現場DX」実現の壁を乗り越える方法
では、現場DXを実現するために派遣会社はなにから取り組むべきなのだろうか?
「まずは『業績改善に直結する、デジタル化すべき業務の特定』から始めるべきです。売上を伸ばすには新規契約数を改善する必要があり、そのためには以下の指標の向上が必要になります」
①求人媒体への掲載スピード・頻度
②応募への対応速度
③案件と求職者のマッチング率
「これらの指標を考えてみると、例えば面談をオンラインに切り替えたり、契約書の電子化したりするだけでは大きな業績改善には繋がりづらいことがイメージできるのではないでしょうか」
またコスト削減も同様に、様々な業務の中でも工数が多く発生している業務を優先的にデジタル化するべきだという。業績アップというゴールに向かってなにをデジタル化するべきかという見極めが必要になるだろう。
「一定規模の派遣会社になっていくと、既に勤怠・給与・労務管理のシステムは導入済みで、さらに効率化するうまみは少ないと思います。一方で、案件・求職者を管理し、マッチングや成約までの進捗管理を行うシステム(フロントシステムと呼びます)は未導入や簡易的なものになっているケースがあり、その場合はフロントシステムを強化するメリットが大きいはずです。
立ち上げ段階や小規模の派遣会社であれば、システム導入や乗換えコストが少ないため、最初から全ての派遣業務を一元化できるシステムを入れることも検討してもよいかと思います」
派遣会社がシステムを導入する際に、気を付けるべきことは何なのだろうか。
「全てを挙げることは難しいですが、今回は営業・コーディネーター部門の場合でご説明します」
「案件・求職者管理のデジタル化は、データが入力・蓄積されて初めて成果を発揮します。先ほどもお話したようにこの業務と売上の両立が難しいため、この負担を減らす工夫をする必要があります。例えば求人媒体とシステムを連携させ、案件の掲載業務を効率化することなどが挙げられます」
「システムを導入しても、現場に使ってもらえなければデジタル化は不可能です。デジタル化は現場メンバーが入力管理するデータによって成り立つためです。現場任せにせず、システムの機能を活用し、受注につながる成功体験を積めると一気にシステム導入が進むと思います」
「システム選定の基準が費用面であったり、逆に機能の充実度で選定してしまったりする企業の方がかなりの割合でいらっしゃいます。私自身も会社を経営し、社内業務のデジタル化を推進する立場にあるため、気持ちは痛いほどわかるのですが『現場がシステムを使いこなせるか』がとても重要になってきます。いくら安価で機能が充実していても、現場が使いこなせなければ意味がないのです」
・画面や操作方法が直感的かつシンプルで分かりやすいか
・外出時や移動中の隙間時間で情報の入力や閲覧ができるか
・非エンジニアのメンバーでもシステムのカスタマイズが実施できるか など
「同様に導入支援が充実しているシステム会社を選ぶことも重要です。こちらも見落とされがちですが、会社によってサポート体制の充実度は様々です。上記であげたような導入成功のノウハウをもち、伴走者としての役割を果たせるパートナー選びをおすすめします。
他にも様々な工夫やノウハウをまとめた資料を公開しましたので、派遣DXに取り組みたい方はぜひご覧ください」
中小企業向け 失敗しない派遣DXの始め方(株式会社ブレイン・ラボホームページより)
1000社以上の支援ノウハウを結集し開発したマッチングッド
ブレイン・ラボではこれらの「現場DX」を実現する派遣会社向けシステムを2021年5月中旬にリリースしたという。
「ブレイン・ラボでは2016年から小規模の派遣会社向けに『マッチングッド1st』というシステムを提供していており、お客様からたくさんの要望をいただいていました。今回リリースした『マッチングッド派遣』は、これまでのノウハウを注ぎ込んだものになります」
「マッチングッド派遣」の活用方法は大きく2パターンある。
「案件・求職者管理から派遣後の管理まで一元管理できます。業界では珍しいクラウド型システムのため、リモートワークの外出時でも利用できます。全ての派遣業務を一元化できるため、コスト削減や工数削減にもつながります」
「応募管理・マッチング業務特化型のシステムとしても利用可能となる予定です。案件・求職者管理、マッチングの効率化を目的としたシステムとなります。
また今後もスタッフマイページや地図マッチングなどの機能をリリース予定で、API連携や個社開発も活用することで、自社にあわせた高度なシステムとして運用可能なものにできます」
「今後も『現場DX』から『経営DX』まで一気通貫して支援できる、人材派遣・紹介会社にとって必要不可欠なパートナーを目指していきたいです。そのためにも使いやすさと業績貢献、両方にこだわった製品を開発し、中堅~大手企業様向けの高度なデジタル化を支援できるノウハウや製品を更に充実させていきたいと思います」