派遣DX大全!業績が伸びている派遣会社の新デジタル常識とは【ウェビナーレポート・2021年6月24日開催】

新型コロナウイルスの影響でさまざまな業界からDXに注目が集まる中、派遣会社にもデジタル化に向けた対応が求められるようになりました。派遣業界でもDXが新常識となりつつある一方で、具体的にどのようなことに取り組めばよいのか、目指すべきゴールがわからないという人もいるのではないでしょうか。

2021年6月24日に開催した、5社合同ウェビナー「派遣DX大全!業績が伸びている派遣会社の新デジタル常識とは」では、派遣業界の各領域で活躍する会社の担当者とHRog編集長の菊池が対談。人材業界におけるDXについての考え方や取り組み方のほか、DXの重要性について話を聞きました。

(上段右)登壇者:株式会社キャスティングロード 採用コンサルティング事業部 次長
山下 有人(やました ゆうと)氏

(上段中央)登壇者:株式会社ブレイン・ラボ マーケティングチームリーダー
羽田 千奈津(はだ ちなつ)氏

(下段右)登壇者:オンサイト株式会社 取締役
唐松 孝明(からまつ たかあき)氏

(下段左)登壇者:株式会社enigma 代表取締役
小口 敦士(おぐち あつし)氏

(上段左)モデレーター:株式会社フロッグ 代表取締役
菊池 健生(きくち たけお)

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そもそもDXとは何か?異なる事業領域から見る「人材業界のDX」

フロッグ菊池「一般的に、DXは『ITの活用を通じてビジネスモデルや組織を変革すること』と捉えられていますが、改めて整理すると3つの要素に分けられると思います。

1つ目は『データ活用』。データを貯め、分析して、そこから施策やアイデアを導いていく取り組みです。
2つ目は『業務の変革』。今ある業務を置き換えていくことを指し、デジタルシフトとも言います。
3つ目は『CXの向上』です。CXとは顧客体験のことですが、派遣業界では派遣先企業だけではなく派遣スタッフとして働く人もお客さまに置き換えられます。これら3つが積み重なることで、DXによる競争優位性の確立が実現できるのではないでしょうか。

ここからは皆様に、DXをどのように考えているかお伺いしていきます」

攻めのDXと守りのDX 2つの軸で競争優位性を高める

ブレインラボ羽田「DXを通して企業がやりたいことは大きく2つに分かれます。1つはデジタルシフトによる業務効率化などの『コストの削減』。もう1つは、派遣会社の提供価値を高める『売上の向上』。これらを私たちは『守りのDX』『攻めのDX』と呼んでいます。

例えば弊社では人材派遣用管理システムを提供していますが、これは主に守りのDXに使っていただけるツールです。DXのゴールはいかに利益を出すかという『競争優位性の確立』ですが、その方法としてこの2つの軸での考え方があると思います」

フロッグ菊池「なるほど。では集客支援を行う唐松さんにお聞きしますが、『守りのDX』『攻めのDX』という2軸で考えると、派遣集客のDXはどんなイメージでしょうか?」

オンサイト唐松「集客においては『攻めのDX』が重要になると思います。実は、集客のあり方についてはIndeedがとても大きい影響を与えています。今までは企業からの求人を派遣会社が受け取り、派遣会社が集客のために求人サイトを使い、その先に求職者がいるという集客の形が一般的でした。しかしIndeedの登場により、求人サイトに掲載した求人もすべてIndeedに集約されるようになりました。

そうなると、求人する企業も直接Indeedに掲載すればいいということになる。つまり、求職者と雇用者のマッチングがデジタルの力によって簡単・低コストでできるようになったわけです」

フロッグ菊池「そうなると、人材会社の価値は相対的に下がっていくことが予想されます。その中でいかに価値を出していくかが重要になりますね」

オンサイト唐松「私は人材会社の価値というよりも、求職者と雇用主をただ単に出会わせるマッチング機能の価値が相対的に下がると思っています。対策としてマッチング機能に特色を出すのも一つの手段ですし、マッチング以外の部分で差別化していくのも効果的です。これが先ほどの話で言う『攻めのDX』にあたる部分です」

ブレインラボ羽田「私も同感です。今では、ただ単に大量の派遣スタッフに大量の案件メールを送るようなやり方では成果を上げられなくなっています。それこそIndeedなどを利用して、派遣スタッフが自分で案件を探しに行けるからです。

しかしやっぱり自分だけで探せる範囲は限られてきますし、探しに行くのが苦手という方もいます。そのような場合に適切な対応ができるようDXを進め、派遣会社としてのマッチングの価値を向上していくことが重要になります」

フロッグ菊池「DXは単なるIT化ではなく、テクノロジーの導入によって事業上の強みをしっかり作ることに本質があるということと紐づいてきますね。DXに前向きな企業が増えている中で、DXのためのサービスを提供する企業は『顧客にどんな強みを持たせるために、どんなサービスを提供するのか?』を考えることも重要だと思いました。では小口さんから見ていかがでしょうか?」

enigma小口「弊社の事業領域では、逆に『守りのDX』、つまりコスト削減が重要な軸になっています。弊社は前払い給与サービスを運営していますが、手作業だった給与振り込みをシステム化することで業務効率化が実現し、結果的にコストが削減できます。

これを派遣社員側から見ると、システム化によってスムーズに給与が支払われ、好きなタイミングで給与を受け取れるのでCXが向上します。デジタル化によって売上を上げる、あるいはコストを削減するだけでなく、その先にCXの向上があることがDXのポイントではないでしょうか」

現場の『気持ちのDX』から始める

フロッグ菊池「では続いて、実際に人材派遣を行っている企業から見た派遣会社のDXについて伺いたいです。現状、派遣企業ではどれくらいDXは進んでいますか?」

キャスティングロード山下「派遣業界ではまだまだDXは進んでおらず、アナログな運用が続いています。なぜ進まないかというと、社員に『どこから改善していこう』という考えや気持ちが出てこないことが一因です。例えば、ルーティン営業など伝統的な成功体験がある業務に対しては、現場がやり方を変えることに消極的な場合があります」

フロッグ菊池「ルーティン化された現場業務に合わせたオペレーションを組んでいますからね。現行の方法を一度崩して新たなシステムを導入するのは心理的な障壁がありそうです」

キャスティングロード山下「そんな中でどのようにDXに取り組むべきかを考えると、『気持ちのDX』がキーワードになると思っています。DXのゴールに『利益の追求』を置くか『自分のインセンティブ』を置くかはそれぞれの社員のポジションによって違いますが、最終的な会社全体の利益追求に向けて、社内のみんながDXに取り組む心構えが重要です。

だからこそ『DXをやってみた』現場への評価を行うことも大事ですよね。動機設定を個人に任せるだけでなく、変革に取り組む姿勢をしっかり評価する仕組みも必要です。現場のことをわかっていないのにDXに取り組んでもうまくいきません。

また現場も、評価されないのなら難しいことはやりたくないのが本音でしょう。現場の状況をいかにキャッチアップし、DXに対するモチベーションを高めていくか。リーダーの力が、DXの成功を左右する分かれ道とも言えます」

フロッグ菊池「そう考えるとDXは組織作りそのものだと感じますね」

なぜ今DXが重要なのか?外部要因による社会の変化で高まる必要性

フロッグ菊池「お話を聞く中でDXの輪郭が見えてきましたが、ここからは、なぜ今DXが重要視されているのかという観点でお話を聞いていきたいと思います」

ブレインラボ羽田「最も大きな要因としては、労働市場が劇的に変化していることが挙げられます。その要因の一つとして挙げられるのは様々なサービスの台頭による競争の激化です。派遣市場がある程度成熟してしまった今、勝ち残るためには自社の価値や強みを生み出し差別化する必要があります。それを原動力に積極的にDXに取り組む企業が増えています」

enigma小口「それに伴って、人材派遣ビジネスのビジネスモデルが変化するタイミングなのかなと思っています。マッチングすること自体にはもう特別な価値がない状況の中、新しいビジネスモデルを作るためにはシステム化や電子化などを取り入れて付加価値を生む必要があります。弊社の事業を例に出すと、『電子マネーで給与の支払いができる』を売りにした新たな派遣会社のビジネスモデルを作っていくイメージです」

フロッグ菊池「最近は、5Gの登場やDX投資促進税制の創設、また新型コロナや景気の動向など、さまざまな外部要因が関係して、DXに注目が集まっていることを実感しますね。環境そのものが大きく変わり、経営者などは現場の現状を把握するのと同時に、派遣の受け入れ先企業と派遣で働くスタッフの両方に対して、自社が選ばれるための提供価値を検討していく必要があります」

ブレインラボ羽田「また、一部の人材派遣会社ではもうすでに求職者側のDXが加速しています。既にオンラインでの職場見学やリモート派遣も始まっており、そこに対応できない人材派遣会社はその時点で選択肢から外されてしまいます。これまでは大手企業の一部が取り組んでいたDXですが、社会の変化に対応するために中小企業でもDXに取り組まざるを得ない段階にきています」

オンサイト唐松「デジタル対応が最低条件になりつつあるので、『使いこなせないと!』と危機感を覚える企業も増えているんじゃないでしょうか。しかし使いこなせていても、それを攻め(売上の向上)に使うか守り(経費の削減)に使うかの判断も重要です。勝ち筋をアナログにして、それ以外のところでデジタル化をして徹底的に効率化することも、DXの一つの方法だと思います」

フロッグ菊池「コロナによるダメージもありましたが、web面接やウェビナーなどをオンラインで簡単に開催できるようになるなど、一概に悪い影響ばかりではなかったとも感じます。環境が変化した中で、事業や組織のあり方について見直しを迫られる時代ではありますが、オンライン化の流れをうまく活用して、派遣業界における各領域の企業でDXを拡大していけると理想的ですね」