ディップ株式会社の決算分析(2016年2月期)

概況

「バイトル」、「はたらこねっと」、「ナースではたらこ」を運営しているディップ株式会社の2016年2月期決算短信が、2016年4月13日に発表されました。

売上高は前年同期比37.2%増の267億9,800万円、営業利益は前年同期比49.0%増の71億6,200万円と両方とも過去最高を更新し、当期純利益は前年同期比63.7%増の46億7,500万円に達しました。

20160426_matome1

ブランディングによって採用の失敗を回避する

ディップは、『日本経済新聞』東証1部(株)価値値上がり率ランキングに2013~2015年3年連続でトップ10入りし、また、『週刊東洋経済』(2015年12月21日発売)の特集記事「2016年に買える株 投資の達人の儲け方」に、「優良好収益株」第1位として掲載されるなど、その圧倒的な業績が大きく注目されています。

1株あたりの配当金額も、2013年2月期1.60円、2014年2月期4.60円から、前期には15.60円と急増しました。
当期の予定は26.00円、更に来期には31.00円が予想されるなど、絶好調の状況を呈し、株主優待制度も拡充されています。

当事業年度の損益計算書から見て取れるように、費用の大半が広告宣伝費と給与手当に使われています。
また、2016年2月期決算説明会資料に示された来期の戦略として、媒体力強化・プロモーション強化・営業力強化の3つを掲げています。
これらのことから、ディップの強さの要因は、広告戦略と人材戦略とにあると考えられます。

そこで今回は、2016年2月期決算短信、決算説明会資料等をもとに、まずはセグメント別売上高を概観し、その後、広告戦略と人材戦略について分析していきます。

セグメント別売上高

ディップの事業はメディア事業とエージェント事業の2つから成ります。
メディア事業には、インターネット求人広告を主とする、アルバイト求人情報の「バイトル」と、派遣求人情報の「はたらこねっと」が該当します。
エージェント事業には、看護師専門の人材紹介業の「ナースではたらこ」が該当します。

20160426_matome2

①バイトル

全売上高の78%を占める「バイトル」は、売上・営業利益・契約件数ともに増加しています。

20160426_matome3

豊富な情報量と、従来からの広告戦略により、インターネットのユーザー層から高い支持を得て、過去最高の売上高を記録しました。

②はたらこねっと

全売上高の約11%を占める「はたらこねっと」においては、売上高・営業利益ともに6割程度の高い増加率を示しています。

20160426_matome4

③ナースではたらこ

看護師という特定の職種限定の求人であるにも関わらず、全売上高の約10.6%を占め、ここ5年の間に毎年1割ほど伸びています。

20160426_matome5

広告戦略

媒体力強化

①パート層強化

非正規雇用、特に女性パート層が顕著に増加していることを鑑み、パート層取り込みの強化を図っています。
当事業年度においては、TVCFによって紙からネット・スマホへのシフトを促した結果、「主婦・主夫」からの応募数は前年同期比170%に拡大しました。

来事業年度においてもTVCFによりネット・スマホへのシフトを促進し、「パート・バイトル」、「ママ・バイトル」などのパート層向けチャネルの強化を計画しているそうです。

②正社員採用ニーズへの対応

正規雇用者数増加の傾向を受け、正社員採用ニーズへの対応強化が図られています。当事業年度においては、社員求人専用サイト「バイトル社員」強化の結果、前年同期比208.9%の売上高となりました。

来事業年度においては、「バイトル社員」のサイト認知促進のためTVCFを利用し、また、求人職種の拡充が図られる予定です。

③LINE公式アカウントの開設

ユーザーの利便性向上のために、今年の6月末、「はたらこねっと」にLINE公式アカウントが開設されます。

④レイズ・ザ・サラリーキャンペーン

これは2013年から始まったキャンペーンで、非正規雇用の人々の待遇改善及びそれに伴う経済活性化を目的としています。求人広告を掲載する企業に対し、採用コンサルタントが募集時の時給アップを交渉し、賛同した企業の求人情報にはキャンペーンマークが表示されます。このキャンペーンに該当する最新の掲載案件数は9,699件にものぼります。

プロモーション強化

①CMキャラクター

従来のCMキャラクターのAKB48、上戸彩に加え、今年から「ラグビーワールドカップ2015」日本代表5人を新CMキャラクターとして起用しています。

②テレビ番組の放映

巷で話題のアルバイターを紹介するテレビ番組「淳・ぱるるの○○バイト!」に加え、2016年4月14日から放送が開始されたミニ番組「バディーズ~私と大切な仲間たち~」への番組提供を行っています。この番組は、有名監督、アスリート、著名な教授などをゲストとして迎え、夢や目標に向かっての取り組みと、その実現を支える仲間との絆を追い求めたものとなっています。これにより、認知度の更なる高まりが予想されます。

③イオンチャンネル

パート層ユーザーの獲得を目指し、イオンの全国170店舗において、レジ付近のモニターでバイトルのTVCFが放映されています。

人材戦略

営業人員の大規模増員

2016年4月1日に352名の新入社員が入り、今後の営業人員が大幅に増員されます。

拠点の拡大

人員増加に伴い、4月から渋谷・つくば・宇都宮・堺・名駅の5拠点が新たに増え、全国で32の拠点を有することになります。

人材育成

①ストックオプション(新株予約権)の付与

2016年4月13日の取締役会において、従業員に対して3,600個(360,000株)を上限に、無償でストックオプションを付与することを、5月開催の株主総会に付議することが決議されました。
会社の長期的な企業価値向上への貢献意欲や士気が、一層高まることが予想されます。

②生産性の向上

フレックスタイム制の導入や実践的社内研修の充実によって業務効率化を図り、営業人員の生産性の向上が期待されます。

さいごに

ディップに関しては多くの逸話がありますが、その中でも特に際立ったものを2つ紹介します。

1つ目は2003年末のこと。東証マザーズへの株式公開の3日前に、ヤフーからの提携解消を通告され、上場を断念したそうです。ディップの冨田社長は、この大打撃をものともせず、東京湾ディナークルーズを借り切ってパーティを開いたそうです。ただし、パーティーの名称は「ヤフーとの卒業パーティ」に変更されたそうですが。
そして、ヤフーに頼らない経営を目指して奮闘し、2004年5月、上場断念からわずか5か月後に、東証マザーズ上場を実現したそうです。

もう1つは2008年のリーマンショック時のこと。多くの同業他社がリストラに踏み切った際にも、ディップは一切リストラをしないで乗り切ってきたそうです。

※上記の逸話は下記を参照しました。

・ディップ株式会社のホームページの「TOP MESSAGE社長メッセージ」
・HRネットワーク『日本の人事部』「HR業界トップインタビュー」(2016年2月25日掲載)
・ビジネス情報番組『賢者の選択』(2014年11月16日放映)

現在、快進撃を続けるディップは、潤沢な資金を有しています。
貸借対照表に記載されている現金及び預金の額は、前事業年度末の46億円から当事業年度末には72億円になり、また純資産合計金額は前事業年度末の66億円から当事業年度末には100億円を超えています。

これだけ豊富な資金があれば、他業種への進出や海外進出などをするのでは、とも考えられます。しかしディップが掲げた来事業年度の戦略は、媒体力強化・プロモーション強化・営業力強化の3本のみです。本業に全力を注ぎ続けるディップの決断力の強さを感じます。

ディップの企業理念は、「夢とアイデアと情熱で社会を改善する存在となる」ことだそうです。
数々のピンチを、夢とアイデアと情熱で乗り越えてきたディップの直球勝負の戦略は、どのような展開をしていくのでしょうか。今後の動向に目が離せません。