2020年は新型コロナウイルスによるビジネス環境の変化が追い風となり、DX(デジタルトランスフォーメーション)に着手する企業が増えました。そしてその流れは採用領域にも及んでいます。今後多くの企業が変化する採用市場へ適応するために、採用のDXに取り組む必要があるでしょう。本特集では採用DX支援事業を行うHeaR株式会社監修のもと、採用DXの定義や正しい考え方、実践方法についてご紹介します。
前回は、採用DXを進める企業が一番初めに取り組むべき「組織のデジタル化」についてお伝えしました。
第三回目となる本記事では、3つ目のステップ「候補者体験のデジタル化」の中でも特に重要な「面接」において、会社の魅力を求職者に伝えるためのノウハウを紹介します。
オンライン採用への移行で職場の雰囲気が伝わりづらくなった
新型コロナウイルス流行の影響で、場合によっては初回の面談から内定、入社後のサポートまでをすべてオンラインで完結させるようになるなど、採用のスタイルは大きく変わりました。
特にオンラインに移行したことで難易度があがった求職者とのタッチポイントとして、オフィスや施設紹介、会社の空気などといった「五感で感じるコミュニケーション」に関するものが挙げられます。
オンラインという伝えられる情報が限られている中でも、いかに会社内部のありのままの情報を求職者にしっかりと伝えるかが、採用CX(候補者体験)を大きく左右します。そこで必要になってくるのが、可能な限りの会社情報を公開し、スライドの形でまとめた「採用ピッチ資料」です。
会社のいいところ・悪いところも含めたありのままの情報をスライド形式でまとめた資料のこと。特徴として、会社の課題も含めた多くの情報をオープンに掲載することや、求職者の読後感(読み終わった後に得られる感想)まで設計して作成されることが挙げられる。
従来の会社説明資料は、ビジョンや創業者の思い、会社の事業紹介など「会社のいい部分だけ」を伝えるものでした。しかし採用ピッチ資料では、あえて課題となる部分も掲載することで、求職者の信頼を得やすくするとともに、求職者が自分に合う会社かどうかを判断する材料にしてもらうことができます。
実際に採用ピッチ資料を作成しweb上に公開したところ、求人への応募数が5倍になるなど、採用ピッチ資料の有用性が示された事例もあります。
またオンライン面接時には、事前に採用ピッチ資料を求職者に見せておくことで面接時の会社紹介をスキップでき、ある程度相互理解が進んだ状態で話を始めることができます。限られた面接時間を有意義に使うためにも、採用ピッチ資料の活用は効果的です。
採用ピッチ資料に掲載する項目
採用ピッチ資料に掲載する項目として、以下の4項目が挙げられます。
会社概要や経営陣・ミッション・事業などの情報を紹介していきます。
組織図・企業文化(バリュー・クレド・ミッションなど)を載せます。また自社の魅力だけでなく、現在抱えている課題やその課題に対する取り組み、求職者に受け入れてほしいことも公開します。
求人情報を掲載します。職務内容はもちろんのこと、チームのミッションやKGI・KPIなども記載します。また「一緒に働きたい人」だけではなく、「一緒に働きたくない人」「今は一緒に働くタイミングではない人」も明確に提示します。
その他、給与テーブルや福利厚生、イベントの紹介などの情報を掲載していきます。Dに関しては、企業によって出せる情報が変わってくるので、会社ごとでカスタマイズしていきます。
採用ピッチ資料に掲載する項目を洗い出す際には、社員を集ったワークショップの開催がおすすめです。HeaR株式会社が支援している企業にて実際に使っているワークショップの資料も用意しています。気になる方は下記リンクよりダウンロードしてみてください。
採用ピッチ資料構成表&ワークショップ進行スライド(HeaR株式会社ホームページより)
採用ピッチ資料を活用した面接
採用ピッチ資料を作成するメリットは、求職者の方に採用ピッチ資料を事前に見てもらうことで、面接のときに会社紹介などの浅いコミュニケーションに時間を取られることなく、より深いコミュニケーションに時間を割けることです。
採用ピッチ資料の有効性を高めるために、3日前には求職者の方に採用ピッチ資料を送付し、きちんと目を通してもらうようにしましょう。「面接の際に資料の質疑応答を行うので、ぜひ読んできてください!」とあらかじめお伝えするのも有効です。
そうすることで、面接時には人事からの一方的な会社紹介ではなく、双方の深いコミュニケーションが行われるので、求職者の方にとっても満足度が高い面接になります。さらに質問の内容や資料をどれくらい見てきたかによって、求職者の方の志望度もわかります。
面接後に「自分の話をきちんと聞いてもらえた、コミュニケーションがスムーズだった」という感想を抱いてもらうのは、採用CX向上の観点からも非常に重要です。そのためにも採用ピッチ資料をきちんと活用した面接設計をおすすめします。
内定辞退防止のために「募集」や「面接」が重要
内定後に辞退が生じる大きな原因は3つあると言われています。
「給与、勤務地などが条件が合わなかった」「社風が自分に合わないと判断した」など、自社の魅力と候補者のニーズが合っていなかったことが原因になります。このような事態を避けるために、自社の魅力や大事にしている価値観が伝わるような採用ピッチ資料を作ることです。採用ピッチ資料を作りこむことで、求職者が内定をもらう前に「自分がこの会社に合うかどうか」を判断できるため、内定後の辞退が減るでしょう。
「返信が遅いので、いい加減な会社なのかと不安になった」「他社で内定を獲得した」などのパターンがこれにあたります。特に優秀な人材になればなるほど、複数の企業から内定を得ることも珍しくありません。応募者への連絡や選考フローのスピードを改善するなど、「速さ」を意識してタッチポイントの改善を行いましょう。
面接官の態度や発言が悪く、入社を躊躇してしまっているパターンがこれにあたります。優秀な人材の採用難易度が高まっている今、企業が求職者を選ぶのではなく、求職者に選ばれるための採用CXを考えなければいけません。「求職者からどのように見られているか」を意識し、面接練習による改善を行いましょう。
自社でご縁がなかった優秀な人材には「シェアードタレント」
シェアードタレント(シェアードタレントネットワーク)とは、最終選考にまで残ったものの、給与や条件などが合わなかったなど何らかの理由で採用に至らなかった候補者を、他社に紹介する制度のことです。
日本ではまだなじみのない制度ですが「マインド・スキルともに一緒に働きたい人材だったが、現在マッチするポジションがなかった」「自社では採用を見送ってしまったものの、今後も応援したい人材だった」という思いを形にする制度として、注目されるようになってきました。
シェアードタレントを自社に取り入れるメリットとして、採用CXの向上があります。不採用の通知は行うものの、他の就職先を見つける機会を提供することで、「この会社では不採用になってしまったけれど、マッチする可能性のある会社を教えてくれるなど親身になってくれて嬉しい」と思ってもらうことにつながります。
企業間で人材をシェアするには、人事や採用担当者・経営者と採用について気軽に情報交換できる関係になっているようになっていることが必須です。日頃からTwitterやnoteなどのSNSを使って、情報発信や企業としての認知を高めて置くことをおススメします。
シェアードタレントは候補者・紹介する企業・紹介される企業が「三方よし」となる施策。人材確保が困難な時代だからこそ、企業人事同士のつながりを持ち、人材をプールしつつ紹介しあえる仕組みをつくりましょう。
まとめ
今回はステップの3つ目である「採用CX(候補者体験)のデジタル化」の中でも、肝となる面接フェーズのノウハウをご紹介しました。次回はオンライン採用においてどこを見直しし、強化する必要があるのか、そのポイントをご紹介します。