英語ができると本当に稼げるの? 英語と年収の関係を分析してみた(正社員編)

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今回の記事は、公認会計士 眞山 徳人氏により寄稿いただきました。
眞山氏は公認会計士として各種コンサルティング業務を行う傍ら、書籍やコラム等を通じ、会計やビジネスの世界を分かりやすく紐解いて解説することを信条とした活動をされています。
眞山氏の著書、「江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本」では、難解な会計の世界を分かりやすく解説しています。

春になると、ビジネス雑誌の多くが「英語」の特集を組むようになります。島国日本では、英語は放っておいても身に付きませんから、多くのビジネスパーソンは自分の価値を高めるために英語の勉強に必死になっています。

英語を学ぶためには色々な方法があります。短期留学をしたり、英会話学校に通ったり・・・場合によっては数十万円の費用をかけて英語を学ぶ人もいらっしゃいます。

もちろん、英語のスキルは荷物にはなりませんので、できないよりは、できるほうが良い。
しかしながら、高いお金をかけてまで英語を勉強しても、それが年収増という形ではねかえってこないのであれば、「学ばないほうがマシ」だった、ということにもなりかねません。

今回は、正社員及び契約社員の求人情報を用いて、英語の能力と「仕事」の関係を分析してみたいと思います。

分析の準備① 求人情報の整理

今回も、ゴーリストの求人マーケット分析ツール「HRogチャート」を活用して分析を行いました。

英語が必要となる仕事とそうでない仕事は、その仕事がどんな職種なのかで変わってくることが想定されます。ここでは、以下の19分類に求人情報を整理しました。

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そして、それぞれの職種について、求人情報を以下の2つに分けます。

・応募条件に「英語」と書かれている求人・・・英語求人
・応募条件に「英語」と書かれていない求人・・・非英語求人

英語求人には、とにかく応募条件に「英語」というキーワードがあるものが含まれます。
必須なのか「なお可」なのか、あるいは求められるのが日常レベルなのかビジネス会話レベルなのか、といった区別は、分析が煩雑になるため敢えて行っていません。

分析の準備② 評価軸の定義

次に、英語と求人との関係をどのような軸で整理するかを定義します。
趣味や教養を目的としたものを除けば、社会人が英語を学ぼうと思う理由は、大きく2つのグループに分けられます。

1つ目は「英語が出来れば活躍の場が広がるから」というもの。
従来からこのような考え方が、英語を学ぶモチベーションの多数派を占めています。英語ができれば海外赴任もできるようになるし、最近ではTOEICのスコアが昇進の要件になっている会社も多くなっていますよね。
このような、「○○ができればより高い待遇が得られる」というモチベーションの形を、経営学の世界では、動機づけ要因と呼びます。

2つ目は「英語が出来ないと仕事を失うから」というもの。
比較的最近になって、こういった理由で英語を学び始める人が増えています。
例えば、数年前に楽天やユニクロが英語を社内公用語にすると発表し、話題になりました。このような会社では、言うまでもなく英語が出来ないと仕事が出来ないわけですから、必死に英語を勉強せざるを得ません。

楽天などの会社でなくても、例えば外国企業に買収されて、重役がそろって外国人になった、といったケースでは英語が使えないと実質的に仕事にならない、ということがあったりします。
このような「○○ができないままでは待遇が悪化してしまう」というモチベーションの形を、衛生要因と呼びます。

動機づけ要因と衛生要因。
今回はこの2つの要因の大きさを、以下のような評価軸で測定してみました。

動機づけ要因を測る評価軸・・・「英語求人と非英語求人の年俸の違い」

英語ができる、ということが給与にプラスに働けば働くほど、動機づけ要因は高くなることが想定されます。
したがって、今回は英語求人と非英語求人を比べて、英語求人がどれだけ年収面で優位なのかを測定してみました。

なお、データが少ない業種では、非英語求人のほうが年俸が高いケースが存在しましたが、このような逆転現象は今回は無視しています。なぜなら、英語が出来る人は非英語求人に応募することも出来るはずであり、英語が出来るせいで年収が下がるケースは想定できないからです。

衛生要因を測る評価軸・・・「英語求人が求人全体に占める割合」

もし仮に、ある職種で英語求人しかなかった場合、その職種では英語が出来ないと仕事にありつけないことになります。このような状態では衛生要因は非常に高いといえます。
逆に、英語求人が全くない職種では、英語を学ぶ必要性はないため、衛生要因は存在しません。

以上のような準備を行ったうえで、実際に分析をしてみたら・・・面白い結果がでました。

英語と仕事の関係は、4つのゾーンに分けられる!?

職種ごとに、2つの評価軸を計算してみた結果をプロットしたのが図です。1つ1つの点が「職種」をあらわしていて、縦軸が「英語求人と非英語求人の年俸の違い」、横軸が「英語求人が求人全体に占める割合」を表します。

図に記載したとおり、上に行けば行くほど動機づけ要因が高い、つまり「英語が出来れば稼げる」職種であることを、右に行けば行くほど衛生要因が高い、つまり「英語が重要な」職種であることを示しています。

英語求人散布図眞山さん

そうすると、それぞれの職種と英語の関係は、実は4つのゾーンに分けられることが分かります。

ゾーン① 英語が重要ゾーン ⇒ 英語学習にお金をかける価値がある職種

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動機づけ要因も衛生要因も高いのが、「英語が重要ゾーン」です。
これらの職種では、英語が出来る人とそうでない人との年収にかなり格差が生じていますし、そもそも英語求人の比率が高いので、英語が出来ないことがハンディキャップになってしまう可能性があります。

職種の特徴から推測すると、製造業や医薬品関係など、グローバルな企業が求人を多く出す職種が集中していることが伺えます。
この職種に属する人/この職種を目指す人は、英語の習得を前向きに検討したほうが良さそうです。もちろん、英語を習得できればこの職種では活躍の道は広がっていくでしょう。ある程度お金をかけて、英会話スクールや短期留学なども検討する価値がありそうです。

ゾーン② 英語で差別化ゾーン ⇒ 英語をオトクに学んで賢く差別化したい職種

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衛生要因がそれほど高くないものの、動機づけ要因がある程度付与されているのがこのゾーンです。「英語が出来なくてもあまり困らないが、英語が出来るとソレが強みになる」というケースだと思ってください。

この職種に属する人/この職種を目指す人にとっては、英語が必須かどうかは将来のキャリアパスに応じて変わってくるように思います。
もちろん、長い目で見たときには英語の必要性が増してくる可能性は十分ありますので、早めに英語の勉強に着手するに越したことはないかもしれませんが、あわてて多額の費用を投じる必要はなく、少しずつ自分のペースで英語を勉強しておけば十分そうです。英語を身につけることが出来たら、その職種で周りと差別化を図ることができます。

ゾーン③ 微妙ゾーン ⇒ 英語を学ぶなら低コストにこだわるべき職種

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衛生要因も動機づけ要因も大して高くないのが、この「微妙ゾーン」。この職種で英語力を求められるケースはあまり多くなく、仮に英語ができたとしてもあまり優遇されない、という職種群です。教育、語学など、職種からは英語が必須であるように書かれていながら、実際にはその英語力を「高く買ってくれない」職種もあるようです。

この職種に属する人/この職種を目指す人は、基本的に高いお金をかけて英語を学んでも、そのお金を年収増という形で取り返すことは難しいように思います。どちらかというと、英語力にこだわらずに就職し、その仕事の現場で、学生時代に学んだ英語を使う場面が偶然やってくるかもしれない・・・くらいのつもりでいたほうがよいでしょう。英語を学ぶ場合でも、NHKラジオ英会話のような低価格のものから着手すれば十分です。

ただし、中にはクリエイティブ(Web以外)など、類似する職種が「英語で差別化ゾーン」に入っているケースでは、将来的な転職の幅を広げる意味で体系的に英語をやっておくのもひとつの方法になるかもしれません。

ゾーン④ 骨折りゾーン

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衛生要因が高いくせに、動機づけ要因がほとんどないのが「骨折りゾーン」です。求人に英語に関する要件が書いてあるものの、それがあるからといって特に待遇に影響がない、という職種です。

現時点でこの職種に属している人にとっては、英語の学習にたくさんのお金を使うことは必ずしも得策とはいえません。また、就職先で英語を生かそうと思った場合、これらの職種で英語を使うことは出来ますが、だからといって年収が上がるわけではないので、別の職種での就職先を見つけたほうが良いのかもしれません。

英語の学び方を賢く選ぼう

こうやってみると、英語が必要な職種はかなり広範囲にわたっているものの、英語力に対する評価は、必ずしも高くない職種があることがわかります。

一昔前の日本は、外国との取引や外国人との接客という局面が限定されていたため、英語が必要な人は限られていましたが、今はそうではなく、「出来たらスゴイ」ものから「出来ないとヤバイ」ものにだんだんと変わってきているのかもしれません。しかし、そういう潮流に流されて安易に英会話スクールなどに通ってしまうと、「骨折りゾーン」の人などはお金のムダに終わってしまうことが多そうです。

英語を学ぶときに必要な考え方は2つ。

どのレベルをめざして英語を学ぶのか

最近は外国人観光客が日本各地にたくさん来てくれています。
例えば、地方の観光バス会社の方やタクシードライバーなどに英語を使う機会があるのか?と話を聞くと、「外国人の方は確かに多くなったけど、片言の英語でも何とかなる!」と元気に答えてくれます。

そもそも、自分が中学や高校で学んだ英語をちょっと思い出せば何とかなる、ということも職種によってはありえるわけです。英語ができる、というといわゆる「ペラペラ」を想像する方も多いですが、そのレベルが求められる職種は現時点ではまだ多くありません。

その学びにいくらお金をかけられるか

そういった目標となるレベルを定めた上で、どれくらいお金をかけるべきかもよく考えたほうがよいでしょう。最近はインターネットを活用して安価に英語を学べる仕組みも増えてきています。みっちり英会話を学ぶためのお金や時間がない、という人にとっては、そういったものを上手に活用するのも有効なのではないかと思います。

また、既に英語力がある程度ある人には、NPO団体などで、安価な参加費で英語を勉強しあう場がオススメです。文法や語彙を増やすより、とにかく「場数が欲しい」という方にとっては、こういう場に積極的に参加することはとてもコストパフォーマンスが高いと思います。

今回の分析結果が、皆さんの英語の勉強へのスタンスを少しでも見直すきっかけになれば、幸いです。

眞山氏の前回の記事はコチラ→もし最低賃金が1,000円になったら、牛丼は一杯いくらになるのか?

競合の求人媒体の動向を分析するならHRogチャート

いかがでしたでしょうか?公認会計士の眞山氏にご協力いただき、人材ビジネス/事業会社の採用担当者向けの求人マーケット分析サービス「HRogチャート」を使って、わたしたちにとって身近な「英語と年収の関係」について、幅広い視野から分析してもらいました。さらに詳細の分析を行うなら、人材ビジネス/事業会社の採用担当者向けの求人マーケット分析サービスがおすすめです。




HRogチャートは今回扱った職種別やキーワードで絞り込んだ時給情報のほかに、企業別の出稿動向や募集金額の推移など、その他さまざまな分析軸で、日本中の求人情報を自由自在に集計することができます。

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