ここ数年ですっかりなじみの言葉となりつつあるHR Tech。「言葉は知っているけれど、その本質は今いち、よく分かっていない…」「日々登場し続けるさまざまなサービスを把握するのは一苦労…」 この記事ではそんな人に向けて、今話題のHR Techサービスを掘り下げてご紹介します!
株式会社FCEトレーニング・カンパニー
代表取締役社長
安河内 亮氏
やすこうち・りょう/中央大学経済学部卒業後、株式会社ベンチャー・リンクへ入社。2008年に株式会社FCEトレーニング・カンパニー代表へ就任。2017年8月、国内初クラウド型オンボーディングサポートサービス『Smart Boarding』を本ローンチ。
2017年8月に本リリースされた国内初のクラウド型オンボーディングサポートサービス『Smart Boarding』。これは、教育によって中途社員を即戦力化し、定着率を上げることを目的とした『HR Tech』のプロダクトだ。なぜ、“中途社員の教育”に着目したのか? 同サービスを運営する株式会社FCEトレーニング・カンパニーの代表取締役社長・安河内 亮氏に聞いた。
合流車線がない状態で、高速道路へのスムーズな合流は難しい
「『Smart Boarding』は『オンボーディング』をテーマにした、自社オリジナルの教育を作ることのできるサービスです」と安河内氏。「オンボーディング」とは、新規採用した人材の受け入れから定着、戦力化までの一連の流れを指す言葉だそうだ。
「例えるなら、高速道路を車(既存社員)が速度100キロでビュンビュン走っているとします。そして、ここに途中で入ってくる車(中途社員)がいるわけですが、彼らは速度20キロからスタートをして、40キロ、60キロと徐々に速度を上げていきたいんです。ですが、そもそも多くの会社には合流車線がない。ただし、これは新卒社員に対してはどの会社もやっていることなんですけど、こと中途社員となると、合流車線を作らずにいきなり速度100キロの高速道路に放り込むという感じになっているんですよね。だから彼らは早々にサービスエリアに寄ってしまったり、高速道路から降りてしまったり(離職)と、なかなか定着しないんです。そこをサポートするのが『オンボーディング=合流車線』というわけです」
安河内氏が「オンボーディング」という言葉を知ったのは、2年前に参加したアメリカHR Techの展示会『HR tech conference』でのことだったという。そして、この時の体験が『Smart Boarding』の開発に繋がる。
「アメリカは転職が多いけど、日本とは少し事情が違っています。アメリカでは会社側はいい人をキープしたいから、そこに対してのエンゲージメントを強化するという考え方が定着しています。長期的な関係性を築くために人事が真剣に取り組んでいて、その一つに最初の合流、つまり『オンボーディング』があるんです。日本の中途入社者に対する受け入れではこの部分が遅れているから、この考え方とサービスを日本に持ち込んだら面白いと思ったのが開発の背景です」
転職への価値観や働き方の変化を踏まえても、「中途=即戦力」の考え方は改める必要がありそうだと感じた。
「転職が一般的でなかった頃は、きっと転職者は相当の覚悟を持って中途入社をしていたと思うんです。だから入社後は必死なので、結果的に評価も高くて、『中途社員は即戦力』という考え方が広まっていたんだと思います。ところが、今はもっとライトに転職をするような時代になりました。そういった状況や変化に皆、薄々気付いてはいるものの、『中途社員は即戦力のはずだ』という考えのまま、現場に任せてしまう。だから、現場の社員は中途社員に対して、とりあえずOJTを行っている結果、なかなか成果が出ない。成果が出ない人が早期に退職してしまうと。こういうことは企業の中で、“あるある”だと思うんですよね」
自社の中途社員の離職率が50%→0%! 心の中では「辞めてしまうのは仕方がない」と思っていた
毎年4月に入社してくる、レベルが一律の新卒社員と比べ、入社時期もレベルもバラバラな中途社員の育成を考えるのはかなりの手間がかかる。「自分もこれまで教育・研修を考えたりしてきたのですが、結構大変だな…という気持ちがあった」と安河内氏は振り返る。
ところが、アメリカのプロダクトを参考に、自社で実際にテスト版を作り使用してみると、50%あった中途入社1年目の離職率に大きな変化が現れた。
「私自身、自社の離職率の高さに、実は気付いてはいたんです。でも、正直しょうがないと思っていました。良くも悪くも自分たちの会社には強い企業文化があるから、中途社員の合う・合わないが入社後に出るだろうと。でもいざ取り組んでみたら、測定期間がもう少しで1年になるのですが、50%あった中途入社1年目の離職率が0%になりそうなんです。つまり、離職率の高さは純粋に自分たちのせいだったっていうことですね(笑)」
中途社員の定着率が上がることは、労力的な意味でも、金銭的な意味でも、大きなコストダウンになったという。
「これまでの採用は、増員と言いながらも半分が辞めてしまっていたから、10人を担保しようと思ったら20人を採用しなければいけない計算でした。『なんか社員数が増えないな…』という感じでしたが、取り組みを始めてからの採用は純粋な増員になってきています。一人当たりの採用単価は約150万円ですから、単純計算で1,500万円のインパクトですよね。採用や教育の工数など、見えないコストを含めたらその影響は非常に大きいです」
―「自社の離職率の高さは自分たちに原因があった」と安河内氏は明かしてくれた。
“ALL Japan”で連携すれば、アメリカに負けないプロダクトができるはず
『Smart Boarding』を本リリースして約4カ月。中途採用で人材を積極採用している企業を中心に、導入企業は150社を超えた。『Smart Boarding』を部門単位で導入する企業もあるという。同サービスが生まれたきっかけとなったアメリカの『HR tech conference』に2年連続で参加したことで、「自分たちのプロダクトの未来が見えてきた」と安河内氏は話す。
「人が集まるブースのプロダクトは何かにフォーカスしていて“尖り”があるんです。例えば『Smart Boarding』は『中途採用』『オンボーディング』にフォーカスしているから、そこに当てはまる人にはグッと刺さります。でもそういう尖っているプロダクトのブースの中には、去年は流行っていたのに今年は人が入っていないところもあったんです。そこで、2年連続で賑わっているブースとの違いを観察してみると、フォーカスポイントが狭いままだったと気付いたんです。”尖り”の一点突破だけで留まっている会社には、瞬間的にしか人が集まりません。人を惹きつけ続けるためには、サービスの広がりを考えなければいけないんだと、『HR tech conference』で気が付いたんです」
―今後は「サービスの領域を広げていく」と安河内氏は続ける。
「新卒に領域を広げたり伝え方を広げたり、やり方はいろいろ考えられますが、去年も今年も人が集まっているブースのサービスの“広げ方”を見てみると、ポイントは他社との連携だと気付きました。例えば採用や評価、組織サーベイは『教育』の周辺にあり、教育のためのコンテンツというのは、世の中にはもっとたくさんあるわけじゃないですか? そういうものとの連携を行えば、プラットフォームの精度は上がっていくはずなんです」
アメリカが先行している『HR Tech』の領域。連携による広がりが実現できれば、日本発の世界的なプロダクトを作ることも夢ではない。
「“ALL Japan”で連携すれば、アメリカにも負けないようなプロダクトを作り上げることができると思っています。そのポイントは『どれだけユーザーにとって使いやすいサービスにできるか』ということ。その実現にこだわりを持って、今後はサービスを育てていきます」
『Smart Boarding』の詳細はこちら https://www.training-c.co.jp/smartboarding/
(HRog編集部)