【ネオキャリアの組織変革#04】代表西澤氏に聞くネオキャリアが見据える「次の10年」

株式会社ネオキャリア
代表取締役社長 CEO
西澤 亮一 氏
にしざわ・りょういち/2000年新卒で投資会社に入社。同年11月、ネオキャリアを設立し取締役に就任。設立後1年半で赤字4000万円に陥り倒産の危機を迎えるが、代表取締役を西澤が引き継ぎ、その後1年半で累積債務を解消。創業から約20年で売上約500億円超の企業へと成長させる。2021年にはHR Tech分野の主力サービスであったjinjer株式会社の分社化を決意。「人と本気で向き合い、未来を切り拓く。」というパーパスのもと、現在は人材・ヘルスケア(介護・保育)・グローバルの分野で人材採用・就職支援事業を展開している。

成長し続けるネオキャリアの組織変革

2000年に中途採用支援・広告代理事業で設立された株式会社ネオキャリア。現在ではHR Techサービスやメディアなど事業領域を拡大し、企業として大きな成長を遂げている。急成長の裏側には、どのような革新の歴史があったのか。組織変革の裏側に迫る。

ネオキャリアの一部門であったjinjer事業部を2021年に分社化し、2022年には「ネオキャリア3.0」を掲げ新たにパーパスを策定するなど、今なお変革を続けているネオキャリア。今回は、代表の西澤氏に日本市場の今と変革について、そしてネオキャリアの第3章となる「次の10年」について話を伺った。

国内市場と人材業界の現状から、ビジネスモデルの変化を予想

西澤氏は、労働人口の減少が人材業界にも影響があるとして、今後のビジネスモデルは大きく変化すると予想する。まずは現在の日本市場の現状についてどう見ているのか、話を伺った。

「現在、日本の労働人口はますます低下しており、40年後には労働人口は約4,000万人ほどまで減ると言われています。現段階では6,500万人いますので、3割から4割近く減ってしまうことになります。それに伴って懸念されているのが、2045年の地方消滅問題です。労働人口や人口そのものの減少により、896の地方都市が消滅していきます。要は、街が成り立たなくなるんですね。

それに加えて、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になっていく2025年問題もあり、地方だけではなく都市部も一気に高齢化していき、介護問題もますます増えることが予想されます。これにより、本来働けるはずの人たちも介護に追われて働けなくなるので、労働人口の減少はますます厳しくなっていくでしょう」

少子高齢化や介護問題により労働人口そのものが減少し、生産性の確保が難しくなっている中、人材業界でも変化が起きている。終身雇用が主流だった時代から転職が一般的な時代になり、雇用の流動性が高まった。またDX人材の需要が増したこともあり、総合職での新卒一括採用だけでなく、中途を含めたジョブ型雇用が増加している。

「雇用が変化した背景には、社会情勢の変化による人材需要の活発化があります。人口が減少していく中で、労働人口をどう担保して、どう国を守っていくかが人材業界の課題です。最終的にはやはり、雇用の流動性を担保することが重要になってくると思います。

あとは、企業が求職者を選べる時代から求職者が企業を選べる『求職者優位の時代』への変化や、ダイレクトリクルーティングの興隆によるビジネスモデルの変化。こうした変化によって採用市場は多様化してきています。おそらく直近3年~5年が、人材業界に大きな変化が起こるタイミングだと私は感じています」

新しい時代に対応するために ネオキャリア変革の軌跡

雇用の流動性や雇用形態の変化、それに伴う採用市場の多様化など、さまざまな変化が起こる人材業界。ネオキャリアはその前線を走りながら変革を続けてきた。昨年10月にはjinjerの分社化を行い、今年3月にはパーパスを策定するなど、代表として意思決定を行った西澤氏に話を聞いた。

赤字を経験し分社化へ舵を切る

2010年の東日本大震災を受けて、ビジネスに対する考え方が大きく変わったと西澤氏は話す。人材メディア・人材紹介領域から派生して、介護や保育、外国人雇用、HRTechなどにも本格的に参入し、周辺領域からも社会課題を解決していくことを目指した。中でも注力していたのがHR Tech事業だ。

「SaaS系ビジネスは当然押さえなくてはならない領域だと考えていたので、2005年ぐらいから毎年2ケタ億単位での投資を行ってきました。既存ビジネスで得た利益をSaaSやjinjerに投資するビジネスモデルでしたが、その流れの中で、新型コロナウイルスの流行という大きなパンデミックが起こりました。これがネオキャリアの舵取りを考え直すきっかけになりました」

新型コロナウイルスの影響を受け、ネオキャリアはリーマンショック以来の赤字を経験した。それを機にHR Techへの投資を一時的に止めて健全化を図った。海外拠点の撤退や既存ビジネスの調整を行い、2021年9月期には過去最高の収益を叩き出すまでに回復している。

会社が安定した段階で、西澤氏は再度HR Tech事業への投資を行うことを考えた。その一方で、関係各所からの要請もあり、安定したビジネス経営の必要性と板挟みになったという。

「それと同時に、バックオフィスクラウドの領域はかなりのレッドオーシャンになっており、ここで挑まないと、jinjerは競合に負けてしまうのではないかという危機感を抱いていました。既存のHR事業とjinjerを中心としたHRTech事業、それぞれが価値を最大化するためには、Tech領域を切り離して独自に資金調達し、投資していく構造にした方がいいと考えて分社化に踏み切りました」

こうしてネオキャリアは自身のHR領域に全力を注ぎ、jinjerはjinjerブランドの構築に専念するという形で、それぞれが新たなスタートを切った。

jinjerの分社化によって、ネオキャリアが再注力することとなった既存事業では、今後どのような展開を考えているのだろうか。

「基本的には、少子高齢化により労働人口が減っていく構造に対して、生産性の向上と労働力の増加につながるビジネスを展開しながら成長していくことを大方針としています。したがって、我々の基盤となる4つの事業領域を元手に、人手不足の解消につながる新しい領域を作っていくのが今後の動きになりますね。

例えばメディア事業では、求人広告型だけではなくダイレクトリクルーティング型など時代に沿って扱う媒体がどんどん変わってきていますから、「みんなの採用部」としてお客様に合わせた進化をしていこうと考えています。また、ただのメディア代理店ではなく、採用担当者の育成やAIを使った効率化なども含め、定着から組織の活性化までをサポートするサービスを提供したいですね。

また、我々は人材紹介・派遣において比較的大きなシェアを持っていますので、ここから様々なビジネスに広げていきたいですね。例えば、既に介護・保育領域では人材紹介や派遣のお手伝いをさせて頂いていますが、今後はさらにAIを使って施設の生産性を上げることも出来るのではないかと考えています。他にもDXが遅れている飲食など、様々な領域に対してDXを加速させ、生産性の向上に寄与していく事業展開をしていきます」

パーパスに込められた代表西澤氏の想い

jinjerの分社化に合わせ、これまで掲げてきた言葉たちを刷新したネオキャリア(詳細は#3を参照)。策定されたパーパスは「人と本気で向き合い、未来を切り拓く。」だ。代表という立場にある西澤氏は、この言葉にどのような想いを込めたのだろうか。

「これまでのフィロソフィーやミッション・バリューに思い入れのあるメンバーは、私も含めたくさんいたと思います。だからこそ今回パーパスを作るにあたり、さまざまな声を集めながら最終的には自分たちが大事にしてる考え方や想い、存在意義などを見つめ直し、一言一句までこだわり抜いて決めました。その中で、これまでのフィロソフィーである『成長し続ける』という言葉は思い切って見直す決断をします。これまでネオキャリアを牽引してきてくれた言葉であり、私自身一番大切にしていた言葉でもあったので、この決断には葛藤もありました。

新パーパスは、社内外のメンバーたちと何度もやりとりしながら、考え抜いて決めたものです。私自身すごく愛着を持っていますし、ここから色々なものがスタートしていくんだろうなという大きな期待の中で再スタートが切れたんじゃないかと感じています」

影響力のある企業を目指す

策定した新たなパーパスの下には、これから7GOALSとMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を作り、11月15日の設立記念日に開く社員総会で発表する予定だ。全て揃ってようやく新ネオキャリアステートメントが完成するのだという。さまざまな事業が連なり大きな一つの山となる「連峰経営」を掲げて突き進むネオキャリア。大きなことを成し遂げたいと話す西澤氏に、これからの戦略についても伺った。

「まずは2030年に力点を置いていて、2030年までに業界の中はもちろんマーケットの中でも爪痕を残すような、『社会においてなくてはならない存在』になっていかなければならないと考えています。小さなサイズ感で細々とビジネスを続けていても、大きなインパクトを与えられません。この業界の一番手や二番手だけでなく、それに続く企業群が手を取りあうことで、大きなうねりを作っていける。それをけん引できる企業になるのがネオキャリアの目標です」

リーダーシップを発揮し、HR業界に一石を投じ続けたい

こうした改革を通してネオキャリアが最終的に目指す姿とは、どのようなものなのか。西澤氏は今後の展望を以下のように語った。

「ネオキャリアは社会全体に対してロイヤリティーとオーナーシップを持つ、視座の高い社員が揃った組織を目指していきます。どれだけ社会を、業界を、顧客をよくできるのか。それを成すためにこの組織で働いているんだという意識を持ってほしいし、そうした努力の結果が自分のキャリアになるのだと思います。そのためには、メンバーが『自分たちは世の中のためのいい仕事ができている』と思って働ける舞台を、私たち経営陣で作っていく必要があります。

HR業界は今、会社の会長や社長の方々が卒業されて世代が代替わりしているタイミングにあります。その中でネオキャリアは、各社と世代をまたいで強い関係性を築かせていただいており、いい立ち位置と規模感になってきていると感じています。これからは大先輩方から頂いたエールや期待に応えるべく、この業界の中でリーダーシップを発揮していきたいですね。

あとは、世の中をあっと驚かせるような、いい意味で『こんな会社だったのか』と思われるようなこともやりたいと思っています。そのためには、社内だけに留まらず、他の同業社さんとも手を組んでオールスターのような企業群を作りたいですね。これまでも良いチームを作ることで、社会をより良くしていけると信じて成長してきたので、これからもそのスタンスは変えずに歩んでいこうと思っています」