株式会社Smart相談室
代表取締役
藤田 康男 氏
ふじた・やすお/医療系人材紹介会社にて10年間、複数事業の立ち上げや組織マネジメントに従事したのち、2021年2月に株式会社Smart相談室を設立。これまでのマネジメント経験から、従業員のメンタル不調に関して課題感を持ち、独自の視点から、課題に対するソリューション「Smart相談室」を提供中。日本の生産性を高め、社会に貢献したいと考えている。
従業員エンゲージメントの重要性が高まり、企業には従業員の心身の不調に対するケアが求められている。一方で、休職者の2人に1人はそのまま退職しているというデータもあり、不調になる前に予防することも大切だという。今回は、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」に実際に寄せられた相談をもとに、従業員のメンタルヘルスをどうサポートすべきかを代表の藤田氏に伺った。
日本のメンタルヘルスケアは「第2フェーズ」に入っている
ストレスの時代とも言われる現代社会において、今や多くの企業にとって従業員のメンタルヘルス(心の健康)対策は避けては通れないテーマとなっている。まずは、藤田氏に日本社会におけるメンタルヘルスケアの現状について伺った。
「まず前提として、メンタルの調子を崩す方が増えてきています。精神障害の労災請求件数は直近10年で約500件増加していますし、近年では過労死やパワハラ・セクハラに関する事件が注目を集めました。こうしたことから国は精神疾患の増加を社会問題と捉え、医療計画に精神疾患を組み込んだり、法整備を行ったりと医療の立場からさまざまな施策を実施してきました。企業側も産業医との契約、ストレスチェック、ハラスメント相談窓口の設置など、従業員の精神不調をケアするために動いています。そのためのさまざまなサービスもリリースされました。
また、これらの施策とは別に、『人的資本経営』の文脈でメンタルヘルスケアはより注目を集めていますね。こうした社会の流れを受けながら、この15年ほどでメンタルヘルスケアの考え方が広がり、対応するための社会的な基盤がようやく出来てきました。今は第一フェーズが落ち着いてきた段階です。
しかし、不調を訴える人はまだ減ってはいません。最低限やるべき対策はできているけれど、働く人に真には寄り添えていない場合も多いです。したがって次のフェーズでは、施策を運用する上での課題解決に取り組むべきだと考えています」
メンタルヘルスの重要性は認知されてきたものの、十分に対処できているとは言えないのが今の日本の現状だ。藤田氏は長年組織マネジメントに関わる中で、不調を訴えるメンバーの労働時間を減らしたり、休職させたりするだけでは根本的な解決にならないと感じたという。不調を早期発見・対処するためのサービスはたくさんあるけれど、そもそも不調にならないよう防止するサービスが必要なのではないか。自身の経験からサービスの着想を得た藤田氏は、メンタル不調を防ぐオンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」の立ち上げに至った。
第三者だから相談できる Smart相談室の強みとは
Smart相談室は、従業員がメンタル不調に陥る前にサポートするためのオンライン相談窓口だ。キャリアコンサルタント、産業カウンセラー、プロコーチ、公認心理師など有資格のカウンセラーが多数在籍しており、メンタル不調の予防段階の相談から、産業医に診てもらう専門的な相談までを幅広くカバーしたサービスとなっている。
「このサービスの一番の特徴は、調子が悪くなくても使っていただけるという点です。メンタル不調の『予防』にフォーカスしたサービスなので、ちょっとモヤモヤしているような段階でもカジュアルに相談していただけます。業務上の悩みに限らず、人間関係、プライベートな悩み、ハラスメント相談、スキルアップについてなどさまざまな相談が寄せられていますね」
Smart相談室は、気軽になんでも相談できるカジュアルさがユーザーから高く評価されている。なんでも相談できるのは、完全な第三者が相手だからだと藤田氏は語った。
「実際、上司や会社に悩みを打ち明けられない方は多くいらっしゃいます。特に、スキルアップやキャリアプランニングについての悩みは、上司に話すと評価が下がってしまうのではないかと心配になり、相談できずにいる方が多いですね。
Smart相談室では利用者本人からの希望がない限り、相談内容を企業に伝達することはありません。社内では言いにくい悩みも、完全な第三者であるSmart相談室だから相談できるとご好評いただいています。社内に設置している相談窓口には全く相談がこなかったのに、Smart相談室を導入した途端、想定を遥かに超える数の相談が寄せられたという企業もありますね」
また、気軽な相談から産業医にかかるべきところまで細かく段階を踏める点が、ユーザーに安心感を与えているのだという。
「ストレスを抱える従業員の相談先として、今の日本社会ではメンタルクリニックや産業医くらいしか選択肢がありません。しかしこれらの選択肢はハードルが高く、悩みの深刻度合いによっては『医療機関に相談するほどでは……』と尻込みしてしまう方もいます。だからと言って、相談せずに悩みを抱えたままだと不調に陥ってしまいます。その間をグラデーション状に埋められるのがSmart相談室です。
例えば、『同棲しているパートナーとの家事分担が上手くいかず自分に負担がかかり、結果として仕事に支障をきたしている』という相談が寄せられたことがあります。仕事に支障が生じて悩んでいるものの、プライベートな悩みも含まれるので上司には相談しにくい。こうしたちょっとしたモヤモヤを聞くカウンセリングもできますし、場合によっては公認心理師や産業医、心療内科の先生への相談も可能です。いきなり医療機関に相談するのではなく、無理のない相談ステップを踏めることは、安心して利用しやすいポイントだと感じています」
相談の程度によって段階を踏めることは、ユーザーだけでなく企業側にとってもメリットになると藤田氏は続ける。
「産業医と契約している企業の場合、従業員が希望すれば産業医との面談が可能です。しかし、産業医が対応する相談の中には、必ずしも医師の対応が必要ではないものもあるそうです。そこでまずはSmart相談室で相談し、解決出来なければ産業医に依頼するというフローを組むことで、産業医への相談件数が減らせます。結果としてコスト削減につながるため、導入企業様から大変喜ばれていますね」
派遣業界におけるメンタルヘルスケア カギは「話せる環境の担保」
Smart相談室は、派遣業界の企業も多く利用していると言う。藤田氏から見た派遣業界におけるメンタルヘルスケアの課題と対策について伺った。
「派遣社員として働く場合、所属する派遣会社と実際に働く会社が異なるため、派遣先の会社で人間関係を上手く築けずに調子を崩すケースが多くあります。派遣会社の担当者がケアできればよいのですが、担当人数が多すぎて把握しきれない上に、一人ひとりに時間をとってケアするのは非常に難しいというのが現実です。これは派遣という雇用の構造上どうしても起こりうる問題だと言えます。この課題に対処するためにSmart相談室を利用している派遣会社様も多いですね」
派遣という特殊な構造上の課題に対して、派遣業界の企業が打てる予防策にはどのようなものがあるだろうか。
「従業員の心理的安全性を担保するために、従業員の話を聞く時間を確保する必要があります。従業員数が多く、企業が独自で行うのが難しい場合でも、第三者に依頼し話を聞く時間を確保してあげてください。気軽に『いつでも相談して良いんだ』と思える環境があるのは、メンタルヘルスケアにおいて重要なセーフティーネットとなります。
しかし、これはあくまで対症療法です。企業は話を聞いて集めた意見やデータを基に、根本的な解決策を考えなければなりません。話を聞いてもらえる環境を担保することと、そこで得られた情報をもとに施策を打つこと。この2つを合わせて考えることをおすすめします」
働く人の『モヤモヤ』を解消し、生産性を向上させる
いつでも相談できる環境を提供することで、日本企業のメンタルヘルスケアをサポートしているSmart相談室。同社は、「従業員の『モヤモヤ』を解消し、日本の生産性を向上させる」をミッションに掲げサービス提供を行っている。一人でも多くの従業員が笑顔になり、誰もがその人らしく働ける社会の実現を目指して、今後取り組みたいことが3つあると藤田氏は続ける。
「まず一つ目に、今行っている対人支援の強化を考えています。弊社の相談窓口の営業時間以外にも、24時間ユーザーを支援できる仕組みづくりですね。いわゆるウェルビーイングの発想によるもので、マインドフルネスやヨガなど、個人で利用出来て自分自身を励ませるようなサービスを展開していきたいです。
二つ目は、AIを活用した利用者とカウンセラーのベストマッチングの実現です。実は最初の相談内容とその着地点が異なることが多く、途中でより合った担当者に変更することもあります。最終的にはご満足いただけているものの、最適なルートではないかもしれないという課題があるんですね。そこでAIの技術を活用してデータを収集し、マッチングの精度を高めていけたら、今よりさらに満足していただけるサービスになるのではないかと思っています。
三つ目は、海外進出です。まずは海外にある日本企業の従業員の方へサービスを届けたいです。将来的には、国籍や所在地問わずすべての人をサポートしたいと考えています。これからもサービス向上に努め、日本社会、ひいては世界の課題解決に貢献したいですね」