HRクラウド株式会社
代表取締役社長
中島 悠揮 氏
なかしま・ゆうき/人材会社を経験後、2社目に楽天株式会社へ入社しトップ営業マンとして活躍。新規事業の立ち上げに従事し、2014年に「明日の仕事が楽しみな世の中を創る」をビジョンにHRクラウド(旧Roots)を創業。2016年「採用一括かんりくん」をリリースし、現在900社以上の導入実績を誇る。2018年にEO理事就任、2019年に日本サブスクリプションビジネス振興会執行役員就任など、ビジョン達成のために幅広く活動している。
少子高齢化により労働人口の減少が進み、採用における売り手市場が続いている。その中で注目を集めているのが、候補者の選考体験を向上させる「採用CX」だ。HRクラウド株式会社は、「求職者様との最適なマッチングと継続」の提供を目指し、クラウド型の採用管理システム「採用一括かんりくん」を運営している。今回は同社代表の中島氏に、採用CXの必要性や「採用一括かんりくん」の開発背景などを伺った。
価値観の変化で高まる採用CXの重要性
採用CXとは、候補者が企業を認知してから選考を終えるまでの間に、自社に好感を持つような体験を通じて「この企業の選考を受けてよかった」と感じてもらう取り組みのこと。
日本企業にとって採用CXはまだまだ新しい考え方だと言えるが、海外では類似の概念が書籍化・フォーラム化されるほど注目を集めている。なぜそれほどまでに採用CXの必要性が高まっているのか、中島氏に伺った。
「学生の価値観は、ここ数年で大きく変化しました。高校生の頃からSNSを積極的に活用してきたZ世代が、新卒として社会に出てきています。彼らは口コミを重視している傾向が強いため、選考体験についても口コミで広がりやすいんです。社会貢献や多様性などの言葉にも敏感で、よい選考体験を積極的に発信する人もたくさんいると感じますね。
また近年は、将来的な転職を視野に入れて就活する人が増えています。終身雇用制度が崩壊したと言われる現代において、彼らの価値観に合わせた『よりよい選考体験』の提供が、企業の採用力向上に必要ではないでしょうか」
売り手市場や採用難が続く中、中小企業が他社との採用を差別化する一手になるのが「採用CX」であると中島氏は続ける。
「大手企業の場合はたくさんの学生から応募があるため、候補者の選別に時間がかかります。そのため、よりよい選考体験を提供するための工数を確保することが難しいのが現状です。一方、中小やベンチャー企業などでは、全体の応募数が大手ほどではありません。そのため、一人ひとりの候補者に注力して、よりよい選考体験を提供しやすいと言えます。中小企業が採用で勝つために、採用CXは非常に有効な手段なのではないでしょうか」
また、口コミを重視する現代では、面接のフィードバックなどを通じて、選考で学生を育てる意識も必要なのだという。
「近年の学生はコロナ禍を経験したこともあり、十分な情報収集や面接で話せる体験が不足していると感じます。企業側が学生とより接点を持てるよう工夫することで、『この企業の選考を受けてこんな刺激を受けた』というような口コミにつながり、さらなる応募者の増加も期待できます」
一人ひとりに寄り添った採用活動を実現する「採用一括かんりくん」
HRクラウドは、クラウド型の採用管理システム「採用一括かんりくん」を開発、提供している。同サービスの開発背景について中島氏に伺った。
「開発当時、あまり景気がよくない中で、就職できない人をなくしたいという思いがありました。まずは就職できない学生を減らすための仕組みを作ろうと考えたのですが、うまくいかず……。しかし、同時に開発していた採用管理システムのニーズは伸びていたため、そちらに注力することにしたんです」
開発当時、採用管理システムの市場は大手に向けたサービスが主流だったという。しかし採用の多角化が進む中で、中小企業向けのサービス需要が高まると予見し、シンプルでわかりやすく、安価に提供できるサービス開発に着手した。
「中小企業向けサービスなので、大手企業向けサービスとの差別化を図りました。具体的には、マイページをなくし、LINEを通じて面接予約などができるようにしたんです。大手企業は志望度の高い学生も多いため、マイページにログインしてもらうステップを挟んでも、あまり影響はないでしょう。しかし、中小企業の場合はマイページへのログイン工程1つも学生の離脱ポイントになりかねません。そのため、できるだけシンプルでわかりやすいサービスを提供する必要がありました」
そうした中、2016~2017年頃には就活関連サイトの多様化が進んだ。さまざまな採用手法が用いられるようになったために「採用管理に悩む人事担当者が増加した」と中島氏は指摘する。
「人材紹介会社の需要増加に加え、就職口コミサイトやマッチングイベントを行う企業が増えて、採用管理がより複雑化しました。採用手法の多様化により、一元化のニーズがさらに加速すると感じたことも、サービス開発を後押ししました」
「採用一括かんりくん」の強みとして、LINEを使用して学生とやり取りできる点が挙げられる。LINEを活用することで学生が求めている情報を可視化できるほか、歩留まりの向上を期待できるのだという。
「学生が知りたい情報を迅速に伝えることが、企業に対する好感につながると考えています。『採用一括かんりくん』では、学生が今必要としている情報を可視化できるため、LINEに表示させるコンテンツを状況に合わせて変更するなどのシナリオ設計が可能です。
また、LINEを通じて説明会への参加申し込みができるため、申し込みに対する学生のハードルが下がり参加率が向上した企業もあります。他にも、採用管理にかかる時間がこれまでの半分以下に削減でき、採用の生産性が4倍になったという企業もありました。LINEを活用することで歩留まりが上がり、コストの削減につながっていると感じています」
さらに、人事担当者が多くの時間を割いているルーティンワークの自動化ができるため、候補者一人ひとりと対話する時間の創出にも貢献していると中島氏は続ける。
「『適性検査や能力検査の点数が何点以上の候補者に合格メールを送信する』など、企業に合わせた柔軟な設定でルーティンワークを自動化できます。人事担当者は、自動化で創出した時間を候補者との面談にかけることが可能です。
加えて『歩留まり向上AI機能』では、候補者が事前に回答したヒアリング結果を確認することで、人事担当者は面談で候補者が知りたい内容を重点的に説明することができるんです。給与や福利厚生などの待遇面は、直接聞きづらいと感じる候補者も多いですよね。そういった候補者が求めている情報を事前に把握しておくことで、ミスマッチの減少にもつながります」
データを活用し、最適なマッチングを目指したい
「明日の仕事が楽しみな世の中を創る」をビジョンに掲げ、サービス提供を続けるHRクラウド。今後は採用管理支援を軸に、候補者の応募から定着、活躍までをシームレスにサポートしていきたいと話す。
「人材の採用フローは、『応募』『採用管理』『内定・入社』『定着・活躍』の4つのフェーズに分けられると考えます。今後は採用管理支援で得たデータを基に、企業ごとに内定を出す人材の特徴を分析して可視化したいです。現在、学生向け就活エージェント『Job Spring』においてスカウトサービスも提供しています。内定を出す人材の傾向が掴めれば、『Job Spring』上でそういった人材とのマッチングが可能となり、採用効率の向上が期待できますね。
また、次の段階として入社後に定着、活躍できる人材の特徴も可視化していきたいです。さまざまなデータを元に、どういう人材を採用すべきかを採用管理システム上で可視化し、そういう人材との繋がりをつくる。応募から定着、活躍までを一貫して支援できるサービスを目指しています」
最後に人材業界へのメッセージを伺うと、「業界全体で協力し、日本全体の企業や求職者に最適なマッチングを提供したい」と語ってくれた。
「さまざまな人材会社や我々がハブとなり、企業と求職者どちらにとっても最適なマッチングを提供していきたいと考えています。日本を盛り上げるためには、人材業界全体の協力が必要です。『株式会社日本』と呼べるようなスケールで、ぜひ連携していきましょう」