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派遣会社倒産が過去最多ペースに。中小企業が生き残るための3つの戦略

2025年、派遣会社の倒産件数は過去最多ペースで推移しました。東京商工リサーチが2025年6月に発表した調査によると、2025年5月の全国の労働者派遣業の倒産数は15件(前年同月比400.0%増)と、昨年最多を記録。負債額別では1億円未満の倒産が41件(前年同期比215.3%増、構成比77.3%)と大半を占めており、小規模な倒産が増えている実態が浮かび上がります。

7月以降は前年同月を下回って推移したものの、2025年1-11月の累計では82件(前年同期比41.3%増)と、12年ぶりに80件を超えています。そのうち負債1億円以上10億円未満が18件と、中堅規模でも倒産が増えていることが指摘されていました。

出典元:東京商工リサーチ|2025年1-11月の「労働者派遣業」倒産 82件 通年では16年ぶりに90件台に乗せる可能性も

それでは、なぜ中小派遣会社の倒産が相次ぐのでしょうか? 本記事では、弊社取締役の水野と共に、派遣業界が直面する構造的課題を分析し、中小企業が生き残るための具体的な戦略について考えていきます。

倒産急増の背景にある3つの構造的課題

①価格転嫁の困難さ

中小派遣会社の倒産の背景には、派遣業界の収益構造が影響しています。一般社団法人日本人材派遣協会のデータによると、派遣料金の内訳のうち派遣会社の営業利益はわずか1.2%。売上の大半は派遣スタッフへの給与と社会保険料の支払いで占められています。

この構造の中で最低賃金の引き上げが進んでいます。過去10年で最低賃金の全国加重平均は257円(約3%/年)増加し、2025年度には全国平均で1,121円となりました。政府は「2030年代半ばまでに全国平均1,500円を目指す」としており、今後も年30~60円規模の引き上げが続く見通しです。

水野

例えば町の飲食店であれば、原材料費が上がれば定食を50円値上げできますし、消費者も理解してくれるでしょう。しかし派遣という業態は基本的に給料を支払っているのが派遣会社ですので、賃金上昇の負担はまず派遣会社が負うことになります。

売上が変わらないのに原価が上がる。それをカバーするために請求交渉をする必要がありますが、AIの台頭により求められる人材の要件が上がっている現代では、一筋縄でいくものではありません。

②同一労働同一賃金への対応コスト

2020年4月(中小企業は2021年4月)から施行された「同一労働同一賃金」の義務化により、派遣会社は「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかを選択し、派遣スタッフの待遇を確保しなければならなくなりました。

いずれの方式を選んでも、賃金の引き上げが必要となるケースが多く、人件費の負担が増加しています。さらに「派遣先均等・均衡方式」を選んだ場合、派遣先の正社員の賃金体系に基づいて派遣スタッフの待遇を個別に設計する必要があり、業務工数の増加も見逃せません。

③価格競争の激化

ある企業が3社の派遣会社に同じ求人をオーダーした場合、A社が従来通りの価格で提案しても、B社やC社が「もう少し安くやります」と言えば、結局は安い方が選ばれてしまいます。

水野

価格競争に勝つために単価を下げれば、当然営業利益率は下がっていきます。社会保険料の負担なども増えていく中、結果的に自分たちの首を絞めてしまっている中小企業も多いのではないでしょうか。

大手・中堅・中小の三層構造で広がる格差

中小派遣会社の倒産は急増していますが、派遣市場全体は縮小しておらず、むしろ成長しています。矢野経済研究所の調査によると、2024年度の人材派遣業市場は9兆3,220億円、前年度比で3.0%増加しました。

この成長の背景には、人手不足感の強まりに伴う企業からの需要の高まりがあり、特にITエンジニアなどのIT関連職種や介護職等の領域で需要が増加しています。

しかしその恩恵は主に大手企業に集中しています。リクルートの26年3月期1Q決算によると、人材派遣事業セグメント全体では欧州・米国及び豪州エリアの不透明な経済見通しを背景に減収したものの、日本エリアでは人材派遣需要が引き続き伸長、稼働人員の増加を背景に売上高は2,128億円(6.3% YoY)と好調でした。

パーソルのStaffing SBUも、26年3月期1Qは売上収益1,530億円(+3.7% YoY)、調整後EBITDAは102億円(+5.2% YoY)と、増収増益を達成しています。

それでは、なぜこれほどの差が生まれるのでしょうか? 

①人材獲得における圧倒的な格差

大手企業は、その知名度とブランド力、そして豊富な案件数によって優秀な人材を惹きつけます。求職者にとっては、案件の量や質、福利厚生の手厚さなどから「大手の方が安心できる」という心理が働き、自然と人材が集まる構造になっています。

②教育体制が生む提供価値の差

大手は豊富な資金力を背景に、充実した教育・研修制度を整備しています。派遣スタッフに対して定期的な研修やリスキリングの機会を提供し、スタッフのスキルを高めることで顧客への提供価値を最大化しています。これはスタッフにとってもキャリアアップの道筋が見えるため、人材の定着にも繋がります。

水野

一方、中小企業には同様の教育投資を行う体力がありません。特に近年は、資料作成やデータ入力、受電対応といった定型的な事務作業がAIに代替されつつあるため、そもそも派遣スタッフを大規模に採用しようとするケースも少なくなりつつあるのではないでしょうか。

中小派遣会社が生き残るための3つの戦略

では、中小派遣会社はどのように活路を見いだすべきでしょうか。

①採用コンサルタントへの転換

1点目は、クライアント企業の採用力を高める伴走者としてのポジションを確立することです。

水野

AIの台頭もあり、企業側のオーダーも『誰でもいいから100人』ではなく『優秀な人を10人』に変わりつつあります。そのときに『自社データベースから人を出す』だけではなく、採用コンサルタントとして『どうすればスキルのある10名を採用できるか』に応えられるサービスへと変革できれば強みになります。
具体的な提供価値の例

・求人媒体の選定と運用代行
・採用フローの設計と最適化支援
・面接代行や選考プロセスのコンサルティング
・ダイレクトリクルーティングの実行支援

②特定領域への特化

また、「この領域では絶対に負けない」という強みを作ることも重要です。

・業界特化:医療・介護、物流、製造など特定業界に絞る
・職種特化:ITエンジニア、経理財務、CADオペレーターなど専門職に絞る
・エリア特化:地域密着で地元企業との深い関係性を構築する

水野

特化戦略により、その領域での専門性と実績を蓄積し、大手が参入していないニッチ市場でのポジションを確立できます。「〇〇なら△△社」というブランドイメージを構築することで、価格以外の競争軸を持つことができるのです。

③派遣会社同士の連合形成

そして、派遣会社同士で手を取り合うことも大きな活路となっていくでしょう。

水野

どこかの会社でニーズが発生した際、『うちでは対応できないけど、B社を紹介します』『B社とC社で連合を組んで提供します』と協業すれば、顧客にとって最適なソリューションを提供できる可能性も高まります。

そして、そのような連合を組む際には先述した通り各社の強みを明確にすることが重要です。自社が特化した領域を持ち、他社と補完関係を築けば、大手のような規模と専門性を両立できると考えます。

まとめ:統廃合と価値創造の時代へ

派遣会社の倒産急増は、一見するとネガティブなニュースに見えます。しかし視点を変えれば、業界の統廃合が進んでいるとも言えるのです。

水野

派遣業界の未来は、単独での競争から協働による価値創造へと向かっています。それは、派遣スタッフが単なる労働力、『商品』としてではなく、専門性を持つプロフェッショナルとして尊重される時代への移行を意味しているのではないでしょうか。

求職者にとっては、自身のスキルを高め、より良いキャリアを築くための機会が増えるという、ポジティブな変化と捉えることもできるでしょう。

大手・中小の区別なく、この変化に適応し、働く一人ひとりの価値を最大化できる企業こそが、次の時代の派遣業界を牽引していくことになるのではないでしょうか。