労働者派遣法の違反事例8つ。罰則内容や派遣のルールをわかりやすく解説

派遣営業を進めていく中で派遣法に違反した場合、罰則を受ける可能性があります。担当者はあらかじめ正しい知識を身につけて、日々の業務を行っていく必要があるでしょう。この記事では、派遣法における違反事例や罰則規定、禁止されている派遣行為などをご紹介。「派遣営業をするにあたって気をつけるべきことを知りたい」「派遣法において違反となる行為はなにか」といった疑問にわかりやすくお答えします。

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労働者派遣法とは?

労働者派遣法(以下、派遣法)は、1986年7月の施行以来、幾度もの改正を経て、現在は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」という正式名称のもと、派遣労働者の立場や権利を守るための法律となっています。

派遣法は、時代に合わせてさまざまな改正が行われていることから、派遣営業を行う担当者は、派遣法について最新の情報を把握し、きちんと理解することが求められるでしょう。今回は、派遣法に違反するケースについて分かりやすくご紹介します。

労働者派遣法について詳しく知りたい方はコチラ

【事例紹介】労働者派遣法の主な違反行為8つ

派遣法の第6章には「罰則」という項目があり、違反行為とそれに対する罰則が規定されています。まずは、主な違反行為を確認しましょう。

<違反事例1>労働者派遣が禁止されている場所への派遣

派遣法では、「派遣できない業務」が規定されています。

適用除外業務

派遣法第4条(業務の範囲)では、労働者派遣事業で行ってはならない業務が定められています。これを「適用除外業務」といい、以下のような業務が該当します。

適用除外業務

・港湾運送業務
・建設業務
・警備業務
・病院
・診療所などにおける医療関連業務

これらは、その業務の特殊性・専門性という観点から労働者派遣になじまないという理由で、派遣が禁止されています。このうち医療関連業務については、派遣法施行令第2条において、業務内容や場所ごとに派遣の可否が定められています。詳しくは下記の厚生労働省資料を参考にしてください。

(参考:厚生労働省「労働者派遣事業を行うことができない業務は」)

そのほか派遣ができない業務

適用除外業務以外にも、労働者を派遣できない業務があります。

そのほか派遣ができない業務

・弁護士、外国法事務弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務・公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士の業務(一部の業務を除く)
・建築士事務所の管理建築士の業務

上記に挙げたいわゆる「士業」についても、当該業務について定める各法令の趣旨から、労働者派遣事業を行うことができません。

さらに、次のようなケースでは業務自体が適法であっても、労働者を派遣することはできません。

・ストライキや争議行為の発生している事業所
・公衆衛生・公衆道徳上、有害な業務に付かせる目的での派遣

<違反事例2>派遣事業者の名義貸し

派遣法第15条によると、一般派遣元事業主の許可を受けた「自己の名義(自分の氏名や商号、免許など)」を第三者に貸して、労働者派遣事業を行わせる行為は禁止されています。名義貸しを行なった場合、許可の取消しや事業停止命令、改善命令の対象となることもあるため注意が必要です。

<違反事例3>無許可での労働者派遣

かつては「届出制」と「許可制」の2つに分かれていた労働者派遣事業。しかし、2015年の派遣法改正で「許可制」に一本化され、派遣労働事業を行うには厚生労働大臣の許可を受けることが必須となりました。

これにより、無許可で労働者を派遣する行為は派遣法違反となります。違反した場合は、都道府県労働局から指導を受ける対象となるほか、事業主名などが公表されたり罰則が科されたりする可能性があります。

<違反事例4>偽りや不正行為により許可・期限更新を受けた場合

前述したように、労働者派遣事業を行うには厚生労働大臣の許可が必要です。この許可申請をする際、書類に虚偽の記載をするといった不正行為は当然のことながら禁止されています。正しく申請することを心がけましょう。

<違反事例5>派遣可能期間の制限を超えた派遣

2015年の派遣法改正により、派遣労働者は原則として同一の派遣先企業や同一の部署で3年を超えて働くことはできなくなりました。これは通称「3年ルール」と呼ばれており、「事業所単位」「個人単位」という2種類の期間制限が設けられています。

種類
内容
事業所単位同一事業所の同一部署における派遣労働者の受け入れは最大3年。ただし、期間制限日を迎える1ヶ月前までに、派遣先の過半数労働組合に意見聴取した上で、最大で3年ずつ延長が可能。
個人単位同一事業所の同一部署で働けるのは、最大3年。延長は不可。3年経った派遣労働者が同一事業所で働きたい場合は、部署を異動するか派遣先企業との直接雇用や派遣元会社との無期雇用派遣契約が必要。

この3年ルールによる期間制限を超えて派遣労働者を受け入れることは禁止されており、違反行為となります。3年ルールについてはしっかりと確認しておくようにしましょう。

<違反事例6>派遣労働者に対し就業条件等を明示しなかった場合

派遣法では、派遣労働者が適切な情報を得られるよう、派遣元会社に対し、いくつかの義務を定めています。その一つに「派遣元事業主は、派遣労働者に対し就業条件等を明示しなければならない(派遣法第34条)」という、就業条件を派遣労働者に伝える義務があります。

どのような内容を説明するのかは法律で細かく規定されており、派遣元会社は、その内容を書面で明示する必要があります。ルールに従って条件等を明示しなかった場合は違法となるため注意しましょう。

【就業条件で明示する必要のある主な項目】

1.従事する業務の内容
2.仕事に従事する事業所の名称・所在地・組織単位
3.就業中の指揮命令者に関する事項
4.派遣の期間・就業する日
5.就業の開始と終了の時刻、休憩時間
6.派遣労働者からの苦情処理に関する事項
7.派遣労働者の個人単位・事業所単位の期間制限に抵触する最初の日 など

<違反事例7>厚生労働大臣による改善命令に従わない場合

派遣元会社が派遣法やその他の労働に関する法律規定に違反した場合、厚生労働大臣は業務改善命令を出すことができます(詳細は後述)。この命令に従わない場合、派遣元会社は一般労働者派遣事業の許可を取り消されてしまいます。

派遣元会社が複数の事業所を設けている場合、違反していない他の事業所においても許可が取り消されてしまう点も理解しておきましょう。

<違反事例8>相談した申告者に対し不利益な取扱いをした場合

派遣労働者は、派遣法違反かどうかについてハローワークなどに相談(通報)でき、派遣法に違反する事実がある場合、ハローワークはその事実を厚生労働大臣に申告することができます。

このような申告があった場合、派遣元会社及び派遣先企業は、相談(通報)した派遣労働者に対し解雇やその他の不利益な扱いをしてはならない、とされています。これに反した場合、罰則を受ける対象となります。

労働者派遣法の違反行為と罰則規定

前項で説明した違反内容に対する罰則内容は、罰則規定により以下の通り定められています。

違反内容
罰則内容
事例1
労働者派遣が禁止されている場所への派遣1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第59条)
事例2
派遣事業者の名義貸し
事例3
無許可での労働者派遣
事例4
偽りや不正行為により許可・期限更新を受けた場合
事例5
派遣可能期間の制限を超えた派遣30万円以下の罰金(第61条)
事例6
派遣同労者に対し就業条件等を明示しなかった場合
事例7
厚生労働大臣による改善命令に従わない場合6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金(第60条)
事例8
相談した申告者に対し不利益な取扱いをした場合

(参考:厚生労働省「違法行為による罰則、行政処分及び勧告・公表」

労働者派遣法に違反した場合の行政処分

派遣元会社が労働派遣法に違反した場合、以下の行政処分の対象となります。どのような行政処分があるのか、詳しく見ていきましょう。

業務改善命令

派遣法第49条第1項において、「厚生労働大臣は、労働者派遣事業の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる」と定められています。これは、厚生労働大臣が、派遣元会社に対して業務改善命令を下せることを意味します。

業務改善命令は、適正な派遣労働者の就業を確保するための措置であり、法違反を起こさせないために、雇用管理体制や運営方法の改善をさせるものです。

派遣法のほか「職業安定法」「労働基準法」「雇用の分野における男女の均等な機会の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律」など、労働に関する法令の規定において法違反が確認できる場合も、業務改善命令の対象になります。

事業停止命令

事業停止命令は、派遣法又は職業安定法の規定やそれに基づく政省令・処分に違反、もしくは派遣元会社が許可の条件に違反した場合に下されます。事業運営方法の改善を図るためや懲戒的な意味をもったもので、当該一般労働者派遣事業の「全部または一部の停止」が命じられます。

許可の取り消し

許可の取り消しは、行政処分の中で最も重い処罰です。派遣元会社に一般労働派遣事業を引き続き行わせることが適当でないと判断された場合に、許可取り消しの対象となります。

許可の条件に違反している場合のほか、許可の欠格事由に該当している、もしくは派遣法などの規定やそれに基づく政省令・処分に違反した場合、この処分が下される可能性があります。

派遣元会社が複数の事業所を設けている場合、全ての事業所が取り消しの対象となることに留意しておきましょう。

労働者派遣法で知っておきたい派遣のルール

派遣法ではさまざまな派遣に関するルールが定められています。ここでは、派遣営業担当者が知っておきたい、派遣が禁止されている3つの規制についてご紹介します。

日雇い労働者の派遣は原則禁止

日雇い派遣とは、1日から数日間だけ働くという派遣動労のことを指します。派遣法では、30日以内の「日雇い派遣」は原則禁止されています。日雇い派遣労働者の雇用の不安定さが問題視されたことを受けて、2012年の法改正により定められました。しかし、年齢や年収、業務内容など決められた「例外条件」に該当する場合は、日雇い派遣が認められています。

特定派遣先だけの派遣(専ら派遣)は原則禁止

専ら(もっぱら)派遣とは、派遣元会社が特定の企業に限定して派遣することを指します。本来多くの企業に労働者を派遣し、人材を必要としている企業と派遣労働者のニーズに応えるのが労働者派遣事業の本質です。

そのため、特定の会社にのみ人材を派遣する専ら派遣は、派遣法で禁止されています。派遣先が1社の場合はもちろんですが、例え複数あっても、「企業からの依頼を正当な理由なく拒否している」「派遣先拡大のための営業活動が認められない」などの場合は、特定企業以外と取引する意思がないとして専ら派遣だとみなされるケースがあるため注意が必要です。

(参考:厚生労働省「いわゆる「専ら派遣」について」

グループ内派遣の8割規制

グループ内派遣とは、派遣元会社が属するグループ企業に労働者派遣を行うことです。その際、グループ内の企業への労働者の派遣割合を全体の8割以下に抑えることを派遣元会社に義務付けています。

グループ内派遣の割合の計算は、以下の計算式で算出します。

グループ内派遣割合を計算するときのポイントとして、60歳以上の定年退職者は8割規制の対象外となることが挙げられます。計算する際には、グループ企業内における全派遣労働者の総労働時間から、60歳以上となる定年退職者の総労働時間を差し引き、計算する点に注意しましょう。

(参考:厚生労働省「グループ企業内派遣の8割規制について」

派遣法の違反事例や罰則を理解し営業活動に活かそう

派遣法の違反事例やそれに伴う罰則、禁止されている派遣行為などを紹介しました。労働者派遣事業におけるルールを把握していないと、気づかないうちに違反してしまう可能性もあります。そうならないためにも、派遣法をしっかりと理解した上で、営業活動を行いましょう。