シェアフル株式会社
代表取締役社長
横井 聡 氏
よこい・さとし/早稲田大学商学部卒業。Webデザイナーからキャリアをスタートしたのちエンジニアに転向。証券会社のオンライントレードシステムのリーダーをはじめとして多くの開発案件に関わったのち、シアトルコンサルティング株式会社にてWebサービス事業部長を務める。2015年よりランサーズ株式会社CTO、2018年より同社開発執行役員。2019年1月よりシェアフル株式会社に創業から取締役として参画。2020年より同社取締役副社長COO。2023年4月より代表取締役社長。
近年、空き時間に働く「スポットワーク」の働き方が急速な広がりを見せている。数時間単位で人材を確保でき、急な欠員補充にも便利なことから企業からも注目を集めているが、スポットワーク活用のメリットは突発的な人材補完だけにとどまらないという。今回は、スキマバイトアプリ「シェアフル」を運営するシェアフル株式会社に、スポットワークが広がっている背景や、社会構造や採用のあり方の変化を踏まえて今スポットワークを活用すべき理由を伺った。
「掲載したその日に応募が集まる」スキマバイトに求職者が集まる理由
若年層を中心にスキマバイトの働き方が広がる背景には「面接・履歴書不要」「自分の働きたい時間帯で働ける」「給与が即日払いで受け取れる」など、スキマバイトならではの利点がある。
「かつての『面接・履歴書あり』『シフトあり』『翌月払い』という働き方と比べると、スキマバイトは気軽で柔軟性も高く、圧倒的にメリットがある。多くの人がそう感じているからこそ、爆発的にユーザーが増えているのではないでしょうか」
「シェアフル」ユーザーの60%は情報感度の高い30代以下の若年層。メインのバイト先や仕事を持つ人が「もう少しお金を稼ぎたい」というときに使われるケースが多いようだ。
そんな求職者の流れに対応して、企業でもスキマバイトアプリの活用が広がっている。横井氏によると、多くの企業が「求人媒体よりもスポットバイトの方が応募が集まりやすい」と感じているとのこと。中には「求人媒体に掲載してもなかなか応募がこなかったのに、スキマバイトアプリに掲載したら1時間以内に応募が来た」といった声もあるという。
スキマバイトが企業側にも受け入れられるようになった背景として、人材管理と労務管理という2つの課題がDXによって解消された点も見逃せない。
「以前も『日々紹介サービス(30日以内で雇用できる求職者を紹介する人材紹介)』というスキマバイトに近い働き方は存在していました。しかし、当時は1日単位で人を募集したり、単発契約や勤怠・給与を管理したりするシステムはほとんど整っておらず、企業側の負担を考えると現実的な採用方法とは言えませんでした。
そこでシェアフルではバイトの募集機能に加え、労務管理業務を代行する機能をセットで提供しています。AIなどデジタルの力を活用することで、簡単かつスピーディーなマッチングを実現できている点が、企業にとっても大きな価値になっています」
スキマバイトを入り口に、長期雇用へつなげる動きも
企業にとって、スキマバイトはもはや突発的な欠員募集だけではなく、長期的な人材確保の手段にもなっている。
従来の求人媒体をベースにした「応募→履歴書提出・面接→採用・シフト勤務」という流れから、スキマバイトアプリによる「応募→面接不要で勤務→環境が合えば継続勤務」へ、より手軽にマッチングできる仕組みにシフトしているのだ。
「自社アンケートによると、シェアフルを活用するユーザーの約50%が長期就労を希望しています。一見すると『気軽で柔軟性の高いスキマバイトで働きたい』ニーズと矛盾するように思いますが、これは『良い職場があったら積極的に転職したい』と考える人が多いことの表れです。
実際に、スキマバイトから長期就業につながったユーザーも21.4%います。スキマバイトはユーザー側にとって『ミスマッチの少ない転職』を実現する手段の一つになっているようです」
こうした変化の中、企業側も「スキマバイトを入り口に長期採用へ結びつけたい」という意欲が増している。スキマバイトの普及により1日単位で採用できるようになったからこそ、 履歴書や面接段階で求職者の適性を見極めるのではなく「一度一緒に働いてみてから評価する」という考え方が広まっているようだ。
さらに「スキマバイトを活用した長期採用は、資本力のない企業にもチャンスが生まれやすい」と横井氏は続ける。
「長期勤務を前提として応募する求人媒体の場合、どうしても出稿量も多く、知名度が高い大手企業の方が応募を集めやすいです。一方スキマバイトは1日単位の気軽なマッチングのため、知らない企業でも比較的ユーザーが応募してくれます。そして実際に働いてみる中でその企業の魅力を知り、長期で働くようになるパターンもあります。『知名度はないけれど良い会社』にとって、こうした変化はまさに絶好のチャンスです」
スキマバイトによって簡単に内部の実情を知れるようになった今、働き手を大切にしない組織はどんどん採用が難しくなると予想される。「シェアフル」を活用する企業では実際に、組織風土や働き方の改善に着手する企業も増えているという。
また、企業がスキマバイトを取り入れるメリットとして業務の平準化が進むことがある。
「スキマバイトを受け入れるには、属人化されている業務を極力なくす必要があります。1日単位のバイトを定期的に受け入れている会社の多くは、社内で業務のマニュアル化や平準化を進めた結果、生産性が改善したと実感しています。特にコロナをきっかけにスタッフが離れてしまった業界ほど『変わらざるを得ない』という危機感を抱きながら業務改善を進めている印象です」
アルバイト領域は発展途上。働く個人の選択肢を増やしたい
2023年10月、同社は店舗のシフト管理システム「Sync Up(シンクアップ)」をパーソルグループのパーソルイノベーション株式会社から継承した。「今後はSync Upに店舗のPOSデータと 『シェアフル』の情報をつなぎこみ、繁閑需要を予測しながら中長期的な人材戦略を策定〜実行できる仕組みを構築したい」と意欲を語る。
「企業にとってスキマバイトはあくまでも手段。理想に対して十分な人手を確保できているかどうかこそが本来のゴールです。そこで将来的には、中長期的な人材需要を見える化し、固定スタッフだけでは埋まらないシフトの穴を『Sync Up』の多店舗ヘルプ機能や『シェアフル』によって埋めていくことができるようにしたいと考えています」
また次の展開として「シェアフル」に貯まっているユーザーのバイト経験のデータを活かした転職サービス「シェアフルエージェント」を推進しているという。
「企業・ユーザーともに長期雇用/就業の意向があるならば、あえてスキマバイトを挟む必要がないケースも存在するでしょう。そこでアプリ内のデータをフル活用し、履歴書や職務経歴書なしで企業とマッチングができるサービスを現在開発中です。日々のスキマバイトでの経験や頑張りが企業にきちんと伝わることで、『職務経歴書に書けることがない』という人のキャリアの選択肢を増やしたいですね」
最後に、横井氏へシェアフルのビジョンを聞くと「誰もの『はたらく』をひろげ、新しい『はたらく』をつくる」と回答が返ってきた。
「先ほどの話にもつながりますが、現在の人材市場はこれまでのスキルや経験、すなわち『職務経歴書に書けることがあるかどうか』によって選択肢の幅が大きく変わります。リモートワークや働き方改革といったものが脚光を浴びているものの、そういった働き方を実現できている人はごく一部。特に、アルバイト領域の働く環境は発展途上な面も多く、人材会社としてできることはまだまだあると思ってます。これからもデジタルの力を活用しながら、少しでも多くの人の選択肢を増やす世界を目指します」
(鈴木智華)