【Thinkings × HRog】“裏”採用あるある川柳2024 ~ 採用現場のリアル ~

Thinkings株式会社
Enterprise Sales Div. Customer Success / Community Manager
廣川 千瑛 氏
ひろかわ・ちあき/2020年4月に新卒入社。カスタマーサクセスに従事し、採用管理システム『sonar ATS』の初期導入のサポートと活用支援を担当する。これまでに150社以上のユーザー企業を支援。2023年6月から営業・カスタマーサクセスに加えた第三の場として、コンテンツ発信やユーザー間のネットワーキング等を通じたエンゲージメント向上を担うコミュニティマネージャーとして活動を開始。※2024年8月時点

株式会社フロッグ
代表取締役 HRog編集長
菊池 健生
きくち・たけお/2009年大阪府立大学工学部卒業後、株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職メディア事業にて法人営業、営業企画、プロダクトマネジャー、編集長を経験し、新卒メディア事業のマーケティングを経て、退職。2017年にゴーリストへジョインし、2019年に取締役就任。さらに人材業界の一歩先を照らすメディア「HRog」の編集長を務める。2021年より株式会社フロッグ代表取締役に就任。

「採用担当者だからこそ感じる、見えない苦労や小さな喜びを拾い上げ、担当者を応援したい」。そんな思いで始まったのが、採用担当者の視点で採用の仕事を詠んだ川柳を募集するThinkings主催企画「採用あるある川柳」だ。2024年で4回目となる今回は641の句が集まり、受賞作品として13句が選ばれた。

Thinkings主催、第4回「採用あるある川柳2024」の受賞作品はコチラ

この記事ではThinkings 廣川氏とHRog編集長の菊池が、本選考で受賞を逃した作品から特に気になった6作品を「“裏”採用あるある川柳2024」として選出。本記事ではノミネート作品の紹介とともに、作品から窺える採用現場の現状について、2人による講評の様子をレポートする。

昨年の記事はコチラ

「“裏”採用あるある川柳2024」受賞作品

社を挙げて タイパコスパの 逆を行く

菊池「『タイパ』『コスパ』という言葉がトレンドになる今、人事にとっても効率化は重要です。しかし候補者とのコミュニケーションなど、アナログな部分こそが本来の人事の価値だったりしますよね。候補者一人ひとりのフォローにリソースをしっかり割けるかどうかが採用の可否に繋がってくるという点で、『まさにその通りだな』と思った句でした」

廣川氏「私たちは採用の効率化を支援するプラットフォームを提供していますが、採用の早期化、長期化、そしてツールの多様化もあり、人事のやることがどんどん増えていると感じます。この句は『タイパ』『コスパ』を追求して様々なツール導入を進めた結果、逆に非効率になってしまったという話かもしれないとも感じました。色々な意味に捉えることができますよね」

菊池「『タイパ』『コスパ』は今の時代、候補者側・人事側どちらにも刺さるキーワードだなと思います。でも採用活動を効率重視でやっていると、目の前の採用計画は達成できたとしても、入社後にギャップが出てきてなかなか定着しないんですよね。採用時にしっかり時間をかけることが、結果的に『タイパ』『コスパ』のいい選択になるという対比も面白いと思います」

面接を しているようで されている

廣川氏「採用は候補者と会社のマッチングで、お互いに対等なんだよという話はよく言われるようになりましたが、この句は一番端的にそのことを表していると思います。

『しているようで されている』というプレッシャーや、選ばれるか分からないドキドキもありつつ、『ベストを尽くそう』という気持ちで面接に臨む人事の方からの共感を集めそうな一句ですね」

菊池「『候補者と会社は対等なんだ』という考えが会社全体に共有されていないと、その姿勢が候補者の方にも伝わり、悪い口コミがすぐ流れる世の中になっていますよね。ましてや圧迫面接なんてしたら大変なことになる。今のトレンドを物語っているなと思いました」

廣川氏「面接官にとっては、学生さん1人、候補者さん1人と相対しているつもりでも、その後ろにはインターネットを介して何千人という候補者がいる状況になっている。面接というのはそれだけの重みを持つコミュニケーションなんだと面接官も認識する必要があります。

ただ、面接に協力してくれる現場の社員全員にこの心構えを持ってもらうのも大変です。面接官トレーニングやコンプライアス教育に対するハードルも、また一段と上がってきてますね」

菊池「面接はその会社の代表としてやっている行為であり、対応次第では会社の顔に泥を塗ってしまう可能性もあることを改めて認識してもらいたいところです。候補者の方とのコミュニケーションに慣れてない人ほど周知をしていく必要がありますね」

即戦力 即決したら 即辞退

菊池「即・即・即と、語呂が良い一句でした。企業側が即決しても、即戦力の方ほど引く手あまたなので惹きつけがうまくいかず、結果的に辞退に繋がってしまう。こうした事態を経験したことがある人事も多いと思います。即戦力人材ほど、転職マーケットに顕在化する前からじっくりと接点を取って『一緒に仕事したいよね』『業務委託でもいいからさ』と関係値を築く必要があるのかもしれません」

廣川氏「『口説き』や『クロージング』という言葉が流通しているので勘違いしがちですが、アトラクト(惹きつけ)は本来採用活動の終盤フェーズのみでやることではないんですよね。候補者と出会ったときからアトラクトは始まっている。そして即戦力であればなおさら、きちんとしたリレーション構築が必須です。

またこの句はキャリア採用の話ですが、今年は昨年と比較して中途採用関連の川柳が増えているのも印象的でした。『人的資本経営』という人事トレンドを反映して、事業目標を達成するためのキャリア採用に力を入れる企業が増えている、まさに『今』を反映している一句だなと思います」

菊池「優秀な人材を採用したい企業ほど、候補者が動き出す前からある程度接点や認知を取っておく必要がある。採用広報やタレントプールの考え方も、そうした文脈から盛り上がってきているのかなと思います」

廣川氏「たしかに弊社の『sonar ATS』をご利用いただいている企業様でも、採用にかかわらない広いテーマのイベントで候補者潜在層を集めるところが増えています。上記の『タイパ』『コスパ』とは真逆の、時間がかかる取り組みなので、その間で葛藤している人事の方も多いですね」

売り手市場 そちらの席に 座りたい

廣川氏「今年は売り手市場がテーマの句もたくさん届きました。中でもこの句は『そちらの席に座りたい』という、候補者さんと向き合う中で思わずあふれてしまいそうな想いを一言で言い切ってしまっている。これはなかなか秀逸な句だと思いました。

現在の新卒採用市場(大卒)における求人倍率は1.75倍と、依然として高くなっています。構造的な人手不足の状況は変わらないので、売り手市場はますます強まっていくんだろうなと思うと、人事の方の苦労に想いを馳せてしまいます」

菊池「採用担当者の年代にもよりますが、人によっては『入社するときは買い手市場で、採用する側になったら売り手市場』という方もいるでしょうね」

廣川氏「そう思います。世代によって就職活動中に見えていた景色はまるで違うはず。いざ面接官になって、今の就活のあり方を目の当たりにして『自分の頃と全然違う』『自分の時もこうだったらどれだけよかったか』とショックを感じる人もいるかもしれません。そして人事側になってもなお、採用する側としてまた苦労することになるのか……という気持ちもある。すごく切実な一句で、共感する人も多いのではないでしょうか」

分かるけど・・・ 御社飲み会 ありますか

菊池「SNSで話題になったこともありましたが、いざ自分の会社の面接で候補者さんからそんな逆質問を受けたとき、そのリアクションは会社によって変わりそうです」

廣川氏「『Z世代特有の〜』と一括りにすることもできますが、どんな世代でも、その会社の社風は気になりますよね。ただし上の世代の方ほど、そういったテーマの質問はやんわり、遠回しに聞く人が多かったと思いますが、ズバッと直球で聞いちゃう時代になったということなのかなと。良いことでもある一方、年長者にとってはドキッとする時代になったのかなと思います」

菊池「たしかにもう少し前の世代だと、社員の方のインタビュー記事を見て休日の過ごし方を確認して、といった少ない情報源から推理していたかもしれません。『聞きたいことは聞く』というコミュニケーションは共感する面もありつつ、『分かるけど……』という思いもある。複雑な気持ちを詠んでいますね」

無意識の 好みバイアス 指摘され

廣川氏「面接をやったことがある方なら誰でも、誰かからバイアスを指摘されたり、自らのバイアスを不安に思ったりしたことがあるはず。でも、主観を持っている人間である限り、バイアスから逃れることは絶対できません。

だからこそ自分がチェックした評価シートのデータを集めて他者と比較したり、他の人に指摘をもらったりして、会社が求める人材と自分のバイアスとのギャップを埋める必要がある。このギャップは採用現場の永遠のテーマではないでしょうか」

菊池「おっしゃる通りですね。どんなにバイアスを排除しようとしても、やはり自分1人の目だけだと曇ってしまう。色々な人の目で判断して、なるべくバイアスを排除しようとするのが大切ですね。

今後はAIが普及する中で、候補者をデジタルに判断できるツールもどんどん出てくるのかなと思いますが、一方で『デジタルはどこまで人を判断できるのか?』という話も出てきそうです。最終的には人と会社、人と人とのマッチングですから」

廣川氏「当社のプロダクトでも、自社の過去の採用データをAIで分析して、人物モデルを作り、候補者の合格予測のスコアを出せる機能があります。でも、その合格予測のスコアの元データにあたる採用基準を考えているのはあくまでも人間ですし、最終的に採用を「決断」するのも人間です。

『AIがなんでも教えてくれる』わけではないからこそ、自分たち人間が一番自分のバイアスに対して敏感でないといけない。好みバイアスだけではなく、あらゆるバイアスと戦わないといけない時代に突入したのかもしれません」

人事の目線は「内定」から「入社後活躍」へ。応募作品から見る人事トレンド

今回で四回目となる「採用あるある川柳」。応募作品を通じて垣間見える人事トレンドについてThinkingsの廣川氏は「2024年の『採用あるある川柳』に応募された句を見ると、出社がメインに戻ったことで『現場』を巻き込む句が増え、現場に対する悩みが増えてきたと感じる。そのなかで採用担当者が直面する『時代を象徴するようなキーワード』が見えた」と語る。

廣川氏「例えば、今回大賞を受賞したのは『人を見る 目にも問われる 多様性』という一句。本来『多様性』というキーワードは、これまでアンフェアな立場に置かれていた人たちを正当に評価し、能力を発揮してもらうための言葉です。

でもそのことを正しく理解していないと『多様性の時代だから不寛容な価値観も認められるはず』『自分の発言も多様性として受け入れろ』といった乱暴な議論になってしまう。多様性というキーワードがバズワード的に広がっているからこそ、本質的な意味で多様性をどう受け入れるべきか、自らの価値観が揺らいでいる人事の方も多いのかもしれません」

廣川氏「また、これまでと比較すると『採用フェーズ』だけではなく、入社後の活躍に目を向ける句が増えている印象です。今年新たに出てきたキーワードで言うと、初任給、退職代行あたりでしょうか。

候補者優位という状況の中で内定を出した後、入社してもらった後もきめ細かくフォローをして、候補者体験(CX)〜従業員体験(EX)自体を良いものにする必要があると認識する人事が増えたのかもしれません」

菊池「現場の社員を採用に巻き込むケースも増えましたよね。これもある意味では、現場とのリアルなマッチング=入社後の活躍を見据えているからこそと言えます。

一方で現場社員は面接のプロではないため、思わぬところで『自社のリアルな社風』が見えることもあると思うんです。そこで組織作りがきちんとしている会社であれば、候補者の方にもリスペクトを持って接することができる。そういう観点では採用と組織作りも地続きになっていると言えそうです」

廣川氏「上から目線にならずリスペクトしてくれる面接官かどうかは、すごくシビアに見られていると思います。最近では企業と候補者が対等であることを全社に浸透させるため『面接』ではなく『面談』、『面接官』ではなく『面接員』というフラットな言葉をあえて使っている企業もあるほどです」

菊池「でも『カジュアル面談』と言いつつ、実質は選考みたいな雰囲気になってしまうのも採用あるあるかなと。ネーミングや候補者の感情と、目の前の担当者の対応に乖離があると、候補者目線では納得感がなくて不満が残ってしまうんですよね。

人事の方では候補者体験(CX)の全体設計をきちんとしているつもりでも、現場の社員がその全体像を理解してなければギャップが生まれてしまう。このあたりは人事の巻き込み力が問われるところです」

廣川氏「採用はどこまで行っても『人と人を結ぶ』仕事なので、巻き込む人が増えるほど難度も上がりますよね。それでも候補者体験(CX)をなんとか良くしようと模索してる人事の方の声が多く集まっていたなと感じました。

人事の仕事について、もちろん効率化や客観性といった理性の部分で解決することも大切ですが、一方で共感や悩みといったハートの部分にこれからも寄り添いたいという気持ちがあります。菊池さんも人材業界の方に寄り添って『HRog』を運営されていると思うので、また来年の『“裏”採用あるある川柳』でも声をかけていただけたら嬉しいですね」

菊池「人材サービスの営業の方々にとっても、こうした人事の方々の苦悩を解像度高く理解することで、採用担当者の方への接し方も変わってくると思うんです。外側、すなわちマーケットと、内側の採用担当者の両方を理解する。その上で入社後活躍のために必要なことを定義してあげるのが、人材サービスの方々のミッションです。

ぜひ本家の『採用あるある川柳』の方にも目を通して、採用現場のリアルを理解する手掛かりにしてほしいなと思います」

(鈴木 智華)